COMPから仲魔をすべて出した後、鍵を扉に差し込み右にひねる。
鍵の回転で落ちる錆、錠が外れる音が耳に入ってくる。
ゆっくりと扉を押す。
「行くぞ」
直ぐに戦闘に移れるようにしながら、足を踏み入れた。
部屋は暗闇で包まれ、何も見ることはできない。
「明かりをつけるぞ」
持ち込んだLED発煙筒をたき、部屋に転がしていく。
部屋の中は思ったよりもかなり広く、追加でもう少し発煙筒を転がす。
そして、そのうちの一本が燭台にあたった。
「これも使うか」
ライターを取り出し、ささっている蝋燭に火をつけようとした瞬間。
それよりも早く、青紫色の火がともった。
連鎖するように部屋中にあったであろう燭台が一斉につきだし、部屋を暗く光らせていく。
そうして見えるようになった部屋の奥に合体装置らしきものを発見した。
血で書かれている召喚陣と共に。
「全員、戦闘準備」
召喚陣の中心にはなにかが、大雨の時のマンホールのように溢れ出してくる。
「スライム?」
そのフォルムは間違いなくスライムのそれだ。
だが、こんなボス部屋という雰囲気の場所にスライムなどいるはずがない。
もしスライムだとしても、それは特別な悪魔のはずだ。
油断する理由にはならない。
「ミミ、コンセントレイト。残りはマカカジャ*1」
「「「了解」」」」
ミミがコンセをかけ、二人が補助魔法をかけ終わった。
その時、スライム?の体が突如として隆起しはじめた。
「な!」
それはマグマのようにぼこぼこと空気を吹きだしながら、体積を増やしていく。
そして、見上げるほどに大きくなった。
「なんだこれは!」
明らかに尋常ではない。
故に、
【魔王 マーラ】
耐性 物:─
火:強
氷:強
電:強
衝:強
破:無
呪:反
魔:無
神:無
精:無
「なんで、マーラがここにいるんだよ!!」
悪魔を表す魔の語源になったともいわれる存在。
目の前にいるのはこの世界を統べるとも言われている大悪魔だった。
マーラはプルプルと震えた後、耳をつんざくような雄たけびをあげた。
途端に、かけていたはずのバフは立ち消えた。
「デカジャ*3か」
今度は体を上に伸ばし、そのまま横なぎに振り払った。
「グッ」
垂直落下のような感覚で壁に叩きつけられる*4。
全身の骨が軋んで悲鳴のような音をあげる。
魔王にふさわしい一撃だった。
「ミミ、一旦ターンを回せ」
「リリはまたマカカジャ、ノノはメディアラハン*5だ」
俺は物反鏡*6を砕く。
割れた破片が光を反射し、結界を描き出す。
「ナナ、メギドラオン*7だ」
「ああ」
ナナが掌を突き出し、白い光を放つ光玉を作り出す。
それは秒単位で巨大化し、マーラのいる場所に撃ちだされた。
「!”#$%&」
狂気的な叫びと共にマーラの体の5割強が吹き飛ばされた。
「よし」
これなら次のターン、コンセ+メギドラオンと総攻撃でしまいだ。
そう確信した時、それは起こった。
「な!」
マーラの体が病的な緑色に発行した。そして、削り取られた部分がぶくぶくと再生していく。
すこし経てば体の欠損はなくなっていた。
「ディアラハン*8かよ」
ふざけんなよ。
魔王が全回復もちとかクソゲーもいいところだ。
「’&%$#」
今度は首のような部分を縮めた。まるで、指を押し付けられたボールのように歪んでいる。
次の瞬間、俺の顔の横の空気が爆ぜた。そして、肉をミンチにするように不快な音が耳に来ると同時に、隣にいるリリが貫かれた*9。
「は?」
なんで、物反鏡を使ったんだぞ。物理攻撃ならすべて反射させるはずだ。
