「んで、その後アビドスはどうなったんだ?」
『"うん、アビドスは相変わらず借金は抱えてるけど、カイザーはブラックマーケットでの違法取引がバレて連邦生徒会から調査が入るってさ、その影響で法外な利子も常識的な範疇に抑えられたよ……もしかして、トリニティが手を打ってくれたの?"』
「さぁな。ナギサはそう言う事は絶対に外には漏らさねぇから俺も知らん。」
『"そっか……兎も角、皆のおかげで助かったよ。キヨトもいろいろと手助けしてくれてたんでしょ?"』
「勝手に暴れてただけさ、この借りはいつか返してもらうぜ?」
『"ははっ……私も借りが出来っぱなしで大変だぁね。アビドスの次は私が返済頑張んなきゃ……じゃあ、またね。"』
「おう、またな。」
ふぅ……あのアビドスでの戦いから既に落ち着けるくらいの時間は経っていた。どうやら、万事解決とまでにはいかなくとも、多少マシな程にはなっていたらしい。
まぁ、そんなもんだ。何事も劇的に何かを変えるってわけにはいかねぇ。劇的な変化には劇的な代償を伴う……結局、少しずつちびちび変わっていければ、時間はかかるがそれも何よりだ。
すると、静かな聖堂に甲高い靴音が響く……この気配はよく知ってる気配だ。目をつぶっててもわかる……
「……おい。静かに後ろに寄ってくるんじゃねぇよ。俺とお前の仲だ。目を瞑ってても気配で分かる。」
「……。」
「その左腕の義手に隠したサイコガンの音は消せな……」
「誰ですかそれ!?左腕にサイコガン!?サクラコです、サクラコ!」
なんだよわっぴーかよ……びっくりした。紛れもなく奴かと思ったぜ。スネークとかコブラ的な……ったく、また吊るし上げかな?貼り付けかな?折檻かな?
「キヨト。また、派手に暴れたようですね?」
「あー……サクラコか。悪いな、また堪え性の無い真似しちまったよ。」
「……私は慣れっこです。貴方が自分が成したいと思った事は何をどうしてもやり遂げる性格なのは知っています。そして、それを人に悟らせない所も……ですが、そのやり方には当然不満が出ます。」
「分かってるよサクラコ。次はちゃんとバレないように……」
「いえ、そうではなくて…………」
あっ?シスターフッドの振る舞いに拘るからやめとけって話じゃ……
「貴方が一人突出して戦闘行為をした際で、シスターフッドの一部で不満の声が上がっています。」
「……不満、ねぇ。」
また恨み買っちまったかな。まぁシスターフッドなんて元が暴力装置だ。1人くらいこんな奴がいても……
「……今日はその意見を届けに連れてきたんです。」
「っ!?」
すると、聖堂の中に何人かの人影がぞろぞろと入ってくる……こういう不満はサクラコが相殺すると思ってたが、さすがに好き勝手やりすぎたか。まぁ、これも身から出た錆…………しっかりと受け入れねぇとな。
「……んで、態々こんな所に来てまで、何の不満だ。」
「私達は、どうしても貴方に言いたい事があります……先日のアビドスでの一件……」
そら来た……
「神父様!何故私達を連れてくれなかったのですか!?」
「そこぉっ!?」
あまりのツッコミどころに思わず振り返ると…そこには、4話にセリフも無しで登場してた俺が面倒を見てたシスターフッドの部隊の何名かが立っていた。確かにコイツラには何も言わずに出ていったけれども……!!
「お前ら何用だよこんな所まで来やがって!?」
「何用!?折角の腕の見せ所に呼んでくれない神父さまが悪いのでしょうが!!
「そうです!こんな時のためにシスターフッドの暴力装置たる我々がいるんじゃないんですか!?」
「つーか狡いです!私らも暴れたいです!正義実現委員会や自警団ばっかり!!」
「敵を撃ち殺してばったばったと蹴散らしたいです!」
「シスターが言っちゃいけねぇこと垂れ流すなバカ者共!?」
何を考えてるのコイツラ!?どんだけフラストレーション溜まってんだよ!もうトリニティじゃなくてゲヘナ行けや!!
