アビドスの一件からしばらくして……もはや俺に何があったのか知る手はない……訳では無いが、無理に確認する間も無く俺は心にしこりを残して日々を過ごしていた。
そう、気分はまるでまな板の上の鯉……吊るされたスルメ……雁字搦めになり、屋根の上からぶらがったような嫌な気分だった。
何かしたいのに何もできない……その閉塞感は、着実に俺の心を蝕んでいた。一緒に無茶をしてでもこの縄から抜け出すべきなのか?だが、抜け出して何かを成したとてそれが功を奏するとは限らない。
俺は未だに勇気の一つも出せず、黙ってぶら下がる毎日を続けていた…………
「ふふっ、やはり今宵の紅茶は一味違いますね……」
俺の目の前で優雅に紅茶を飲むこの女もそうなのだろう……桐藤ナギサ。トリニティをまとめ上げるティーパーティーの一角でありながら、確かな手腕で腹芸だらけの宴会状態のトリニティまとめ上げる女傑。
他のティーパーティーメンバーと言えば、ジャージ姿で人の家におしかけてゲームしてくる
今にも崩れかねないトリニティの内外の均衡を、よく一人で保てていると感心する…………きっと、今もあの紅茶を口にする傍ら、とんでもないことを考えているに違いない。
「美味しいですね。やはり良い景色を観ると紅茶も美味しく感じます。やはり…………簀巻きにして吊るされて喚く生臭神父を観ながらの茶は……何物にも代えがたい感覚で」
「離せぇぇぇぇ!!」
俺はティーパーティーの限られた者しか入れない優雅な敷居をまたぎながら、その屋根から優雅でも何でも無いような醜い簀巻きにされて吊るされていた……なんでだぁぁぁぁぁ!?
「ふふっ、ブラックマーケットへの出入りにそこでの有害書物の購入……そして、ヒフミさんに手を出した事についても既に裏が取れてます。」
「いい加減にしろよお前!?お前こーいうことするような奴じゃないだろ!?百歩譲ってティーパーティーでこれやるとしたらミカだろ!?」
「ミカさんも別にしませんよこんな事……」
こんのロールケーキバカ…………人を吊るしておいて何悠々と紅茶が飲めるんだよ!?なんでいつもよりも若干機嫌が良いんだよ!?お前絶対そう言うタイプじゃないでしょーが!?
「つーかそもそも手を出したのが誤解だっつってんだろ!?その話ならヒフミからもされたんじゃねぇのかよ!?」
「誤解は解けましたが、貴方がヒフミさんと楽しい買い物デートをしたのにはかわりません。即刻打ち首です。」
「ふざけんな!!!デートしてねぇしそもそも唯の私怨じゃねぇーか!?せめてブラックマーケット出入りの件で打ち首にしろや!」
私怨100%で首切られてたまるか!まだやった事柄で首切られたいわ!!そもそも首切るなよ!?魔女狩りでもおっぱじめる気かよ!?
……だぁ…………しっかし、まさかヒフミがティーパーティーの……しかもナギサとつながりがあるなんて予想外だったぜ。お陰でこんな辱めだ……
「デートをしていない……ですって……」
「そうだよ!?ずっとその話ししてたろ!?いい加減にしろよお前!?」
そもそも俺コイツ苦手なんだよ!ミカもそうだけどコイツら責任感無駄に強いから思い込みで突っ走る所あるし!!今まではセイアがある程度ブレーキ役をしてたが……そのセイアが居ない今誰もとめられねぇし!それに……
「なっ、デートじゃない……デートですらない唯のふしだらな関係だけを求めた物だとでも言うつもりですか!?ヒフミが……ヒフミさんがそんな……そんな事を……うぅっ……」
「いやそんな発想になるお前の頭のほうがよっぽどヒデェからな!?お前いい加減セルフ脳破壊するのやめろや!?ヒフミに失礼だし何より巻き込まれる方にとっちゃ唯の自爆テロだからな!?」
空回りしすぎて変な状態になるし!こいつもう流石に誰か休ませてやれよ!ストレスがマッハで溜まってんのが目に見えてわかるからぁ!
「貴方とは中学生だった頃にトリニティのパーティーでお会いしてからの仲…………それに、あなたの一族の使命が如何に重いものかも知っている。それ故に多少の粗相は仕方ないと目をつぶりました……しかし……!!ヒフミさんに手を出すとは……論外です!ロールケーキの刑です!!」
「出してねぇって何回も話しただろうが!?おいこの話もう6周目だぞ!?何回同じ話繰り返す気だ!?お前エンドレスエイトの恐ろしさ知らねぇのか!?」
こいつ本当にどうにかしてくれよ!?前まではここまで酷くなかったぞ!?今年入ってからだよ仕事が増えに増えてパンクしちまってんだよ誰か助けてやれ後生だから!
「兎に角早く降ろせ!でないと話進まねぇしいい加減飯を口に直接ぶち込まれる食事は嫌なんだよ!」
「ふふっ。鳥頭のさえずりが心地よいですね……」
「黙れ!鳥に近いって話したら翼ある分お前のほうがよっぽど鳥だよ!現にお前いま進行形で鳥頭だろうが!!三歩じゃなくて三言話したら記憶とんで会話が逆戻りだろうが!!」
くそっ!このままだとまだしばらくここに吊るされて干からびる羽目になる!?良くてまた正実に簀巻きで送られてまたツルギと武器なしの模擬戦で卵かけご飯みたいな状態にされる!グチャグチャにされて掻き込まれる!!
