るろうに剣心ー会津の猟犬ー   作:ヨシフ書記長

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るろうに剣心の二次創作に手を出してみたくなりました。
少しお付き合い頂けたらと


第零話 血の雨、鉄の牙

慶応三年 夏 京都

未明の雨が、京の石畳を黒く濡らしていた。

人気の絶えた路地裏には、鉄錆の臭いと、濃厚な血の臭いが澱んでいる。

 

とある佐幕派重鎮の屋敷前。

 

一人の小柄な影が、まるで幽鬼のように佇んでいた。足元には、袈裟懸けに斬られた男の死体。

影――緋村抜刀斎は、一言も発しない。無表情のまま懐から「斬奸状」を取り出すと、死体の上に無造作に放り落とした。それが、天誅という名の人殺しの儀式だった。

 

抜刀斎が刀の血を振り落とし、鞘に納めようとしたその刹那。

雨音に混じり、重い足音が近づいてくるのを察知する。

ピタリと、抜刀斎の手が止まった。

 

闇の奥から現れたのは、京都見廻組の黒い羽織を纏い、深く編み笠を被った男――神原鉄馬。

鉄馬は死体と斬奸状を一瞥し、ゆっくりと編み笠を上げた。

 

「いい夜だなぁ、ええ? そう思うだろ?」

 

低く、絡みつくような声。

抜刀斎は鯉口を切ったまま、無言で警戒を強める。鉄馬は雨を仰ぎ見ながら、口の端を歪めた。

 

「こう雨が強いと、血の臭いもすぐに消えちまう……。人斬り稼業にゃあ、あつらえ向きの天気だ」

「……誰だ」

 

抜刀斎が短く問う。鉄馬の纏う空気は、新撰組の「誠」の旗を掲げる者たちとは違う。もっと陰湿で、実務的な「狩人」の匂いだ。

 

「名乗るもんじゃねぇさ。その斬奸状、そしてその殺気……」

 

鉄馬は羽織の懐に右手を入れる。刀の柄には手をかけていない。その奇妙な構えに、抜刀斎の眉がわずかに動いた。

 

「佐幕派の要人殺害容疑でご用改めである。人斬り抜刀斎! 神妙にお縄につけ!」

「……断ると言えば?」

「死体になって屯所まで来てもらう。運ぶ手間はかかるが、抵抗されるよりはマシだ」

 

瞬間、空気が凍りついた。

抜刀斎の返答は、言葉ではなく「死」だった。

予備動作なし。地面を蹴る音さえ雨に消える神速の突進。ただ純粋な殺意の塊が、鉄馬の首を刈り取りに迫る。

 

だが、鉄馬はその静寂の殺意を読んでいた。

抜刀斎の刃が鉄馬の首筋を捉える寸前、鉄馬は体を沈め、懐から黒鉄の塊を抜き放つ。

 

ドォォン!

 

雷鳴のような轟音が路地裏を引き裂いた。驚いた抜刀斎が見たものは、鉄馬の手に握られるコルト・ネイビーリボルバーの姿だった。

 

「ッ!?」

 

抜刀斎は空中で無理やり身を捻り、紙一重で弾丸を回避した。頬を熱風が掠め、背後の土壁が砕け散る。

着地した抜刀斎の目に、初めて焦りの色が浮かんだ。硝煙の匂いが立ち込める中、鉄馬はニヤリと笑い、撃鉄を起こした。

 

カチリ、という乾いた音が響く。

 

「飛び道具は武士道に反するとかいうやつがいるが、なぁに、そんな奴はこれからの時代を見てねぇだけさ」

 

鉄馬は銃口を揺らさず、抜刀斎の眉間に狙いを定める。

 

「異国にはこんなことわざがあるらしい。『銃は剣よりも強し』ってな!」

 

ドォン! ドォン!

 

放たれる連続射撃。抜刀斎は石畳を蹴り、壁を走り、人間離れした動きで照準を外していく。

だが、鉄馬の銃弾は逃げ道を塞ぐように配置されていた。

 

(……!)

