藩登龍(リュウ・ハント)探偵事務所   作:雑草弁士

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File013:鉄人、出動

 爆音が響く。春先の場末の温泉宿は、今凄絶な大火力に晒されていた。

 

「くっそ、ハントさんや東の台詞を借りれば、俺は『推理系の探偵』だぞ!? 『アクション系の探偵』じゃねえぞ!?」

「うそおっしゃい」

「何か言ったか灰原!!」

「ええ言ったわよ?」

「クッソ……」

 

 事の発端は、春休みを利用して阿笠博士が少年探偵団を連れて穴場の秘湯、山間(やまあい)の温泉宿に2泊3日で泊りに行く計画を立てた事だ。コナンと灰原を除いて温泉にあまり興味のない子供らであったが、料理が激ウマだと博士が話すと、元太を筆頭に手のひらドリルしたものだ。

 問題は、その温泉宿の別室で『黒ずくめの組織』が何処ぞの会社社長との取引をしていた事だ。トロピカルランドの件といい、『組織』は観光地で裏取引をする決まり事でもあるのだろうか。

 閑話休題(それはともかくとして)、トラブルを起こしたのは元太と光彦である。この子たちは、ジンとテキーラが中堅総合商社カザク(株)社長である大島定公が取引をした現場をうっかり偶然見つけてしまったのだ。ちなみにテキーラは、まだ入院中のウォッカの代役である。

 

 ジンたちは大島が会社の商品に紛れこませて密輸した重火器を受け取り、その代価として『黒ずくめの組織』が調べたインサイダー取引に使える情報の入ったフロッピーディスクを引き渡す。インサイダー取引で株式を運用すれば、莫大な利益になるのだ。一方ジンたちからすると、大火力の重火器を日本に持ち込むのは、『黒ずくめの組織』のチカラからして可能ではある。

 しかしそういった品はアシがつきやすい。よって入手と密輸それ自体は大島の会社に任せ、金銭ではなく情報で買い取る事にしたのだ。そして……。

 

 元太と光彦は、ジンが取引のさ中、トランクから大型の重火器を取り出して検品しているところを物陰から見てしまったのだ。流石に多少の場数を踏んでいた彼らは、本人たちの感覚でではあったが、最大限の注意を払って物陰からこっそり見ていた。会話も可能な限り小声で。

 だがしょせんは素人。頭隠して尻隠さず。彼らの姿は、(ジンたち)側からは隠れていたが、後ろ側からは丸見えであったのだ。そしてそこに、『ウロチョロして姿が見えなくなった子供らを探してくれ』と頼まれた、温泉宿の仲居さんがやって来て、「見つけましたよ、坊ちゃんたち!」とちょこっと怒った風に大声で怒鳴りつけてしまった。

 

 すかさずジンは声の方向に拳銃を発砲。仲居さんは左肩を撃たれ、元太と光彦は2人がかりで仲居さんをひきずって撤退する。だが所詮は子供の走る速度。2人と気絶中の仲居さんは追い詰められてしまった。

 だがそこへ、突然炸裂する粉塵の煙幕。ジン、テキーラ、大島社長は視界を奪われ、咳込みつつ煙幕中から脱出する。しかしながら既に元太と光彦、仲居さんの姿は無かった。

 

 元太たちを救出したのは、コナンと灰原である。元太たちの危機を察知したコナンは、一時的に術で姿を透明にした上で、『砂粒弾』という砂で煙玉を創る術を用い、それを投げつける。一方灰原はその隙に元太と光彦に声を掛け、負傷中の仲居さんを自分がひきずって逃げ出した。

 博士、歩美といったん合流したコナンと灰原は、元太と光彦、それに負傷した仲居さんを阿笠博士にゆだね、博士のワーゲンで脱出させる。悪党の対処は自分と灰原でやるから、と言いくるめて。

 

