「実は勇者じゃない」から始まる激重美少女たちの『花嫁競争』〜勇者じゃないなら誰とでも結婚できるんでしょ?なら私と結婚しよ?   作:水葉わいん/わいん。

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第5話 聖女リシアⅣ

 

 

 

 

「――昨日は、本当にすみませんでした」

 

 翌日。

 部屋を訪ねてきたリシアは、深く頭を下げた。

 

 その表情は心底申し訳なさそうであり、本当に昨日のことを反省しているらしい。

 

「聞かせてくれないか? どうして、昨日、あんなに取り乱したのか……」

 

「それは……」

 

 リシアは、言いづらそうに俯き、言葉を濁す。

 

「……わかった。言いづらいのなら、今じゃなくてもいい。けど……」

 

 俺はリシアの手を取ると、優しく両手で包み込む。

 

「――いつか、言えるようになったら、教えて欲しいな」

 

 無理に教えろとは言わない。

 

 予想だが――昨日のリシアの暴走は過去のトラウマが生み出した傷が影響しているのではないだろうか?

 それを無理に聞き出すのは、彼女の傷を抉るようなことであり……あまりにも酷だ。

 

「ありがとうございます……やっぱり、グロウさんは優しいですね」

 

 いつもの冷酷なリシアらしくない言葉だった。

 そういえば……今日のリシアにはいつものような棘がないな……。

 

「そうだ……昨日、グロウさんに迷惑をかけてしまった代わりに、何かさせてくれませんか?」

 

「え? いやいや、大丈夫だよ。俺はリシアが落ち着いてくれるだけで十分だから」

 

 リシアは頬を膨らませると、不満げに口を開いた。

 

「そんなこと言わないでください……! 昨日の私はグロウさんの意思を無視して酷いことしてしまいました……何かさせてください……!」

 

「うーん……そこまで言うなら……」

 

 俺は何かリシアにしてもらいたいことがないか考える。

 

 そういえば、今日は冒険者ギルドで依頼を受けようと思っていたのだ。

 それにリシアにも同行してもらおう。

 

 彼女がいれば、回復や支援の面でかなり助かるからな。

 

「実は今日、冒険者ギルドで依頼を受けるつもりなんだけど……付き合ってもらえないか?」

 

 俺がそう頼むと、リシアは嬉しそうに満面の笑みを浮かべた。

 

「――勿論です。どこまでも付いていかせてください」

 

 嘘偽りが感じ取れない純粋な返事だった。

 

 ……やっぱりおかしい。

 

 いつものリシアなら、『プライベートの時間でもグロウさんと一緒に居なきゃいけないなんて、最悪です』とか言って断っているはずだろ?

 

 それが満面の笑みでの快諾だ。

 

 ……変なものでも食べたのだろうか。

 正直、調子が狂う。

 

「ええっと……そ、それじゃあ、支度をしたら行こうか」

 

 でも、リシアが優しくなってくれたのなら良いのか……?

 

 俺は困惑しながらも、無理矢理、自分を納得させるのであった。

 

 ――そのせいだろうか。

 

 俺は気が付かなかった。

 

 その時、リシアが――異常なほどに熱っぽい眼差しで俺を見つめていたことに。

 

 

――――――――――――――――――――――――――

 

「うーん……どの依頼にしようか」

 

 俺は掲示板に貼られた幾つもの依頼書を見ながら、頭を悩ませる。

 

 ここは冒険者ギルドの受付。

 冒険者たちは、この受付に存在する巨大な掲示板の中から受けたい依頼書を選び取り、依頼を受けるのだ。

 

「……ん?」

 

 俺が掲示板を眺めていると――受付の方から強い視線を感じた。

 視線を追うと――そこに居たのは、一人の受付嬢だった。

 

 不安と僅かな期待が混じったような視線……。

 もしや――

 

「グロウさん?」

 

 リシアが不思議そうに声をかけてくる。

 

「すまんリシア……依頼は俺が選んでもいいか?」

 

「勿論、構いませんよ? 何か、受けたい依頼が?」

 

「まあ……そう言う感じだ」

 

 俺は掲示板の目立たないところに貼られた依頼書を取った。

 

「これは……新人冒険者の救出ですか?」

 

 俺はリシアの言葉に首を縦に振った。

 

