藩登龍(リュウ・ハント)探偵事務所   作:雑草弁士

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File004:宮野姉妹の問題

 東正太郎は、今日も(かぶり)を振って大きく溜息を()いた。何故か知らないが、帝丹小学校1年B組にばかり連続して転校生が来る事態に、正直理解が追い付いていないのだ。

 まあ教員などに話を聞いて情報を収集すると、どうもクラス編成の際に人数をクラスごとに均等割りしたのではなく、まず1年A組を定数揃えて残りをB組にブチ込んだらしいのだ。1年生の生徒数はほぼ定数を満たしていたためA組B組でさほど人数差は出なかった様なのだが、それでも微妙にB組の方が数が少ないため、転校生は優先的にB組に押し込まれるらしい。

 そして正太郎は、その転校生の名前を呟く。

 

「灰原……哀、ねえ」

「どうした? 東」

「ああ、エドガー……。いや、灰原さんが、君に似てたんでね」

「どこが似てるんだよって、なんだエドガーって」

「江戸川乱歩。えどがー・わ・らん・ぽー。エドガー・アラン・ポー、だろう?」

「いや、まあそりゃそうだけどよ」

 

 そこへ、自分の噂話をされるのが(カン)に障ったのか、コナンの隣の席に()した灰原が鋭い視線を向けて来た。正太郎は肩を(すく)める。

 

「いや、無思慮(むしりょ)無遠慮(ぶえんりょ)に噂話して悪かった。単に雰囲気がどことなくエドガーと君で似てるってだけだから」

「ふ……うん。どこら辺が似てるのかしらね」

「小学生のフリが薄っぺらいところ」

「「!!」」

「いやエドガーはギフテッドだから大人じみてるのは仕方ないけど、たぶん君も知能程度は並の大人を超えてるんじゃないかな。だけど頑張って子供っぽく行動してるのがエドガーで、子供らしく装うのを諦めたのが君、かな」

「……」

 

 閉口して黙った灰原だったが、少しして再度口を開く。

 

「……あなたも人の事言えないんじゃない?」

「言えないよ?」

「誤魔化さないのね」

「まあ僕はギフテッドとは言わないけど、お義父(とう)さんの関係で、色々と無茶に鍛えられてるから。演技力はダメダメだけどさ」

「……そう」

 

 ふっとこの会話がバカバカしくなったのか、灰原は会話を切り上げて視線を外した。

 

 

 

*

 

 

 

 正太郎は、藩登龍探偵事務所へと帰宅する。まあここは事務所兼住居であり、形だけだがハントと正太郎2人分の生活スペースが(しつら)えられていた。

 

「ただいまー」

「おかえりなさい、正太郎君」

「いつもご苦労様です、メイ姉さん」

(かくま)ってもらった上に、事務員のお仕事もらってお給料まで貰ってるんだもの。お礼を言いたいのは、こっちの方よ」

 

 メイ姉さんと呼ばれた女性だが、まあ宮野明美だ。『黒ずくめの組織』から逃げ出した彼女を藩登龍探偵事務所に(かくま)った正太郎……エイトマン・ネクストは、とりあえず彼女の事を『明美』の『明』を取って『メイ姉さん』と呼んでいる。あからさまな偽名よりはちょっとしたニックネームの方が色々意図始末が付けやすい、という事らしい。

 

「今日学校に転校生が来たよ」

「ふうん? 女の子? 可愛い子?」

「世間一般からすれば可愛い部類だと思うけど、ちょっとばかりツンケンしてて、そういう雰囲気もあってどちらかと言うと『可愛い』より『美人さん』だね」

「しれっと言うのね。正太郎君に春が来たかと思ったんだけど」

「中身、機械だよ? エイトマン・ネクストだよ?」

「はいはい(笑)」

 

 笑みをこぼしてメイ姉さん……宮野明美はお茶の準備をする。正太郎は彼女がうっかりお茶や茶器を取り落として壊したりしないように、お茶の準備が終わるまで待っていた。そして彼は、爆弾発言をする。

