【完結】男女比がイカれた世界で秘密結社のボスをしている   作:かませ犬S

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プロローグ

 ───世界が変わった。

 

 なんて、物語の導入にありがちな言葉をまさか自分が口にする日がくると思いませんでしたね。

 

「200年前の人も同じような事を思ったのでしょうか?」

 

 窓の外をふと眺めた時、視界に映るのはビルの群れと一際目立つ巨大な塔。天高く聳え立つレンガ造りの塔は、まるで旧約聖書に出てくるバベルの塔のようです。

 

 今からおよそ200年ほど前に世界各地の都市部に突如として現れた建造物であり、一説によると地面から生えてきたとか。

 

 このような巨大な建造物が地面から生えてくるなど考えも及びませんが、現実として塔は存在しており現代ではこの建造物を『ダンジョン』と呼んで利用しております。

 

 当時の様子などは歴史の教科書などにも記載されていますので、気になる方は是非ご一読ください。

 

 重要なのはこのダンジョンが莫大な富を与えるという事。最たるは魔石と呼ばれる鉱石です。簡潔にこの鉱石を説明するとすれば、エネルギー効率の良い物質とでも言いましょうか?

 

 ダンジョンに人の手が入り、魔石が人の手に渡った事でこれまで使われてきたエネルギーの多くが魔石に差し替わったとされています。

 

 近いところで言えばライフラインに必要な電気や水もこの魔石を使って生み出されていますし、武器や兵器、あるいは防具などに魔石を使う事で殺傷能力や防衛能力を高めてるとされています。

 

 石油や既に廃止された核エネルギーよりも地球に優しくかつ安全、正に人類が求める理想のエネルギー物質。そのような物が発見されれば差し替わるのも納得というもの。

 

 新たなエネルギーを求めて世界各国が国主導で魔石の獲得に尽力しました。その過程で多くの犠牲が出たとされています。

 

 人類に大きな利益を与える魔石の入手は決して容易ではなく、大きな危険性(リスク)が伴っていました。建造物が『ダンジョン』と呼称されるようになった由来、モンスターの存在です。

 

 ゲームに出てくる敵キャラをイメージすれば分かりやすいでしょう。ゴブリンやスライム、果てはゴーレムにドラゴン。多種多様のモンスターが巣食う場所、それこそがダンジョンです。

 

 このモンスターたちと魔石の関係は決して切っても切れないもの。何故なら、魔石とはモンスターを倒さなければ手に入らないのですから。この事実が発覚した際、国のお偉い様たちは頭を抱えたなんて記載もあったとか。

 

 それでも国の発展の為に命をかけた先駆者がいた。偉大な先駆者なくして現在(いま)はありえない。心からの敬拝を。

 

 詳しくは歴史の教科書か、『魔石事変』について調べると分かります。それはともかくとして。

 

 当初は国の管理下に置かれたダンジョンも年月の経過と共に、民間にも解放され『冒険者』の資格を得る事で誰でも立ち入る事が出来るようになりました。生活の必需品という事もあり、魔石はどれだけあっても足りませんからね。

 

 需要と供給を満たす為に魔石は高額で取引され、一攫千金を求めた冒険者たちは命懸けの探索を日夜繰り広げています。

 

 ドラゴンを倒し、ドロップした魔石が50億の値がついたなんて話も出ています。命をチップに夢を求める……そんな冒険者相手に商売をするのが私の仕事です。

 

 ───ただし、非合法の。

 

 その話は今は置いて置くとして。ダンジョンの出現をきっかけに世界は大きく激変しました。正しく世界が変わったと言っても間違いではないでしょう。重要なのはこの変革が人の手で起きた訳ではないという事。

 

 200年前に起きた現象は人の領域を超越した事象です。神話に登場する神様が起こしたような奇跡───あるいは厄災と呼ぶに相応しい事柄。

 

 この事を人はもっと重要視するべきでした。

 

 世界の変化を当たり前と捉え、疑問に思いはしても利益を最優先した。だからこそ、二度目の世界の変革に対応する事が出来なかった。

 

 ───私を除いて。

 

 今の現実を見れば対応出来た事すら間違いのように思えてしまった。私の知る常識が揺らいでしまう。私の考えこそが間違っているのではないかと、疑ってしまう。全てが歪んで見えてしまう。

 

「世界は変わりましたね。常識が歪み……何もかも狂ってしまった」

 

 私だけが取り残されてしまった。もう一度言いましょう。世界は変わりました。

 

 最も大きく変わり、分かりやすかったのは男女比でしょうか?かつての世界では男女比は1対1。世界人口で言えば男性が31億4700万、女性が31億6800万人と極端に大きな対比はありませんでした。

 

 ダンジョンが出現する以前は男性の方が多く、かつ世界人口も今より10億人以上多かったとされています。

 

 世界人口の減少と男女比の逆転はダンジョンの出現が影響しているとされていますが、それは今となっては些細な話。

 

 ある日を境に世界の男女比は大きく偏りました。人口の変動はなく、ただ男女比のみが大きく変わった。私が調べたところ今、世界全土の男性は3億750万人。対して女性は60億750万人。

 

 男女比で言えば1対20と言ったところでしょうか?

