藩登龍(リュウ・ハント)探偵事務所   作:雑草弁士

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File009:とりあえずまあ一人前、だが未だ免許皆伝は遠い

 ある日の夕刻、ハントは藩登龍(リュウ・ハント)探偵事務所に帰って来るやいなや、いきなりダストシュートに擬装した入口に飛び込んで、地下シェルター兼鉄人29号DX(でらっくす)基地へとやって来た。今日は探偵の仕事があったからいっしょに付き合えなかったが、入室を許可していたのでコナンと灰原が勝手に入って来て、外の時間で1時間、中の時間で1ヶ月ほど自主鍛練をしているはずなのだ。

 ちなみに地下基地にシュート・インする間にハントの姿は小学生に変身し、東正太郎に変わっている。正太郎はそのまま時間加速措置のなされた訓練室へと飛び込んだ。

 ちなみにそこでは、メイ姉さん、灰原哀、江戸川コナンの3人が黙々と様々な魔法技術の鍛練を積んでいる。

 

「あ、正太郎君」

「おかえりなさい」

「おかえり」

「ああ、ただいま。見たところ、江戸川と灰原サンは複数門派習得のペナルティーをものともせず、仮面が必要の無い第三階梯までの『練法(ワード)』は問題なく使えてるね」

 

 彼の言葉に、少し寂しそうにメイ姉さん……宮野明美が愚痴る。

 

「わたしも志保と同じ系統、勉強したかったんだけど」

「ああ、これコイツらがAPTX(アポトキシン)4869で身体が子供に変じたのが良かったんだよ。『練法(ワード)』は特殊な例外でも無いと、身体が子供のうちに基礎を固めないと駄目だから。まあ特にこの系統の術に向いてれば、おっさんでも習得して高位に上った例はあるけど例外中の例外だから」

 

 そんなわけで身体が大人なメイ姉さんは、『練法(ワード)』の修行しても高位に至る事は無い。なのでメイ姉さんは感覚的に行使できる『気功』の技とカザン系の『魔法』……『Take That You Fiend!(こ・れ・で・も・く・ら・え・!)』とか含んだ魔法系統だが、これも感覚的に使えて素質さえあれば短時日に習得できるので教え込まれている。

 それはともかくとして、正太郎は背負っていたカバンから1つの腕輪と2枚の仮面を取り出した。彼はそれを、コナンと灰原には仮面、メイ姉さんには腕輪を手渡す。

 

「あ、仮面!」

「え……っと、いいのかしら東君」

「正太郎君、この腕輪だけど、形は腕輪だけど内実は魔法の杖よね!?」

「いいの、とは?」

「「「だってコレ、見るからに超高位の品物じゃん!!」」

 

 仮面というのは、『練法(ワード)』の術を行使する際に必要な物品、その中でも上位の存在であり、高位の術を行使する際には必須の物品である。本来門派ごとに種類分けされており、たとえば月門の仮面は金門の術者には用いる事ができなかったりする。

 またメイ姉さんに渡された腕輪型をしている杖は、カザン系統の『魔法』に於いて術を使う際の補助になる品である。

 ただ、問題となるのはこの2枚の仮面も、腕輪型の杖も、見るからに並の代物ではないという事だ。というか持っただけで分かる。ヤバい。

 

「以前から、仮面貰えるかもって話はしてたんだけれど。でも教本とか資料とか読んだ限りでは、わたしや江戸川君みたいなかじった程度の半素人が貰える仮面って言ったら、最低位のランクのお粗末な仮面だと思っていたのだけれど」

「そうだよな。というか、こんな見るからに高位の仮面貰っても俺たちの格だと、精神乗っ取られたりしねえのか?」

「この腕輪型杖もそうよね。これ、資料に載ってた『特別製の杖』じゃないの? 手にはめたとたん、わたしの体力ごっそり消費して術発動するようなお茶目するかもしれなくない?」

 

