藩登龍(リュウ・ハント)探偵事務所   作:雑草弁士

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File011:エイトマン・ネクストの日

 1人の老人が、星空が見える窓際に立って、幾多の星々の中からひときわ大きく見える惑星、(あお)地球(ほし)を眺めている。そこへ突然、燐光に包まれてまた1人の青年が現れた。ハント探偵である。

 

「博士……。ナイト・デーモン博士。お願いしていたプロテクト外しは、どうなってますか?」

「おお、貴様かハント探偵。順調に進んでおる。まあわしは魔法技術に関しては門外漢、まあ良く言っても未だ学生レベルなのでな。それが応用されたプロテクトともなれば……。早くてあと数ヶ月と言ったところだな。

 しかしフロッピー・ディスク、か。『この世界』は、電子や情報関係のテクノロジーに関しては、発展はまだまだ、と言ったところか」

「おかげでネットが未発達、やり辛くてしかたありませんよ」

「ふん、よく言うわ」

 

 老人、デーモン博士は失笑して、再度窓から地球を眺める。

 

「……エイトマン、か。そしてその後継たるエイトマン・ネオ。懐かしい。……所詮は模造品とは言え、あの世界とおさらばした以上、『わしの』世界の中でかの者達の痕跡を残しているのは、貴様しかおらぬ。エイトマン・ネクストよ」

『……お連れしない方が、よろしかったですか?』

 

 ハントの姿は、いつの間にかエイトマン・ネクストへと変わっていた。デーモン博士は、(かぶり)を振る。

 

「いや、わしこそ所詮あの世界には居場所は無かった。このようにしてクオリアを量子コンピュータに移植し、永遠とは言わぬがそれに近き生を得る事になったが……。やはりわしも、貴様を見習い、立体映像のアバターではなくマシナリーのボディを製作してみるべきかの」

 

 そう言ったデーモン博士の右手が、サイドテーブルに置いてあった花瓶に生けてある造花に触れる。そして、その造花をピクリとも揺らすことなく、それを通り抜けた。デーモン博士の姿は、彼の言う通り立体映像のアバターであったのだ。

 

『デーモン博士がわざわざラグランジュ3に浮かべたこの宇宙基地じゃなく、『身体』を造り地上でお手伝い頂けるなら、わたしも物凄く楽になるのですがね』

「後ろ向きに検討しておこう。さすがにこの歳になるとな。若い者たちに付き合って騒ぐのも、正直つらい」

『残念です。でもその気になったら、お手伝いいただけると幸いです』

 

 にやりと失笑をこぼす、デーモン博士のアバターだった。

 

「そうか。今はあの『黒ずくめの組織』と主にやりあっているのだったな? サイボーグ009たちと表向き敵対し裏で協力、『黒い幽霊団(ブラックゴースト)』残党と手を組んだ振りをして『黒い幽霊団(ブラックゴースト)』残党を叩き潰したのを思い出すわい。『黒ずくめの組織』は『黒い幽霊団(ブラックゴースト)』とは比較にならぬ小物だが、それでも国際的な組織だ。注意したまえよ」

『ありがとうございます。では』

 

 そしてエイトマン・ネクストは光に包まれて姿を消した。超音速への高速転移ではなく、超能力のテレポートだ。その様子を見遣りつつ、デーモン博士は語る。

 

「……高度な学習能力により人間と同様の『心』を獲得した様だが。『心』というものは、扱いが大変じゃぞ。まあせいぜい頑張るがいい、『ライガー3』よ」

 

 デーモン博士、そのアバターは、また窓に向き直ると半月状に(あお)い輝きを放つ地球を見つめていた。

 

 

 

*

 

 

 

 陸上幕僚監部指揮通信システム・情報部情報1班特別勤務班の乃蒼洋考(のあひろたか)3等陸佐は、NOC(Non Official Cover)、非公式秘密諜報員として『黒ずくめの組織』に潜入していた。しかしその正体バレと引き換えに、組織のトップである『あの方』と呼ばれる存在に関する情報を掴む。

 そして今彼は、本来の職場への通信手段を封じられ、あるいは破壊されて必死になって、場末の港湾を舞台に逃走を図っていた。だが彼の足元に、銃弾が着弾する火花が散る。彼は情けない声を上げた。無論、演技ではあるが。

 

「うわぁっ!? ひいいぃぃ!!」

「け、どうやら日本のNOCだってのはわかったが、そんな情けないチンピラのクセして、よくもまあ『組織』に潜入なんぞ……」

「少し黙ってろ、ウォッカ」

「は、はい兄貴」

「じ、ジン!? ……の兄貴!? な、なんで俺を殺そうとすんですかぁ!? 俺なんかやっちまいましたか!? お願いです、なんかやったんなら、反省しますから! どうかお許しくださいジンの兄貴ぃ!!」

 

 見苦しい命乞いに、ウォッカは舌打ちをする。しかし銀髪の大男ジンは、鼻で(わら)った。

 

「やめとけ、ライジング・サン。コードネーム貰ったばっかで正体バレしたのは不幸だったがな。だが手前(てめえ)の本性がそんななワケないことは、上の連中はとっくに知ってるんだ。そうでなきゃ、手前(てめえ)を試す意味合いもあったとは言え、コードネームなんて貰えるわきゃ無えだろよ」

「へ!?」

「ち、そうかよ。てめえは最初っから知ってた、気付いてたわけだ! だがンなら話は早え! てめえ殺して、俺が実行部隊のニューリーダーだ!!」

 

 そう叫んで洋考は懐の拳銃を抜く。今まで組織の中で見せた事の無い、自A隊員として鍛練に鍛練を重ねて来た尋常ではない早撃ちだ。その銃口は、ぴたりとジンの額を狙っている。頭に二発、心臓に二発、洋考はその様に撃ち込むつもりであった。

 

バン!!

