共生記録   作:ゆるるの

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0話 人と鬼

 一面を赤黒い炎が燃えている。とても禍々しく、全てを燃やし尽くしてしまいそうな炎が。木材で出来た床も、壁も、柱も、伝統ある古き建物達が、まるで地獄にいるかのように炎によって神々しい姿から変わり果てていた。

 そんな中、この炎から逃げ出そうと、白い装束を着た者が、屋敷の廊下を走り抜けていた。この装束は、この国の頂点である者しか着ることが出来ない。

 白装束の男は、赤黒い炎を忌々しげに見ながら、憎々しげに呟いた。

 

「もう少しで⋯もう少しで我らの計画が⋯上手く行く筈だったのだ⋯!」

 

「クソ!クソ!何故こんな目にっ⋯⋯!」

 

 逃げる先に、小さな火が宙に浮いたと思うと、一気に燃え上り、逃げる者の行く手を遮った。炎は逃さないとでも言うように、ジリジリと迫って来ていた。

 逃げ道を塞がれた。

 他に脱出は、今すぐこの窓から飛び降りることだろうか。

 下は砂利が敷き詰められていて、飛び降りても命が助かる保証はない。

 そして燃えているのはここだけじゃない。

 目に見える物全て、ありとあらゆる建物が、人が、燃えているのだ。

 逃げ道などあるのだろうか。

 

「いい加減諦めたらどう?お前に逃げ道なんて無いんだからさ」

「⁉」

 

 振り返るとそこにいるのは鬼。

 火のように赤と金の色をした髪と、赤い羽織が熱風によってゆらゆらと靡いている。まるで彼自身が炎の化身のようだ。そして鬼を鬼たらしめる、二本の角。

 鬼の顔は端正な顔つきだが、その表情はまるで憎悪をぶつけるかのように、白装束の男を睨みつけていた。

 男はその顔に怯みながらも、怒りを顕にしながら鬼に向かって叫ぶ。

 

「何故⋯何故貴様ら妖共が我々に関わる‼何故我々を滅ぼそうとするのだ‼答えろ‼」

 

 鬼は、質問に対して興味なさそうに、そんな事気にする様子もなく答えた。

 

「何故か⋯⋯そんな事も分からないか。分からないのなら、どうでも良くないか?そんな事」

「何を言っている!我々に今まで何の接触も無かったお前達がいきなり我々を襲いだしてそんな理由が分かるわけ無いだろう‼」

「分からないならそれで構わない。そんな事をわざわざ教える時間も無いし、どうせお前は死ぬのだから」

 

 その言葉に、白装束の男は本当に意味が分からないとでも言いたげだ。

 少なくともこのままではこの鬼に殺されるのは確実だった。

 

「貴様⋯!私が誰だか分かっているのか!私はこの国を統治する者!王でもあり神託者でもある!この私にその様な言葉は妖であっても許されぬぞ!」

「別に良いんじゃない?もうすぐここから人間は居なくなるんだ。お前の様な穢らわしい奴らがな」

「穢らわしいだと⁉貴様よくも私を侮辱したな!貴様こそ死ぬが良い‼」

 

 白装束の男は、激昂しながら、装備していた刀の切っ先を鬼に向けながら、鬼に向かって走った。

 この刀は、ある鬼が使っていた名刀だ。白い鞘に所々桜が装飾されていて、鍔も同様に桜の豪華な装飾が施されていた。

 男は振り上げながら突進してくる。鬼の心臓に突き刺さる──その寸前。

 男は一瞬で炎に呑まれ、禍々しく黒い炎は一瞬で塵も残さず男の身体を消し去った。

 そしてその場所に残ったのは、男が使っていた、鬼の刀。

 鬼はその刀を回収する。

 鬼はこの男を消すためと刀を回収する為に出向いたのだ。

 

「琥珀丸」

 

 声が聞こえる方を向くと、そこにいるのは宙に浮く鬼の姿。

 黒い着物を纏い、淡い桃色の髪。そして紅色の二本の角。

「終わったか?」

「ああ、こちらも刀を回収した。それとあいつも処分済みだ」

「そうか。ならば私達はそろそろ潮時だ。幽世に行くぞ」

 紅色の角の鬼は、鈴を鳴らすと空間が歪み、別世界に通じる入口が出現する。

「⋯紅風」

「何だ?」

「⋯いや、何でもない」

「そうか」

 琥珀丸の表情は無表情だ。

「行こうここも全て、焼き払われる。」

 紅風はそう言うと先に入口を通っていった。

 琥珀丸はもう一度周りを見る。

 見えるものは辺り一帯黒い炎。建物も、植物も、動物も、全てを飲み込もうと広がる炎。

 鬼が使う黒い炎は、消す事がほぼ不可能。消せる方法はあっても、それは限りなく零に近い。

「全て燃えて、忌々しい者どもも、何もかも消えてしまえば良い」

 そう言うと、琥珀丸は現し世から姿を消す。

 

 逃げ惑う声。怯える声。我先にと人を押し退けようと罵倒する声。残された島にいる人間は、島から脱出する手段を失い叫び声を上げながら燃えていく。

 そんな声は神にも妖にも届かない。

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