 

 生まれた時からそのような男女比なら混乱は少なく済みました。ある日を境に変わったからこそ現実を受け止められず困惑する。

 

 想像出来ますか?これまで父親として接してきた男性が女性になっている光景を。

 

 はっきり言って、頭が可笑しくなりそうでした。

 

 私の記憶が正常ならば父親は男性だった。男性だから父と呼ぶ。なのに私の父親は女性になっている。父親は母親だった?

 

 いえ、そんな筈はありません。私の母親は幼い頃に病死しました。私をこれまで育ててきたくれたのは父親です。その父親が母親に?

 

「考えるのはやめましょう」

 

 本当に頭が可笑しくなりそうです。

 

 想像出来ますか?これまで友情を育んできた男性の親友が女性になっている光景を。

 

 私の事を親しげに呼び、親友しか知らない記憶を喋る()()()()()女性。姿形も声も違う。けれどその喋り方……性格は紛れもなく親友のもの。嫌でも受け入れるしかありませんでした。

 

 父親や親友だけではありません。私の記憶の中にいる全ての知人が女性になっていた。男性が女性へと変わるあまりに大きな世界の変革、だと言うのに誰一人として違和感を覚えず当たり前のように生活している。

 

 ───世界は変わった

 

 結論はこれに尽きます。あの日を境に世界の全てが変わった。男女比も常識も、思い出も全て……何もかも。

 

「まぁ、世界が変わろうと私がやるべき事は変わりません」

 

 ある意味で、今の世界の方が都合がいいとすら思えます。私がこれまで培ってきた常識が通じなくても……私が男性であるというその一点だけで、元の世界よりも動きやすい。

 

 ───貞操観念の逆転、とでも言いましょうか? 

 

 女性の性欲が男性のそれに置き換わった。男女比が偏り、それにより狂った世界で、男性の貞操が重きに扱われ、女性の貞操が軽きに扱われる。今の世界はそんな歪んだ世界です。

 

 男性の数が減り希少になったからこそ陥る現象。何世代か前に流行ったジャンルを彷彿とさせますね。

 

 今の世界は男性であるという、その一点だけで優位に動ける事が多い。男性という性別が免罪符となる。闇の世界で生きる私にとってこれ程都合の良い事はない。

 

「来ましたね」

 

 人の気配を感じました。

 

 腕時計を見れば定刻通り。事務所の施錠を解いて、私の部下が出勤してきたようです。音も立てず部屋の扉を開けて入ってきた赤毛が特徴の女性は、私を見ると深々とお辞儀しました。

 

「おはようございます!ボス!!」

「おはようございます梓さん」

 

 私をボスと呼ぶ人物の名は如月(きさらぎ) (あずさ)さん。

 

 私が創った組織に所属する幹部であり、私が全幅の信頼を寄せる部下の一人です。主な役割は周辺警護……言ってしまえば私の護衛ですね。

 

 それと申し遅れました。私の名は早乙女(さおとめ) 夏樹(なつき)

 

 顔のない天使───『faceless angel』という組織のボスをしている、しがない闇商人です。等と心中で呟いたところで誰にも届きませんがね。

 

「梓さん、ご報告をお願い出来ますか?」

「はい!」

 

 深々と下げていた頭を勢いよく上げた梓さんは軍人のような敬礼をすると、私が望む言葉を紡いでいきます。

 

 彼女は事務所に来る前に()に商品を売りに行っていました。本来であればそのような対応はしないのですが、お得意さまという事もあり梓さんに朝早くから向かって頂きました。

 

 彼女の報告通りなら無事に商品は売れたようですね。最近は警察や守護戦士(ガーディアン)の取り締まりが厳しくなっていましたので、少しばかり心配していましたが……。

 

「そうですか。では無事にブツは売れたようですね」

 

 お得意さまという事もあり、お金は随分と弾んでくれたようです。彼女の口から告げられた金額は私の想定よりも多い。上手く買わせたようですね。

 

 流石は梓さんですと、彼女を褒めると何故か誇らしげに胸を張り満面の笑みで答えます。

 

 

 

 

「はい!ボスの写真が売れました!」

 

 

 

 

 ───はい?

 

「すみません、梓さん……私の聞き間違いでしょう?私の写真が売れたと聞こえましたが」

 

 梓さんが売りに行った商品はダンジョンで使う回復薬です。まだ世に出回っていない非合法のモノですが、効果は絶大。

 

 以前、試供品として渡してその使い勝手の良さに満足したお得意さまから欲しいと連絡を受けて梓さんを向かわせた筈ですが……。

 

 売れたのは私の、写真? いえ、聞き間違いでしょう。

 

 

 

「はい!ボスの写真の()()売れました!」

 

 

 

 どうやら聞き間違いではなかったようです。

 

 私と商品の開発を担当している部下と一緒に手掛けた回復薬よりも、どうやら私の写真の方が高く売れたそうです。

 

 あの回復薬を作るのに、私と部下は二月を費やしたというのに……。

 

「流石はボスですね!!!」

 

 誇らしげに笑みを浮かべる梓さんを見て、言葉にできない虚しさを覚える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ───何度でも言いましょう。世界は変わった。

 

 とはいえ、こんなイカれた世界にしなくても良いのではないですか?

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