「博士たちが素直に逃げ出してくれて、助かったぜ。普通なら俺たちもガキの姿、ガキの身体だし、仕方ないとは言え任せて逃げるなんてできねーだろうに」

「アクション系に染まって、推理力落ちたんじゃない? それともファンタジー系の想像力は、まだ鍛えられてないのかしら」

「あん?」

 

 灰原は東の空を指さす。そこには夕月が煌々(こうこう)と輝きを放っていた。ちなみに灰原のメインの魔法系統である月門の練法は、精神と闇を扱うのが専門であり、そして月が出ているなら、特にソレが満月であるならば、極めて強力な力を発揮する。

 つまりは灰原が低位ではあっても強力な、相手に対して命令をあたえる類の術を使い、阿笠博士、歩美、光彦、元太を『無理矢理に』納得させて逃がしたのだ。

 

「……なるほど」

「それよりここ、移動するわよ。ジンがさっき撃った使い捨てバズーカ捨てて、なにかしらわたしの知識にない大型の武器を組み立て終わってる。遮蔽物ごと吹き飛ばされるんじゃないかしら」

「透視したのか。わかった、移動するぞ。しかしジンの奴……」

「武器の類は大半ランクルに積んであるみたいだから、直接の目撃者殺して逃げるつもりね」

「けどソレの手段として分隊支援火器レベルの重火器ブッぱなすかよ普通……。やべ!!」

 

 ジンは温泉宿の脇を流れる谷川の向こうの崖沿いの道を、阿笠博士のワーゲンが逃げて行くのを発見すると、今組み立てたばかりのソリッドシューターを構え、狙いをつける。

 

「や、やべぇっ!!」

「まずいわ!!」

 

 2人は叫んだ。

 

 

 

*

 

 

 

 ジンは初めて使う大型のソリッドシューターを、まるで使い慣れた武器の様に構える。本体に取り付けられたスコープに目をあて、彼はニヤリと笑った。

 

「ワーゲンの窓に、あの太ったガキの姿が見える。まず間違いなくもう1人のチビガキも乗ってるだろうよ」

「ジン、俺ぁどうすりゃいい」

「テキーラ、てめえはこの騒ぎで出て来た宿の従業員とか居たら、さっさと撃ち殺せ。それと、ちらっと姿を見た煙幕使ったガキ2人は絶対に逃がすな。あの建物脇のスチールのゴミ箱の陰だ。逃げられる前に、そっちの12.7mmのHMG(ヘヴィ・マシンガン)でゴミ箱ごと穴だらけにするんだ」

「俺ぁ使えねえよ!」

「ち、じゃあ走ってって拳銃で撃て。逃がすんじゃねえぞ」

 

 そしてジンはソリッドシューターの引き金を引いた。AT弾……高熱のテルミット弾が撃ち出され、阿笠博士のワーゲンに迫る。スチールのゴミ箱の向こうから、少年の声が響いた。

 

「間に合え、間に合え、間に合えええぇぇぇ!!」

 

 

 

ドガアアアァァァン!!

 

 

 

 何のひねりも無い爆音が響き、『中空(ちゅうくう)に』着弾の炎と煙が広がる。そう、谷川の向こうの道路に、ではない。谷の間の空中に広がったのだ。

 

「なんだと」

「は?」

 

 ジンは呆然と呟く。テキーラは唖然としている。そこには、背中のジェット/ロケット両用エンジンで空中にホバリングしている大型ロボットの姿があった。その最高レベルの超重装甲は、AT弾の直撃を受けてすら傷一つ無い。

 そしてジンは我に返ると、次々に引き金を引く。ソリッドシューターには6発の砲弾が装填されているのだ。残り5発の砲弾を、ソリッドシューターは次々に射出した。

 

 

 

*

 

 

 

 遮蔽物にしていたゴミ箱の陰から移動して、第二駐車場にある温泉宿の社用車の陰まで移動したコナンと灰原は、大きく息を()いた。

 

「「はぁ~~~……」」

 

