「実は勇者じゃない」から始まる激重美少女たちの『花嫁競争』〜勇者じゃないなら誰とでも結婚できるんでしょ?なら私と結婚しよ?   作:水葉わいん/わいん。

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第2話 聖女リシアI

 

 

 

 早朝。

 

「――勇者様、お目覚めになられましたか? 手紙が届いていますよ」

 

 安宿の硬いベッドに腰掛けて、朝刊を読んでいた俺に来訪者が一人。

 

 この声……宿屋の主人だ。

 手紙なんて、一体、誰からだろうか?

 

「起きてますよ。手紙は誰からでしょうか?」

 

「差出人の欄には、ノスタリア孤児院と書かれていますね」

 

「……ノスタリア孤児院? どうして……」

 

 そこは昨日、俺が大量の寄付をした孤児院だった。

 

 おかしいな……名乗ってないはずなのに……どうして寄付したのが俺だとバレたのだろうか……?

 

「そりゃあ、誰だってわかりますよ。この世に黙って大量の寄付金をしていく人なんて勇者様以外に居ませんから」

 

 ……確かに。

 

 俺は、苦笑いを浮かべながら手紙を受け取るしかなかった。

 

 手紙の中は案の定、感謝の言葉でびっしりだった。

 

 はぁ……感謝が煩わしくて正体を隠したのに、これでは無意味じゃないか。

 

 直接訪ねてくるわけではなく、手紙だけにしてくれたのは幸いだ。

 そんなことされたら、面倒臭いったらありゃしない。

 

 俺が、こういうことをするのは感謝されたいからじゃない。

 ただの自己満足なのだ。

 

 苦しむ者がいるなら助けたい。

 正義の味方でありたい。

 誰もが――幸せであって欲しい。

 

 ただそれだけなのだ。

 

「って、俺は朝っぱらから何を考えているんだか……」

 

 今日は、領主様にリシアと共に呼び出されているんだったっけ?

 

 ぼーっとしてる暇があったら、身支度しないとな……。

 

 

 ――――――――――――――――――

 

 

「はぁ……二日連続であなたと出かけるなんて、一体、どんな罰ゲームですか……」

 

 空がオレンジ色に染まり始めた夕方。

 

 リシアは、俺の隣を歩きながら、げっそりとしていた。

 

「仕方がないじゃないか、領主様にリシアと一緒に顔を出すように頼まれたんだ。断るわけにはいかないだろう?」

 

「けっ、どうせ媚び売りのためでしょう。あなたと一緒に出かけることを強制される私の心労も考えて欲しいものですね」

 

 リシアの言う通り、俺は魔王を倒せば王女と結婚して王族となるため、今のうちに媚を売りたいのだろうな。

 

「はぁ……それにしても疲れました。もう日も沈んできましたし、どこかで晩御飯を済ませませんか?」

 

「あー……」

 

 俺の苦笑いから金がないことを察したのか、リシアは呆れで深々とため息をついた。

 

「はいはい、私が払いますよ」

 

「本当か?! いやぁ、助かるよ……! 実は昨日から何も食べてなくてさ……」

 

「き、昨日から? ……もしかして昨日の寄付金と銅貨3枚は本当の本当に全財産だったのですか?!」

 

「ああ、そうだぞ」

 

 俺の言葉を聞いたリシアは、驚愕で目を見開いた。

 

 そして次第に彼女の目は、愚か者を見るような哀れみと呆れの混じったものへ変わっていく。

 

「はぁ……グロウさん、あなたが救う人の中に自分は含まれていないんですか? 人を助ける前に、もうちょっと自分のことを優先したらどうですか?」

 

「珍しいな、リシアが俺を心配してくるなんて……」

 

「ッ……!? き、気まぐれで心配しているだけです。別に他意はありません」

 

「そうか……」

 

 それにしては……少しリシアの言葉の節々から焦りのようなものを感じるんだよなぁ……。

 一体、どうしたのだろうか。

 

 すると、リシアは冷静さを取り戻すように「コホン」と咳払いを一つ挟んだ。

 

「それよりも、グロウさんは自己犠牲しすぎです。それがいつか……大怪我に繋がったりしたらどうするつもりですか?」

 

「ま、まあ……そうならないように善処するよ」

 

 俺は「でも」と付け加える。

 

「もしも、俺が片腕を失うだけで誰かの命が助かるような状況であれば――俺は迷わず命を優先するかな」

 

「……それが、素性も知らない人間の命であっても……ですか?」

 

「当然だよ」

 

「…………」

 

 って、あれ?

 どうしてそこで沈黙するんだ?

 

 恐る恐るリシアの顔を覗くと、彼女は眉をひそめながら何かを考えていた。

 

「どうしたんだ?」

 

「……いえ、なんでもありません。ですが……一応聞いておきますね。もしも、私を助ければグロウさんが死んでしまうという状況であれば、どうしますか?」

 

「――もちろん、リシアを助けるさ」

 

 即答だった。

 実際にそのような状況に陥ったとしても迷うことはないだろう。

 

 そう思って、口にした本心。

 

 しかし――数秒後、俺はリシアの表情を見て、自分が言ったことを後悔した。

 

「は?」

 

 亡霊のような声が、鼓膜を揺らした。

 

 その声はまるで――何かが決壊する音のようだった。

 

「なんで……なんで……なんでなんでなんで……?」

 

 リシアは俺の腕を震えながら掴んだ。

 

 そして、いつもは射殺すように冷たい目は、何の感情も感じ取れない虚ろなものへ変容し――それが、じぃっと俺の目を見つめてくる。

 

「なんで……そこで即答できるんですか……?」

 

 リシアの爪は深々と俺の腕に食い込み、血が滲む。

 

 逃げようとしても、腕をぎゅぅと締め付けられて離れられない。

 せめて目を逸らそうとしても、今までに感じたことのない恐怖が心を染め上げ、それを許さない。

 

「なんで……なんで、そんなに簡単に命を捨てられるんですか……?」

 

 リシアのもう片腕が俺の頬をそぉっと撫でる。

 愛おしむように、大事な宝物に触れるように。

 

 どうして、こうなった?

 こんなリシアの姿……見たことない。

 

「私を置いて死んでいくなんて……絶対に許さない」

 

 見たくなかった。

 知りたく……なかった。

 

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