意識がゆっくりと戻ってくる。
警告音が途切れ途切れに鳴っていた。
モンクスフードは横倒しになっている。
正面に――まだあの黒いACが立っていた。
軽量型の逆関節。
青く光る単眼。
逃げなければ、と思った。
だが身体が言うことを聞かない。
《……つまらない》
通信越しの声は、ひどく落ち着いていた。
《もっと壊し甲斐のある奴になりなよ》
《君はまだ、面白くなりそうだ》
黒いACはそれ以上何も言わず、背を向けた。
ブーストの閃光が一瞬だけ走り、次の瞬間には影も残っていなかった。
戦場に残されたのは、沈黙。
私は、見逃されたのだ。
**つまらない**、その理由だけで。
⸻
操縦桿を握る手が震えている。
モンクスフードの右腕は失われ、右脚も反応がない。
それでも、アサルトブーストは生きていた。
帰らなければならない。
それだけを考えて、リオンは推力を絞り出す。
しばらく景色が流れ、ようやくガレージの入口が視界に入った、その瞬間――
視界が、白く滲んだ。
次に意識が途切れた時、もう何もわからなかった。
⸻
目を開けると、天井の照明が滲んで見えた。
金属とオイルの匂い。
聞き慣れた低い駆動音。
ガレージだ。
頭に鈍い痛みが走り、包帯の感触に気づく。
「起きるな」
低い声。
視線を向けると、リーサンがベッド脇に立っていた。
「……リーサン」
「頭を打っている」
「今は横になっていろ」
リーサンはため息をつく。
「その有様を見るに、AC相手にやられたか…」
リオンは小さく息を吐き、天井を見つめた。
「……あいつ、私を殺さなかった」
言葉にした途端、胸の奥がざわつく。
「余裕だった。最初から、勝負にもなってなかった……」
リーサンは何も言わず、ただ黙って聞いている。
しばらくして、淡々と口を開いた。
「それが現実だ」
「今のお前では勝てなかった。それだけだ」
慰めも、否定もない。
事実だけが、静かに突きつけられる。
黒いACの姿が、脳裏に浮かぶ。
なんの躊躇もない動き。
見下ろされていた感覚。
あの余裕。
思い出すだけで意識とは関係なく、呼吸が浅くなった。
「……しばらく、ACには乗れそうに…ない」
自分でも驚くほど、素直な言葉だった。
リーサンはそれを否定しなかった。
「無理に乗れば、死ぬ」
「それだけだ」
そう言い残し、ガレージの奥へ歩いていく。
残されたリオンは、包帯越しに目を閉じた。
⸻
眠れない。それは怖さからか、悔しさからかはわからない。
リオンは起き上がるとデバイスを起動する。ルーカスはまだ起きているだろうか…。
通信は意外にも早く繋がった。
「は〜い、こんな時間に君から連絡なんて珍しいねぇ」
ルーカスの声を聞くと、少しだけ安心を感じた。
「ルーカス…私は…」
「言わなくていいって、リーサンから話は聞いてるよ」
ルーカスはいつもそうだ。全部知ってて、私を試しているような行動ばかりする。
「ごめん…私…どうしたらいいか…もうわからない…」
「傭兵の仕事で負けた、だけど生きている。」
「どんな形であれ、依頼は達成してるんだろ?」
「結果だけ見れば勝ちじゃないか」
ルーカスの慰めにも聞こえる言葉に対してリオンは何も言えなかった。
「昔のこと、思い出したの…私があなたと、初めて会った頃の…」
ルーカスは少し沈黙した後、ため息をつく。
「ただでさえ、君は今状態が良くないんだ。今は休みなよ。それに、ACに乗れないのなら明日少しだけリーサンに手を貸してやりな」
「それと、近いうちに俺もルビコンに野暮用で渡るから、もし出会えたら、またゆっくり昔話でもしよう!」
リオンはその言葉に不思議と少しだけ心が軽くなったのを感じた。
「……ありがとう。ルーカス」
「まあ、いつでも頼りなよ。俺はいつでも連絡待ってるぜ〜」
そう言ってルーカスとの通信が切れる。
「そうだ…私は一人じゃない」
自分に言い聞かせるようにリオンは呟くと固定されているモンクスフードを見る。
「あなたも私も…まだ戦えるよね?」
覚悟は揺らいだ。
まだ立ち上がることはできないかもしれない。
だがまだ心だけは、折れてはいない。
できたら、感想を聞かせてくれ!