……一次試験を見事惨敗した補習授業部は合宿行きとなり……使われていない別館へと俺達は向かった。なかなかに古ぼけてて掃除が大変だったが……まぁ、普段から大聖堂とかを掃除してる俺にとっちゃ大変レベルで済む話だ。
「おぉ、使われていない別館の建物と聞いていましたから、冷たい床で寝るのかと思ったら……キヨトさんの清掃のおかげで綺麗ですし、可愛いベッドも揃ってますね!」
「感謝しろ、崇めろ、そして俺にエロ本を献上。」
「死ね!!シンプルに死ね!!!」
「あはは……でも、ありがとう御座います。キヨトさん。」
“キヨトこう言うの結構得意なんだね?”
「まぁ、聖職者たるもの清潔さは大事にしなきゃだからな。」
聖堂がきったねぇようしゃいのりも何もできねぇしな……あれ、そう言えばアズサは何処に行った?
「偵察完了だ。」
「!!??」
「アズサ……お前窓から入ってくんなよ……つか何偵察って……」
「トリニティ本校からの狙撃の心配はなし。外へと出入り口が二つだけなのも気に入った。いざとなれば片方の入り口をふさいで体育館に誘導しての殲滅戦が有効になるな。」
「何を殲滅する気だよ、殲滅してんのはお前の脳細胞だろ……」
アズサはアリウスの人間……その中でも荒事が得意な組織に属していたとは聞いてるが、こりゃ相当だな……戦地帰りじゃねぇか。
「安心して、普通の合宿用の準備もしてきた、非常食や毛布や歯ブラシ……必要なものは全て詰め込んだ。徹底した用意が成功へと道だからな。」
「百理ある。」
つか本当に色々もって来たな……ま、俺も教材とか含めて色々持ってきたわけだが……
「うふふっ、みんなで食欲を満たし、睡眠欲を満たし、みんなが欲する目標へ向かって脇目を振らず一心不乱に欲望のまま食らいつく……いいですね、合宿。」
「おー、お前はまずその空っぽの頭の中を満たしてもらえ。」
「キヨトさん♡満たしてください♡」
「くたばれ。」
「ハナコとキヨトはたまに何の会話をしてるのかわからなくなるね。……でも、そうだな。こんな合宿も楽しいのかもな……あっ、勿論任務は遂行する。二次試験では何としても合格する……不覚にも用意が足りないせいで私は落ちた……迷惑はかけたくない。」
「アズサちゃん……」
結構責任感じてるのか……?大丈夫だって、もっとひどい奴が一人とそれの十倍酷いやつがいるから……
「……まぁ、気にするなとは言わねぇけどな。結果が振るわないからってそれまでの過程ごと否定する事は無いだろ?過程も結果の一つだ、そんなに自分を責めんな。」
「……ありがとう。そうだな……安心してくれ。万一に対人地雷やクレイモアと即席爆破装置になりそうなものを……」
「さすがだ。一つくれ。」
「あんた何しようとしてんの!?」
馬鹿野郎お前!!爆破はロマンだ!人への思いやりだ!
「でも、本当に綺麗な所ですね……設備も充実していますし……先生やキヨトさんも付きっきりで合宿を手伝ってくれますし!」
“任せてよ!”