 

「で、その子なんだけど。灰原哀ってあからさまな偽名でね。一見した見た目は似てないんだけど、なんか既視感(デジャヴュ)を感じたんでね。センサーで情報取って色んな比較対象との差分をチェックした」

「あら」

「結果、メイ姉さん……。宮野明美女史の頭蓋骨バランスと、かなりな類似点が見られた」

「え゛」

 

 正太郎は首筋にLANケーブルを繋いで、探偵事務所のデスクトップパソコンに繋ぐ。数瞬が過ぎ去り、CRTディスプレイに灰原哀の静止画像が映し出された。別に写真を撮影していたわけではなく、正太郎の電脳(サイバーブレイン)内に保存されていた記憶の画像を表示しただけなのではあるが。

 その画像を見て、明美は硬直する。その唇から、切れ切れに言葉が漏れる。

 

「あ、えっ……。こ、れ、志保? で、でも! 志保は今18歳のはず! だけど、だけど! 志保のちっちゃい頃に瓜二つで!」

「……」

 

 首筋からLANケーブルを引っこ抜いて、正太郎は接続端子の開いたその部位をつるりと撫でる。すると接続端子の穴は綺麗に消え去って、ただの皮膚に早変わり。

 

「メイ姉さん。間違い無い、んだね?」

「ええ、ええ! だけど! 何が、何が起きたの!?」

「……」

 

 次の瞬間、正太郎の姿が消え、黒い短髪の細マッチョな青年がそこに居た。リュウ・ハントである。ハントは口を開く。

 

「俺はこれから地下(アングラ)に潜って非合法なことして情報収集して来る。もしコレが君の妹さんなら、なんらかの手段で脱走して来たんだろう。となると、黒ずくめのやつらが動いてる可能性は大だ。だから裏の手段で調べる。

 メイ姉さんは前に渡した特別製の携帯電話……。エイトマン・ネクストの体内通信装置に直通のソレで連絡絶やさないでくれ。けっして自分だけで動こうとしないように」

「!! は、はい!」

「危ない時にはダストシュートを改造した脱出口から、地下のシェルターに飛び込むこと。核シェルターだから、最悪年単位で立てこもれる。じゃ、行って来る」

「はい!」

 

 そしてハントは探偵事務所の扉を開けて、疾風のごとく走り出して行った。

 

 

 

*

 

 

 

 今コナンは追い詰められていた。彼を含む歩美、元太、光彦の少年探偵団と、そしてそれに引きずられる形で転校生灰原哀は、とある帝丹小学校の小学生からの依頼で行方不明になったその子供の兄を探していたのだ。

 その兄は高校生であり、かなりの模写の技量を持つ美術部員だった。そして展覧会でその技量に目を付けた誘拐犯に、(さら)われていたのである。誘拐犯たちの正体は黒服を着た男女の偽札犯。偽札を製作する彫り師が怪我をしたため、絵画の模写が得意な少年を誘拐して原画を作らせていたのだった。

 それを探し、ようやくの事で見つけたコナンであったが、元太、光彦、歩美の暴走で犯人グループに逆に発見され、グループ員の黒服の男に拳銃を突き付けられていたのだ。だがコナンは諦めてはいない。

 

(ち、いつも毛利のおっちゃんを眠らせてる麻酔銃で……。焦るな、撃たれる前に()るんだ)

 

 

 

ばぢぃっ!!

どさっ!!

