始まりはパソコンに送られてきた一つの依頼だった。
「廃業した秘密結社の根城の探索」
関西にこじんまりとした小規模の事務所を構えて早3年、下請け時代に繋いだツテで食い繋いでいる俺の事務所に御新規様からの依頼メールが来た。
「ん、ユウキどうしたの」
普段は定期的な依頼のメールが来るだけのパソコンの前で悩んでいたからか、仲魔のサキュバスであるリリが不思議がって訊いてきた。
「いや、新規のお客さんからメールがきてね」
「ふ~ん、珍しいね」
依頼には贔屓にしてもらっている事業主さんの名前が添えられており、その人の紹介でこちらに依頼してきたという流れらしい。取引相手の中でもかなり縁が深いので騙してわるいがなんてことは起こらないと思うが。
「うちに依頼してくるなんてきっとどこにも相手にされないやばい依頼だよ、やめようよ」
「なんてこといを言うんだ」
まぁ、怪しいのは確かだけどな。
「まぁ、内容を見てみろよ」
パソコンを回転させ依頼文をリリに見せる。
「秘密結社の根城跡地を探索、送迎付き、報酬……悪魔の館の利用優先権!」
リリは驚きのあまり後ろにひっくり返った。
「悪魔の館って、あの悪魔の館」
「ああ、今絶賛混雑中の悪魔の館だ」
日本がセプテントリオンという巨大な悪魔に襲わたことに端を発し、国中の野良悪魔たちのレベルも上がり始めた。
その影響を受け、現在デビルバスターやサマナーはレベリングが流行しており、そのあおりを受けどこの合体施設も混雑している。
そんなご時世に、こんな商品だ。欲しくなるな。
「ますます怪しい」
ジト目をしながらそうつぶやくリリ。
まぁ、言いたいこともわかる。
こんないい依頼なら足切りラインぎりぎりの俺じゃなくて、もっと強いデビルサマナーだって雇えるレベルだ。
怪しい依頼に大きすぎる報酬、とても身の丈にあったものではない。
普段の俺なら一にもなく断っていただろう。だが、
「……リリ、俺はこの依頼を受けるつもりだ」
「どうして?」
「今後のためさ」
正直言って俺たちのレベルは高くない。
大体が60とちょっとだ。
足切りラインの50より少し上だが、心もとない数字。
加えて、特別な事情があるせいでパーティーは固定されている。
もし、今後何らかの要因で足切りラインがどんどん上がっていったら追いつけないかもしれない。
「もし、足切りラインが上がっても追いつけるアドバンテージが欲しいんだよ」
「それも一回切りじゃなくて持続的なアドバンテージが」
リリは百面相のように悩んだり、何かを言いたげにしている。
そして、観念したようにため息をついた。
「やばかったら即逃げる、約束して」
「分かったよ、ありがとうリリ」
依頼のメールを受け取ってから数日後、俺たちは依頼主のもとにやってきていた。
「よく来てくれたね、僕が依頼主、ドリフター*1の生活支援組織、定住の会代表のビルドだ、よろしく」
目の前のソファーに座る金髪の少年はそう名乗った。
姿形はどうみても子供のそれだが、ここは悪魔業界。彼がデビルシフターや悪魔につらなるものだったりしたら侮るのは危険だ。
「フリーサマナーのユウキと申します、こちらこそよろしくお願いします」
名乗ってみて思ったが、肩書がないと寂しいな。
こんどそれっぽい役職つけてみるか。
「よろしくねユウキさん、さっそくで悪いけど依頼の説明をしても良いかな」
「もちろんです」
空気をかえるためにビルドさんは一度せき込み、場を整える。
「依頼内容は廃業した秘密結社のアジトの探索。詳しく言えば、彼らが搬入したであろう合体装置の回収だ」
「この合体装置を回収し私たちが運用する、その優先利用権を君に付与するのが今回の報酬になる」
「質問はあるかい?」
なるほどね、流れ者のドリフターがどうやって悪魔の館の優先利用権を与えるのか気になったがそういう理屈か。
でも、少し気になるな。
「お言葉ですが、合体装置なんてそう簡単に手に入りませんよ」
「なにかの情報の伝達ミスでは?」
「いいや間違いない、その組織に納入したとされる納付書が別の組織から発見されている」
そう言って、俺の目の前に納付書が差し出された。