 高位の仮面とか、特別製の杖とかは、ほぼ例外なく自らの意志を持っている。そういう奴らは、まれに例外はあるのだが人間の精神性とは大きく異なるため装備した人間を乗っ取ったり、物凄く自分勝手な真似をしたりすることが多い。対処方法はまあそれほど多くなかったりする。装備する術者が力を付けて、相手を圧倒する事が基本だ。

 だがこの場合は良い意味で前提条件が(くつがえ)っていたりする。これらは正太郎/ハント/エイトマン・ネクストが魔法を教えている3人に対する『護り』として用意したものだ。

 

「大丈夫だよ。これらに宿ってる意志、精神は、君らの味方になってくれるように調整してあるから。君らを守り導いてくれる。具体的に言うと判定なしで同調チェックとEGOチェックに成功するようなもん」

「すまん、その例え、よくわからん。なんかゲーム的な話だとは思うんだが」

「それと普通仮面は1つの門派だけに固定されてるんだが、その仮面は門派に拘束されないよ。極論言うなら、灰原サン用の仮面をエドガーが被っても使えるし、江戸川に渡した仮面を灰原サンが使えもするし。ただお勧めはしないよ? それぞれの仮面や杖は、それぞれの持ち主の事が大好きだから、他人が被ったり装備したりしたら、ムカつくだろうさ」

「「「りょ、了解」」」

 

 そして正太郎は、(かたわ)らの机に置かれていた、3人の訓練報告書を手に取る。しばし読んで、頷いた彼は再度3人に向き直った。

 

「あー、3人ともいちおうは解毒の術に手が届いてるな。エドガーはリルガミン系列魔法の『聖』系4レベル『解毒(LATUMOFIS)』が使える様になってるし、灰原サンは同6レベル『完治(MADI)』を習得しちゃったから大怪我とか肉体欠損とか特殊事情での肉体石化とかにも対処できる。メイ姉さんは3人の中で『気功』が一番使えるんで、解毒系の気功術が行使できるようになってる」

「まあコレで色んな危険に対処できるように……」

「まあ油断は禁物だけどね。特に江戸川君」

「ちぇ」

「ああ、だけどさ。エドガーと灰原サンは本当に気を付けてね」

「「?」」

 

 コナンと灰原は怪訝な顔になる。

 

「いや、前にも言ったけどさ。君ら毒とか受けて解毒魔法行使されたら、APTX(アポトキシン)4869までいっしょに完全に解毒されっちゃう」

「「あ」」

「そうなると、君らたぶん元の工藤新一と元の宮野志保にゃ戻れないからね。灰原サンが研究してる解毒剤なら幼児化プロセスを逆転して高校生の肉体に戻るんだろうが……。『完全に解毒』されちゃうと、APTX(アポトキシン)4869が完全に身体から消えて、子供状態で肉体が固定化される。まあその場合、その子供状態から再度成長が始まるけどね。今のAPTX(アポトキシン)4869に毒されてるままの状態だと、成長しないまま子供状態に固定されてるが」

 

 コナンはしばらく黙りこくる。しかしながら、眉をしかめつつ問いを発した。

 

「なあ。解毒系の魔法で解毒した後、魔法的なり超能力なりなんら科学的処置とかで身体を成長させるのは駄目なのか?」

「駄目だよ。あとだから、魔法は科学だから」

「駄目なのか。それとまだ俺は魔法と科学が別だって固定観念から、逃れられてないなあスマン」

「あのさ、一卵性の双生児、双子でもさ。成長条件によって別人みたいな見た目に変わる事って多々あるだろ? たとえば培養ポッドとかに押し込んで成長速度加速して高速で大人の肉体にしたとする。……普通に成長したのよりも身長だけ高く伸びて、筋肉ほとんどついてないヒョロガリに成長するよ? 間違いなく、顔立ちも髪の生え際の位置とかも、元の工藤新一とは大きく異なる」

「おおう」

 

