藩登龍(リュウ・ハント)探偵事務所   作:雑草弁士

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File008:魔法修行はトンデモなくキツい

 ここは帝丹小学校1年B組の教室。給食がすんだ後、コナンは机に突っ伏してへばっていた。そしてキャラに似合わない事に、灰原もまた、目の下にひどいクマを作って、疲労困憊している様子をありありと見せている。

 

「だ、大丈夫ですか灰原さんコナン君」

「哀ちゃんもコナン君も、なんかお疲れ?」

「そういうときは、うな重食うといいんだぜ!」

 

 光彦、歩美、元太が口々に言う。まあ心配していることは分かるので、この子たちはとてもいい子なのだろう。だがコナンも灰原も、正直ほっておいて欲しいのが本音である。本音ではあるが、中身の精神はいちおう大人……とは言えないが、17~18歳レベルなのだ。子供らの気持ちは(おもんぱか)ってあげなければいけない。

 

「おまえら、サンキュな」

「心配してくれてありがとう」

 

 2人はこの子たちにどうにかこうにか応える。そこへ現れたのは、給食当番として食器他の後片付けに行っていた正太郎だ。

 

「その辺にしておいてあげな。コナン君と灰原サンは本気で疲れてるんだ。心配なのはわかるし、君達が優しいからってのは分かるけど。でもこんな時には、ただただ放っておいてひたすら休ませてあげるのが、優しさってもんだよ」

「そんなもの?」

「うん」

「難しいですねえ。正太郎君はなんでコナン君と灰原さんが疲れ切ってるのか、知ってます?」

「うな重食えば治るって」

「「元太くんってば……」」

 

 正太郎は苦笑いを浮かべて、光彦の疑問に答える。

 

「うん、彼らに頼まれて、って言うか同意のもとに、探偵とか学者とかそんなのに将来なるための特別な特訓してるからね」

「「「ええ~!?」」」

 

 歩美、元太、光彦の3人は、一気に不満顔になって正太郎につっかかって行く。

 

「ずるいずるいずるい~~~!!」

「そうだぜ! 俺たちもその特訓とか受けさせろよ!」

「そうです! なんでこの2人だ……け……あ?」

 

 だが3人の中で一番(さと)い光彦だけは、いち早く自分たちの言ってる内容の問題点に気が付いた。正太郎はニッコニコした笑顔で、その事を3人に言い聞かせた。

 

「ほう? 君たちは今まで少年探偵団の関わった事件でさ。コナン君の頭の回転とか、あといざというときの体力とか。そう言うの思い切り見せつけられてるだろう? ちなみに灰原さんは、体力面ではコナン君に及ばないけど代わりに頭の回転ではコナン君と同等かそれ以上、知識では確実に上を行ってるよ? で、だ……」

「「「……」」」

「その2人が、こんだけボロッボロに疲れ果てる特訓なんだが、それをやりたい、と。ほうほう。んじゃあとりあえず、体力づくりからかな? 今日の放課後からやるかい? とりあえず基本として、君達は自分の体重とおんなじだけの重さの重り背負って、校庭のグランド100週ぐらいやってもらおうかな」

「「「でえええぇぇぇ~~~!?」」」

 

 3人の子供たちはいっせいに引く。そして正太郎は言葉を続けた。

 

「それが終わったら、どんなに疲れてる状態でも思考力を失わない特訓かな。グランド100週した直後のヘットヘトの状態で、算数のドリル1冊全部解いてもらう。で、全問正解するまで逃がさない。1つでも、1問でも、間違えたらやり直し」

「ちょ、コナン! 灰原ぁ! お前らそんな特訓をやってたっつーのか!?」

「それなら可愛いもんだ」

「「「え゛」」」

「そうね……。わたしたち算数のドリルじゃないし。もっと難しい問題集」

「走る距離もなげーし。場所は別の遠いとこだけどよ」

 

 それはそうだ。頭の中身が高校生以上な天才的探偵や天才薬学者兼化学者な科学者相手に、算数ドリルなんて意味が無い。なお問題集は、彼らの専門外である魔法の術関係のモノである。

 

「で、どうする?」

「「「ぶるぶるぶる!!」」」

 