「来いよ試験、教材の用意は十分か?」
「二人のお部屋は通路を挟んだ向かい側にあるので……」
「!」
「言わせねぇぞ?」
「駄目って言ってるでしょ!?死刑!!」
「誰も何も言ってないのですが……」
もうハナコ何を言い出すかわかるから。やめてくれよ、コレ以上悪化させるのは……
「しかし、先生とは言え女性です……男性のキヨトさんの同じ部屋にするわけには……間違いが起こるかもしれません。ねぇ♡キヨトさん♡」
「俺に振るな。変な空気作るな。俺はどう考えても別室に決まってんだろ。」
「大丈夫ですか?一人寂しければいつでも来ても♡」
「最近好きだったゲームの新作が来てそれ進めたいから大丈夫だ。」
テイルズ・サガ・クロニクル2……前作も遊んで結構楽しくやらせてもらったが、今作も中々に楽しめている。前作の理不尽なネタも好きだが、今作の王道をストレートにしてあくまでも高難易度に留めたゲームは中々楽しい。とりあえずテイルズサガっとけばいいんだよ。
「ふぅ……しかし、合宿の前に一つやる事がありそうですね?」
「?」
「敵襲を想定してのトラップの設置か?」
「いえ……お掃除、ですよ!」
「えっ、でもキヨトさんのお陰でだいぶ綺麗になっているような……」
「いや……時間的に俺ができたのは最低限の内装の掃除だけで細かいところやグラウンドとかプールとかの掃除は手つかずなんだよな。」
「確かに……窓の外を見ると結構荒れ放題ですね……」
「これでは身が入りませんね。」
「しゃあねぇ、数は多くないはずだし……アイスブレイクって所で一つ大掃除に洒落込むか?……んじゃ、俺は用具の用意してくらぁ、お前ら制服汚れるといけないから着替えとけ。」
まぁ、こういうのも悪くねぇだろ。仲良くなるぶんに悪いことはないし、折角の合宿でいきなり勉強にはいるのもなんだし……その為にこういう行為は重要だ……どっかのミカがアイスブレイク云々言ってて助かった。
とまぁそんな感じで皆は掃除を開始……俺も一人で適当な所を掃除していた。やはり急遽な話だったからかよく見ると掃除の残りも結構あって、意外と骨が折れる。
とは言っても、効率よくやればさほど時間はかからない……一通り終えて様子を見るついでに室内から出て皆の様子を見に行ったのだが………
「だぁれもいねぇ。」
中庭などめぼしいところを探しているのだが、ヒフミもコハルもハナコもアズサも見つからない…………先生もだ。誰もいないことへの寂しさを感じて、と同時にほんの一瞬背筋に嫌な予感が走る。
何か、あったのではないか……と。
俺は大慌てでその場から駆け出し、名を呼ぶ。
十中八九考えすぎであることはわかっていた。絶対にどっかで遊んでいるだけだと確信していた。だが、反対にオレの心臓は永久に動きを早めることを留めなかった。
もし、何かあったら。もし、敵襲に遭っていたら、もし、誰かが……なんて事が、一人だといつも脳裏を揺れ動かす。普段なら適当に別のことをして気を休めるのだが……今回は、起こっている事の背景が背景なだけに、どうにも気が気でならなかった。
しばらく走り回ると……漸く見つけた。
「見てください!虹ですよ!」
「きゃっ!ハナコちゃん冷たいですよ!
「もぉ……なんでこんな事に……」
「こちらのブロックは完了した、すぐ次に向かう。」
みんなはプール掃除に明け暮れていた……というか、遊んでるのか?
「お前らなにやってんだよ!」
「あっ!キヨトさん!」
「折角ですし、プールも綺麗にして水を張ろうかと!」
おいおい!全員水着じゃねぇか!?もう今日はやる気なしか!……ったく。ま、何事もなくてよかった。
「キヨトさんもどうですか?水浴びも兼ねて気持ちいいですよ!」
「俺あんま人に素肌見せたくねぇからパス。」
“結構ナイーブ!!!”
「なんで……煩悩はむき出しなのに……」
「るっせぇやい!……まぁいいや、時間かかりそうなら飲み物取ってきてやるよ。」
「あっスプライトでお願いします♡」
「あ……!それじゃあ私はオレンジジュースで……!」
「えっ!?……じゃあ……その……私もオレンジジュース……」
「私は……お茶でかまわない。」
“私MONSTERでお願い!”
「先生エナドリドーピングやめてくれない!?」
“最近カフェイン取らないと落ち着かなくなってきて”
誰かこの人休ませろ!!!昨日も夜ナギサに呼び出されてたよなアンタ!!!ったく……………マウンテンデューあるかな……
とまぁ、そんな感じの事があったのだが……当然プールに水をいれるのには相当な時間がかかって……プールに水が溜まる頃にはすでに日が暮れていた。
「……結局プールに入ることは出来ませんでしたね……」
「プールに水を張る時間を失念していました……ごめんなさい……」
「いいや、十分楽しかった。」
もう途中から完全なはしゃぎ倒してたもんなコイツラ……まぁ色々あって気が滅入ってるのもしょうがないのかもしれねぇが。とは言っても俺も楽しかった。
