俺、浅木キヨトのシスターフッドでの仕事は………ないッ!!!
統率や全体指揮、顔役といった表立つ重要なポストはサクラコが一手に引き受け、物品管理方面も同級生のヒナタの方が畑。その他のトリニティ大聖堂の管理や啓発活動も他の面々が担当。
俺の役割はローテーションでまわってくる懺悔室での神父役と、稀に出てくるシスターフッドが対処すべき荒事に向けた武力向上及び情報収集。身も蓋もない言い方をすれば『教官』って所か?実際、俺が年長者でサクラコと同期かつ近い存在だから一定の武力を動かす事の出来る立場を貰っている。
まぁ、とは言ってもシスターフッドの派閥はトリニティへの内政には干渉しない事に決めているし、本当に切羽詰まった時にしか動かせないし動かす気もない。
……と、まぁここまで長々語ったが、要するに今日は暇なのだ。懺悔室にはいる予定もなければ、今日は訓練をつける日でもない。完全なオフだ。
「……んっ?」
取り敢えず表では買えないようなエロ本を買いに行こうとブラックマーケットにでも繰り出そうとした時、俺は不意に噴水公園のベンチに座る少女を見かける。
猫耳のシスター服をきたオレンジ髪の少女……新入生の子だ。名前は、伊落マリーだったな。しかし、妙に暗い顔をして……正にナイーブって感じの状態だ。
「……あー。」
俺もそこそこ後輩の面倒を見ることがあるから分かる。マリーは結構真面目と言うか、生真面目と言うか……結構自分に厳しい奴だ、自分の中に芯があるんだろうな(まぁ、シスターフッドの中だと、俺みたいな適当な奴のほうがはるかに少数派だが。)
そういう奴ほど坩堝にハマってナイーブになりやすい……サクラコやヒナタもその口だしな。サクラコは自身のキャラや親しみやすさについて悩み、ヒナタは自分のドジな面をみて良くへこんでいる。
そんで、そのカウンセリングを誰がするのかって言うと……まぁ俺だ。シスターのカウンセリングも神父の仕事……ってか。
(しゃあねぇな。)
俺は近くの自販機で適当にココアをふたつ買って……そっとマリーに後ろから近づく。俺はシスターフッドの生臭神父……隠密活動は得意だ。
「……はぁ……」
「よっ、マリーちゃん?」
そう言って俺はマリーの頭の上に缶ココアを乗せる。瞬間、マリーは身体を跳ねて後ろを向いてくる。
「ひゃあ!!……っ!き、キヨト神父!?……っ!!!!!」
すると、マリーは缶ココアを手に取って不意にマリーは身体を守るように腕を組む……頬は軽く赤く染まり、少し怯えたような瞳はまるで痴漢でも見るような目つきだ…………えっなんでぇ!?
「おい、なんで咄嗟に身体ガードしやがった。」
「あっ!す、すいません……そ、その…………良く、噂を耳にするので……」
「なんの。」
なんかすっげぇ嫌な予感がする。
「そ、そのっ……キヨト神父が新人のシスターにお手を出してらっしゃると言う噂を!!!……だから……一瞬私も弄られるのかと……」
「おい誰だその噂流した奴ァッ!?」
多少の悪評は流してやるけど流石にライン超えだろうが!!戦争だよ戦争!!それを言ったら戦争だろうが!!俺はお触りはしない主義なんだよ!!
「も、申し訳ありません!……私も唯の噂なのは分かったんですが、余りにも色々な噂が巡るので……思わず……シスターとして風の噂に流されるなんて恥ずべき行為です……!!」
ちょっと待て、そんなにか?この勤勉さと真面目さと優しさを人型に詰めて出来上がったようなマリーでさえ思わず反応するくらいの噂が立ってるのか俺!?嘘だろ!?
確かに年がら年中エロい事ばっか考えてるし、エロ本読み漁って隙あらばアダルトサイトに潜ってるけど、俺人生で一度も女の子に触れた事すら無いんだが!?傷付く!!!