「我々だって迫撃砲どころか先陣切って敵をなぎ倒すくらいできます!!」
「もっと我々を信用し、託し、共に戦ってください!!……!!!」
こ、こいつら……
「そう……我々『シスターフッド特務局第13課』通称『特務機関イスカリオテ』に!!』
「パクリじゃねぇか!!!!」
何勝手に名前つけてんだこのバカ共!!くそっ!コイツらにヘルシングのアニメ全話見せたのが間違いだった!!そういやイスカリオテってそうだったね!近しいものあったよね!!
「おい、今直ぐその名前変更しろ……」
「何故ですか!?折角口上も考えたのに!」
「どうせ右手に短刀と毒薬持って左手に銀貨三半と荒縄持ってるんだろ!!割れてるんだよもう色々と!」
「大丈夫です!ちゃんと
「行くな!せめてちゃんと神父様の方にしときなさい!」
……っと、これがシスターフッドでも腕利きの部隊。シスターフッドの13番隊だ。腕っぷしこそシスターフッドでも上澄みが集められているが総じてバカ。基本頭のネジが外れてるんだよな……誰だよこんな奴らシスターフッドに入れたの……まぁ、俺なんだけど。
行き場のなかったトリニティのハグレモノ拾い集めてできちゃった部隊なんだけど……お陰でシスターフッドの品位を損ない兼ねない理由であまり表舞台にも立てない始末。まぁ妥当だと思うが……
「まぁったく……シスターが何を言い出してんだ。いったい誰に似たんだよ。」
「いや、貴方でしょう。紛うことなく貴方でしょう。」
「弟子は師の背中みて育つってのはよく言うが……とんだ泥だらけな背中に違いねぇ。」
「貴方ですね、泥だらけなのどう足掻いてもあなたですよね。泥だらけっていうか煩悩にまみれてますけど。」
まぁ不安の出どころがわかった……要するにずっと訓練ばっかでもっと暴れたいって話だろ。……なんかもう発想がそのへんのスケバンと変わんねぇな!!
「でも神父様!私達だって暴れたいです!もっと戦闘したいです!」
「そう思ってるシスターフッドはたくさんいます!!」
「マジかよ。もうシスターフッドやめようかな。神父やめようかな。」
「そんな……神父様から神父引き抜いたらただの変態しか残らないし!!」
「んだとゴルァッ!?」
人を変態みたいな言い方しやがって……確かにね、エロ本において神父なんて基本みんな竿役だよ!けどな!俺は一線どころか三線引いてるから!手を出したことねぇから!みんな勘違いしてるけど!
「……またキヨトが理由のわからない事を考えてますね……」
「サクラコ様分かるんですか!?」
「彼との付き合いは長いんです。何となくですが分かりますよ…………どうせまた春画について考えてるんでしょう。」
「春画って言い方やめてくれない!?なんか凄い嫌だ!!普通にエロ本言われるよりも生々しいよ!!」
それと半分近く当たってんのもなんか嫌だ!!本当になんかいやだ!!
「兎に角!もっと我々にも暴れる場を用意してくださいよ神父様!」
「何かないんですか!?適当にふてぇ輩をでっち上げて潰しましょう!」
「やめろや!?シスターフッドの名を地に落とす気か!?」
「貴方が言えた事ですか?」
うるせぇ!俺はシスターフッドとか以前に人としての名誉が地に落ちてるからいいんだよ!!
