藩登龍(リュウ・ハント)探偵事務所   作:雑草弁士

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File003:新幹線爆破の危機

 新幹線のわずかな揺れが、コナンの身体を揺する。今コナンは毛利探偵が出席する毛利探偵の友人の結婚式に参列するために、彼の正体である工藤新一の幼馴染である毛利蘭、毛利探偵との3人で新幹線に乗っていたのである。

 ちなみに新幹線は、建設当初は立てた紙巻きタバコが倒れないほどに揺れなかったものであるが、さすがに経年の劣化か、近年はやはりタバコが倒れるほどには揺れる様になっている。

 ここで毛利探偵が愚痴る。

 

「だいたいなんでコイツまでついて来るんだよ?」

「東京に置いて来るわけにはいかないでしょ?」

「――ったく。外国に行ってるこいつの親から、まだ連絡がないのかよ?」

「うん……」

(ヤベ……)

 

 江戸川コナンには、実のところ親はいない。存在しない。彼は高校生探偵工藤新一が『黒ずくめの組織』の手の者によって毒薬を飲まされ、その副作用で6~7歳に身体が縮んでしまった存在だからだ。あえて言うならば、工藤新一の両親である世界的推理作家工藤優作と元女優有希子夫妻が両親と言える。

 まあだが、毛利小五郎と毛利蘭の親娘にそう言うわけにもいかない。コナンは焦って席を外すことにする。

 

「ぼ、ボクちょっとトイレ!」

 

 そして彼は心の中で愚痴りながら、トイレのあるデッキへと走り出した。

 

(俺だって好きで居候(いそうろう)なんかしてんじゃねーよ。それもこれもあいつらのせいだ。オレに妙な薬を飲ませて、こんな小さな体にした……)

「おっと!」

「わ!」

「ごめんよ坊……や? コナン君じゃないか」

「あ、あれ?」

 

 コナンとぶつかったのは、誰あろう探偵リュウ・ハントである。表向きは転校生、東正太郎の義父であり、そして東正太郎当人が化けた存在でもあり、更にはエイトマン・ネクストの世を忍ぶ仮の姿でもあった。無論コナンはその事を知らないが。

 

「は、ハントさん。ハントさんも新幹線乗ってたんだ」

「ああ。詳しい事は守秘義務があるんで話せんけど、浮気調査の仕事が終わって、依頼者に直接報告して来たんだよ」

「そっか……!?」

「おい、邪魔だ。どけ」

 

 会話に割り込んで来たのは、黒いスーツやコートに身を包んだ、2人組の男だった。一方はジン、一方はウォッカと言うコードネームで呼ばれていた、『黒ずくめの組織』の殺し屋(ヒットマン)たちに違いない。コナンは愕然として硬直するが、その肩をハントはポンと掌で叩いた。

 

「ああ、すみません。今デッキに抜けますんで。邪魔してすみませんでした」

「ちっ」

 

 銀髪の男、ジンは不機嫌そうに舌打ちすると新幹線の通路を歩いて行くと、自分たちの指定席に座った。奇しくもその席は、コナンたちの指定席からさほど遠くない。

 コナンはジンたちに気取られない様に注意しつつ、彼らの様子を(うかが)う。と、そこへハントが小さな声を掛けて来る。

 

「なあ、コナン君。やつらはヤバいやつらだから、あまり関わりにならない方がいいぞ」

「!? ハントさん、やつらの事知ってるのか!?」

「おちつけって。あいつらに聞こえるぞ」

「!!」

 

 あわてて自らの口を押えたコナンだったが、今度こそ小声でハントに(たず)ねる。

 

「ハントさん、あいつらの事……」

「少しは知ってる。でも君が興味本位で聞いてる疑いが濃い以上、何も話してあげられない。あいつらマジでヤバいやつらだから。俺の情報網に引っ掛かって来たんだが、コロシとか平気でやる奴らだ。絶対に関わり合いにならせるつもりはない」

「!! な、なあ頼むハントさん! 興味本位じゃない! ないんだ! 切実な理由が……」

「悪いが、君にそこまでの信頼は無い。君は単に、義息子(むすこ)のクラスメートでしかない」

「……くっ」

 