 開きっぱなしになっている小トランク型の鉄人29号DX(デラックス)操縦機を地面に置くと、コナンはあらためてその操縦桿を握る。

 

「エイトマン・ネクストが別件でどうしても来られないって言うから、万が一に備えて連れていけってことで鉄人29号DX(デラックス)連れて来てて、よかったな……」

「ちょっと宿の従業員が来ないように人払いのために魔法使い過ぎて、精神力を切らしちゃったものね。それで魔法であの砲弾を撃ち落とすのはできなかったもの。いっそのこと、もっと早い段階でジンに直接攻撃の魔法を叩き込めばよかったかしら」

「殺意たけーな」

 

 そしてコナンは操縦機の画面を見遣る。ジンはソリッドシューターを連射し、その間にテキーラがランクルのエンジンを掛けた。大島社長はランクルの後席に飛び込んでいる。

 コナンはランクルのエンジン部分を叩き潰して逃走手段を奪おうと、操縦桿を操作。ジンが撃った砲弾は鉄人の超絶重装甲に阻まれ、何のダメージにもなっていない。

 

「いけ、鉄人!!」

 

 操縦機の画面端に『了解』の文字がメッセージウィンドウで浮かんだ。鉄人29号DX(デラックス)にはライバルロボであるブラックオックスの能力も組み込まれており、ある程度の自律能力を持ったAIも積まれているのだ。このメッセージは、そのAIの返答である。

 

 そして鉄人のパンチが振るわれる。……しかし、突然操縦機の画面が閃光を発し、ブラックアウトした。

 

「な、なんだ!?」

「工藤君、メッセージウィンドウを見て!」

「なっ!? 『メインカメラ、サブカメラ、一時的に麻痺』『フラッシュボム(強力な閃光弾)と予測』『視界復旧まで1分』『操縦者の直接視界下にての操縦を要請』だと!?」

「急いで、工藤く、江戸川君!!」

「ちっ!!」

 

 コナンは操縦機を抱えて遮蔽から走り出る。しかし彼が見たのは、スピード違反で逃げ去るランクルの尻が、曲がり角から消え去るところであった。

 

 

 

*

 

 

 

 温泉宿から帰って来てからコナンと灰原の2人は、藩登龍(リュウ・ハント)探偵事務所でメイ姉さんが提供するお茶とお茶菓子をいただきながら、今朝届いたばかりの新聞を眺めていた。

 

「……『総合商社カザク(株)社長、大島定公氏死去』『都内のドブ川に落ちて溺死』『事件性は皆無に近く、事故と結論』か。嘘つけ」

「仕方ないわ。下手に騒ぐと、狙撃手が来るわよ。小嶋君と円谷君の元に」

「わかってる。大島社長と『黒ずくめの組織』の連中が取引してたの見たのは、あいつらだからな」

 

 そこへハント探偵が帰宅して来る。と、ハント探偵の姿はそのまま正太郎の物に変わった。

 

「メイ姉さん。僕にもお茶とお菓子欲しいな」

「はいはい」

「エドガー、灰原サン。その事件の捜査にストップかけたのは、公安って話だよ」

「何処から調べて来るんだ」

「ん? 防犯用のセンサー類無効化した上で公安の本部の屋根裏にNINJAった」

「おまえな」

「あなたね」

 

 正太郎はさらに続ける。

 

「小嶋君と円谷君には、公安の監視がついてる。まあ彼らを護ろうっていう意図も無くも無いんだが、彼らを殺しに来たヒットマンを捕えようって考えの方が大きいみたいだね」

「……こういうのは好きじゃねえんだが、灰原。元太と光彦の精神に、ちょっと今回の事喋るのに対する忌避感みたいなの仕込んでくれねーか」

「仕方ないわ。ソレはやってあげるから、あまり気に病まないこと」

「サンキュ」

 

 そう言いつつも、コナンは少し肩を落としていた。




コナンって、推理系の側面もあるけれど劇場版とか考えると、完全にアクション系探偵ですよねえ。
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