 正太郎は真正面からコナンと灰原を見つめ、真摯に言った。

 

「元に戻りたいなら、特に『完治(MADI)』みたいな完全回復魔法には注意してね。重傷、重体を治療するために使われる魔法だけど、大怪我治すためにであってもソレ掛けられたら、APTX(アポトキシン)4869消えてしまって、工藤新一の肉体や宮野志保の肉体はこの世から消える」

「う、うぁ……。了解だぜ」

「……まあ、わたしは成長しなおしてもそこまで悪くは無いけども」

 

 そうして江戸川コナン、灰原哀、メイ姉さんこと宮野明美の3人は、仮面や杖を拝領し、魔法使いとしての免許的なものを獲得したのである。……まあ、免許って言っても流派の免許皆伝とかとは意味合いが違うし、免許って言っても自動車免許……いや、そういうよりは原付免許みたいなイメージだろうか。とりあえず公道に出る資格をかろうじて得て、『そういった世界』における写真入り身分証明書を手に入れた、程度のものであるが。

 

 

 

*

 

 

 

 一同は地上の藩登龍(リュウ・ハント)探偵事務所でお茶菓子とお茶を楽しみながら、談笑していた。

 

「まあ、これで修業は一区切り、かな。あくまで一区切りなだけで、まだまだ連綿と続くけどね修行は」

「ま、そうだろな。というか中途半端なところで放置されんの困る。せっかく今までの常識捨てて、魔法関係事件に対処するためもあって、魔法の道に踏み込んだんだ。やっぱり達人(アデプト)級までは最低でも行きたいし、可能なら覚えられる範囲の最高位の術は手に入れておきたい。とりあえず切り札として『核撃(TILTOWAIT)』と『嘆願(MAHAMAN)』の2つは手に入れておきたいよな」

「『嘆願(MAHAMAN)』は術を手に入れても、本人の(レベル)そのものがある程度以上にならないと、発動すらしないから気を付けてね」

 

 そして正太郎は3人、特にちょっとお調子者の側面があるコナンを強い視線で見据える。コナンは息を飲んだ。

 

「それと、これから先の修行についてだけど。実力を上げて今はまだ使えない魔法を獲得していくのも勿論だけども。

 ……これから先は、主に一般社会で『どうやって魔法を隠して使うか』あるいは『どうやって魔法を使わずに物事を解決するか』について修行を積んでもらう。魔法は、いや魔法に限らずチカラは、『使わない』事が大事だよ。そして矛盾するようだけどいざというときに『躊躇(ちゅうちょ)せず使う』事もあわせて覚えなければならない。そのさじ加減を、骨身に染み込むまで学ばなければならない。

 まあこれは、日本の一般社会でおおっぴらに拳銃を持って(ある)ってるヒトがいないのと同じだあね」

「「「……」」」

 

 ちなみにこの3人は、未だ明かされてはいないが、正太郎/ハント/エイトマン・ネクストが並行異世界からやって来たのではないか、と薄々ながら気づき始めていた。彼らが見せてもらった魔法関連の資料、その中で高位の術に空間転移の魔法がいくつか含まれていたのだが。

 その空間転移系の中でも上位の更に最上位のいくつか。それの資料に、並行異世界への転移の可能性が示唆(しさ)されている物が存在していたのだ。

 まあでも、彼ら3人は正太郎にその事を問い詰めることはしていない。『あの』コナンですらも、彼が自分から明かす事を待っているのだ。あるいは話さないなら話さないでもいいとも思っている。

 うん、『あの』コナンですらも。白黒はっきりつけたがり、自分の危険どころか他人の危険も無視しかねない彼が、である。人は、成長するもの、であった。




魔法は、どうやって『隠れて使う』か、そして、というか、あるいは。どうやって『使わないで済ませる』か、がものすごく大事だと思っています。

……いや、初期のネギまとか読んでると、そんな感じが。ダメダメだしょ。本気で主席卒業したんかネギ。
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