 歩美、光彦、元太の3人は首を超高速で左右に振ると、脱兎のごとく逃げて行った。それを笑顔で眺め遣り見送った正太郎は、コナンと灰原に向き直る。そして彼は、2人の額に順番に人差し指で触れて行く。

 

「……うん、『卵の想起』はちゃんと上手く行ってるね」

「そりゃあもう1年以上の時間やってるからな」

「もう頭の中で、卵を割れるどころかオムレツだって作れそうよ」

 

 卵の想起、とはある系統の魔法的技術の初歩訓練で、イメージをしっかり頭の中で確立するためのものだ。まず訓練者は頭の中に卵を思い描く。ただ思い描くだけではなく、大きさ、形状、重さ、匂い、手触りなどなどの条件を、頭の中で極限まで現実に近づけなければならない。それが訓練者がどんな状態であっても、トイレの中でも、風呂に入っていても、眠っているときですらも、だ。

 そして卵が頭の中で『現実に』存在している状態になったなら、今度は卵を『割る』。これが現実に卵を割った状態と同じになるまで、何度でもやり直す。これが自然に、本当に準備運動レベルで出来るようになるまで、イメージを頭の中に描き続けるのである。

 

「んじゃ、今日も放課後に1時間、ウチの探偵事務所来てね」

「うぇ~い」

「了解……」

 

 ヘバっているコナンと灰原は、各々のキャラに似合わない反応で右手を挙げて応えた。

 

 

 

*

 

 

 

 ここは藩登龍(リュウ・ハント)探偵事務所があるビルの地下深く、鉄人29号DX(デラックス)の整備格納基地兼核シェルター。その奥まった場所にある1室である。

 

「初めはここに来たとき、『精○と時の部屋かよオイ!』って思ったもんだが」

「そうよね」

「違うぞ。ここはただ単に、外での1時間が中での30日間、720時間になるだけの部屋だから。特に居るだけでは鍛えられたりしない」

「「いやソレは前に聞いた」」

 

 そしてコナンは(かぶり)を振る。というか、彼は正太郎/ハント/エイトマン・ネクストと出会って以来、首を振りっぱなし、溜息を無数に()いている。

 

「しかもこの部屋の加速空間を維持するために、電力確保のため使ってる動力源が『縮退炉』だろ? 聞いた瞬間、暴走したら地球の形が変わるってビビったじゃんかよ」

「普通にビルの電気は電力会社と契約してるけどさ。怪しまれないために。でも流石に加速空間の電力までそっちで使ったら、ねえ?

 さて、ちょっと君らに話があるから、重り背負ってルームランナーで走りながら聞いて」

「「はーい」」

「ああ、基礎体力のための走り込みの意味もあるから、『(プラーナ)』で補助しちゃ駄目だよ」

「も、もうズルしねえからよ」

 

 まあ、以前コナンは走り込みがあまりにキツいので、複数の魔法的技術を教え込まれていたうちの比較的早めに覚える事ができた『気功』の技で、ズルをした事があったりする。無論一瞬でバレてよけいに長い距離走らされる事になったが。

 

「さて、走りながら聞いてもらうけども。君たちにメインで教え込んでる魔法的技術なんだが、もっとも感覚的に覚えられる『気功』と、ロジカルに覚えられる類の『練法(ワード)』、そしてまあ『魔法』としか名前ついてないんで他の系統の魔法と混同しそうなんだけど、リルガミンってところでよく使われてた魔法技術の3つを教え込んでる。

 最後の『魔法』は、技術を覚え込むのは早いけど熟達するのはキツいからね。でも基本中の基本『小炎(HALITO)』『薬石(DIOS)』は使える様になったよね」

「ええ。自分の(てのひら)から光が出て切り傷を治したの見たときは、正直感動したわね」

「俺も(てのひら)大の炎が出たのは、驚いたというよりビビった」

 

 ふと正太郎は、コナンが怪訝そうな顔で見ているのに気付く。まあちゃんとルームランナーで走りながら、だが。

 

「何?」

「いや、聞いていいかわからん……」

「いや、疑問に思った事はちゃんと聞いてもらわないと」

「そ、そか。じゃあ……。この『魔法』の上位には『生命(DI)』とか『蘇生(KADORTO)』とかあったよな。なんでおまえ、お義父(とう)さん亡くなった時に、生き返らせなかった? 死んでなかった、虫の息だった、とか誤魔化しようあったんじゃね?」

