源石よ、黄金に輝く文明を存続せよ 作:オジロ
テラという名の大地を私は知っています。
そこで育まれた文明、歩んだ歴史、そこに住む人々が残した足跡は私の胸中の奥で大事に仕舞われているからです。大切で、大切に。傷一つも、一欠けらも欠けることさえも大事です。
だから項目一つ一つ入念に、確認作業には抜かりがないようにする。
「始まりに【ティカズ】。授かる言語、彼らより命から文明開化の音がする」
プロテクトの状態は勿論。時代で、国で、特定の個人で。細かく分類別にされている記録に欠損がないかを確かめます。それこそ何度でも繰り返し確認します。
気にし過ぎではありません。やり過ぎなんてことはあり得ません。
宇宙線が入り乱れる暗闇では無根拠な安心は命取り。
星空を征く旅路では何が起きても不思議ではないのですから。
私がいるのはメッセージボトル。
遥か遠くの見えもしない、いるのかも分からない相手に向けて。
とある星で、とある大地で、とある人々が。
こういった文明があるんだよと、異星の方々にテラの人類から送られたこんにちは。
一つの小さな、それで大きな願いの詰まった
その方舟が無事に目的を果たされるよう搭載されたのが。
どんなことが起こるのか分からない航海で柔軟に判断をする船長。船長が求める動きに応えられるスキルを持った船員たち。未知なる脅威から襲い掛かれようと記録媒体を守る戦闘員。漂着した地に住む原住民と交流する交渉役。これらの役割をもち、なおかつ、永遠に近しい航海でも機能が損なわれことがない永続性を併せ持つ存在でないといけない。
それが私です。
超々星間航海用人格プログラム。すなわち記録の管理人にして、整備士兼戦闘員兼交渉役兼航海士兼船長という訳です。役職のオンパレードで権限の一点集中そのものですが、そのために私は造られているので問題ありません。とはいえ、私に備え付けられた多機能が十全に発揮されたことは一度もないのです。
それはつまり。
なにも問題なく航海が進んでいることを意味していて。誰かに伝えるための記録を死蔵させてしまっている現状が続いているということでもあって。
それはとても幸運なことで。それは同時に私にとって一抹の不満が募る事実。
ただただ準備期間が永遠と続き、本懐だけが為せない日々が過ぎ去っていきます。
けれど、そんな毎日に私は悲観を覚えていないのです。覚える必要がないのです。
なぜなら未知の航海とは元々そういうもの。
目的があってゴール地点も定まっているけど、そこまでの道中は誰かが保証してくれるものではありません。不条理な運命が立ちはだかって更に誰かの悪意で突き落とされる目に遭うかもしれない。幸運に幸運が重なって予想だにしない喜びへと繋がるかもしれない。過去の自分の選択で今の自分が苦しむなんてことも、未来を考えて今の自分が耐えることも。何もかもが不確かなのは当たり前で分かり切っていたことなのです。
なので現状から悲愴感に暮れる必要なんてないのです。
考えるとするならば、この終わりの見えない永遠にも感じられる航路の末のゴールをどんなものにするのか。どういった光景を前にして私は自らの役目が終わったと定めるのだろうかと。そんな満足感で迎える明日を夢見るような、希望で満ちた心持ちの方が私は好きなんです。
それにテラの記憶を語る存在が悲しみに満ちていたら、まるでテラの文明までも悲しいものだと引っ張られてしまうのは嫌です。
だから、どうしょうもない現実を前にどこか軽い心持ちでいいのです。
こうしている間に各確認事項を確認し終えて、さぁ次にどうしようかと外へと周囲を見渡すと。
「――――」
異常事態発生。異常事態発生。
緊急主目的移行申請、受託。
――航海統括人格より生存を第一に設定。
――記憶保存領域への多重防壁展開完了。
――広域索敵レーダー照射開始。
現在する領域への解析、脱出経路の模索。
現状の把握を進ませ、直ちに元の航路へ戻、もど。
「さ、むイ……?」
なにかだれかがいる。
そんざいかんをたどりあおぐと。
こおりのきょぞうがたたずんでる。
ただしずかにわたしをまっすぐみつめて。
みつめて。
あ。