 コナンは唇を噛む。確かに彼には、『黒ずくめの組織』について情報を得なければならない切実な理由はある。あるのだが、その事態を招いた根本は、彼が蘭とのトロピカルランドでのデート終盤に、興味本位で事件に首を突っ込んで結果、まずい取引の現場に踏み込んでしまったためである。

 そう、大元の元々の原因は、やはり彼の興味本位な姿勢にあるのだ。好奇心が猫を殺した良い例である。

 

「それに現実問題として。冷たい言い方をすれば、君が暴走して奴らにコロされるのは自己責任だ。君はギフテッドとして大人顔負けの高い知能を持ってるから、わかるだろうが。だけどさ。君が暴走して殺されて、その情報の出どころが俺だってバレたら? 俺、コロされちゃうよ?」

「!!」

「臆病者だと思うか? けどさ、臆病じゃ無きゃ、推理ものじゃないフィジカルなアクション系の探偵なんて、やってらんないよ」

「……」

 

 そこまで言うと、ハントは(きびす)を返して懐から携帯電話を出し、新幹線のデッキへと去っていった。電話を掛けるために、わざわざデッキへ出たのだろう。律儀な男である。

 そしてコナンは数瞬だけ逡巡(しゅんじゅん)すると、だがそれでも諦めきれずに黒い衣装の男たちを追った。ちょうど彼らは席を立ちあがり、食堂車の方へと歩み出していたのである。

 

 

 

*

 

 

 

 そして今、コナンは2人組の車掌たちの前で、熱弁を振るっていた。コナンはあの後『黒ずくめの組織』の男たちが食堂車から帰って来る前に、彼らの座席に阿笠博士に作ってもらった盗聴器を仕掛けてその会話を盗み聞きしたのだ。その結果、驚くべきことが明らかになる。

 黒ずくめの男たちは、組織にとって用済みになった人物を始末するために、その相手との取引に使った黒いアタッシュケースに爆弾を仕掛けたのである。その人物を爆殺するためだけに、新幹線の乗員乗客全てを巻き添えにすることも躊躇(ちゅうちょ)しない。まさにとんでもない奴らであった。コナンの脳裏に、ハントが語った言葉がリフレインする。

 

(あいつらマジでヤバいやつらだから。俺の情報網に引っ掛かって来たんだが、コロシとか平気でやる奴らだ)

 

 コナンは悔しさに、歯を食いしばる。が、車掌たちはそのコナンの訴えを本気にしない。

 

「「ワハハハハハハ!!」」

「ホントなんだよ~!」

「コラ、あまり大人をからかうと……」

「まてまて。子供だからってはなっから信じないのはよくないぞ。よーし待ってろボウズ。今おじさんが……。ドラえもんに頼んでやるからな!」

(だ、だめだ。全然信じてくれねー……。どうしたら)

 

 

 

「ちょっと待ちたまえ」

 

 

 

「な、アンタだれですか」

「あっ、ハントさん!」

「俺はリュウ・ハント……。藩登龍って言う、浮気調査とかやってる探偵でして。依頼者に仕事報告した帰りにこの新幹線乗ってるんですけどね。その子の言う事、ホントですよ」

「「「!?」」」

 

 車掌たちは一瞬目を丸くするが、ぷっと吹き出すと笑い飛ばす。

 

「だめだよアンタ。探偵さんが、こんな荒唐無稽な話を信じちゃ」

『金に関する情報だ』

『き、金の……』

「「え?」」

 

 ハントは、懐から再生中のカセットテープレコーダーを引っ張り出す。

 

「実はさっき、その子と通路でぶつかっちゃいましてね。そのときに、商売道具の盗聴マイクロホンが、その子のポッケに偶然転がり込んだんですよ。ちょっとゴメンよコナン君」

「あ、えっと!」

「ああ、あったあった。コレだ。それで、その子が盗み聞きしたその犯人たちの会話が俺の受信機に流れて来たんで。あわてて録音ボタンを」

 

 テープレコーダーからは、ジンとウォッカの声が流れ続ける。

 

『あの情報をうまく使えば、4億なんて目じゃないさ』

『な、なるほど……。だからやっこさん、あんなに喜んで……』

『ああ。今頃自分の席に戻って、景色を見下ろしてほくそ笑んでるだろーぜ……。最期の景色を、な』

『さ、最期って……?』

『奴はもう組織にとって何の利用価値も無いって事だ……。奴に渡した黒いケースには、火薬も()まっているんだ。強いショックを与えると、すぐに作動する爆弾がな』

「「ええ~~~!?」」

「静かに! 犯人に気取られて、もし遠隔スイッチとかあったらどうすんです」

 

