現代版宿儺みたいな清楚系天才美少女呪術師が、バタフライエフェクト的により良いハッピーエンドを連れてくる   作:五条を救いたい

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バタフライエフェクトその一

行け! 〜 


懐玉

 夏油は現在、五条と共にある任務を受けていた。

 

『天元の術式を初期化するために必要な『星漿体(せいしょうたい)』、その適合者である少女の護衛と、抹消』

 

 天元とは呪術界において最も重要な、要とも言える存在だ。

 結界術の達人であり、日本全国に結界を張り巡らせあらゆる結界の強度を底上げしている人物。

 天元の働きのおかげで各呪術高専は維持されているし、ほとんどの補助監督たちが結界術を行使できる。

 仮に天元の存在がなければ、セキュリティの維持もできないし任務の消化もままならないだろう。

 

 極端な話だが、呪術界は天元の存在によって成り立っていると言っても過言ではなく。

 

 そんな天元だが、少なくとも奈良時代から1000年以上を生き続けている。

 ――不死化の術式。

 それが、天元が生き続けることができる理由だ。

 

 しかし、その術式効果は不死であって不老ではなく。

 500年以上老いることで、天元はやがて人間ではなくより高次の存在へと『進化』を始めてしまう。

 そうなってしまえば、天元の意思は無くなってしまい天元が天元でなくなる。

 結果、呪術界の根幹を支える結界が崩壊するか、あるいは天元が人類の敵となってしまう可能性がある。

 

 ゆえに『進化』を防ぐ必要があった。

 

 そのための手段こそが星漿体との同化だ。

 500年に一度、天元は自身と適合する星漿体と同化することで肉体を一新し不死化の術式効果を初期化する。

 そうすることによって、1人の星漿体の命と引き換えに天元の『進化』は阻止され。

 呪術界が――より多くの命が救われる。

 

 しかし、この星漿体の少女の所在が漏れてしまった。

 夏油たちの役割は、天元との同化を阻止するべく星漿体の命を狙う刺客たちから守ること。

 すなわち、星漿体を護衛し無事に天元の元へと送り届けその存在を抹消する、と。

 

 これが、夏油と五条に与えられた任務の概要だった。

 

 

 

 ――そして現在。

 

 任務が始まって、2日。

 天元と星漿体との同化が予定されていた日を迎えた。

 

 呪術高専東京校最下層、薨星宮(こうせいぐう)

 夏油は星漿体である少女――天内理子の護衛を完遂し、彼女を連れて天元の座すこの場所へとたどり着いた。

 

 道中、天内の命を狙う刺客からの襲撃があり、その対処のために残った五条とは別行動となった。

 五条なら問題なく勝てるだろう。

 

 何はともあれ、これで任務は完了だ。

 あとは天内が天元の元へと向かい同化を行うだけ。

 

 ――が、しかし。

 

「帰ろう。理子ちゃん」

 

「うん!」

 

 夏油は目の前で涙を流す少女へと、手を差し出した。そして天内は笑顔でその手を取った。

 

 そして、来た道を戻る。

 星漿体の到着と同化を待つ天元へと背を向けて、自らと親友の信じた道を進むため。

 涙を流し『みんなと一緒にいたい。もっといろんなところに行って、いろんなものを見たい』――そんな当たり前の日常を望む1人の少女の未来を守るため。

 

 夏油は選んだのだ。

 たとえそれが大義に背を向ける道であっても。

 

「…………こ、これで二人が天元様の反逆者みたいなことになったらどうしよ」

 

「もしそうなったら私たちは呪詛師か。ま、呪詛師になったから悪いことをしなければならないわけじゃない。ダークヒーローみたいなのも、面白そうだ」

 

 夏油は、不安そうにする天内に笑い飛ばす。

 

 ――これでいい。

 夏油は、本心からそう思っていた。

 

 天内に言った言葉も別に冗談というわけじゃない。

 仮に呪術界から呪詛師と呼ばれる存在になったとしても、あえて悪を為す必要はない。

 悪として、悪を裁く。

 そうやって人を助け、守ることはできるのだ。

 

 後悔なんて微塵もない。

 それどころか、任務が進むにつれ少しずつ積もっていた心のモヤが一気に晴れたような気分だった。

 

 今はとても気分が良い。

 

「それに、何度も言うが私たちは最強だ。どんなことがあっても大丈夫さ。だから、理子ちゃんも安心していいよ。君のことは私たちが守る」

 

「う、うん! ありがとう!」

 

 夏油の言葉に天内は照れくさそうに笑う。

 

 だが。

 あ、と思い出したように顔をする夏油。

 

「…………私と悟の討伐のために、もしも廿楽さんが来たらそのときは終わりかもしれない」

 

「えっ、最強じゃないの!?」

 

「ははは。私たちはたしかに最強だが、世の中には私たちがまだ勝てない人もいるんだ」

 

「最強じゃないじゃん!」

 

「まあ、大丈夫だ。悟は廿楽さんに嫌われてるから殺されるかもしれないが、私は仲が良いから。私と理子ちゃんを見逃すくらいはしてくれるはず。怒らせると怖いが、基本的には温厚で優しい先輩だからね」

 