これで物理じゃないのか。いや、違う。
貫通もちなんだ。
「!#%’”$&(」
このままいけば、すりつぶされる。
ああ、糞。
軽い気持ちで来るんじゃなかったよ。
「リリ、生きてるな!」
「もちろん」*10
気合い入れろ。
俺が全員を地獄に連れてきた、だから、俺が全員を家に帰すんだ。
「ミミはコンセ、リリはラクンダ*11」
過大に恐れるな、相手は一人こちらは四人だ。
相手の行動回数は二回、自分の番がくるだけで2手分のアドが無料で稼げるんだ。
勝ち筋は2つ、バフデバフを消し去るのに行動を使い切らせてコンスタントにダメージを押し付ける。もしくは、バフデバフを消去せずにいればナナのコンセ+メギドラオンの威力が上がり押し切れる。
「この!」
ノノの番はわざと飛ばす。そして、バックに詰めてあった秘蔵の瓶を地面に叩きつけた。
一瞬の冷たさの後、ミストが部屋中に駆け抜けていく。
「ミミ、ガードだ」
このままいけば手数の差により勝敗がつく。
そんな状況だとしたら、俺はどんな手をとるか。
決まってる。
「!”&%$」
相手が積み切る前に殺し尽くす。
自分のフルパワーで一切を倒しきる。
「!””##$$」
さっきよりも甲高い声をあげながら、勢いのある横なぎが俺たちを襲う。*12
「ぐ!」
声による反射でガードをする前にそれは来た。
鞭のしなりより早く、破城槌の一撃より重いそれが胸部に叩き込まれる。
次に感じたのは浮遊感、痛みも何もなく、ただ自分が宙にいることだけが分かる。
「#”!#”!#”!」
雄叫びのあと、自身の攻撃に耐えられず大きく抉れた部分が再生する。
考えなくてもわかる。
HPを満タンにして次のターンで確実に殺すつもりだ。
「くそが」
尋常ではない一撃。
歯を食いしばり、あの世にいかないように耐え忍ぶ。
意識が飛びかける。
魔王と自分の隔絶した差を思い知らされる。
負けたんだ。
……秘策がなければ本当に。
「ミミ!」
攻撃によって巻き上げられた煙に向かって叫ぶ。そして、その中に攻撃を耐え切り、防御姿勢をとっているミミがいた。
あんな一撃をくらっても、獲物から目を離さない獰猛な悪魔の笑顔を浮かべながら。
「ぶっぱなせ!!」
コンセトレイト+スクンダ+一段階カジャのメギドラオンがマーラの体に打ち込まれ。
メギドラオンを再びマーラの体にぶち込み、身体の6割強を消し飛ばす。
「ノノ、魔のドナム*13!」
瓦礫から飛び出し、モモは即座に魔法を唱える。
コンセで5割ってことはドナムを使えば4割は持っていけるということ。
これでチェックメイドだ。
「ミミ、もう一度メギドラオン!」
さきほどよりも小さい。しかし、命を刈り取るには十分な量の光の奔流がマーラを包み込んだ。
光の柱に飲み込まれながらもマーラの影は形を保っていた。しかし、徐々に崩れ始め、メギドラオンが終わる頃には跡形もなくなっていた。
「はぁ、はぁ」
油断はしない、相手は大魔王のマーラだ。
油断していい理由はない。
目を凝らせ、埃1つ見逃すな。
体力を回復させ、ララを復活させ、バフを極限までつむ。
ひたすら待ち、
「勝ったのか?」
塵が収まりはじめ、視界がクリアになる。
そこには、ただ空間が広がるばかりだった。
大魔王の面影はどこにもない。
「勝った?勝った、勝ったんだ!!!」
その言葉を理解した瞬間、ドウパミンが溢れ出す。
幸福な昂ぶりが脳みそを洗う。
「「「「やった、やった、やった」」」」
4人で跳ね回り、転げまわり、喜びを分かち合った。