【完結】男女比がイカれた世界で秘密結社のボスをしている   作:かませ犬S

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第十四話 譲れぬモノ

「はい?」

 

 お二人が口にした内容を理解するまで数秒を要しました。非処女……そのままの意味で捉えるなら性行為の経験のある女性ですよね?

 

 何をそんなにおそれおののく事があるのでしょうか?不思議に感じていると、驚く事にレヴィ様と梓さんの二人もピラ美様とチン代様と同じ視線をチェリーボーイラブの方々に向けておりました。

 

「しかも、あいつら素人非処女じゃねーんだよ」

「そうなのよ。みんな……ちゃんとしたセックスを経験したって」

 

 お二人の声が震えております。畏怖と共に向けられているのは羨望でしょうか?

 

 なるほど……皆様の反応から考えるに私の認識が間違っているようです。ならば訂正しておかなければ大変な事になりますね。

 

 まず大前提として考えなければならないのは男女比が1対20と大きく偏っている事です。今の世界の貞操観念が狂ってしまったのは間違いなくこの男女比の偏りにあります。

 

 元の世界のように男女比が1対1であれば、このようなイカれた世界にはなってはいません。ただ、男女の立場が逆になるだけで済みました。童貞や処女の扱いも元の世界とさほど変わらなかったでしょう。

 

 ですが、男女比が大きく偏ったこの世界では男性が希少です。女性が男性と出会う事すらまず困難。そこから女性に対する嫌悪や蔑視のある男性と親しくなって恋仲になり、家庭を築く。それがどれだけ難しいか分からないほど愚かではありません。

 

 そのような世界で男女の交わりである性行為が行われる確率はどれほどでしょうか? 恋仲になるより更に難しいのではないでしょうか?

 

 つまり前の世界よりも処女の割合は増えます。30歳過ぎても童貞だったら魔法使いになる、なんて言葉があった気もしますがこの世界の場合だと笑えない冗談ですね、おそらく。

 

 素人非処女という言葉がある事から、風俗のようなお店はあると察する事は出来ます。どうしても処女を卒業したい女性はそういったお店を利用するのでしょうか?

 

 それはともかく、処女の割合が多いこの世界でパーティー全員が非処女というのは凄い事なのは何となく分かりました。気になるのは皆さまの反応ですね。

 

 おそれおののき、羨望の眼差しを向ける、それはつまり自分にないものを相手が持っている事の証明。

 

「皆さまは処女なのですか?」

 

 私の一言に皆さまが固まりました。

 

 いけません、どうやら失言だったようですね。前の世界の基準で考えてみましょう。私が童貞だった時に、『お前童貞なの?』と笑い気味に聞かれた時どのように思いましたか?

 

 非常に不愉快でしたね。

 

 同性だからそのような気持ちで済みましたが、異性からそのように言われたら、ショックでしばらく落ち込む自信があります。今の問いかけは決してしてはいけないものだと言うことが分かりましたね。

 

「すみません、失礼な事を聞きました」

 

 非を認めても頭を下げると、余計に皆さまが狼狽えております。ピラ美様とチン代様のお二人がモゴモゴと『処女じゃねーし』と呟いたのが聞こえましたが、深く追求しない方が良い気がします。

 

 一先ずお二人は置いておいて、私に何やら言いたげな視線を向けるレヴィ様と梓さんの対応を致しましょう。

 

「如何しましたか?」

「mein Schatz……正直に言おう。ワタシは処女だ。それは間違いない」

「そうですか」

「だが!勘違いしないで貰いたい!ワタシは処女を捨てる機会があった!けど!愛するmein Schatzと再会し!共に初体験を迎える為に純潔を守っていただけさ!」

 

 まるで舞台に出てくる役者のように大袈裟な素振りでレヴィ様が演説しております。レヴィ様のお顔は大変お美しいので演劇の一部と言われても不思議ではありませんね。着ぐるみを着てさえいなければ。

 

 何ともちぐはぐが格好です。

 

 さて、レヴィ様にお伝えしたい事があるのですが……それより先に梓さんの主張を聞いた方が良さそうですね。彼女から強い視線を感じました。

 

「どうしました、梓さん?」

「ボス……そこの女と同じだよ。僕は好きな人と初体験を迎えたかっただけなんだ」

「そうでしたか」

「うん。誰でもいい訳じゃなかった……ボスのように好きになった人と、セックスしたかったから」

 

 梓さん自身が男性に対していい思いをしていないのもあるでしょう。無視されたり暴言を吐かれたり、酷いものだと冤罪で捕まりかけた事もあったとか。

 

 そのような事があっても男性嫌いにならなかったのは、私に会えたからだと語っていましたが───梓さんとの出会いがこの世界風に改変されていましたので、何とも言えない気持ちになりましたね。

 

 ダンジョンで死にかけていた梓さんを助けたところは同じですが、性別が変わると見方も大きく異なるようです。

 

「だから僕はボスとセックスしたい。処女を卒業したいんだ」

「…………なるほど」

 

 期待の籠った眼差しが梓さんから向けられております。彼女とは依頼を終えてダンジョンを出たらキスをするという約束を交わしております。この様子ですと、その先も期待しているように思えますね。

 

 どうしたものか。私はこの世界の男性とは価値観が違いますので、女性と性行為する事に特に抵抗はありませんが……梓さんの場合は一度抱くとめんどくさい事になる気がするんですよね。

 

「待ちたまえ!mein Schatzと()()()初体験を迎えるのはこのワタシだ!間違っても君じゃない!」

「邪魔をしないでくれないかな、おじゃま虫!!」

 

 空気が瞬く間にヒリついたものに変わりました。

 

 このままですと、また二人は戦いを始めるでしょう。殺意や敵意が先程よりも増していますので、最悪殺し合いになるかもしれません。

 

 二人を止める為に言葉をかけた方がいいですね。何も二人を止める必要はありません。片方を止めたらいい。ならば。

 

「レヴィ様」

「少し待っていてくれるかなmein Schatz。直ぐにこの女を片付けてくるよ。君の純潔を守る為にね」

「邪魔なのは君だよクソアマ!ボスは僕のものだ!ボスの純潔も僕のものだ!どうしても欲しいのなら護衛である僕を殺してからにしろ!」

「そうかい……なら、ここで散るといい」

 

 レヴィ様が魔道具の力で手元に槍を引き寄せ、梓さんが影を操作して鋭い棘をレヴィ様に向けたところで、二人を止める為に言葉を投げかけます。

 

 この様子ですと、レヴィ様ではなく梓さんにも効きそうですね。なら尚良。

 

「勘違いしているようなので訂正しておきますね」

 

 敵を排除する為に全集中しているお二人にはこの言葉では届きません。あるいは私の言葉が合図となったのか二人が殺意を纏ってぶつかりました。

 

 槍と影がぶつかり合って金属音が鳴るのはいかがなものかと、疑問に思いつつ少し声を張って言葉を発します。

 

「私、童貞ではないですよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ───レヴィ様と梓さんが、気絶しました。

 

 

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