誰の戦場か   作:抹茶とコーヒー

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上手くいきますように……。
 


崩されたモノ

 モンクスフードは損傷を抱えたまま、低速で進んでいた。

 

 四脚MTとの戦闘跡は、まだ煙を上げている。

 割に合わない仕事だ、とリオンは思った。だが、生きている。それだけで十分だった。

 

《――》

 

 ノイズ。

 

 スキャン画面に、微弱な反応が走る。

 

「……反…応?」

 

 最初は気のせいだと思った。

 だが次の瞬間、反応は明確だと理解した。

 

 この反応は間違いなくAC。

 

 しかも、こちらに向かっている。

 

 リオンは即座に機体を停止させ、周囲を見渡した。

 瓦礫、崩れた高架、視界を遮る建造物。

 何故、今このタイミングでなのか、考える余裕はない。

 

《……あぁ、もう終わっちゃってた?》

 

 通信が割り込んだ。

 軽いが威圧を感じる声。感情の起伏が薄い。

 

《良い音がしたからさ、まだお楽しみだと思ってたのに…》

 

 姿を現したのは、黒を基調とした逆関節のACだった。青いモノアイがモンクスフードを捉えている。

 

 …このAC、どこかで見たことがある……気がする。

 

「……あんた、誰?」

 

《んー……エネミーに名乗ってもねぇ?》

 

 そう言うと同時に、相手は通信を切った。

 

 ブーストを使いこちらに向かってくる。

 

 次の瞬間、互いに武器を向けて射撃する。戦闘が始まった。

 

 

 …速い。追いつけない。

 

 モンクスフードが遮蔽に滑り込むより先に、黒いACの両腕に持つリニアライフルがモンクスフードを正確に撃ってくる。

 跳躍。着地。跳躍……もう位置が変わっている。

 

 モンクスフードは反射的にミサイルを放つ。

 だが簡単に避けられる。地面に足をつけているより空中にいる時間の方が長い。

 

 完全に読まれている。

 

 ヒット&アウェイ。

 これまで何度も同じ戦い方で勝ってきた。

 

 だが、今回は違う。

 

 動くたびに先回りされ、撃つたびに弾だけが無駄になる。

 

《ああぁ……またそう動くよね》

 

 その声はどこか軽く呆れているようだ。

 

 リオンは歯を食いしばる。無意識に操縦桿を握る手、肩が震える。

 このままでは削り切られる。だが、このまま負けるわけにはいかない。

 

 だから――賭けに出た。

 

 

 アサルトブースト。

 一気に敵ACに向かって推力を解放し、空へ跳ねる。

 

 狙うはゼロ距離での集中砲火。

 

 逃げる隙を与えない勢いで接近し、ガトリングとミサイルを叩き込む。

 

 勝ち筋を作るにはこれしかない。

 

 だが…。

 

 《がっかりだ》

 

 黒いACは怯むどころか、ブーストで自ら距離を詰めた。

 

 そして次の瞬間、閃光が見えたと同時に何かが焼き切れた音が聞こえた。

 

 レーザーダガーが、右腕部を切断していた。

 

「……そんなっ!?」

 

 続けざまに、右脚部にダガーを二連続で突き立てた後、蹴りで突き飛ばされる。

 

 視界が回転し、地面が迫る。

 

 叩きつけられると衝撃でリオンは頭を操縦桿にぶつけた。

 

 …意識が…遠のく。

 

 ――ああ、まただ。

 

 またAC(あれ)に奪われる…。

 

 その瞬間――

 

 見覚えのある光景が、脳裏をよぎった。

 

 

 あの時、最初に警報音が聞こえた。聞いたことのない耳障りな警報音だった。

 

 幼い頃の私は、最初この音はなにかの工事の音だと思った。

 だがそんな考えは好奇心から見た窓の外の景色を見て、崩れ去った。

 

 爆ぜて崩れる建物。

 逃げ惑う人影。

 

 そして、巨大で素早く動く機影。

 

 地面が揺れ、何かが崩れる音だけが絶え間なく聞こえる。

 

 建物の窓が、一斉に軋むと嫌な音が響く。

 街の空気が、全く別のものに塗り替えられていく。

 

 誰かが叫んでいた。

 

 外に出てはいけない。

 誰かにそう言われていた気がする。

 

 だが、もう遅かった。

 

 家の屋根が吹き飛ぶと同時に大きな機影が家にぶつかり家の半分を破壊した。

 

 それは人の形をした大きな機械だった。

 機械は私など見向きもせず再び一瞬で離れていく。

 大きな機械が動くと同時に瓦礫が舞った。

 

 壊れた家で何もわからず立ち尽くしていた私を、見ず知らずの大人が肩に担いで走り出した。

 

 離れていく……家だった場所が。

 そう思った時、初めて私は理解した。

 

 帰る場所が、私の当たり前の日常が、音を立てて崩れていったことに。

 

 大きな機械がまた通り過ぎ、その足音だけがやけに重く、辺りに響いていた。

 

 街はただ壊され、ただ戦場にされただけだった。

 

 

 その後の記憶は曖昧だ。ただわかっているのは、人がたくさんいた船に乗せられたこと。

 

 見上げた空は、空なのかすらわからなかった。

 煙と灰で、昼なのか夜なのかも分からない。

 

 声を出そうとして、喉が動かなかった。

 

 船が港に到着すると、皆んな暗い顔のまま降りていく。

 

 ――これから私はどうなるんだろう…。

 

 そう思った瞬間、

 胸の奥が冷たくなって苦しくなった。

 

 始まったのは戦闘で、終わったのは…私の全て。

 

 

 私が立ち尽くしていると、誰かに突然、後ろから頭を撫でられた。

 

 その時私がどうしたのか、よく覚えていない。

 ただ、その人は私に言った。

 

「嬢ちゃんも、迷子なんだな」

 

 そう言われた時、なんと言ったのだろうか。

 覚えているのは、その時の私はただ、頷くことしかできなかったこと。

 

 

 ――全部あの時からだ。

 

 ACを見て、やりどころのない感情を抱いたのは。

 




もし、何かが音を立てて崩れるとしたなら、それはきっと一瞬なんだろうな
感想を聞かせてくれるとありがたい…。
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