すると、不意にティーパーティーの豪勢な扉が控えめに開き……ドアの隙間からひょっこりと一人の少女が顔を出す。
「……ふふっ。いらっしゃいましたね。ヒフミさん、なにか話があるのでは?」
「は、はい!少しお願いしたいことが………ってキヨトさん!?!?な、なんで吊るされてるんですか!?」
「なんで吊るされてるんだろうねえ。そこの鶏野郎から話聞いといてくれない?……つかナギサ。なんでヒフミを呼んだんだよ。態々俺の醜態を見せ物にしたくて呼んだ訳じゃねぇだろ。」
「それはそうですよ。貴方の醜態なんて晒すまでもなく普段から観れますから。」
「いつかお前手羽先にしてやるから覚悟しとけよ……」
こいつはマジでもう……なんで羽生えてる奴らハスミしかりコハルしかりミカしかりナギサしかり皆俺に対して辛辣なんだよ…俺前世でなんかした!?俺前世リ◯クだったんか!?コッコをひたすら敵にぶん投げて倒させてしわ寄せか!?……もういいや、話が進まねぇ……
「んで、どうしたんだよヒフミ。ナギサが態々俺を簀巻きにしてまで同席させるって事は何か理由があるんだろ?」
「あ、は、はい!そうなんですが……えっ吊るされたまま話を続けるんですか!?」
「ヒフミさん。大丈夫ですよ……こんな今日中にカラスに啄まれる男は気にせず用件を……」
「えっ……は……は、はい!」
うん、なんかこれ以上話引っ張っても意味ないから……早く教えてくれ。
「じ、実は!シャーレの先生から連絡があって!あの悪名高いカイザーコーポレーションがアビドスを本格的に侵略しようとしているんです!そのせいでホシノさんが…………アビドスの生徒が人質として捕まってしまったんです!ただ、敵もPMC……民間傭兵、人手が必要だから力を貸してくださいと!」
なるほど、カイザーも痺れを切らしたか、或いは学校を完全に手中にする算段が出来たか……どうやらアビドスの奴らは後手に回ってしまったようだ。しかし、にしてもいきなり話が動いたな……
「なるほど……俺が知らねぇ間にとんでもない状況になっちまったみてぇだな。」
「……と言うか、先生本当はキヨトさんに先に連絡してたと聞いたんですが……」
「あぁここ3日ずっと吊るされてたからな。スマホ見る時間なかったんだ。」
「どう言う状況ですか!?」
いやぁ、ブラックマーケットで色々やらかしたのがバレてた。1日目はシスターフッドの聖堂で、二日目は正義実現委員会の奴らに街頭に括られて、三日目はこうしてティーパーティーで吊るし上げられたってわけだ。もちろんスマホなんか確認する暇なかったよ。ずっと簀巻きだもんミノムシになって越冬中だもん。
「まぁ色々あるんだよ……それよりナギサ。これは不味いんじゃないか?企業が直接学園を御した例は無い。もし本当にアビドスがカイザーの、PMCの手に堕ちたら、どんな影響が出るか……」
「えぇ、えぇ、わかっていますよ。エデン条約の締結も近い……下手には動けませんが……少なくとも無視できる案件ではありません。それに、ここでシャーレの先生に恩を売るのも悪くない……」
そう言ってナギサはまた紅茶に口をつける……まぁ、本音も多分に入ってるだろうが……一番は多分ヒフミの頼みだからなんだろうなぁ。
こいつ一度懐に入った人間にはとことん甘いからはぁ……俺?懐どころか半径20mにATフィールド張られてるわ畜生。
「わかりました。では今度に牽引式榴弾砲の屋外授業が予定にあったので……せっかくですしピクニックも兼ねてはいかがでしょう?」
「っ!は、はい!ありがとうございます!」
榴弾砲片手にしたピクニックなんか嫌過ぎけどな。花火のかわりに爆撃あげろって話か?
「キヨト、貴方はどうするのですか?」
「まぁ大凡同じ理由でシスターフッドもさして動けねぇが…………俺も行くよ。」
「キヨトさん!!」
「なぁに、俺も先生への借りを倍重ねしてやるだけさ。」
「ふふっ。方便は取り繕いませんよ?サクラコさんにはどうやって説明するつもりで?」
「バーカお前。俺が個人が動くのに許可だのなんだのは必要ねぇ。必要なのは俺がやるって決心する事だけだ。」
「……かっこよさげな事言ってますけど……吊るされてなければなぁ……」
「お前が吊るしたんだよ!?」
くっそこのクソアマ……マジで今直ぐ手羽先してやろうかな!?七面鳥も見劣りするくらいの丸焼きチキンにしてやろうかな!?
「……では、詳しい作戦はまた。」
「あ、ありがとうございます!」
うん!話がまとまったのは良かったけど兎に角、取り敢えず俺を降ろしてから話を進めてくれ!頼むから!!!!