「クゥ~ン」
「はい。よしよし」
俺は今、メイド交換なる制度で蓮(様)の妹、千尋様のペットのチワワの世話をしていた。
――――いや、肝心のご主人が蓮(様)と出かけているのだから擦り付けられたというべきか。
「ここが気持ちいいんですか」
「クゥ~ン!」
しかし俺を舐めるべからず。
出会った時に番犬さながらに牙を剥いていたチワワ。
なんということでしょう。今では俺の手の元でひっくり返っています。
全てはスキルのおかげである。スキル万歳。
スキルを使えば俺の手はあっという間にチワワ、ひいては犬にとって極上の触り心地を持つ手になる。
加えて俺にはチワワの気持ちいい所が見える。
「もう千尋様のところには戻れなさそうなレベルですね」
「ワンッ!」
そんなに元気に返事せんでよろしい。
「さて、蓮(様)達はどうしてるんでしょうか」
今俺は犬の世話で離れられない。
……俺は、な。
「もしもし。そっちはどうですか?」
テレパシー的なアレで向こうにいる存在にメッセージを飛ばす。
するとすぐに返信は来た。
「はいっす!お呼びっすか!」
元気な声が脳にキンと響く。
「少しうるさいですよ」
「すみませんっす!」
だから音量下げろって。
返事をよこした相手、それは俺が召喚したしもべである。
この世界で喚べるのか不明だったが、無事に呼べたので念話が使えることを確認して、蓮(様)達につかせていた。
名前はアリス。獣人の女の子で口調がっす系という運営の性癖を垣間見れるキャラだ。
驚いたのは、人間のようにしゃべるという点だ。元でもAIで会話できたが、今は本当に生きているんだと実感できるレベルになっている。
召喚できる数に限りはあるが、今後は話し相手にでもなってもらおうかな。
「それで、そっちはどうですか?」
「はいっす。どうやらお二人とも冒険者組合に冒険者登録をしに来ているようです」
「なるほど……まぁそれは見えているので」
蓮(様)GPSがバッチリ反応している。
「もっと現地で見ているあなたにしか分からないこととかないんですか?」
「え、えっと……ちょっと待って下さいっす。あ、今蓮様がカウンターにいる少年の方に行ったっす」
「少年?」
確か規定で若い年の人間は冒険者になれないはずだが。
「ん?あの少年……」
脳内に届くアリスの声が怪訝なものになる。
「どうかしましたか?」
「いや、あの、鑑定してみたんすが……」
?変に突っかかりが多いな。
「はっきり言ってください」
すると少しの間を置いてから、アリスが口を開いた。
「どうやら……魔王みたいっす」
「……なるほど」
ここで魔王か。
もし元の設定どうりなら、魔王という職業は勇者の正反対。
プレイヤー、つまり人間を攻撃するのに特化した職業だ。
「どうしますか?今ならうちでも魔王倒せそうっすけど」
「いいえ。そこで戦ったら巻き込み大量発生することになりますよ」
アリスは戦闘向きのキャラだ。レベルだって100くらいある。
そんなやつが冒険者組合の中で戦ってみろ。飛ぶぞ。
「それに、そのことは相手の魔王も知っているでしょう。そうでなければ既に戦いになっていますから」
「分かりましたっす。じゃあしばらくはここから大人しく見とくっす」
「蓮(様)との会話はしっかり聞き取っておくこと。いいですか?あとその魔王を見失わないように」
「了解っす!」
脳内で繋がってた感覚がプツリと途切れる。
さて、魔王はどう動くのか。
「キャンキャン!」
「あーはいはい。ここですね」
「クゥ―ン!」
★ ★
(蓮様視点)
「便利そうだから登録しようと思ったら、断られてしまったよ」
少年のやけに落ち着いた目が俺を見る。
不気味に感じた俺は、思わず声がつっかえた。
「そ、そりゃあお前くらいまで小さいやつに危険な場所に行かせるわけには行かないからだろ」
「ふぅむ?確かにそうかもしれないね。一理ある」
少年がその場でくるくると回転する。考える時の癖なのだろうか。
「ところで君は?突然話かけてきたけれど」
「あ、あぁすまん。俺は西園寺蓮。揉めてるらしかったから声をかけただけだ」
「西園寺蓮?というと勇者の職業を持つっていう西園寺蓮かな」
ピタ、と少年が回転を止め、再び俺を見る。
「ああ。一応、勇者の職業だ」
「それは凄いね。嬉しいよ。とっても。あぁごめん。自己紹介されたら僕もしないといけないね。僕は風間牧。職業はテイマーみたいなものだよ」
「そ、そうか。よろしくな」
「うん。よろしく」
少年が手を差し出してくる。
握り返した。その瞬間、俺の背筋をゾッとしたものが走った。
「―――――ッ?!」
「おや、どうしたのかな?」
思わず手を放してしまった。
何だったんだ……
まるで力を測られているような、そんな気分がした。
「な、なぁ。俺に何かしたか?」
「?いや?僕は何もしていないよ?」
ニコリと笑う少年。
まぁそりゃそうか。俺よりいくつも小さいもんな。
「おーい!いつまで僕を待たせるつもりー!」
声が聞こえ振り返ると、階段近くから手を振っている千尋の姿があった。
やば。結構待たせてるじゃねぇか。
「ごめーん!今行く!」
そう返事をし、俺は慌てて踵を返す。
「じゃ俺は行くわ。登録はもっと大人になってからな」
「そうするよ。ただの興味本位だからね」
ニコリと笑う少年を見てから、俺は千尋の元へ戻った。
「随分話してたね。何かあったの?」
「いいや。ちょっと説得してただけだ」
「そう?じゃあ行こ。僕らも登録済ませちゃおう」
「ああ。ってちょ押すなって」
千尋に背中を押されながら、階段を上った。
★ ★
「あれが勇者か……」
勇者。西園寺蓮が階段を上って視界から消えるまで、少年は蓮を見続けていた。
「う~ん。思ったより弱い、のかな。レベルが一桁だし」
少年は入口に向かいながら考える。
「じゃあ脅威は彼のメイドの方だね。あっちを対策しないと。じゃないと僕は負ける。とりあえずさっきから感じる不気味な気配を振り切ってからかな」
気配察知に特化した魔物を従えておいて良かった、と少年は思いながら入口に出ると同時に急いで路地裏に回り込む。
「僕を例のダンジョンまで」
そう呟いた瞬間、少年の姿は空中に溶けるようにして消えた。
「―――――――!!まさか瞬間移動系のスキル持ってたんすか?!聞いてないっすよそんなこと!!対策してないのにっす!!」
静寂の訪れる路地裏に響いたのは、アリスの驚きの声だった。
久しぶりにニコニコの世界に舞い戻っていた。某カラカラとか。
目が、って打とうとしたら初手の変換がMEGAだった件