 

 一瞬の発砲音。ジンの大型拳銃が、洋考の右肩を撃ち抜いた。拳銃を取り落とす、洋考。

 

「ガッ! ……ば、馬鹿な」

「自A隊員相手に、こちらが油断するとでも思ったか? 正体はだいたい割れてるんだ」

「く……」

「ライジング・サン……。カクテルの名前だったが、てめえにとっちゃ陽は沈む羽目になったな」

 

 そしてジンは、洋考の腹に向けて拳銃を撃つ。これは外れる可能性を低くするためと、既に連絡手段は全て奪っているから何の遠慮も無く、相手を苦しめて殺す意図があるためだ。そして……。

 

バン!

 

「き、消えた!?」

「ちっ……。馬鹿な……。探せウォッカ!」

「はい……!? あいつは!」

 

 

 

『わたしはエイトマン・ネクスト。貴様たちはあの『黒ずくめの組織』で殺しなどを任されている実行部隊の、ジンとウォッカだな。また悪事を働く気か』

 

 

 

「ち、ちくしょう! これでもくらえ!」

「あっ、待てウォッカ!」

 

バン! バン! バン!

 

 拳銃を連射、いや乱射するウォッカだったが、エイトマン・ネクストは立ったままだ。

 

「ば、ばかな!? 命中してるはずだ! そのはずなのに!」

『……』

 

 エイトマン・ネクストが右拳をゆっくりと開く。すると、少々ひしゃげた3発の拳銃弾が、そこから(こぼ)れ落ちた。

 

「げっ! た、弾を手づかみにしやがった!?」

「ち、ウォッカ……」

 

 ジンが何か言おうとした瞬間、エイトマン・ネクストの拳から凄まじい雷光が(ほとばし)る。最大10万kwの放電が行える、指向性電撃装置だ。

 

「ぎゃあああぁぁぁ!?」

「ぐうっ!」

『む!?』

 

 ウォッカは雷光……高電力の電撃に撃たれて、あちこち黒焦げになって倒れ伏している。黒服を着ているので、よくわからないが物凄く焦げ臭いので、大かた予想はつくのだ。しかしジンは少々通電火傷(やけど)を負ってはいるが、たいしたダメージを負わずに膝立ちになっていた。

 エイトマン・ネクストは、そのジンの右手を凝視する。その手には、海に繋がるワイヤーがぐるぐると巻き付いていた。これまでにエイトマン・ネクストは何度か『黒ずくめの組織』と戦っている。その際に、指向性電撃装置は幾度か使用しているのだ。その情報を、実行部隊リーダー格のジンが知っているのは当然であった。

 

『なるほど、海中に張られた衝突防止安全ネットの、網の芯に使われているワイヤー、それの端が転がっているのに気付いて、それをとっさに腕に巻いた、か。それで電撃はワイヤーを伝って海中に逃げてしまったというわけだな』

「ぐ……」

『だがそれでもダメージはゼロとはいかんだろう』

 

 次の瞬間、ジンはウォッカを担ぎ上げると逃走する。だがエイトマン・ネクストはその彼を追わない。代わりにエイトマン・ネクストは、足元の土嚢(どのう)に……。いや、その陰に転がっている『モノ』に声を掛けた。

 

『……大丈夫かね乃蒼(のあ)3等陸佐』

「お前は……」

『わたしはエイトマン・ネクスト』

「いや、ソレは知っている。だが何故、お前が僕を助ける」

 

 ふっと笑みをこぼし、エイトマン・ネクストは語った。

 

『わたしはコレでも、いちおう表では日本国籍を持つ人間として生活している。どんな姿かは秘密だがね。……だから、日本人としての義務を果たすため、日本の平和と安全のために日夜命を賭して働いている自A官を助けるのは、普通の事では?』

「……ふ。済まないが、携帯電話か何かあったら貸し、いや駄目か。借りたら記録がその携帯や電話局に通話記録が残ってしまう」

『秘密保持には、有線電話、だよ。わたしの知る限り、公衆電話なら『何時(いつ)、何処から何処へ』という記録しか局にも残らない。公衆電話ならあちらに500mほど歩けばある』

 

 洋孝は苦く笑うと、ふらふらと立ち上がる。エイトマン・ネクストのマッハにも迫る高速転移で助け出されたため、ぐらぐらと眩暈(めまい)がするが必死でバランスを取った。

 

「助かるよ。あ……。しまらんなあ。10円玉貸してくれないか」

『ふ、返却は今度あったときにで良い。10円玉5枚貸そう』

「感謝する。いつか会おう。善良な日本人、『エイトマン・ネクスト』……」

『いつか会おう、日本に忠実な特別職国家公務員』

 

 そして洋孝とエイトマン・ネクストは、逆の方向に向かい歩き出したのである。




今回のモブキャラ、スタスクです(笑)。
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