彼らの眼前では、頭部に機械の塊のようなヘルメットを被せられて意識を失っている女性が、医療ベッドに横たわっている。この女性の名は秋葉仁美。医療器具の開発・販売を行っている会社であるココロ・テクノロジー(株)の社長である大河原壮介を呪殺せんとした人物である。
メイ姉さんが機器をチェックし、
「意識は完全に落ちているわね。何話していても分からないはずよ」
「そうか。じゃあ各自報告を頼む」
「了解よ、ハントさん。じゃあわたしから」
灰原は頷くと、プロジェクターの投影機に複数枚のOHPフィルムを載せる。彼女は小さいが良く通る声で話し始めた。
「工藤君には先に知らせてあるけれど、秋葉仁美の精神を読んだ結果を伝えるわね。彼女はココロ・テクノロジー(株)の先代社長である故・秋葉正二氏の妻。正二氏は昨年に会社の業績不振を苦にして自殺している。会社自体は現社長の大河原壮介氏の手腕によってV字回復をした……となっているけれど」
「裏がある、というわけか」
「ええ。会社の業績不振は仕組まれた物。広域指定暴力団である関東白鶴組が妨害していたみたいね。そして現社長の大河原が会社を乗っ取ろうとした。けれど正二氏はしぶとく粘り強く会社を立て直す努力を続けていた。業を煮やした大河原と関東白鶴組は自殺を装って正二氏を殺害。大河原は混乱したココロ・テクノロジー(株)を堂々と乗っ取り。関東白鶴組はココロ・テクノロジー(株)を自組織のフロント企業に加えた、という事ね」
フロント企業とは、ヤクザ等の反社組織が実権を握っていたり、あるいは表社会での隠れ蓑として自分たちで設立した会社の事を言う。灰原の解説に続き、コナンが引き継いだ。
「とりあえず復元薬飲んで工藤新一として目暮警部に会いに行って来た。灰原から情報貰った後、可能な限りの手段を使って周辺情報を集めて、ココロ・テクノロジー(株)が関東白鶴組のフロント企業と化している事、先代社長の自殺が実は殺人であったとの疑いが濃い事を、多数の資料を引き渡して説明して来たぜ」
「工藤君、許容量ぎりぎりになったから、今後2ヶ月は免疫系なんかの事情で復元薬飲まない方いいわよ」
「あ、でもこの後秋葉仁美さんと話す際に一応工藤新一として会わないと」
「仕方ないわね。月門の『
「おう」
デーモン博士とメイ姉さんは、とりあえず秋葉女史を覚醒させる処置を行うと、部屋を出て行く。これは秋葉仁美女史に必要以上の情報を与えないためだ。灰原とコナンは幻を
自動装置が動き、秋葉女史の頭部からヘルメットが外れてベッドに格納される。数分後、秋葉女史が目を覚ました。
「う……。うう……」
『起きたかね?』
「……。……? ……!! あんたたちは!」
『静かに。我々は必要なら、貴女をすぐさま昏倒させる事も
「く……」
悔し気に押し黙る秋葉女史に、エイトマン・ネクストはゆっくりとした口調で語る。
『こちらの仮面被ってる彼は知っているかな? 今現在行方不明になっている、という事になってる高校生探偵の工藤新一君だ。貴女の夫を自殺に見せかけて殺したトリックは、既に彼が解いている』
「!?」
「この事件知ってたら、もっと早くにトリック解けてたけどさ」
『とりあえず彼を通して、警察には貴女の夫の自殺が実は他殺の可能性が高く、ココロ・テクノロジー(株)が関東白鶴組のフロント企業と化している事も伝達済みだ』
エイトマン・ネクストは真摯な口調で説得した。
『貴女の苦しみは、100%わかるとは言えないが、
「だけど……。だけどッ!! 他に方法が無かったのよ!! わたしが警察に何かを言っても既に自殺で片が付いてたから取りあってもらえない! 奴を殺すには、母方の祖母が
『……なるほど。先祖から伝わっていた術、それも1つだけ、だったわけか。専門の術師か道士でもないのに術を行使できたのは、才能か?』
ここで灰原が、コナンに小さな声で言う。声音は平板で、感情が乗っていなかったと言うよりは、押し殺されている。
「工藤君……。彼女、もう長くないわ。修行も無しで無茶な術を使ったから、たぶん長くて1ヶ月。短ければ明日にも」
