俺達は薄暗い洞窟の中を慎重に歩き進む。
洞窟というのは勿論ダンジョンのことである。
ダンジョンがもしゲーム通りなら、中は非常に様々な状態で、入ったらマグマの海しかなかったとか、奇妙な音楽を流す女に追っかけられたけどマンホール踏んだら転移したとか。
因みに最後の女はダンジョンボスでレベル500だった。
最難関ダンジョンは運営がふざけてると思えるほどボス共々意味が分からん。
「それで、さっきのことについて話せ」
前を歩く(集団の中では最後列だが)蓮(様)がやや低い声で俺に聞いてくる。
何故蓮(様)がそんな事を聞くのか。
話は少し前に遡る。
★
俺が言う。
「ああ、まぁ多分戦えるよ」
→出力結果「ええ勿論、貴方よりかは」
うん、変換って言うのかそれ。原型ねぇじゃねぇか。
俺が「こいつ解除できないか」と脳内で変なスキルにグチグチ叫ぶ間にも、目の前の終末世界の人みたいな見た目のゴリラが激高する。
「あぁん?!俺は”暴力者”だぞッ!舐めたやつは死ね!」
といって拳を振り上げたではないか。
やべッ――――と身構えた俺だったが、あることに気づいた。
振り下ろされる拳が、ぬるーっと、まるでスロー再生のように見えるではないか。
これでは当たるほうが難しいのではないだろうか。
俺は思わずこの体の動体神経のエグさに感嘆する。
そして俺の脳内には習ったはずのない様々な武道の動きが浮かぶ。
よし、今回はこのワンインチパンチをやってみるか。
思い浮かべると、体がそれに従い腕を突き出す。
そのまま未だスロー再生のゴリラの腹部に一度トンッと小さな拳を当てる。
瞬間ゴリラの腹部にまるで車が激突したかのような衝撃音が鳴り、ゴリラは「グボえええぇぇええ――――」と叫びながら吹き飛んだ。
ゴリラは最終的に50メートルくらい吹き飛んでそのまま地面に倒れ伏した。
ピクピクと痙攣しており、一向に動き出す気配はない。
おお凄い。流石はこの体。レベルカンストしてるだけある。
あのゴリラが可哀そうに見えてきた。
「え、え……」
周囲がえ?何が起きたの、と言わんばかりに呆けた顔をする。
勿論、蓮(様)も例外ではなかった。
「今、何した……?」
「普通に防衛しただけです」
「何が普通だ何が。あいつ死んでるんじゃねぇか?」
我を取り戻した何人かがゴリラの方へと駆け寄り、状態を見る。
やがて安堵した表情を浮かべながら俺達の方へと叫ぶ。
「大丈夫だ!死んではいない!」
「ほっ……」
「でも、何であんな吹き飛ぶんだ……?」
周囲が一斉に俺を見た。
――――というようなことを経て、果たして俺達はダンジョンに入ったわけである。
あんな程度でこの調査を止めることはない。国主催だもの。
だがあれから明らかに俺は避けられているため、付いている蓮(様)も自動的に避けられる。
そして無事に最後尾が決定した。
「ただパンチをしただけです。腹部に。ワンインチの」
「ワンインチの意味を履き違えてるだろ」
蓮(様)はそう言い捨てると、呆れたように肩を竦めた。
「取り敢えずダンジョン探索をしなきゃならんな」
「そうですね」
暗い洞窟を懐中電灯で進む。懐中電灯といっても高性能のものなので、非常に明るい。
歩いていると、やがて出口らしき光が見えた。
「おーい!ここからダンジョンの一階層だぞ!気を付けろよー!」
「おいおい、ここまではダンジョンじゃないのかよ」
蓮(様)が驚いてそう言うと、更に前を歩いていた先程のメガネの男がこちらへと振り返った。
「この先から風景が変化するのでダンジョンだと扱っているだけですよ。この先から魔物も出ます。気を付けて下さいね」
「なるほど……分かった」
光の漏れる出口を潜ると、そこには広大な、終わりの見えない草原があった。
「ここが、ダンジョン……」
隣で蓮(様)が歩みを止め、その景色を見る。
ふむ……今回は草原タイプのダンジョンか。
ま、ざっと初心者用って感じだな。
「おい!早速魔物が出てきたぞ!」
集団の中からそう叫ぶ声がすると、一同はその方向を見る。
そこには、緑色の肌をした、例のヤツがたくさんいた。
「おい、あれゴブリンじゃないか?」
一人がそう声を上げる。
確かにあれはゴブリンだ。レベルは全体的に見ても1~5くらい。正真正銘の雑魚である。
「ギャギャッ!」
何体ものゴブリンが気色悪くそう叫びながら棍棒を手に突撃してくる。
因みに一つ補足すると、ゴブリンに負けた場合、女キャラクターだと装備が全部消えるという設定がある。
運営やってんな。
まぁだがゴブリンに負けることはまずない。余程弱いか下手かじゃない限り。
「ゴブリン弱いな!今のうちに片づけるぞ!」
何人かがゴブリンのノロノロの攻撃を避け、刀で切りつける。
切られたゴブリンは悲鳴を上げながら霧となって消え、代わりに魔力核が出現する。
「魔力核の回収忘れるなよ!」
素晴らしい連携のおかげでゴブリンはどんどんと数を減らしている。
俺達はただ眺める事しかできていない。
「これ、俺らいるのか?」
蓮(様)がそう呟くのも無理はない。
「奥に進んだときにきっと必要になりますよ。レベリングも必要でしょうし」
そういえばここのボスは誰だろう。
こんな時に便利なのがスキル”鑑定”である。
カンスト勢のみダンジョンの情報を見ることができるようになっているのだ。
発動させると、視界に情報が表示される。最もここみたいな雑魚ダンジョンのみだが。
ダンジョン名:初心者★応援ダンジョン
ボス:スライム(レベル50)
階数:10
主な風景:草原
▽以下詳細
……スライムかい。
3倍速もあるらしい。
話の順番相談だぜ☆
-
蓮(様)の妹を先に出せ!
-
聖剣手に入れるのが先だ!
-
魔王が先だろ!