旅船の中は人一人いない。旅船が減速に入ると、機内に低い振動が伝わった。
リオンはシートに背を預けたまま、前方の窓を眺めている。
どこか全体的に暗くてよく見えないが、なんとなくで外を眺めている。
「……ルビコン3」
名前を口にしても、特別な感情は湧かなかった。
企業の争いだとかコーラルがどうとか、そんなことははっきり言ってどうでもいい。
ここはただの仕事場。金が動き、傭兵が動き、そして傭兵が散っていく場所。
《まもなく着陸準備に入ります》
無機質な管制音声が流れる。どんな場所だろうと仕事場は命の危険があることには変わりはない。そんなことを考える度に少しだけ足が震える。
――生き残るか、そうでないか。勝てば生き延び、負ければ大抵は死ぬ。
どれだけ取り繕っても結局それは変わらない事実。
ふと窓の外から視線を外した時、自身の携帯型デバイスが震えた。取り出すと通信ランプが点灯していた。無意識に少しため息が出たがデバイスを起動する。
《そろそろかな〜?…おっ!無事着いたみたいだね〜!》
聞き慣れた軽い声。
リオンはため息をまたついてから応答した。
「……ルーカス」
《ルビコンは初めてだろ? 景色はどうだい?》
「埃っぽい」
《はっはっは…!相変わらずだな〜》
ルーカス・ペクニア。
投資家で、支援者で、私を育ててくれた人、そして…いつもどこか信用しきれない男。
《機体は予定通り回してある。整備も問題なしっ!》
「仕事は?」
《まあまあ、そんな急がなくていい。まずは活動するための拠点に行ってくれ》
「拠点?」
《喫茶店だよ》
リオンは一瞬、眉をひそめる。
「……はぁ?喫茶店?」
《そう。アイスシード。隣に大きなガレージがあるんだ!そこを使ってくれとさ》
ふざけているような口調だが、彼とは長い付き合いだからわかる。冗談ではないのだろう。
《顔合わせも兼ねてね。店主とは古い仲だ。彼がガレージを貸してくれたんだよ?会ったらお礼を言っておいてね。あ、それと君とはきっと気が合うと思う》
「…必要?」
《もちろんさ〜!戦場に戻るなら、まず息をつく場所、安心して寝られる場所がいる。そんじゃ、場所はマップに送ったからね〜!》
通信が切れるとほぼ同時に着陸の衝撃が船体を揺らす。
リオンは指でいじっていた自身の紫色の髪を掴み、後ろに集め、束ねる。
シートから立ち上がり、荷物を確認する。
――喫茶店、か。
立ち寄る場所としては、ずいぶん平和な場所だ。
⸻
ルビコンに到着してしばらく移動した後、目的地周辺まで来た。アイスシードは、想像していたよりも静かな場所にあった。
看板は古く、店内に人影はない。道路らしき場所には雪が積もっていて野放しにされている。この辺りには住んでいる人が少ないみたいだ。
扉を開けると、微かに苦い香りが鼻を刺した。
「……いらっしゃい」
カウンターの奥に、背の高い男が立っている。
茶色の髪、そして落ち着いた雰囲気。銀色の瞳が一瞬だけこちらを見る。
「リオンです。ルーカスから話は…」
男は小さく頷いた。
「リーサンだ。話は聞いてる」
それ以上、余計なことは言わなかった。
リオンはその距離感に、少しだけ安心した。
「……ガレージ、ありがとうございます。……それと、世話になります」
「……ああ」
「…………」
言葉は短い。
リーサンは何も気にした様子もなく、コーヒーを差し出した。
「砂埃も雪も、ここは多い…」
差し出されたコーヒーを一瞬躊躇してから飲む。ほんのり甘くて、思った以上に苦い。
だが不思議と飲みやすかった。
店の隅の端末から、小さく音声が流れる。
《……星外企業アー……バスによ………前線の「壁」とも呼ばれた……陥落……とのこ……す…》
壊れかけたテレビから聞こえる途切れ途切れの音声、リーサンも、リオンも、特に反応しなかった。
ニュースはニュースだ。
リオンはカップを置き、軽く頭を下げる。
「……ありがとう」
「また来るといい。……テレビも新調しないといかんな…」
引き止めるでもなく、追い返すでもない声。
リオンは店を出た。
⸻
隣のガレージは、喫茶店とは対照的に無機質だった。
シャッターが開き、そこに機体が鎮座している。
モンクスフード。
自分が何度も乗り、そして共に生き延びてきた機体…。
何度も戦場を共にした、自分だけの居場所。
リオンは、その前で立ち止まった。
ここに来た理由を、言葉にする気はない。
ただ、またこの仕事場に立っている。その事実が重く感じて少しだけ息苦しくなる。
「……行こうか」
小さく呟き、機体に視線を向ける。
また私は戦場に立つ。一人の独立傭兵として
何とでもなるはずだ!!!の精神でやってしまった初投稿。正直不安です