 

 

 

 黒服の男は、その場に倒れ伏す。その背後から、もはや見慣れた姿が現れた。

 

「じゃじゃーん。ハント探偵の探偵七つ道具第二弾~。違法電圧スタンガン~」

「……はぁ~~~っ。助かったよハントさん。なんでここに?」

「なんか黒ずくめの奴らが動き回ってるみたいだったからな。ソレが例の『組織』の人間かどうかはわからねーけど。で、コナン君……エドガーの方がいいかい? まあコナン君と正太郎のクラスの転校生の子、その子がどの程度かわからんが関わってるみたいだったからな。被害者か巻き込まれただけの無関係か、それとも根本から関わってるのかは……。っていうか、地下(アングラ)情報さらった結果は『今回は』直接関わってないみたいだが」

 

 含みを持たせた台詞に、コナンは眉をしかめる。だがそれに構わずにハントは残りの子供たちが黒服の女に追い詰められている部屋へと向かう。彼はいきなりジャンプして天井に貼り付くと、半開きのドアの上の方からこっそりと部屋に忍び込む。天井をつたって。

 そしてハントは、子供たちに向かって拳銃を構えている女の真後ろに、音もたてず飛び降り……。

 

 

 

ばぎぃっ! べぎっ! ぼりっ!

 

 

 

 ハントの鉄拳が、3度振るわれる。物凄く嫌な音が響いた。確実に、犯人たちは殴られた箇所を骨折しているだろう。犯人たちは、あまりの激痛に、気絶も出来ずに涙目で震えている。

 ……やがて、パトカーのサイレンが聞こえて来た。

 

 

 

*

 

 

 

 黒服の連中は、パトカーでは無く救急車に乗せられて現場を立ち去った。ハントは現場に来た目暮警部にさんざん怒られる。曰く、『子供らに拳銃向けて今にも撃ちそうな相手だったから、正当防衛が適用されるだろうが、やり過ぎだ! 下手したら過剰防衛になって前科つくぞ!』とのこと。そのため、後日ハントは警察に呼び出される事になる。まあそれはさておいて。

 歩美、元太、光彦の3人はパトカーで家まで送ってもらう事になり、コナン、灰原はハントがマ○ダ・ファミリ○で送って行くことになった。ちなみに探偵事務所の社用車である。いかに○ツダ・ファ○リアだからと言って、変形して空を飛んだりはしない。超人機メタ○ダーの愛車、メタ○チャージャーじゃないのだ。

 そしてハントは適当なところで車を停め、携帯電話で話し始める。

 

「ああ、もしもしメイ姉さん? とりあえず目標は事件に巻き込まれてた。だけど敵は例のヤツらじゃなく、単に黒服着てただけだったよ。ああ、うん、うん。上手く説得出来たら、事務所に連れて行く。ただ、なんか表情がかたくななんだよなあ」

「何? ハントさん、事務員の人と電話?」

「おう。そっちの灰原ってお嬢さんに、事務員のメイ姉さんが会いたがっててさ」

「!」

「……なんでさ?」

 

 コナンの視線は厳しい。その強圧的な視線を柳に風と受け流し、ハントは(かぶり)を振った。

 

「ウチの事務員サンは、灰原サンがほんとは18歳の薬学研究員で、クスリ使った何かの事故で身体が縮んだ、元『黒ずくめの組織』の一員じゃないかって疑ってるからだ」

「「!?」」

「それで事務員のメイ姉さんも『組織』からの脱走者でな。経歴とか外観とか色々偽装してるんだわ。で、それらの関係の事情で、メイ姉さん灰原さんに会いたくてしかたないんだってさ。

 ……。

 …………。

 ………………さぁて、どうするね灰原サン? 会ってくれるかい?」

 

 灰原哀は満面に汗を浮かべ、動揺している。そしてコナンも、車の後部座席でコナンの隣に座っている彼女の横顔と、運転席に座っているハントの後頭部とに視線を往復させた。何度も、何度も。

 

 

 

 そして一瞬なのか数時間なのかわからない時間が流れた後、灰原は顔面蒼白で頷いたのだった。




今回ハントが偽札犯をばぢぃっ!! ってヤっちゃったのは、実はスタンガン(違法高電圧)じゃないです。エイトマンやエイトマン・ネオには最大10万kwの放電能力があるので。無論の事、エイトマン・ネクストにもきちんと実装されております。まあ、ソレです。
ああ、でも手加減はしてましたよ。10万kwなんて放電したら、人間を放電加工しちまいますから。もっとずっとワット数低いです。
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