 ハントの台詞(セリフ)に、車掌たちは自らの手で自分の口を押える。

 

「で、でもアンタ。もしかしてアンタがこの子のイタズラに乗っかって……」

「ど、ドッキリとか?」

「はぁ~……」

 

 ハントは溜息を吐くと、シャツの胸元を開いて自分の胸板、心臓の真上を見せる。

 

「「ちょ、アン、た……。うぇえええぇぇぇえ!?」」

「は、ハントさん」

 

 そこにあったのは銃痕。なまなましい、銃で心臓を撃たれた傷跡が残されていた。

 

「もっと若い頃に奴らと関わってね。銃で撃たれて海沿いの崖から落ちてさー。で、その頃はもっとイキってたというか何と言うか。ド金髪に染めて、顔も野郎のクセして派手に化粧してたからなあ。そんでもって、髪を黒に戻して化粧も全部落として、あと鼻筋をすこーしだけ骨削ったかな? 直接の身元は知られてなかったんだけど、ちょこっと目撃者になっただけで即座にコロされるんだもんよー」

「は、ハントさん、どうやって助かったの?」

「胸ポケットに、エロ小説の文庫本入れてた。そしたらそれで銃弾の威力が減少して、肋骨で銃弾止まった」

 

 そしてハントは車掌に向けて語る。

 

「その犯人たちは、そんだけヤバい奴らですから。本気にしてください。どこに爆弾あるかは、盗聴マイクと同じく俺の探偵七つ道具の、爆発物探知機で調べてあります」

「なんでも持ってるね、ハントさん……」

「原理から言って、全ての爆発物が分かるわけじゃないけどな。でも今回は、ソレに反応するタイプの爆弾だった」

「でも盗聴器って……。盗聴じゃ、浮気調査の証拠には使えないよね」

「うん。でも相手の懐とかにマイク忍ばせる盗聴じゃなく、たとえば喫茶店で後ろの席に座って録音機動かす『秘密録音』なら、こういう場合の証拠には使えるんでね。そのタイミングとか録音場所とか特定するために補助的に使ってるんだ。ま、グレーゾーンだわな」

 

 そして車掌たちに、厳しい目を向けるハント。彼は重々しく言った。

 

「じゃ、犯人たちは名古屋で降りたんで、もうたぶんおおっぴらに動いても遠隔で爆破はされないでしょう。次の通過駅で緊急停車して、乗客を降ろしてください」

「「は、はは、はいいいぃぃぃっ!!」」

 

 車掌たちは、顔面蒼白だった。

 

 

 

*

 

 

 

 全てが終った。ジンとウォッカの姿はハントがレンズ付きフィルムで撮影していたので、それも警察に提出してある。だが、音声は盗聴のため、証拠としては扱えないだろうとの事であった。結局毛利探偵と毛利蘭は、友人の結婚式には参列できず、謝罪の電話を入れている。それを後目(しりめ)に、コナンはハントに話し掛けた。

 

「七つ道具とか、本気でアクション系探偵なんだ……」

「おう。まあ盗聴マイクとかは警察に怒られたけどな。んじゃ俺、帰るわ。仮面~妖怪~どんとこい~、七つ道具でたたかうぞ~、きたぞソレ! とりかこめ~♪」

「……」

 

 昔の探偵もの特撮番組のOPを口ずさみつつ去っていくハントの後ろ姿を、コナンは複雑な心境でいつまでも見つめていた。




ちなみに今回のジンたちの台詞録音は、ハントの盗聴マイクで拾った音じゃありません。コナンが仕掛けた盗聴器の電波を、エイトマン・ネクストであるハントが自分の体内の通信システムで拾って、ソレをカセットテープに落としたもんです。だからハントがコナンのポケットに手を突っ込んだとき、その中には盗聴マイクは入ってませんでした(笑)。
あと『黒ずくめの組織』に撃たれた話も、実はフェイクです。車掌たちが本気にしないので、リアルな危険を感じさせるために即興で銃痕を胸板の上に造りました。
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