【損失100億越え、未曽有の怪獣災害】
【EU壊滅か、はびこる麻薬と汚染】
【シェルター投機詐欺、主犯を逮捕】
まだインクの匂いがする新聞を開けば、そのような暗い見出しが紙面のトップを飾っている。
セプテントリオンが現れ、それに連動するように世界情勢は悪化の一途を辿り、日夜暗い話題が世間を騒がせている。いや、世界規模の事件だけではない。
【異の山公園での殺人事件】、【関西一帯での謎の連続児童失踪事件】など暗い話題が身の回りにも起き始めている。
そんな暗い世情に反して、事務所には依頼人という明るい希望が入って来た。
「すみません、本日予約を入れたものですが」
「分かりました、今出ます」
事務所の扉を開ければそこには黒髪の10代後半くらいの女の子がいた。
服装はビジネススーツのようだが、よれがなく卸したての印象がある。
総じて、就活中の学生のような感じが見て取れる。
「こちらにどうぞ」
「は!はい!失礼します」
座るように促すと恐る恐るといった感じで着席。
緊張からなのか体はがちがちで汗をかいている。
「粗茶ですがどうぞ」
「あ、ありがとうございます」
シズさんは出されたお茶を凝視している。
「出されたお茶を飲むのはマナー違反なんて言わないので、安心して飲んでください」
「い、いえ大丈夫です」
そう言って持参したカバンから水筒を取り出し口をつける。
なるほど、初めて会う人からのモノは受け取らないということか。
良く仕込まれている。
「今回はご依頼ありがとうございます」
「邪教の館からで間違いございませんか?」
「はい!邪教の館代表であるミカド先生の名代でここに来ました」
「シズといいます、よろしくお願いします」
邪教の館は全国各地にあるが、今回のはたまに世話っている場所であり、代表のDr.ミカドとも何度か依頼を通じて知り合っている。
今回は彼女の直弟子であるシズさんとの顔合わせを兼ねた依頼だ。
「私はこの探偵事務所所長のユウキと申します」
「本日はどのようなご依頼で当事務所に?」
「噂の調査をお願いしたく参りました」
そういうとシズさんはカバンを探り何枚かの資料を取り出した。
タイトルは【悪魔販売店についての調査記録】。
「最近私たちの縄張りで商売をしている人がいるらしいんです」
「その人を見つけ出してほしくて依頼にきました」
「なるほど」
悪魔業界は裏社会ゆえに公権力の恩恵がない。当然、揉め事にも自主的な解決が要求される。
例えば、自分の縄張りで危険な商売をしているやつがいればその縄張りの持ち主が潰さなければならない。
できなければ自分の力を軽く見られさらなる面倒ごとが舞い込んでくることになる。
今回の依頼はそうならないようにするためのモノだろう。
「それでその店というのは」
「それが……悪魔を商品として扱う店らしいんですよ」
「しかも、ただの悪魔じゃなくて誰でも使えるとび切り強い悪魔を売るらしいんです」
「なるほど」
荒唐無稽、それが最初に聞いた時の感想だ。
悪魔は気位が高い、人間を下に見下し軽く扱うのが常だ。
売られることに同意しているデビオク*1でもない限り、商品として扱われるのを良しとはしない。
それにたとえ買えたとしても、自分より弱いやつなんて悪魔はすぐに抵抗して従わない。
現実的に考えて、それは反抗することすらできない弱い悪魔に限られる。
「失礼ながら誤情報では?」
「いえ、それはありえません」
「というのも、私たちの顧客に身の丈に合わない悪魔を持っているものがいました」
「聞けば店で悪魔を買ったと答え」
「数日後には同じような体験をした人がほかにも現れたのです」
なるほど、それならば存在はしてそうだ。
だが、妙だな。
そこまで突き止めているのなら店の場所も分かるのではないか?
