「実は勇者じゃない」から始まる激重美少女たちの『花嫁競争』〜勇者じゃないなら誰とでも結婚できるんでしょ?なら私と結婚しよ?   作:水葉わいん/わいん。

3 / 7
第3話 聖女リシアII

 

 

 

「――リシア、何もこんな良さそうなレストランじゃ無くても良かったのに……」

 

 あの後、俺はリシアの誘いを受けて一緒にご飯に来た。

 

 だが――連れてこられたのは街でも有名な高級レストランの個室席だった。

 

「昨日はグロウさんに選ばせてあげたのですから、今回はいいでしょう?」

 

 リシアは嬉しそうに「それに」と付け加える。

 

「ここであれば、人目を気にしなくていいので……!」

 

 リシアは俺の隣に腰を下ろすと、すっと距離を詰めてきた。

 同時に、リシアは、俺と腕を絡ませ、愛おしげに抱きしめる。

 

「リシア……? 流石にちょっと近いというか……」

 

「……やっぱり、私とじゃ嫌なんですか?」

 

 次の瞬間、周りの温度が数度下がった。

 

 しまった……失言だったか?!

 不味い不味い不味い。

 

「全然嫌じゃないぞ! でも……ほら、このままだと料理が食べられないじゃないか!」

 

 咄嗟に思いついた理由を語る。

 実際、俺がリシアに抱きしめられているのは右腕であり、このままだと料理が食べられない。

 

 うん、我ながら悪くない言い訳をしたんじゃないだろうか。

 

「……確かに、そうですね」

 

「だろ? だから離してほしいなぁって……」

 

 よし、これで一旦、俺の理性は守られ――

 

「――でしたら、私が食べさせてあげますね……!」

 

 淡い希望はすぐに砕け散った。

 

 食べさせて……あげる?

 リシアが? 俺に?

 

 いや、待てよ……じゃあ――

 

「もしかして、個室席にしたのって……」

 

 リシアが俺に食べさせている様子を、他の人に見られないためなんじゃ……。

 

 やられた……!

 元からリシアは俺の腕を離す気なんて、さらさら無かったのだ。

 

「ふふっ、どうかしましたか?」

 

 コテンとリシアは、俺の肩に頭を乗せた。

 

 万事休すとはまさにこの事。

 完全に嵌められた……。

 

「さあ、グロウさん……? 冷めないうちに食べましょう?」

 

 そう言うリシアの瞳は濁っており、不気味な光を湛えていた。

 

 絶対に逃さない……そんな強い意志すら感じられる。

 

 すると彼女は、テーブルに並べられたパスタを器用にフォークで巻き取る。

 

「さっ、グロウさん……口を開けてください」

 

 そして、俺の口元までフォークを近づけてきた。

 

「こ、これって……」

 

 これって……いわゆる“あーん”って呼ばれるやつだよな。

 恋人同士じゃあるまいし……流石に恥ずかしい。

 

 どうにかして、回避できないものか……。

 

「ふぅん? 食べられないんですか? ……仕方がありませんね。では、口移しで――」

 

「――た、食べます食べます! めっちゃ食べますから!」

 

「本当ですか?! じゃあ、はい……あーん」

 

 リシアは、再びフォークを近づけてくる。

 

 流石に口移しよりはこっちの方がマシだった。

 

 俺は、覚悟を決めると、口を開き、リシアのフォークを受け入れる。

 

 パスタは緊張のせいか、全く味がしなかった。

 

「どうですか? 美味しいですか?」

 

「あ、ああ……凄くおいしいよ」

 

「ふふっ、それなら良かったです……! じゃあ、次はこっちのスープを……はい、あーん」

 

「あ、ああ……」

 

 俺は成す術なく、まるで赤ちゃんのように、リシアに料理を食べさせられ続けるのであった。

 

 しかし、緊張と今までに感じたことのない恐怖で、何の味もしなかった。

 

 そうして、長い長い虚無の時間はようやく終わり告げる。

 

「……ふぅ、料理がなくなってしまいましたね……もっと、この時間を楽しみたかったのですが……」

 

「あはは……」

 

 一体、どうしてこうなってしまったのだろうか。

 俺はリシアの考えが全くわからないでいた。

 

 俺がリシアの地雷を踏んでしまったのは仕方がない。

 それは避けられないことだった。

 

 しかし――地雷を踏む前から様子がおかしかったのはどうしてだ?

 それに過度なスキンシップも気になる。

 

「(もしかして……恋愛的に俺のことが好きなのか?)」

 

 ――いや、それはないか。

 

 俺は勇者だ。

 王女様と結婚しなければならないと掟で定められている以上、それは絶対に叶わぬ恋だ。

 

 普通は絶対に叶わない恋を追おうとはしないだろう。

 

 でも……そうではないとしたら、どうして……?

 

 ……わっかんねぇ。

 

「あっ、そうだ。グロウさん、デザートはどうですか?」

 

「――え? ……マジで本当にお腹いっぱいなんです。勘弁してください」

 

「むぅ……そうですか」

 

 う、うーん……誰かが宥めてくれるまで……耐えられるだろうか。

 

「さあリシア、食べ終わったことだし、そろそろお会計にしようか」

 

「うーん……仕方がありません、そうしましょうか」

 

 リシアは俺の腕をようやく離すと、会計を済ませて店から出た。

 

 よし……これで、ようやく一人になれるぞ……!

 

「じゃあリシア、今日はこれで解散だな」

 

「……? 何を言ってるのですか?」

 

 リシアは小首を傾げると、不思議そうな顔で――

 

「今日から、私もグロウさんの部屋で寝ますから」

 

 そう言った。

 

 ……え?

 もしかして……鎖を繋いだまま、俺の隣で寝るつもりなのか?

 

 ………………え?

 

 

 

 ――――――――――――――――――

 

【???side】

 

「――今日から、私もグロウさんの部屋で寝ますから」

 

 そう言いながら、グロウの腕を引っ張るリシア。

 

 そんな彼女の様子を、屋根の上からじっと見つめる者がいた。

 

『ふひひっ、予想通りに動いてくれてるみたいだねぇ』

 

 背中から生やした漆黒の翼は、その者は――まさに、悪魔だった。

 

『やっぱり、あの子に真実を言ったのは正解だったみたいだ』

 

 彼女は、リシアを見ながらニタリと笑みを浮かべると――

 

『このまま、全員暴走して――壊滅してくれれば、嬉しいんだけどねぇ』

 

 その呟きは、闇夜の静寂に溶けて消えていった。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。