 

抜刀斎は悟った。この男、銃をただの道具として使っていない。剣術の間合いと理屈で、鉛玉を突き込んできている。変種の武士。

 

残り弾数はあと2発。

鉄馬は左手に隠し持っていた捕縛用の鉤縄を準備し、次の一手で仕留めにかかる。

抜刀斎がジグザグに動き、神速で懐へ飛び込んでくる。

 

鉄馬が引き金を絞る――その瞬間。

 

ガキンッ!

 

鈍い金属音が響き、鉄馬の手元で火花が散った。

弾が出ない。国産模造品の粗悪なシリンダーが、連射の熱と火薬の煤で回転不良を引き起こしたのだ。

 

「……チッ、これだから模造品は!」

 

一瞬の隙。抜刀斎の刃が、鉄馬の喉元へ迫る。

鉄馬は咄嗟に、動かなくなった銃そのものを鈍器として振り上げ、刀身を受け止めた。

 

ギィィン!!

 

火花と共に、鉄馬の体が後方へ弾き飛ばされる。銃身には、深々と刃の跡が刻まれた。

鉄馬が体勢を立て直した時には、抜刀斎は既に数間先へ跳んでいた。遠くから、新撰組の提灯の明かりと騒がしい足音が近づいてくる。

 

抜刀斎は冷徹な瞳で鉄馬を一瞥すると、無言のまま闇へと消えていった。深追いはしない。撤退こそが最善という判断だ。

残された鉄馬は、雨に打たれながら、動かなくなった銃を忌々しげに見つめた。

 

「……次は必ず、冷たくなったお前を屯所へ転がしてやる。……首を洗って待ってな、抜刀斎」

 

雨音だけが、二人の殺し合いの余韻を洗い流していく。

神原鉄馬と緋村抜刀斎。

決して交わることのなかった二つの「凶器」が、初めて交差した夜だった。




主人公名 神原鉄馬

• 年齢: 31歳(原作開始時)
• 通称: 会津の猟犬
• 所属: 元会津藩士、元京都見廻組・捕縛方
• 外見: カウボーイハット、ダスターコート、ジーパン。明治の東京では浮きまくっている異端の風貌。

【経歴設定】

• 落ちこぼれの次男坊: 会津の下級武士に生まれるが、剣術が絶望的に下手で道場ではお荷物扱いだった。
• 銃との出会い: 幕末、会津にもたらされた新型銃器に触れ、射撃の才能が完全開花。近代化軍の創設を目指す藩主・松平容保より異例の帯銃許可を得る。
• 京都赴任: 見廻組の捕縛方として京都へ。緋村抜刀斎と5度交戦。葵屋を拠点としていたため、幼い巻町操の記憶に「謎の男」として残る。新撰組とは手柄を巡ってよく争う仲。

• 戊辰戦争の悲劇: 鳥羽・伏見で愛銃を失い、会津落城で父兄・母をすべて失う。
• 密命: 容保公より「生き延びて、新しい時代を見極めよ」と命じられ、賊軍としての指名手配を逃れ海外へ脱出。

【放浪:アメリカでの再起】
• バウンティハンター: 米西部で金鉱山労働と賞金稼ぎ。「ラッソ」と「鞭」の技術を習得。
• 若き天才との親交: 伝説の銃器設計者ジョン・ブローニングと知り合い、試作ライフルのテストを担当。
• 帰国を決意: 西南戦争の勃発を知り、明治政府の揺らぎと時代の変遷を見届けるため日本へ。

【武器の変遷】
1. コルト・ネイビー(複製品):国産模造品。 京都時代の相棒。鳥羽・伏見で破損。
2. ル・フォショウ・リボルバー: 会津戦争から逃亡期を支えた頑丈なピン打ち式。
3. S&W No.3: 米国で入手。排莢の早さを重視した連発銃。

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