「ひでぇよ……俺一体世間からなんだと思われてんだよ……」
「あっ、あわっ、大丈夫ですか!?」
「人の事を性犯罪者みたいな扱いしやがってぇ……」
屈辱だ、こっちは真面目に青少年の青春してるだけだってのに……少しオープンなくらいでゴミムシみたいな扱い……絶望したぁっ!!!そんな事言ったら水着徘徊してるオープン淫乱の
「そ、そうですよね!あんなの噂ですよね!何よりキヨト神父はシスターフッドの神父!!女の子の身体に劣情なんて抱くわけが……」
「あいやそれは常々思ってる。」
「常々!?」
おっと、つい癖で……まぁ、本当の話だ。俺今年17ぞ!?この歳の男でエロい事年中考えてねぇ奴なんているわけねぇだろ!?もしいたらそいつ下半身無いから!※個人の感想です。
するとマリーは顔を真っ赤にして慌て半分に若干軽蔑の混じった目線を向けてくる。
「そ、そんな破廉恥な……!!」
「何を言ってやがる、俺は神父以前に浅木キヨトって一人の健全な青少年だ。エロい事の一つや二つや百や千や万や億や兆、余裕で考える。」
「……っ!」
「おぉっと、防御体制とるな〜?」
いや。これはこのタイミングで言い出した俺が悪いか。
そんな事よりも、だ。
「伊落。それよりどうしたよ?妙に暗い顔しやがって。」
「えっ!?いや、その……たいそうな話では……私、キチンとシスターを全うできているのか分からなくなってしまって……」
「……誰かになんか言われたか?」
「っ!?いや!そう言う訳ではないんです、本当に!…………ただ、何となく漠然と不安になってしまって……」
「あぁ〜」
成る程な、まぁそう言う時は誰にだってあらぁな。特に新人時代は尚更に……
「シスターは人を導くべき存在です。それがこんな迷い方をするなんて……と考えたら、また少しナイーブに。」
相変わらず真面目なこって。どいつもこいつも自分に厳しすぎるんだよな、俺みたいにもっと肩の力抜きゃあ良いのに……ま、それが良い所なんだけど。
「俺は良くやってると思うけどな。お前で牧師やれてないんだったら、俺なんかユダ扱いで吊るされても文句言えねぇや。」
「そ、そんな……!キヨト神父のお話は救いになると皆さんよく話していますよ?」
「買いかぶりすぎだよ、俺は適当に話し聞いてるだけだ。なんのかんの言っても、俺にできるのは話聞いて相槌打って背中をほんの少し叩く。それだけだよ。」
「……それをしっかりと熟せているのですから、キヨト神父は凄いですよ。」
あー、ちと重症か?まぁ、そう言う日は来るよな。にしても、こいつはもう少し自信というか図々しさを持っていいと思うんだが……それに、救いになるって話ならマリーも十分に貢献してる。
俺が
今年入ったばかりの新人が色々あって精神をすり減らしやすいトリニティでの懺悔と言う名のカウンセリングを任せられ、オマケに好評と来た。これはもう立派にシスターをやれていると思う。少なくとも俺よりかは遥かに………
その事を話してやりたいが、俺にも神父として引くべき一線がある。懺悔の場で聞いたことはどんな些細なことでも絶対に他言したり利用したりはしないようにしてる。どーせ普段は真面目にやらねぇから、こういうところくらいはな。
まぁ、それでも湿気た面ばっかさせてるのもシスターとしては不健全だ。ちぃと背中押してやるか。
「少なくとも、サクラコやヒナタ、俺も含めた上級生はお前を頼りにしてる。」
「はい……」
「とは言っても、それが重荷になる事もある。重圧ってやつは人を簡単に潰すからな。」
「い、いえ!そんな!?私は重圧だなんて思っていません!」
「案外、重荷なんてのは背負ってる側からしたらわからないモンなんだよ。」
それで気づかずにその重圧にやられて狂っちまったやつも見てきたからな、個人的にも神父的にも。期待してるなんてのは無責任に荷物持たせる行為になりかねぇな。やっぱ。
「……重荷……」
「安心しろ、お前は人柄良いからな。潰されそうになっても、俺や誰かが必ず支えてくれる。それを一人前じゃないなんて恥じる必要もねぇ。誰にも頼らねぇなんてのは、独り立ちした事にはならねぇからな。」
むしろ下手に律しすぎると弾けた時の反動が怖いぞ〜。ってな。すると、マリーは少しは少しが取れたのか先ほどよりも晴れやかな顔を見せる。
「……そう、ですね。そもそもシスターは頼られるのが本分でもあります。そんな私が人に頼る術を知らないのは……それこそ未熟者です。」
「そー言う事。」
「ありがとう御座います。キヨト神父……」
「だー、その神父神父呼ぶのはやめてくれ。タメかもう少しラフな呼び方で良い。」
「っ!は、はい!キヨト先輩!」
「よし。」
さて、んじゃキリも良いし……そろそろ行くか。
「んじゃ、俺行くわ。じゃあの〜」
「ありがとう御座いました!……また!」
俺はマリーに軽く手を降ってその場を後にする。これで少しは自信を取り戻してくれることを願うばかりだ。
…………さて、と。なんか真面目な話してたら萎えたな。エロ本買うような精神状態じゃなくなっちまった。…………まぁ買いに行くんだけどね!!欲求は止められんねぇんだ!!!!待ってろイチャイチャパラダイスゥゥゥァァァァァ!!!
伊落マリーは軽く胸に手を携えて、キヨトが渡したすこし冷め気味のココアを手に持つ。プルタブを開けて、一口、口をつける。
「……ふぅ。」
少し甘めなココアは、しばらく外に座っていたマリーの冷えた体を少し温めてくれる。不意に思い出すのは、やはりこれを手渡してきた生臭神父の事だ。
世間でのキヨトの評価は低い……と思わせつつ、実はさほど嫌われてるわけでもない。むしろ頼りにはされていると言ってもいいだろう。
人は皆彼を生臭神父と小馬鹿にするが、それも信頼の裏返し………そもそも論、キヨトが真っ当な神父とは言えないのは真実であり、彼自身も理解しているのだから。
気楽に話せて気軽な答えを返して、突き放すわけでも親身になりすぎるでもない。その時その人に必要なこと必要な言葉を投げかけて背中を押したり、内に秘めた辛さを和らげようとする。
その姿勢が、たとえ信心深くなくとも、普段の言動がアレでも、変態でも、彼に話をする生徒がいる理由なのだろう。
「……ふふっ。さて、行きましょうか。」
マリーはココアを最後まで飲み干すと、ゴミ箱へと捨てて聖堂へと戻る、昼休憩も終わる。また懺悔室で人々悩みを聞いてあげなければ…………ほんの少しでも悩みを取り除けるように。