勝手に営業する悪魔販売店の摘発。
その依頼をこなすために俺たちが立てた案は簡単だ。
「今回の作戦だが、件の店に客として潜入しようと思う」
そう言うと皆が不思議そうな目で俺を見てきた。
「潜入って、そんな簡単にできんのか?」
ツバキの疑問ももっともだ。
確かに店の名前も場所も分からないのにどうやって潜入するというのかは疑問なところだが。
今回に限ってはそれらの情報は必要ない。
「ツバキ、看板を出してない店に人を呼ぶにはどうすればいいと思う?」
「え?そうだな、口コミとか?」
「惜しい、確かに口コミもあるが、正解は客引きだ」
「客引き?」
そう客引き。
店員が口で言って誘い込めば、看板が出てなかろうとも関係ない。
「俺は奴らが客引きをして、顧客を捕まえていると考えている」
「そこでだ、やつらに誘われやすい様相で歩こうと思う」
「質問良いですか?」
「なんだツツジ?」
「誘われるような様相ってどんな様相ですか?」
うむこれもいい質問だ。
「──この店の悪魔を買うやつはどんな奴だと思う?」
「え?え~と、強い悪魔が欲しい人ですか?」
その通りだ。では、どんなやつがソレを欲しがる。
「まずデビルサマナーであること」
「次に中級者であることが条件だと睨んでいる」
「──伸び悩みを狙ってると」
「そうだ」
初級者は金銭に余裕がないため大した金をおとさない。
上級者は自分で強い悪魔を捕まえられるので店に寄らない。
必然、狙われるのは中級者。特に、強大な悪魔を狙うのは現在の力量に不満のある向上心のあるやつだ。
「足切りラインギリギリで、それを超えるために力を欲している中級者がやつらのターゲットだ」
「今回はそんな風に見えるような恰好をして動く」
「具体的にはレベルを偽装する装備を付けて邪教の館を散策する」
幸いなことに弱く見せる呪符なら製作できるし、サクラたちはサキュバスだ。レベル40後半くらいの設定に偽装してもだれも不思議に思わない。
邪教の館に行くのはデビルサマナーが多くいるここで客引きをされる可能性が高いと踏んでいるからだ。
「ユウキさん❤一緒に行く役はどうするんですか❤」
「もし良ければなんですが❤わたしなんてどうですか?」
ツツジが前のめりに迫ってくる。嫋やかなしかししっかりと感じ取れる匂いが鼻をくすぐってくる。思わずうなずきそうになるが堪える。
独りよがりな決定は不和を産むだけだ。
「試し行為はやめなさい」
「あて」
デコピンをして話をながす。
「ツバキは良いか?」
「い~ぞ」
生来の性格ゆえか、相手を追い詰めたりするときは積極的だが地道な捜査にはとことん興味関心がない。めんどくさそうに手を振った後、切れたお菓子を取りに台所に向かっていった。
「サクラもかまいませんね❤」
「……ふうん」
サクラは少し顔をしかめた。それが何からくる表情なのかは分からない。嫉妬してくれているのだろうか、それとも怒りからなのか、少しの間の沈黙があり答えがでる。
「いいよ、ユウキを貸してあげる」
「……ええ、ありがとうございます」
底冷えするような言葉だったが表情は笑顔だった。いつも通りのじゃれ合いだが、胃が重いよ。
「じゃあ、予定通り頼むよ」
「了解です❤」
とりあえずとしてレベルを誤認させる札を所持して近場の邪教の館を巡り歩くことにした。最近増えたドリフターの影響か昔見た以上に人が混雑している、ここだけ見れば人間の数が減っているとはとても思えないものだ。
「ユウキさん❤次はどこにいきましょう」
「ああ、そうだな。歩き疲れたし適当な店でお茶しようか」
合体までの時間潰し用のフードコートで腰を落ち着ける。ここの良いところは悪魔用の飯を手軽に用意できることだ。いつも注文しているパフェと新商品であるドーナッツを買ってツツジに渡す。
「おや?これ注文しましたっけ?」
「ツツジの好きな味だと思って注文したんだ」
「嫌いなら俺がもらうから好きに食べてよ」
フードコート全体を見回すと活気がある、そして道に落ちているゴミは少ない。彼らも礼儀をわきまえているということかな。だとしたら、温かく歓迎したいものだ。
「美味しいですねこれ」
「良かったよ」
そんなこんなでパフェを食べ終え、皿を返すために離籍した頃、耳につく足音がした。隠そうともしないずかずかとした足音。それが俺たちの近くで止まった。
「すみません、少々お時間よろしいでしょうか」
「……どうされましたか?」
顔を向けて見ればそこには場違いな男がいた。装備品こそ悪魔退治のモノだが、顔はビジネスマンのような営業用の笑顔。
裏の世界にはあまりにも場違いなサラリーマンがそこにはいた。
「私、ここら一帯で悪魔に関する商売をさせていただいてるものです」
「あなた様に是非紹介したい商品がありお声を掛けさせていただきました」
「なるほど、でも傷薬や石なんかはお断りですよ」
「いえいえ、私が売るのはそんなものではありません」
「──悪魔、興味ありませんか?」
男の表情は笑みが浮かんでいた。おそらく失敗したことがないのだろう、俺から取れる金の事を考えだらしなく歪んでいる。なかなか見るに堪えない顔だ。
「へぇ、興味ありますね」
「そうでしたか、私もそうだとは思っていました」
「では、是非是非店へ」