 依頼書には、三日前から行方不明となっているDランクパーティの捜索・救出と書かれていた。

 報酬は……居場所の捜索で銀貨1枚、救出で追加で銀貨2枚か……。

 

「……こんな報酬では、誰も受けないでしょうね」

 

 リシアは呆れながら溜め息をついた。

 一般的に冒険者の救出依頼は避けられやすい。

 

 行方不明になっているということはパーティがトラブルに巻き込まれて、危険に陥っているということだ。

 しかも、一体どんなトラブルに巻き込まれているのか……その情報は一切ない。

 つまり、未知の危険へのリスクを負いながら、人を救出しなければならないのだ。

 

 それに比べて、モンスターの討伐依頼は相手が誰なのかはっきりとしているため、皆、救出依頼よりもそっちを選ぶのだ。

 

「――でも、グロウさんは、それを受けるんですね」

 

 リシアは、ジト目で依頼書を掴んだ俺の手を見つめた。

 

「まあ……な。困っている人がいたら放って置けないし……」

 

「本当にお人好しな人ですね……」

 

「悪いなリシア。巻き込んじゃって」

 

「今更何を……あなたがそう言う人ってことぐらい、とうの昔から知ってますよ」

 

 リシアは諦めたように肩をすくめた。

 

 しかし、そこにはいつもの嘲笑や冷徹さは一切感じられなかった。

 

「ありがとうリシア」

 

 俺は依頼書を受付嬢の元へと持っていった。

 

 

 

 ――――――――――――――――――――

 

【???side】

 

 

「……オレたち……どうなるんだろうな」

 

 オレは、ダンジョンの冷たい石畳に尻を付く。

 

 仲間たちに視線を向けると、皆、疲れきった表情をしていた。

 

 オレたちD級冒険者パーティ〈不屈の風(スレイバー)〉は、ダンジョンの浅い階層でモンスターの討伐をしていた。

 

 俺たちが受けた依頼は、D級モンスター〈オーク〉の討伐だったからだ。

 

 オレたちは順調にオークを討伐し、帰ろうとした其の時――

 

 ――地面が光りだした。

 

 地面には魔法陣が展開され、発動された。

 

 次の瞬間、俺たちが居たのは重苦しい雰囲気漂うダンジョンの下層だった。

 オレたちが巻き込まれたのは転移トラップだったのだ。

 

 上層でやっとのパーティが魑魅魍魎はびこる下層でまともに戦えるはずなく、オレたちは三日三晩逃げ回って……このザマだ。

 

「……ねぇ……私たち、このまま死んじまうのかな」

 

 パーティメンバーでありながら、オレの幼なじみの少女――セナが震えた声で言った。

 

 誰も、その言葉には返事しない。

 

 オレたちがどうなるかなんて……誰も知らないし、誰も――考えたくなかった。

 

 パーティには悲壮感が漂い、誰も瞳に希望の光を宿していない。

 ただただ本能に従って逃げ惑い――いずれやってくる死に全員が恐怖していた。

 

「ねぇギル……き、きっと今頃、救出依頼を受けた冒険者が助けに来てくれてる……よね?」

 

 幼なじみは、オレの名前を呼び、目に涙を浮かべていた。

 縋るように、心の拠り所にするように、彼女は俺の手を握る。

 

「……そうだな。きっとそうだ……! だから、あともうちょっと耐えればいい」

 

 ギュッとセナの手を握り返した。

 

 そうだ、オレはみんなに頼られるパーティリーダーなんだ。

 ここでパーティの指揮を高めるのが、リーダーとしての役目だろう?

 

「よし、みんな! あの少しの辛抱だ! 助けが来るまで、なんとか生き残って――」

 

 オレは顔を上げ、無理矢理、活力に満ちた顔をした。

 

 そして、生き残ってやろうぜって、言おうとしたんだ。

 でも、言葉は途中で詰まった。

 

 ――仲間のすぐ背後に、剣を振り上げる頭が無い騎士が居たのだ。

 

 刹那、剣は振り下ろされ――

 

「ぐぅッ!!!」

 

 甲高い金属音が耳朶を揺らす。

 

 オレは、ギリギリのところで剣を仲間との間に差し込む。

 

 剣は折れ、手は痺れるものの、なんとか仲間の首をはねるはずだった剣の軌道を逸らすことが出来た。

 

「――みんな、逃げろッ!」

 

 生存本能に従うように、皆は蜘蛛の子を散らしたように一目散に逃げていく。

 

 首が無く、鉄の鎧に身を包んだモンスター……〈首無し騎士(デュラハン)〉じゃねえか、こいつ……ッ!