ざっと見てみるとかなりの機械を卸ていたようで合体装置やその他の補助用具も注文されている。
しかし、金額だけみてもかなりのモノだな。悪魔業界でも簡単には出ない額だぞ。
「確かに合体装置の記載がありますね。しかし、なぜこんな装置に手を出せる組織が廃業したのでしょうか」
理由によっては死活問題だぞ。後続の組織とかに狙われたら死ねるからな。
「もともとその組織はアリ*2志望だったらしいんだけど、世界が長生きしてしちゃって、外のインフレを生き残った人たちに倒されたみたいなんだ」
なるほど、組織に恨みを持った奴らがインフレでレベルアップして襲ってきたのか。
だが、気になる点があるな。
「それ、おかしくありませんか?既に組織が解体されていて後継者になるようなやつもいないんでしょ、ならわざわざ依頼を出して回収させる意味がないじゃないですか」
持って行って怒るやつがいないのなら黙って回収してしまえばいい、なぜしないんだ。そんな疑問を見透かしたように彼は言った。
「いや、意味はあるさ」
まるで背中に氷柱を入れられたようにぞわりとする声だった。
「話は変わるが、廃業した秘密結社の最後の戦いはどこでしたと思う?」
「え、そのアジトの中とかじゃないんですか」
「いいや違うよ、彼らは逃げて来たのさボロボロの防具と武器を持って、敷地の外へね」
「は?」
いや、ありえないだろ。どこの世界に籠城戦で陣地から出る馬鹿がいるんだ。
「ほかにもいろいろな話がある」
「何人もの回収屋がそのアジトに入ったが誰一人出てこなかったとか、その屋敷を見ただけで悪魔が怯えるとか、いろいろね」
……まじかよ。
「もっと具体的な情報はありますか?」
「──君を雇う前に三人ほどデビルバスターを雇い調査に向かわせて、全員死んだよ」
まじでか
「個人での依頼では難しいように思います、ほかに応援を呼んでいただくことは?」
「駄目だ。うちに敵対的な組織があってね、そこのスパイが来られたら困るんだ」
「ならもっと上のレベルのサマナーに依頼を」
「君以上となると、もうどこかのひも付きか組織に頼らないで生きていける超人しかいない」
「前者はスパイの問題でパス、後者には伝手がないのでパスだ」
俺にも自分より強いやつの伝手はない。
ということは、本当にソロでやるしかないのかよ。
頭が痛くなってくるな。
「私たちも君をいじめたいわけではない」
「こちらの事情を汲んでくれるのなら、報酬をプラスして用意するよう努力する」
報酬、報酬ね。
ここで言い出したら確実に受ける流れになるが、いや、腹は決めたはずだ。
「それは現物以外でも可能ですか?」
「こちらで工面できるものなら用意しよう」
「なら、契約に詳しい人間を用意することは可能でしょうか?」
「契約とは?」
「ゲッシュや神との制約、とりあえずそれに詳しい人がいれば紹介してほしい」
相手にはやっかいな依頼を押し付けているという自覚がある。
ならば、どんどん押して、報酬をもぎ取っていく。
「もし契約に詳しい人間がいなければ、降りるかい?」
「いいえ、いなくてもやります」
「ただし、いた方がやる気が出ますね」
もともと危険を承知でこの依頼を受けたんだ、半端はぜったに駄目だ。
リスクが減らないならリターンを最大にする。
「……今こちらにそのような人材はいない」
「ただ、もし発見したり、伝手が出来たりしたらいの一番に君に報告する」
「これでどうかな」
「もう一声欲しいですね」
この約束が口だけの可能性もある。
それなら、もっと別の特典が欲しいな。
「そうだな、ではアイテムなどはどうだろうか」
「うちで保護したドリフターたちは珍しい道具を持っていてね、この世界ではお目にかかれないようなアイテムもある」
「それを君に売ろう」
「譲るではなく?」
「報酬金に色を付けておくからそれで妥協してくれ」
ここら辺が落としどころか。
珍しいアイテムに悪魔の館の優先利用権、契約に詳しい人間とより取り見取り、悪くないな。
「では、それで依頼を引き受けましょう」
「よろしく頼む」
こうして、俺の調査依頼は幕を開けた。