「その人たちに具体的なヒアリングは?」
「したんですが、皆さん口が堅く」
「やっと情報が入手できても、もうもぬけの殻だったりして手ごたえがないんです」
まぁ、この業界は口が軽いやつの扱いはひどいからな。話さないのも理解できる。
店が丸ごと消えているのなら移動式の店舗、キャンピングカーを改造しているのかもしれない。
人伝はあてにならず、相手は動き続ける。
もし探すとしたら人海戦術をとらなければならず、猫の手も借りたいほど繁盛している邪教の館では難しいのだろう。
この依頼は本腰を入れるべきかどうかの試金石にもなってそうだな。
「なるほど、だから私に依頼してきたんですね」
「はい」
相手の住所を特定するだけなら交戦のリスクも少ないし、邪教の館に恩を売れるのはでかい。
しかし、見つけられなかったら風評に傷が入るかもしれない。
もう少し話を聞いてから判断すべきだな。
「具体的な噂の内容はありますか?」
「先ほど渡した資料の25ページをご覧ください」
パラパラとページをまくると証言内容の一覧がある。
・販売されていた悪魔は平均LV50を超えている
・購入した悪魔は自分のLV以上でも使える
・購入した悪魔はおとなしく反抗する気配がない
「夢みたいな内容ですね」
こんな全サマナーの夢みたいな店があるわけない。
この噂を耳にしたとして本気にするやつが一体何人いるのか。
白いカラスを探すようなものだ。
「このような店本当にあるのですか?」
「私たちも誇張されているとは思いますが、おそらく火種となるような店はあるかと考えています」
「それを踏まえた上でお受けしていただけませんか?」
この依頼の難しい点は泥沼化する恐れがあることだ。
捕まえるための策はいくつかあるが、どれもが駄目だった時にリカバリーがきかない。
現実的に店舗を見つけるをゴールラインにするのは難しいな。
「依頼内容を少し変えても?」
「具体的にはどのような形に」
「渡された資料の店の発見ではなく、あなたたちの縄張りを一定期間の捜査することによって達成とします」
変更した条件の良いところは期限が決まっているところだ。
これなら永遠に探し続けることもない。
それに探偵でも見つけられなかったということで本腰を入れる契機としても扱える。
これなら飲んでくれると思うが。
「もし続行したいのなら追加依頼も受け付けます」
「分かりました、そちらの方で大丈夫です」
依頼は決定。
次は報酬だな。
「依頼の報酬のお見積りは?」
「現金をある程度は」
「マッカによる支払は可能でしょうか?」
「そちらはお出しできる数が少なくなります」
最近は信用通貨もすっかり価値を下げ、インフレーションがひどくなっている。
なので魔界の通貨であるマッカが欲しいが、提示された額は現金価値にすると4割ほど落ちている。
払われる報酬としては決して少なくはないが、多くもない。
現在は金がそれほど必要と言うわけでもないし、別のモノがいいな。
「別の物を報酬として提示することは可能ですか?」
「業務に係るものは私の権限で扱えませんがそれ以外なら」
業務に係るもの、土地や建物は無理。
儲けもあまり出そうにないし、散在する予定はないし現物にこだわる必要もないか。
「現金を少なくして、追加でスキルの融通は可能ですか?」
「スキルですか」
邪教の館は悪魔全書*2も管理しているし強い悪魔の情報もあるだろう。
そこからいくらか融通してもらえればとても良い。
「前金で不屈の闘志*3、後払いで特別なスキルを頂きたい」
「特別と申しますと」
「万能系の魔法、もしくは優秀なパッシブ、具体的に言えば貫通系*4を」
「なるほど、……少し相談してきます」
そう言って、シズさんは携帯とバッグを片手に扉の外へ。
十中八九このお願いは通るはずだ。
あの強かなDr.ミカドが絶賛需要上昇中の貫通系を抑えてないわけがない。
最近耐性に怯えてブースターのない火力不足のメギドラオンしか使えなかったから、何とか手に入れたいところだ。
というか、よくよく考えてたら万能で足りないとは何て贅沢な時代なんだ。
最近はマッスルドリンコ*5がデフォでカラミティスーツ*6なんてのもあるし、万能が万能な時代が終わってるよ。
そんなことを考えているうちにシズさんが戻って来た。
「席を外してしまって申し訳ございません」
「いえいえ、構いません。それより結果は」
「不屈の闘志の前払いは構いません、もし店舗を発見できなくても金銭はお支払いします」
「そして、店舗の発見限定した場合に限り貫通を融通してもよいと」
「分かりました」
やっぱり抑えてくるか。
抜け目ないよなほんと。
「分かりました」
「それでしたら、この件はお引き受けさせていただきます」
「本当ですか」
「ええ、こちらが契約書です」
テーブルの前に書類とペンを差し出す。
そうするとシズさんは署名欄に筆をおとしていく。
「では、これで契約完了となります」
「それではお願いします」
こうして、悪魔を販売する店舗の調査をすることと相成った。