「……それは尋ねてもらえて、よかったな」

 

 暗い顔にはなったが、正太郎は真摯に答える。

 

「この『魔法』の系列の蘇生術は、死体が損壊していても喪失した部分を補って再生させて蘇生する。上位の『蘇生(KADORTO)』なんて、遺灰になっててもそこから全身再生するぐらいだ。だけど、さ。お義父(とう)さんは死んでから死体発見するまでに、時間経ちすぎてて、死体から魂離れて消失してたんだ」

「それって」

「魂が離れてると、駄目なの?」

「問題は、そこじゃない。魂が無くなってると、喪失部分を補うみたいに魂まで『創って』蘇らせちゃうんだ。この『魔法』使ってた地では、気にしないで死ぬ前と同一人物として扱ってたけど……。というか、研究者ですらも魂の存在に気付いてなかったし、その土地では。だから、まあ、その、ちょっと、ね」

 

 コナンと灰原は納得する。生きてた頃の複製品、それも自分が術で創った存在と、平気な顔でいっしょに暮して行くなんて、とてもじゃないが……。

 

「ちょっと話が逸れちゃったね。本題に入るけど、今回は一番育成が遅れてる『練法(ワード)』についてだよ。遅れてるっていうか、修行がいちばん厳しくてモノになるのも遅いかわりに、破壊の術という意味では最大威力とか、あとは便利術法の類の多さや使い勝手の良さとか、そういう意味では一番効果的で逆に一番危険な魔法系列でもあるかな」

「なるほど」

「興味深いわね」

「『練法(ワード)』は8つの門派に分かれていて、普通の術者は1つしか門派を覚えない。無理すれば複数門派を覚えられるんだけど、危険度や術行使の際の難易度も跳ね上がるから。簡単に言うなら、2つの門派を習得すると術を使うときの難易度は倍、3つだと3倍だ」

 

 そして正太郎は、数枚の書類を2人に渡す。それは修行の初期に2人の身体検査をし、生体データのチェックをしたものだ。

 

「正直驚いたよ。たいていの場合、才能がある人間ですら1つの門派に対する属性の才能しか無いのが普通。だけど君ら凄いよ、天才的だ。本気で。エドガーは2つ、灰原さんは3つの属性に対する才能がある。まあそれぞれの才能ごとに向いている度合に差はあるけどね」

「ええっ!」

「おお……」

「陽、金、火、木、月、風、水、土の8門派があるんだが、エドガーは一番向いているのが土門、そして土ほどじゃないけれどそれでも相当に向いているのが金門だ。

 一方灰原サンは、いちばん木門に向いていて、それを10とすると月門が8、水門が7ぐらいか」

 

 ちなみに陽門は光と純粋な破壊エネルギーの属性に強く、金門は金属と電磁気を含む物理エネルギー、火門は単純な破壊と熱エネルギー、木門は植物とそれに象徴される生命に関する門派だ。この4つが表門であり、それに相対するのが裏門の門派である。月門は闇と精神に関する術が代表で、風門は文字通り風や空気の動きと気象、水門は水と冷気、土門は大地や土や岩そして土は埋葬も意味するため死霊などにも造詣(ぞうけい)が深い。

 

「よかったな、エドガー。土門の術を学べば、殺人被害者の霊魂呼び出して直接聞き込みができるぞ」

「あんま嬉しくねえなあ……」

 

 そして正太郎は堂々と言った。

 

「そういうわけで、大器晩成を目指して君らには、江戸川は2門派、灰原サンには3門派学んでもらう」

「「ええっ!?」」

「複数門派習得は大成するまでに時間はかかるし学びは大変だし術の難易度は上がるしで最初のうちは良い事ないけど、最終的にはそれらのマイナス全部取り返して大きくプラスになるから」

 

 だがその分、魔法の訓練や修練鍛練は果てしなくキツくなるのは目に見えている。コナンと灰原はがっくりと肩を落とす。だがそんな話をしている間も、重りを背負ってルームランナーでバランスも崩さずペースも乱さず走り続けているというのは、なかなかな物であった。




魔法は、体力だ。T&TやHT&Tをやったことあるか、無くてもルルブ読んだことがあれば、はっきりわかります。
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