C国によら起きたパンダの返却。
この事態に動物達は皆色めき立つのであった。
次の動物園の人気者には俺がなる!

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ポスト・パンダ戦争

パンダロス―。

某C国の嫌がらせの一環として実行されるパンダの返還。

それは静かに、しかし確実に動物業界を揺るがしていた。

「奴らが現れてから53年。やっと…やっとだ!ついに“この日”がやって来た!」

 

動物園のとある場所。

飼育委員達に知られない様に密かに作られた動物達だけの会議室で、オランウータン議長が重々しく目を伏せる。

白黒の絶対王者、パンダ。

人間達が持て囃し、アイドルとして扱った存在が突如いなくなる。その返還が確定した瞬間から、これで見納めとなるだろうと来園者数は爆上がりしているが、それも返還されるまでの事。

会議室の壇上に掲げられたスクリーンには、返還後の来場者数の予測が映し出されている。

グラフは見事な直滑降の右肩下がりを描いていた。

そのグラフを見て会議室の動物達は、

「ハァー…」

と大きくため息をつく。

 

だが、危機は同時に“好機”でもある。

「落ち込む暇があるならパンダの次、ポストパンダをアピールしませんか?」

一匹の動物が壇上に躍り出る。

「今こそ、パンダの名を持つ我々の時だと思いませんか?」

最初に声を上げたのは、レッサーパンダだった。

パンダに全く似ていないが、何故かパンダの名を持つ動物。

パンダロスにおける対策としてはこの"名前"は大きなイニシアチブとなる。観客へのアプローチがしやすいのだ。

しかも、SNS映え、大きな尻尾と愛らしいフォルム、かわいさの持続力、数多くのキャラクターが存在している等、どれを取っても隙はない。

「“実はこっちの方が可愛い”という世論を、我々は育ててきました」

尻尾をふさりと両手で抱えて、首を傾げながら会議室の動物達を上目遣いに見る。

「おお!」

あまりの可愛さに皆が魅了されて静かにどよめく会議室。

それを見て、彼は確信に満ちた笑みを浮かべた。

「名前も“パンダ”ですし。まさにパンダの正統後継者と言えるのではないでしょうか?」

その実力と説得力に会議室がざわついた。

 

「ふざけるな!」

突如、会議室に低く声が響く。

ゾウだった。

「動物園と言えば、我々を忘れられてはいけない。子どもは大きいものが好きだ。昔から決まっている。それに動物園でしか見られない動物がいてこそ、人は動物園に足を運ぶ。今こそ奇策に頼らず、「動物園へ行く」という動機形成ができ得る動物をアピールするべきだ!」

便乗して隣ではライオンがこれ見よがしにたてがみを揺らす。

「その通り!カワイイだけで王座は務まらん。

“強さ”と“威厳”―それこそがスターの条件だ!」

会議室の天井に首を曲げつつキリンも主張する。

「動物園は体験なんです。日常では体験し得ない人間以外の動物に見下ろされ、それを見上げる体験。これこそが重要なのです。

私の"高さ"こそが、この体験こそが、人の記憶に残る」

ザ・動物園とも言えるこの3頭の発言に他の動物達も、思わず頷いている。

しかし、当のザ・動物園の面々は自分を少しでもアピールしようと3頭の間でバチバチと火花を散らしていた。

 

「ちょっと待った!」

突然、会議室のドアが開いた。

エリマキトカゲが、襟を広げて立っていた。

一瞬で空気が変わる。

「懐かしい」

その独特な走り方に動物達の中から歓声が起きる。

その様子に満足気な顔をするエリマキトカゲ。

その溢れるほどの自信に、一時代を築いた王者の風格が見え隠れする。

「一発屋? 上等だ!悔しかったら一度でも天下を取ってみろ!

あの時、人間達の記憶に植え付けられた俺の存在をもう一度呼び起こしてやるぜ!」

水槽の方からは、ゆるやかな拍手音。

「そうだ!ブームってやつは定期的に起こせるんだぜ!」

ウーパールーパーだった。

癒し系のルックス、若い世代にウケるキモかわさ、テレビCMとのタイアップで生み出されたブームで大企業ともパイプがある。

彼は“静かな強者”だ。

「俺ほど、女子高生達にウケそうなキャラいないだろ?」

ウーパールーパーはルックスに似合わぬニヒルな声でそう自分を売り込んだ。

 

その時、議長のオランウータンが一枚の資料が届けられる。

その資料を机に置くと、

「……ペット業界からの報告だ」

表題にはこう書かれている。

《ミニチュアダックスフンド、動物園業界へ参入》

 

「彼らは今の所、大きな動物園にいない。

だが、家庭という最前線を支配している。

それに触れ合い系動物園では人気者なんだそうだ。」

誰もが沈黙した。

「散歩」「抱っこ」「共存」

パンダにはできなかった領域―。

「もし彼らが“観る動物”から“一緒に生きる動物”へ

世論を完全に引き寄せたら……」

動物達が恐れる要素はまだある。

彼ら犬は圧倒的に低コストなのだ。

「エサ」「住居スペース」「繁殖による個体数の維持」

全てが低コストで済む。

動物園も経営理論の中で動いている。

客足が遠のき、収益が減れば、当然コストカットが始まる。

そうなれば生き残れるのは維持費の低い彼らという事になる。

大きな動物達にとってはその発想自体が危険である。

会議室に、冷たい緊張が走る。

 

そこに、パンダ模様の毛皮を纏ったヒグマが乱入する。

「パンダと言えばクマだろ!あの模様がいいんだろ?だったらこの衣装でどうだ!ほらかわいいんだろ?」

とドンキで買って来たパンダ柄の服を被って壇上でクネクネと踊っている。

議長のオランウータンはスクリーン脇に置いてあるテレビのスイッチをおもむろにつける。

そこには民家を襲う熊のニュース。

「お前は、今、全日本人達に嫌われてるだろ!」

と会議室の動物達からツッコまれる。

 

動物業界は、今日も賑やかだ。


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