俺が竹刀を振りながら、例のメイドに言い放つ。
「なぁ、一度俺とやらないか?」
先ほど彼女は様々な武術をしてきたと言っていた。
もしそれらが本当なら、さぞ強いことだろう。
「かしこまりました。では――――――」
無事了承した彼女が竹刀置き場へと一歩進んだ時だった。
突然世界が壊れたんじゃないかと思うほどの地震が俺達を襲った。
「―――ッ なんて揺れだよ!」
その揺れの大きいこと。
体幹には自信がある俺でも気を抜けばバランスを崩すほどだ。
世界が―――建物がギシギシと大きく軋む音がする。
不味い……。あいつは、メイドはどうしている。
慈善的な思いから何とかバランスを取りながら視線を上げ、メイドの方を見る。
「……おいおいマジかよ」
俺の視界に映ったもの、それは、この揺れの中微動だにしないメイドの姿だった。
まるで地面とくっついているかと疑うほどに微動だにしていない。
マジでどんな体幹してたらあんな極地に至れるのか。全くもって意味が解らない。
「――――――ッしくったッ!」
そのメイドのせいで思考を止めていた俺は気づけばバランスを崩していた。
揺れに足を取られ、そのまま頭から地面に向かう。
不味いッ――――――と思った時だった。
身体がふわりとする感覚。
「大丈夫でございますか?」
気づけば、俺はメイドに支えられていた。
そのメイドの顔が近くで見える。
よく整っていて、陶磁器のような肌で、そして澄まし顔。
対して俺は慌て顔。プライドが傷つけられた気がして、妙に腹が立つ。
「やめろッ離せ――ッ」
俺が叫ぶと、メイドは目の前で不思議そうな顔をした。
「しかし、まだ揺れておりますよ」
「だったらこの支え方はやめろ!」
このお姫様だっこのような抱え方はマジで腹が立つ。
「畏まりました。では恐れながら失礼します」
そう言ったかと思うと、今度は俺をまるで荷物のように脇に抱えて持つではないか。
「……俺は俵じゃないぞ」
「はい、しかし、恐れながら運びやすいので」
未だ大きい揺れの中、メイドがまるで凪の中を進んでいるかのように、静かに、普通に歩きだす。
……本当に何なんだこのメイド。
「取り敢えず、外に向かいましょう。安全の確保が最優先でございます」
そして、揺れなどなんのそのと、サササッと俺を抱えながら庭に出た。
そのころには揺れはほとんど収まっていた。
「もう大丈夫でしょうか?」
「だったらそろそろ下ろせ」
「それは申し訳ございません」
そう言って謝るメイドに下ろしてもらう。
庭には、メイドと執事が何人も避難してきていた。
「お坊ちゃま!ご無事でございましたか!」
一人の執事が俺に気づき、感極まった様子で近づいてくる。
「ああ大丈夫だ。こいつに運んでもらった」
そう言って俺が例のメイドの方を見ると、彼女は他のメイドに囲まれてた。
「あんた凄いね。あんな揺れの中移動するなんて」
「新人のくせにやるじゃん」
「ありがとうございます」
いびられているのかと思ったが、流石は西園寺家のメイドと言ったところ。
心も綺麗らしい。
「なあ執事」
俺はあいつを放って執事に問いかける。
「はい、何でしょう」
執事は柔和な笑みを浮かべてくれる。幼い頃からよく見た笑みだ。
「家の被害状況はどうなっているんだ?」
「はい、奇跡的にほとんど被害がありませんでした」
「それは嬉しいことだな」
「ええその通りです、坊ちゃま」
ホッとする。
別に崩れたところでという考え方もあるが、やはり長年衣食住を共にしてきた屋敷だ。思い入れも多い。
そう思っていると、執事の携帯電話が鳴った。
執事は電話をすると、少し慌てたような表情をして、俺を見てきた。
「坊ちゃま、私は多々やることができましたのでこれにて失礼します」
そう言って一礼する。例のメイドには及ばないが、それでも綺麗であった。年の功というやつだろう。
「大変だな、執事ってのも」
「いえいえ、旦那様には遠く及びません」
そう言ってホホホと笑ってから、「では」と再び一礼し去っていった。
一方俺はというと、メイドを連れて自室に戻っていた。
メイドや手伝い達に「私達でやりますから、蓮様は何もしなくていい!」と突き放されたのである。
「俺お荷物か?」
部屋で椅子をグラグラとして遊びながら、隣で立つメイドに問いかける。
「いいえ。ここの人たちはいい人ばかりですね」
「……そうか」
全く、責任感が強いやつらだ。
そこから俺はいつも通りの一日を送った。
朝に大地震が本当にあったのかと疑いたくなるが、ニュースなどでも大々的にやっているのであったのだろう。
寝る時間になり、「おやすみなさいませ」とカーテシーをするメイドを見送ってからベッドに横たわる。
「……今朝の、マジで何だったんだろう」
ニュースでも原因不明と専門家が言っていた。
当初俺は首都直下地震か何かかなと思っていたが、同じ事が全国で起こっていたらしい。
同じ揺れレベルだから震源地もクソもない。
そして何よりも、あれだけ揺れておきながらも、建物などの損害がほとんどなかったらしい。
考えれば考えるほどわからない。
――うん、そうだ、考え過ぎはよくない。専門家でもないのだから。
「……寝よ」
傍の電気スタンドを消し、俺は眠りについた。
『―あな――から―勇者ですよ……』
「……うぅん……?」
朝目が覚める。変な夢を見た。女の声のようなものが真っ暗な中で天啓のごとく聞こえてきたのである。
「勇者とか言ってた気がするなぁ……」
俺はあまりそういう系は見ないはずなんだが……と思いながら上半身を起こす。
すると、目の前に何かが現れた。
「……は?」
半透明な板状の何かだ。
つらつらと文字が書かれている。
名前:西園寺蓮
性別:男
職業:勇者
レベル:1(min)
称号:選ばれし者
装備:コットン製の高級パジャマ
持ち物:ミサンガ(左手)
……は?何だこれ?
俺は自室を飛び出し、テレビのある部屋へと全力疾走する。
途中で俺を起こしに来たのだろう例のメイドとすれ違ったが、無視して走る。
部屋のドアをバンと全力で開け放ち、テレビの方を見る。
そこにはメイド達も集まってニュースを見ていた。
『現在、個人に謎の情報を表示する半透明状の板が確認されており、また、各地で土地が隆起し巨大な洞窟が出現したとのことです』
……はぁ? どうなってんだこの世界?!
思わず呆れてそう叫びそうになった。