「だぁっ!兎に角待て!平和ならそれが何よりだろーが。本来聖女たるシスターフッドが手荒な真似しないで済むならそれが一番だろ。」
「確かにそうです……けど、満足できません!」
「サクラコ。こいつら破門にしてくれ。話が前に進まねぇ」
「拾ったの貴方でしょう……」
「兎に角お前らもう帰れ……頼むから……後で模擬戦でも相手してやるから」
「「「いよっしゃぁぁ!!」」」
本当、コイツラを拾ってシスターにしたの間違いだったなぁ…………それから半ば無理矢理シスターどもを戻らせて、再び俺とサクラコは二人きりとなった……
「たく……とんでもない不満持ち込むなよ。」
「それはすみません。あまりにしつこかったので……」
「ったく。心配しなくてもアイツラの出番はかならずくるよ……」
「エデン条約……」
サクラコの仕事のつぶやきに、おれは一瞬体をこわばらせる。
「……本当に貴方はその日になにか起こると確信しているんですか?」
「……トリニティは、キヴォトスの三大校に名を連ねちゃいるが、内情はミレニアムや、下手すりゃゲヘナよりもある意味ボロボロだ。」
度重なる内政やら内輪揉めやら騙し騙され……こんだけ内輪揉めされてりゃそりゃボロのある部分もでてくらぁ。その辺で言えばゲヘナも変わらねえが……あそこは、もともと混沌が校風だし、混沌であることそのものが一種の秩序になってる。
それと比べるとトリニティは、元が綺麗だから余計穴が目立つ。崩れたときに目一杯崩れその隙も晒しやすい……それはウサギが弱った姿を見せるのと同じ、つまり真に最期の時だ。
「そんなトリニティが揺れ動く時……つまり、長年の因縁の相手と手を結ぶエデン条約……それが事を起こすには最適と考えるのには定石だ。丁度、やりかねない相手にも目星はつくしな……」
「……アリウス、ですね?」
「んあ。」
……いつぞやかに話したか。シスターフッドの前身の話。ユスティナ聖徒会。トリニティを現在の状態に纏め上げ、同時にその状況に反発したアリウスを折檻したトリニティの負の部分……彼女らが残っていると考えれば、その日に何かを起こすと、はたまたすでに何かを起こしていると考えても不思議はない。だが、俺が考えるのはアリウスの脅威だけじゃない。
「そのアリウスを利用して何かやらかそうとしてる奴らもいるんじゃないかって話よ。」
「裏切り者が、居ると?」
「裏切り者……その程度で済む話なら良いけどな。」
昔っから一度頭使って嫌な想像するとずっとその嫌な想像が頭駆け巡っちまう。あーあ、こうなると萎えてエロ本どころじゃなくなっちまうよ。
「まぁ何にせよ、トリニティも変化の時ってのが必要なのかもな…………」
「変化……」
「……ま、俺ぁどうでもいいけどな……そんじゃ俺またちょっと出てくるわ……エロ本買いに。」
「一番進歩しなきゃいけないのは貴方だと思いますけれどね……」
街中を神父服で歩く……そうしてると、不意に色々なものが目に飛び込んでくる。
ケンカしてる奴、談笑する奴、飯食う奴、鬱になる奴。色々だ……でも、そんな喧騒の中でも知り合いがいると案外直ぐに分かるもので……
「やっほ〜♪キ〜ヨト♪」
「……ミカァ。お前何してんのここで。」
「何って!友達を待ってあげてるんじゃんね!」
「ありがとう。んで、俺を待って何をするんだよ……つか待つな。お前目立つから。」
「へーきだよ!ちゃんと変装してるし!」
「ジャージとグラサンと帽子で変装した気になるな。馬鹿。」
こいつは本当……なんでピンク髪はどいつもこいつもエブリデイフールみたいな奴ばっかなんだよ。つか仕事しろよパテル派代表……
「まぁ建前はこの位にして……少し話たいんだけど、良い?」
「えっ嫌なんだが……嫌だよお前。ゲーム貸さねぇぞ。お前の方が金持ってんだから自分で買えよ。」
「違うんだけど……そうじゃなくて、一言で済むから!」
そう言ってミカはいつものように無駄に整った足音響かせ……俺の耳元でたったひと言呟く。
「キヨト。私と一緒に、アリウスを
俺がそのひと言を咀嚼し、理解し、声をかけるよりも早く……ミカはいつものような笑顔を貼り付けて、腕を振って走り去る。どうやら、アビドスが片付いても、まだこっちの面倒事はたんまりとのこっているようだ。
…………せめて、墓を建てるような真似じゃなく……懺悔を聞くくらいの真似で留められる事を願うばかりであった。