「実は勇者じゃない」から始まる激重美少女たちの『花嫁競争』〜勇者じゃないなら誰とでも結婚できるんでしょ?なら私と結婚しよ? 作:水葉わいん/わいん。
「――リシア、何もこんな良さそうなレストランじゃ無くても良かったのに……」
あの後、俺はリシアの誘いを受けて一緒にご飯に来た。
だが――連れてこられたのは街でも有名な高級レストランの個室席だった。
「昨日はグロウさんに選ばせてあげたのですから、今回はいいでしょう?」
リシアは嬉しそうに「それに」と付け加える。
「ここであれば、人目を気にしなくていいので……!」
リシアは俺の隣に腰を下ろすと、すっと距離を詰めてきた。
同時に、リシアは、俺と腕を絡ませ、愛おしげに抱きしめる。
「リシア……? 流石にちょっと近いというか……」
「……やっぱり、私とじゃ嫌なんですか?」
次の瞬間、周りの温度が数度下がった。
しまった……失言だったか?!
不味い不味い不味い。
「全然嫌じゃないぞ! でも……ほら、このままだと料理が食べられないじゃないか!」
咄嗟に思いついた理由を語る。
実際、俺がリシアに抱きしめられているのは右腕であり、このままだと料理が食べられない。
うん、我ながら悪くない言い訳をしたんじゃないだろうか。
「……確かに、そうですね」
「だろ? だから離してほしいなぁって……」
よし、これで一旦、俺の理性は守られ――
「――でしたら、私が食べさせてあげますね……!」
淡い希望はすぐに砕け散った。
食べさせて……あげる?
リシアが? 俺に?
いや、待てよ……じゃあ――
「もしかして、個室席にしたのって……」
リシアが俺に食べさせている様子を、他の人に見られないためなんじゃ……。
やられた……!
元からリシアは俺の腕を離す気なんて、さらさら無かったのだ。
「ふふっ、どうかしましたか?」
コテンとリシアは、俺の肩に頭を乗せた。
万事休すとはまさにこの事。
完全に嵌められた……。
「さあ、グロウさん……? 冷めないうちに食べましょう?」
そう言うリシアの瞳は濁っており、不気味な光を湛えていた。
絶対に逃さない……そんな強い意志すら感じられる。
すると彼女は、テーブルに並べられたパスタを器用にフォークで巻き取る。
「さっ、グロウさん……口を開けてください」
そして、俺の口元までフォークを近づけてきた。
「こ、これって……」
これって……いわゆる“あーん”って呼ばれるやつだよな。
恋人同士じゃあるまいし……流石に恥ずかしい。
どうにかして、回避できないものか……。
「ふぅん? 食べられないんですか? ……仕方がありませんね。では、口移しで――」
「――た、食べます食べます! めっちゃ食べますから!」
「本当ですか?! じゃあ、はい……あーん」
リシアは、再びフォークを近づけてくる。
流石に口移しよりはこっちの方がマシだった。
俺は、覚悟を決めると、口を開き、リシアのフォークを受け入れる。
パスタは緊張のせいか、全く味がしなかった。
「どうですか? 美味しいですか?」
「あ、ああ……凄くおいしいよ」
「ふふっ、それなら良かったです……! じゃあ、次はこっちのスープを……はい、あーん」
「あ、ああ……」
俺は成す術なく、まるで赤ちゃんのように、リシアに料理を食べさせられ続けるのであった。
しかし、緊張と今までに感じたことのない恐怖で、何の味もしなかった。
そうして、長い長い虚無の時間はようやく終わり告げる。
「……ふぅ、料理がなくなってしまいましたね……もっと、この時間を楽しみたかったのですが……」
「あはは……」
一体、どうしてこうなってしまったのだろうか。
俺はリシアの考えが全くわからないでいた。
俺がリシアの地雷を踏んでしまったのは仕方がない。
それは避けられないことだった。
しかし――地雷を踏む前から様子がおかしかったのはどうしてだ?
それに過度なスキンシップも気になる。
「(もしかして……恋愛的に俺のことが好きなのか?)」
――いや、それはないか。
俺は勇者だ。
王女様と結婚しなければならないと掟で定められている以上、それは絶対に叶わぬ恋だ。
普通は絶対に叶わない恋を追おうとはしないだろう。
でも……そうではないとしたら、どうして……?
……わっかんねぇ。
「あっ、そうだ。グロウさん、デザートはどうですか?」
「――え? ……マジで本当にお腹いっぱいなんです。勘弁してください」
「むぅ……そうですか」
う、うーん……誰かが宥めてくれるまで……耐えられるだろうか。
「さあリシア、食べ終わったことだし、そろそろお会計にしようか」
「うーん……仕方がありません、そうしましょうか」
リシアは俺の腕をようやく離すと、会計を済ませて店から出た。
よし……これで、ようやく一人になれるぞ……!
「じゃあリシア、今日はこれで解散だな」
「……? 何を言ってるのですか?」
リシアは小首を傾げると、不思議そうな顔で――
「今日から、私もグロウさんの部屋で寝ますから」
そう言った。
……え?
もしかして……鎖を繋いだまま、俺の隣で寝るつもりなのか?
………………え?
――――――――――――――――――
【???side】
「――今日から、私もグロウさんの部屋で寝ますから」
そう言いながら、グロウの腕を引っ張るリシア。
そんな彼女の様子を、屋根の上からじっと見つめる者がいた。
『ふひひっ、予想通りに動いてくれてるみたいだねぇ』
背中から生やした漆黒の翼は、その者は――まさに、悪魔だった。
『やっぱり、あの子に真実を言ったのは正解だったみたいだ』
彼女は、リシアを見ながらニタリと笑みを浮かべると――
『このまま、全員暴走して――壊滅してくれれば、嬉しいんだけどねぇ』
その呟きは、闇夜の静寂に溶けて消えていった。