「俺も久々に眼福だったな……」
「がんぷっ!?」
「あら♡でしたらもっと幸福にして……」
「よっしゃハナコ!俺が悪かったから水着に手をかけるな!」
駄目だ俺一生ハナコに勝てる気しねぇわ……んっ?つか、あれ……なんかコハルの反応がないな……いつもならライフルで殴りつけてくるくらいの勢いで突っ込んでくるのに……
「コハル?」
「んっ……んん……」
「あら、コハルちゃんおねむですか?」
「言うて9時だぞ!?子供か!!」
「んっ……子供じゃない……けど、少し疲れた……」
何はしゃぎ疲れてるんだよ……
「でも、朝から掃除しっぱなしですものね……そろそろ戻りましょうか?」
「そうだな。」
「おらぁ、コハル気をしっかり持て〜。」
「んんっ……わかってるし……」
そんなこんなで、俺たちの合宿初日は終わりを告げようとしていた…………………………
夜中、俺は偶然偶々寝る場所を間違えてロビーに来てしまった……そこで出会ったのは……
「んあっ?アズサ何してんの。」
「っ!?……あぁ、キヨトか。」
制服に着替えて妙な面持ちで銃を携えるアズサだった。俺は適当なソファに腰掛けてあくびをしながら問いかける。
「お前何してんだよ。まだ深夜だぞ、寝ろや。」
「キヨトこそ寝なくていいのか?」
「俺夢遊病だからなんかいつの間にかここに来た。会話を反射でしてる」
「こんなに受け答えのハッキリできる夢遊病なんて聞いたことがないんだが……まぁ、いい。ある程度寝たから見張りを」
「嘘こけ、よく寝れた表情してねぇぞ。」
「キヨトも夢遊病の人間の表情じゃないんだが……」
うるさい、俺は夢遊病なんだ……誰がなんと言おうと夢遊病なんだ……
「つーか、こんな夜中で見張りとはご苦労なこった。何処で身につけたんだそんな技術……」
「……昔取った杵柄 だ。」
「それは……
次の瞬間俺のこめかみにアズサの銃が突き刺さる……怖い怖い。つか早い……やっぱ相当鍛えられてんなぁ……
「貴様……何処でそれを……!!」
「やめとけ。ここでどっちが引き金を早く引くかの勝負をしてもしょーがねぇーだろ。」
「……っ!?」
すると、そこでアズサは自身の腹部に俺のハンドガンが向けられていることに気づいたらしい…………あっぶねぇ……普通にタイミングミスったら間に合わなかった。
地下墓地……カタコンベといえば、アリウスへ繋がる無限に変化する通路だ。俺も存在だけは知っている……何処にあるかまでは、知らねぇけど。知ったとしても定期的に入り口や内装が変化する。無策ではどうにもならねぇ。
「……お前、何処まで知って……」
「正確に言えば何も。わかるのは、お前が何処から来たのか……位だ。」
「……誰から聞いた。」
「お前を送り込むのを手引きした奴から。」
「ならお前は……聖園ミカの……」
「何を勘違いしてるか知らねぇが、俺は誰の命令も受けてねぇ。俺は俺の意思でここにいる。」
「……。」
「銃下ろせ、俺も地面に置く。」
そう言って俺はそっとハンドガンを地面へとゆっくりと置く……すると、アズサも険しい顔はそのままに、そっと銃を下ろした。
「……浅木キヨト。お前のことは少し調べた。シスターフッドの神父であり、先祖代々の葬儀屋……そうだな?」
「あぁ。シスターフッド……その前身のユスティナ聖徒会。その頃からの勤めだって聞いてるよ。つまり、お前達アリウスをそんな目に合わせた元凶の子孫って訳だ。」
「…………そんな事にはもうこだわって無い。」
「そぉかい。」
それは、もう何も気にしていないという諦めか、はたまたユスティナなんて関係なくトリニティ全体を恨むという話なのか……おそらくは後者だ。
「……だが、何故補習授業部に?副顧問なんて立ち位置を生徒に任せる時点でおかしかったが……」
「ミカに誘われてな。」
「……?なら、やはりトリニティを……」
「アイツまたそんな変な事考えてんのか……」
俺は思わず頭を抱える。アズサは俺のその答えが想定外だったのか、目を見開く。
「アイツが何しようとしてるのか知らねぇ……いや、今のお前の反応で少し予想はついてきたが……俺はそれには関係ねぇよ。こうなりゃ、ミカやアリウスやナギサが何考えようと知ったこっちゃねぇ。全部の計画ぶっ壊してやらぁ。」
誰もなにも起こさせねぇ、死人が出るようなことには絶対しねぇ。この補習授業部も、ナギサがトリニティの裏切り者を探す為の小屋にもさせねぇ。ただの馬鹿が4人集まって赤点回避しようとするだけの部活にする……それが、所謂俺の目的であり欲望だ。
すると、アズサが少し険しかった表情をほんの少し和らげて俺に問いかける。
「お前、誰の味方だ?トリニティか……アリウスか……?」
「愚問だなぁ。アズサ。」
俺はそっと立ち上がり、月光照らす中アズサへと振り返り言う。
「俺は俺の味方だ。」