「……因果応報、としか言いようが無いな。あの術のために、証拠も死体も残ってないけれど、間違いなく
「ええ、使ってるわ。思考を読んだ限りでは、どうやらホームレスを『使った』らしいけれど」
「警察に突き出そうにも、死体はチリになって消滅してるはずだからな、術の性質からして。コロしたって事実が証明できねえ。……魔法関係の法律が整備されねえかなあ。いや無理なのは重々理解してるんだがよ」
コナンはやり切れ無さそうな声音で小さく呟いた。
*
コナンが大きく溜息を
「とりあえず関東白鶴組の本部に忍び込んで、支配した死者の霊魂とか使役して、あいつらが確保してた証拠物件やら何やら洗い浚い入手して来たぜ」
「警官に
「ハントさん、俺ちょっと流石に復元薬あと数ヶ月飲めないし、灰原の術で大人化しても結局は幻だし触れられたらまずいからよ。ハント探偵からって事で、仕事中に証拠物件手に入れたって事で目暮警部経由で丸暴に渡してくれねえか?」
「わかった」
全員分のお茶を
「やっぱりその手の組織って、証拠を金庫とかに隠しておくものなのね」
「それはそうよ、姉さん。ココロ・テクノロジー(株)の社長、大河原壮介みたいな曲者を脅迫して言う事きかせるためとか、仮に自分たちのアキレス腱になる事柄でも証拠を確保しておく必要あるわよ」
「大河原現社長と組長の密談を録音したテープとか、裏帳簿とか、別件の殺人に使った凶器とか、指紋を誤魔化すために指の腹に貼った、本来なら廃棄されるはずだった別人の指紋フィルムとか、山の様にあったぜ」
そして一同は、大きく溜息を
「けどさ。秋葉女史、どんどん衰弱してって昨日の夜に、目の前でいきなりチリに分解しちまったのは正直ビビったぜ」
「まあ、修行もせずに高度な術に挑んだ代償だ。魔法ってのは、文字通り『魔』の『法』だからな。扱い間違えればこうなる。というか、現代の科学だって例えば核物質とか、うっかり素手で扱えば放射線障害とか重金属汚染とかでタヒぬからな」
「でも、何人もホームレスを犠牲にしたり、目標をコロすために無差別に大量殺人を
「姉さん、優しすぎるわよ」
そんな中、一人無言を貫いていたデーモン博士が言葉を発する。
「何にせよ、とりあえずは事件解決への道筋は付いたのであろう。あまり細かい事を気にし過ぎるな。その証拠を警察の頼りになる人物、握り潰されない人物に渡し終えたら、本来の目的に向かい
ハント探偵は、深く頷く。コナンと灰原、メイ姉さんもまた、首肯した。
*
犬に引っ張られつつ、元太は笑顔ではしゃいだ。
「あとちょっとで、探偵事務所だな! これで『鰻マ○ターズ』のうな重が、俺を待ってるぜ!」
「今日で犬の散歩、終わりでしたね」
「わたし何食べようかなー。普通にうな重でいいかな? うな丼もあるんだよね? 器以外に、何がうな重と違うのかなー」
騒いでいる子供らのうちの1人、光彦が唐突にコナンに話しかける。
「そういえばコナン君。新聞読みましたか? ココロ・テクノロジー(株)社長の大河原ってヒトが、複数の殺人で逮捕されたみたいですよ。なんでもココロ・テクノロジー(株)の前社長だけでなく、これまで社長を歴任していた各会社の前社長たちを事故や自殺に見せかけて殺していたとか」
「えー!?」
「へー。惜しいな、俺がそこにいればよ。ばっちり事件解決して……。あ、えっと。わ、悪ぃ正太郎」
「いや、ぎりぎりで踏みとどまったから別にいいよ。これで『俺が解決して有名に~』とか言い出したら、白い目で見てたけどさ」
幼犬3頭を腕に抱いて、正太郎は口角を上げる。元太は引き攣った顔で、誤魔化す様にそっぽを向いた。
「ああ、その大河原だけど。関東白鶴組の組長や一部幹部組員、そして直接の実行犯など等。そこら辺は、まだ公判始まってないけどニュースではこれまでの判例から死刑になる公算が高いって話だよ」
「ああ、あと関東白鶴組から
「いつも正義は為されるんですねー」
光彦の純粋だが少々痛い言葉に、コナンと灰原は頬を引き攣らせ、正太郎は苦笑いを浮かべた。
原作に無い事件。警察、検察、弁護士会とか大騒ぎですし、社会の裏の反社組織、