ツツジをCOMPにしまい、俺たちは男の後についていった。
男に連れられるまま車に乗り込み店へ案内された。車の窓は加工されており、俺からでは所在地はつかめなかった。
ついた店の外見はシャッターがしまった駄菓子屋だった。男は懐から鍵を出しシャッターを開け奥へ来るように促す。
こっそりと【サバトマ】をした後、店の中に入る。
案内された先にあったのは並べられた檻とその中に納まる悪魔たちだった。
「本当に、悪魔を売っているのか」
「ええ、間違いなく本物の悪魔ですとも」
悪魔はみな一様に檻の中で丸まっている。みなこちらをにらみもせず、怯えもせず、ただ頭を伏せて固まっている。
「なぜ悪魔たちはみな固まっているのですか?」
「……すみません、それにはお答えできません」
「しかし、命令をすれば必ず実行しますのでご安心を」
「わかりました」
男の表情はとてもにこやかだった。不安を感じさせるほどに。
「悪魔はどれくらいのお値段で」
「個体やスキルによって違いますが最低でも30000マッカから頂いています」
「なるほど」
自分の懐から手早くメモ帳を取り出し手早く記述していく。中身は今の会話ではない、ツツジへの指示書だ。要件を端的に書き連ねる。おそらくこの後に
「お客様、当店はメモや撮影をお断りさせていただいております」
「ああ、すみません」
さきほどとは違う威圧的な命令。まぁ、ころころ場所を変える秘密主義者がメモなんて好きなるはずがないのは分かっていた。だからこそ、メモを使ったんだ。
俺は店主の目の前にメモ帳から紙を破り丸めてゴミ箱に放り込んだ。
「すみません、以後気を付けます」
そして罰の悪そうな表情を作りながらそそくさとゴミ箱から離れる。
「気を取り直しまして、なにかご要望などはございますか?」
「そうですね、最近ジャイアントキリングに挑みたいと思っておりまして」
「なにか強いスキルを持つ悪魔はいますか?」
とりあえず時間稼ぎとして店の中をぐるぐると回る。もちろん調査中のツツジがばれないように行き先を声に出しながら移動する。
いくらか時間がたった後、後日マッカを持ってくると約束し適当な場所まで車で案内された。
「では後日」
「ええ、今後ともぜひともごひいきに」
そういうと男は車に乗り離れていく、それから5分ほど待って周囲に監視がいないことを確認した。
「ツツジいる?」
「はい、ここにいますよ❤」
右肩のほうからひょっこりとツツジがでてくる。その顔は満面の笑みだったので作戦は成功したのだろう。
「まずはあの店までの地図です❤」
帰り際わざと引き離し、車を上から監視させていたので店へのルートが完璧に押さえられた。後日購買の約束もあるので店が変わることはないので安心だ。
そして肝心の、
「悪魔の種族は?」
「こちらに」
闘鬼・妖鬼・夜魔・堕天使などがメモの中にぞろぞろと羅列されている。
じっとりとした汗が頬を伝った。
「決まりだな」
自身のレベルより高く、なおかつ種族が偏りきっている点。
そして、表立って商売をしないことも組み合わせればおのずと答えがでる。
「あいつは、人間合体をしている」
人間合体、文字通り人間と悪魔を合成する悪行。
露見すればヤタガラスからの討伐令、ダークサマナーとして懸賞金をかけられるなどのリスクが高い。
その反面、自身よりレベルの高い悪魔の使役も可能とする技術である。
胸糞悪いな。
「やつらは覚醒者をどこから仕入れているんだ」
人間合体に使う人間は覚醒者でなければならない。そして、覚醒者はとても貴重だ。
強力な組織からの仕入れルートがないと完成はしないだろう。だが、店の様相をみるにそれほどバックの組織が力を入れているとは思えない。
何より、そんな組織ならほかに稼げる仕事をすれば覚醒者を合成に使う商売を行う必要はない。
「ちぐはぐだな」
……ここで考えてもしかたがないか。
そう思い視線を外すと。
「ん?」
「どうしました?」
電柱、それに張られた1枚の写真に目がとまった。
内容は行方不明者の捜索、15歳前後のまだ若い少女の証明写真がポスターとして張られていた。
紙の質感はまだ新しい、張り出されたばかりだろうか。
「関係ないか」
使われるのは覚醒者だ。学生が関係するわけがない。
それでも、なぜか、背中が少し冷たい。
「ユウキさん、ユウキさん」
「ああ、ごめん。気を取られてた」
気をしっかり持て、とりあえず依頼は達成した。
あとはこのことを報告するだけで仕事は終わりだ。
心を抑えろ。大丈夫、俺は大丈夫だ。
「……参加したいんですか?」
「え?」
ツツジがじっくりと俺の目を見てくる。
その目はとてもきれいで、吸い込まれそうで、何だか心が沸き立ってくる。
「ユウキさん、私はあなたに幸せでいてほしい」
「だから聞きます、この依頼をここで終わらせることに満足ですか」
過去が蘇り、心が騒ぐ。
人間合体をしてるやつを見逃すなと叫びたてる。
「……ありがとうツツジ、もう大丈夫だから」
「分かりました」
そう言うとすっと熱が引いていく。
おそらくツツジが何かしたのだろう。だが、俺は彼女に対して怒りなど沸かなかった。
晴れ晴れしい気持ちをもって電話を掛けた。
「Dr.ミカド、依頼についてお話があります」