「実は勇者じゃない」から始まる激重美少女たちの『花嫁競争』〜勇者じゃないなら誰とでも結婚できるんでしょ?なら私と結婚しよ? 作:水葉わいん/わいん。
「無理だ、眠れねぇ……」
深夜。
俺は隣で安らかな寝息を立てるリシアを見て、ため息をついた。
俺は必死に説得したさ。
何度も何度も抵抗した。
しかし、リシアは全く譲らなかった。
最後には無理矢理、部屋に押し入られ……こうなった。
いや、これでも頑張った方なんだぜ?
『では、体をお拭きいたしますね?』
そうやって、リシアに言われた時には全力で抗った。
流石にそれは、色々と不味い……!
「んん……」
リシアは寝返りを打つと、そのまま俺の方に密着してきた。
白磁のように白く、きめ細やかな腕が俺の体に巻き付く。
耳元には彼女の温かな寝息がかかり、少しくすぐったい。
リシアは、いつもの冷たい表情からは考えられないような安心しきった寝顔をしており、庇護欲を掻き立てられる。
うっ……ダメだ、こんな状態で寝れるはずがない……!
俺の理性が耐え切れる気がしない……!
「(これは……隙を見て抜け出すしかないな)」
こっそりと抜け出せば、流石のリシアも俺が居なくなったことには気づかないだろう。
俺は、ゆっくりとリシアの腕を振り解き――
――よしっ、これで抜け出せた……!
「――何をしてるんですか?」
温かな吐息が耳を撫でた。
咄嗟に振り返ると――光が消えた青の双眸が、俺をじっと見つめていた。
あ……。
バレ……た……。
「なんで……逃げようとするんですか」
俺は腕を引っ張られ、ベッドの中心に戻されると、そのまま押し倒された。
「り、リシア……? 一旦落ち着いて――」
「――嫌」
リシアは拒絶する。
このまま、さらにリシアの行動がエスカレートしていくんじゃないか。
そんな懸念が脳裏をよぎる。
しかし――それは違った。
「……もう取り残されるのは……嫌なの……」
次の瞬間、生暖かい液体が俺の頬を濡らした。
何かと思って目を開けると、リシアの頬からは涙が溢れ出していた。
その溢れ出した涙が、頬を伝い、落ちて、俺の頬を濡らしたのだ。
「(泣いてる……? どうして……?)」
あまりにも急なリシアの変化に、俺は困惑を隠せなかった。
「お願いだから……いなくならないで……」
その声は震えていた。
俺を抱きしめる腕も微かに震え、瞳は不安に揺れている。
いつもは強気で冷淡なリシアとは全く違う……弱気な姿。
これが――彼女の本当の姿だというのか?
「ぐっ……」
それはそうと、だ。
リシアが俺の腕を掴む力が、徐々に増していた。
正直、かなり痛い。
もしかして、無意識的に力が籠ってしまっているのか……?!
「り、リシア……頼むから、離してくれ……!」
「絶対に、嫌っ……! 私を一人に……しないで……」
「ううっ……!」
リシアは完全に自分の世界に入ってしまい、俺の言葉なんて全く聞いてくれそうにない。
頼む……! 誰でもいいから、誰か……助けてくれ……ッ!
俺がそう強く願った時――
「――あ、あの……起きてますか?」
部屋のノックと共に、扉の向こうから少女の声が聞こえてきた。
この声……知っている。
俺のパーティメンバーの1人だ。
良かった……助かった……!
……いや待てよ? 助かったのか?
こんな姿を見られたら――
「ってあれ? 鍵が開いてる……入りますね?」
非情にも俺がストップをかける前に扉は開かれた。
扉の隙間から銀色の髪をした少女が顔を出し、俺たちの姿を捉えると――
「――は?」
ドス黒い声が、短く発せられた。
それが目の前の少女から発せられたのだと脳が理解するのには、数秒の時間を要した。
ああ、これが俗に言う……修羅場ってやつか。
――――――――――――――――――――
「本当に……何をしてるんですか?」
肩の下まで伸ばされた銀色の髪を揺らしながら、彼女は深いため息をつく。
窓から差し込む月光が、透き通った銀髪に反射する様子は神秘的だった。
彼女はユリナ。
俺たちのパーティメンバーの一人でありながら剣の極地へと到達した者――『剣聖』でもあった。
俺たちはそんなユリナの前で正座していた。
「とりあえず……センパイ、状況を説明してください」
ユリナは“センパイ”と俺を呼びながら、鋭い視線を浴びせてきた。
「いや、実は――」
俺は、こうなった成り行きを説明するしかなかった。
午前は領主様に会いに行っていたこと。
その帰りに俺が命を捨ててでもリシアを守ると言ったら、リシアが釈変したこと。
その後、一緒に寝ることになってしまったこと。
「そんなことが……? り、リシアちゃん、本当なんですか……?!」
「そ、それは……」
リシアは目を逸らすと、言いづらそうに口をつぐむ。
すると、ユリナは鋭い視線でリシアを見つめ始めた。
「リシアちゃん……いくらセンパイの発言が逆鱗に触れたからと言って……そういうことは、ダメです」
「はい……」
「でも……どうしちゃったんですか? いつものリシアちゃんなら、絶対にこういうことはしないのに」
ユリナは心配そうにリシアを見つめると、リシアも申し訳なさそうに見つめ返す。
――刹那、彼女らの瞳孔が大きく開いた。
「もしかして……リシアちゃんも昨日――」
ユリナは、突然、そんなことを言い出した。
すると、リシアは小さく首を縦に振った。
「……ああ、そういうことですか。リシアちゃんも……なんですね」
「……なるほど。ユリナもですか……」
二人はそう言うと、互いに視線を交差させた。
それはまるで、互いに
「えっと……一体、どういうことなんだ? 何かわかったのか?」
その中で、俺だけが訳がわからずにいた。
昨日、何かがあったのか?
一体、彼女たちは何の話をしているのだろうか。
「いえいえ、なんでもありませんよ、センパイっ!」
ユリナは誤魔化すような笑みを浮かべると、リシアに視線を移す。
「じゃあ、センパイ。リシアちゃんのことは私に任せてくださいっ!」
「い、いいのか?」
「はいっ! ちゃーんと私が、リシアちゃんと
ユリナは、満面の笑みで言うと、リシアを連れて部屋から去っていた。
さっきまでの騒ぎから一転して、部屋には静寂が訪れる。
俺はベッドに身を預けると、襲いかかる眠気に体を委ねた。
「(でも……あれ? そもそもユリナは何の為に俺の部屋に来たんだろう……?)」
瞼が落ちる瞬間、そんな疑問が脳裏をよぎった。