「じゃんじゃんやるぞ」
《マハスクカオート》*1
感覚が鋭くなり、産毛にあたるほぼない風ですら感じ取れるほど研ぎ澄まされる。
「いてまえやお前ら」
ヤクザどもがむき身の刀を振るう。
それは雨のような密度をもって襲い掛かってくる。
「くっ!」
いくら感覚が鋭敏になろうともその密度は避けられるものではなく、1本よけた隙に2本の刀が差し込まれる。
神経も肉も骨もぶった切られた痛みがガンガンと響く。
HPに変えれば7割ほど削られたような感覚がする。
「多勢に無勢はつらいね」
相手は10人、装備もバラバラだからか属性攻撃の効きも悪いだろう。
ならば、まずは戦える数を減らす。
「いくぜ」
《メギドラオン》
破滅的光が敵に降り注ぐ。
だが、如何せんコンセントレイトもかけていない威力では目に見えたダメージはない。
「サクラ!糸を使うぞ」
ツバキのターンを飛ばし、サクラに糸を投げ渡す。
糸を指に絡め、もう一方を飛ばす。
糸の速度は緩やかだが、空中で蜘蛛の巣のように交差し逃げ場となる隙間を塞ぐ。
その物量は確かなものであり結果として半分の人間に命中した。
「なんやこれ」
触れた糸は肌に触った瞬間に溶け、相手の頭にしめ縄のようなあざが浮かぶ。
「ツツジ、回復」
「はい♡」
《メディアラハン》
光が体に染み、砕けた骨がつながり、切られた神経がもう一度動き始めた。
相手のターンだ。
「うぜぇ、おいバフ回せ」
多勢に無勢ができる相手ではないと認識したのか、反撃にイラついたのか。
声が先ほどよりも大きい。
だが、もう手遅れだ。
「え、あれ??バフってどうやるんでしたっけ?」
下っ端が魔法を放とうとするが何もせずターンが過ぎる。
「俺もできません」
「お、おれも」
「お前らふざけてんのか」
このデバフを受けたものは
通称を【頭封じ】。
「おい状態異常だ、早く直せ」
《クロズディ》*2
《パトラ》*3
《アムリタ》*4
状態異常回復のオンパレード。しかし、治らない。
当たり前だがこれはデバフの結果として魔法が使えなくなっているにすぎないのだから。
魔封などではない。
「く、おい回復しろ!!」
結局俺を殺しきれる手番は残らず、自分や周りの回復だけをしてターンが回ってくる。
《メギドラオン》
さすがに耐えきれなかったのだろう、敵の3人は壁に叩きつけられ動かなくなった。
だが、残りの人間は回復のせいか効いていない。
「サクラ、追い打ちを頼む」
「分かった」
ビルの地下で大空に浮かぶべき雷雲が作られる。
それは互いに擦れ合い、大きな力を落とした。
《マハジオダイン》*5
攻撃を無効化して突っ込んでくるやつはおらず、敵が2人動きを止めた。
残りは5人だ。
敵の取れる手は後先考えないゴリ押しか仲間の蘇生で身を固めるか。
高火力物理で押してクリティカルを取ってゴリ押しされることが少し不味いか。
仲間を蘇生しても、魔のドナムを積ませたツバキで殴れば殺せるしそっちは考える必要はない。
「お代わりどうぞ」
また指に絡めて遠心力で飛ばす。
さきほどよりも少ないせいか、警戒心を煽ったせいか、当たりが悪い。
2人ほどにしか当たらなかった。
「またこれかよ」
今度は手の甲にしめ縄の跡がつく。
通称は【腕封じ】
《魔のドナム》
ターンがまた回る。
「お前らつっこめ!!」
相手も馬鹿じゃない。
蘇生しても次のターンに消し飛ばされることは理解している。
だからこその賭け。
「あいつを殺せ!!」
先んじて部下2人が突撃。
俺の守りに入っているツバキとサクラにあっけなく消される。
その隙間に体をねじり込み三本の刃が振り下ろされる。
その鋭さは目を見張るものがあり、ヤクザといえど尊敬すべき努力を積んだ証に見える。
きっと彼らが万全ならこの凶刃に俺はかかっていただろう。
「死ね」
初めの一太刀は目で追えた。
故に半歩後ろに下がりその軌道から体を外した。
「うあああ!!」
二太刀目は顔の横に逸れていった。
デバフのせいか視力が落ち、何もない空間に向かい突きを放った。
「このやろう!!」
三太刀目はよける必要がなかった。
刀を横に振るい胴を真っ二つにしようとしたのだろう。だが、その際の遠心力に腕の力が耐えられず剣がすっぽ抜ける。
「じゃあな」
跳躍し大きく後ろに下がる。その瞬間、三度目のメギドラオンが彼らを消し飛ばした。
「本当にありがとうございました」
「いえいえ、これも仕事ですので」
あの後、事件の犯人たちはヤタガラスに連行されお縄となった。
盗撮された写真は悪魔業界からの被害であると認定されヤタガラス所属の電霊*6がインターネットから消し去ってくれるらしい。
対象は無差別、個人が所有しているデータからも可能な限り消去するようだ。
『この度は事件の解決と原因の解明をしていただき感謝の念に堪えません。この手紙と一緒にキョウコのアイドルライブの招待状も同封します。ぜひお越しください」
盗撮騒動も収まり、この手紙を見ればアイドルのシノヤさんもなんの憂いもなく活動できているらしい。
「しかし、どうして運転手はこんなことをしたんだろう」
「どうやらヤクザに借金してたらしいぞ」
クヤキはギャンブル癖がもともとあり、莫大な負債をよく作っていたようだ。
そして、町中のATMから借りまくってどこも貸してくれなくなり、ついに闇金に借金をしていたらしい。
闇金の元締めであるヤクザがクヤキの職業に目をつけ情報の横流しを条件に借金の緩和を申し出て承諾。
そこから得られた情報で同じく借金をしていたあの盗撮魔に撮影をさせたらしい。
「一件落着だな」
「ああ」
この世界を生きていれば人間の醜さや酷さに食われる人がたくさんいることを知る。だからこそ、誰かをその地獄から救い出せることがうれしいんだ。
「今日はいい天気だな」
快晴の日の光を浴びながら、砂糖を2つ溶かしたコーヒーを味わった。
今回登場した【頭封じ】【腕封じ】は世界樹の冒険シリーズに登場するデバフです。
この種類のデバフは基本として三種あり
【頭封じ】
INT(賢さ)を半分にし、命中率が低下、呪文や頭を使う武術が使えなくなります
【腕封じ】
STR(力)を半分にし、腕を使う武術が使えなくなります
【足封じ】
AGI(速さ)を半分にし、足を使う武術が使えなくなり、逃げるのコマンドが選べなくなります
今回は縺れ糸:頭、腕 というアイテムを使いました。
この小説では、封じ系のデバフは3ターン持つものとします。
本編でも触れましたが強すぎるデバフにより魔封のようか効果がでていると解釈しているためB/S無効などのスキルでも貫通するものとします。そして、デバフスキルなのでデクンダなどのデバフ解除の魔法でとけるものとします。
作者の拙さによる御不満があるかもしれませんが、何卒宜しくお願い致します。