 

 まともに戦えばB級でさえ、全滅するって話じゃなかったか?

 ――ふざけんな、勝てるわけないッ!

 

 オレは仲間たちに続いて逃げ出した。

 

 その時、背後から馬の(いなな)きが聞こえてきた。

 まさか――

 

「なんだあれ……馬……ッ?!」

 

首無し騎士(デュラハン)〉は、骨だけになった馬に跨っていた。

 奴が剣で馬を叩くと、馬は目にも止まらぬ速さで走り出し……あれよあれよという間に、オレ達との距離を詰めてくる。

 

「ぎ、ギルッ! どうしよう!」

 

 セナが、悲鳴とも思える声で俺の名前を呼ぶ。

 

 彼女は後衛ということもあり、オレたちの1番後ろを走っていた。

 つまり――最も先に殺されるのだ。

 

 振り向きたくなかった。

 セナの絶望の表情なんて見たくない、仲間が死ぬ姿なんて見たくない。

 なによりも――想い人が死ぬとわかって、自分が命を捨ててでも助けに行くんじゃないかと怖かった。

 

「きゃあッ!」

 

 セナの悲鳴が鼓膜を揺らした。

 

 結局、オレは振り返らずにはいられなかった。

 

首無し騎士(デュラハン)〉は、セナのすぐ後ろまで迫ってきており、馬の上から剣を大きく振り上げる。

 そして、そのまま――

 

「セナッ!」

 

 気が付けば俺は弾丸のように飛び出していた。

 

 セナを斬り裂こうとする剣戟に、折れた剣をなんとか差し込む。

 あまりの膂力に手はジーンと痺れ、手首が折れそうなほどに痛む。

 けれど、諦められなかった。

 

 セナを見捨てるくらいなら――死んだ方がマシだ。

 

 オレはこの命の使い道を決めた。

 

「ぎ、ギル……ッ! なんで……! 〈首無し騎士(デュラハン)〉になんて、勝てるはずない……ッ!」

 

「でも、ここでオレが守らなきゃお前は追いつかれて死ぬだろッ……!」

 

 オレは、なんとか〈首無し騎士(デュラハン)〉の剣を受け流すと、背中を向けたまま叫んだ。

 

「――とにかくッ! セナは逃げろッ!」

 

「嫌ッ! それだとギルが……」

 

「大丈夫……ッ! 後で……絶対に合流するから! だから、逃げてくれッ!」

 

 ここまで堂々と明らかな嘘を吐いたのは初めてだった。

 

「……絶対、だからね……!」

 

 タタタッと足音は遠ざかっていく。

 この場には、殺意に満ちた〈首無し騎士(デュラハン)〉とオレだけが残された。

 

 ……これで良い。

 

「さあ……オレが相手だ」

 

 オレはキュッと剣を握る力を強めた。

 

 刹那――〈首無し騎士(デュラハン)〉の無数の剣撃がオレに襲いかかる。

 

 右腕、太もも、右頬、左肩……受け流しきれなかった攻撃がオレの体に無数の傷を作り出した。

 

 血は吹き出し、限界を超えた体は悲鳴を上げる――が、心は砕けなかった。

 

「絶対に……セナの元には向かわせねぇッ!」

 

 オレの首をはねようと振り下ろさた剣を、なんとか防いだ。

 次の瞬間――

 

 ――パキッ

 

 絶望の音が耳朶を揺らした。

 視線を落とすと、剣の刃が力に耐えられずに木っ端微塵に砕け散っていた。

 

 もう……終わりか。

 

 セナはどこまで逃げられただろうか。

 叶うなら……コイツから逃げ切って……そして、生きて帰ってくれ。

 そうじゃなきゃ……オレが報われねぇよ。

 

 剣が空気を切り裂く音がした。

 咄嗟に痛みに備えて瞼を閉じる。

 

 ――しかし、いつまで経っても痛みはやってこなかった。

 

 代わりに、鼓膜を揺らしたのは剣と剣がぶつかる金属音と

 

「――よく頑張ったな」

 

 青年の優しい声だった。

 

 

 

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