 口ではそう言いつつ、冷や汗を流す。

 

 ――最悪、悟を囮にして逃げよう。

 夏油はそう決意した。

 

 と、そんな話をしているうちに薨星宮の出口も近づいてきた。

 しかし、そこにあったのは目を疑う光景。

 

「っ! 黒井!」

 

「待った、理子ちゃん!」

 

 飛び出そうとする天内を静止する。

 

 血を流し倒れる女性。

 天内の世話係――黒井だった。薨星宮の奥へと向かうにあたり、彼女とはここで別れていた。

 そんな彼女が、倒れ伏し血を流している。

 

 その隣には大柄の男が立っていた。

 ここまで来る途中、天内の命を狙って襲撃してきた刺客の男だった。

 だが、こいつには五条が残って相手をしていたはず。

 

「あ? なんで戻ってきてんだ。ずいぶんと時間をかけちまったから、間に合わないかと思っていたが…………どうやら今日の俺は珍しく運が良いらしいな」

 

 にやりと笑う男。

 

 夏油は冷静にその様子を観察する。

 右手には拳銃を持っている。

 あの拳銃は呪具ではない。男自体からも不自然なほどに一切の呪力を感じない。

 本来、非術師でも微弱な呪力を持つ。

 天与呪縛だろう。

 完全なる呪力からの脱却。夏油は、噂程度にそれらしい話を聞いたことがあった。

 

 呪具を持たず、体から呪力を出さず。

 呪術的に感知されない透明人間となって薨星宮の結界をすり抜けたのだ。

 最初に遭遇したときは剣を持っていたはずだが。捨てたか、あるいは何か理由があるのか。

 

 左腕はここに来てから一度も動かしていない。おそらく、動かないのだろうと察する。

 

 いや違う。

 そんなことよりも、そもそも。

 

「なんでオマエがここにいる」

 

「なんでって…………あぁ、そういう意味ね」

 

 男は笑い、言った。

 

「――五条悟は俺が殺した」

 

「そうか」

 

 その言葉を聞いて、夏油は。

 即座に呪霊を呼び出した。

 

「――――――――死ね」

 

 竜の姿をした呪霊が、男へと突進する。

 

 相手の得物は銃。

 銃ではこの呪霊は倒せない。

 ゆえに避けるだろうと考えて、実際に男は距離を取った。

 

 狙い通り。それでいい。

 

 男が離れた直後、呼び出しておいた呪霊が倒れ伏していた黒井を回収して夏油の手元に引き寄せた。

 

 そして夏油は、呪力を()()()()()()

 

「黒井は?!」

 

「大丈夫。間に合ったみたいだ。怪我は治したから、しばらくすれば目が覚めるよ」

 

「よかった……!」

 

 ホッと、息を吐く。

 ひとまず黒井は助けることができた。

 

 気がかりなのは五条のことだが、夏油は努めて考えないように不安や焦燥を呑み込む。

 とにかく今集中するべきは、目の前のことだ。

 

「へぇ、反転術式使えるのか」

 

「私には尊敬する先輩がいてね。その人に頼んだら、快く教えてくれたんだ」

 

 男と対峙する。

 

 もしも彼が言った通り、五条を殺したというのならばその実力は相当なものだろう。

 しかし、片腕を使えない状態だ。

 きっと五条との戦いで支払った代償なのだろう。

 術式を持たず、体術のみで戦うこの男にとって片腕のハンデは大きい。

 万全でないならやりようはあるか。

 

 ただし、こちらは天内と黒井を守る必要がある。

 

 総合的に考えて良くて五分、ならば問題なし。

 

 夏油は笑う。

 周囲に無数の呪霊を呼び出して、天内と黒井には指一本触れさせないように。

 そして、自身も拳を握り構えた。

 

「守ると決めたんでね――カッコつけさせてもらうよ」

 

「お゙え゙。せいぜいあがけよ、色男」

 

 男は口から呪霊を吐き出し、その呪霊の口からさらに呪具の剣を取り出した。

 そういう絡繰だったのか。

 だが、そんなことはもうどうでもいい。

 

 とにかく、目の前の敵を排除し天内たちを守る。

 夏油が考えるのはそれだけだった。

 

「死ね」

 

 操られた呪霊たちが、殺到するように男へと襲いかかっていく。

 しかし男は片手に持った剣で容易く捌く。

 

 その動きは速く、剣は鋭く。

 圧倒的な身体能力だ。

 片腕のハンデなどまるで存在しないかのように、次々と呪霊を斬り捨てていく。

 

「烏合だな」

 

「そうでもない」

 

 夏油は新たな呪霊を呼び出す。

 

 上空に現れたそれは、石像の姿をした呪霊だ。

 等級は一級。

 術式を持っており、その術式効果は術式発動時間に応じた重量の負荷を対象に与える。

 

 100キロから始まり、1秒ごとに10キロ加算。

 

 突如として与えられた重量負荷に、男の動きが一時的に鈍る。

 その隙をついて、呪霊が一斉に襲いかかった。

 

「数は力だ」

 

「チッ」

 

 男の体にまとわりつく呪霊の口からどこまでも続くような長さの鎖が吐き出される。

 片腕で器用に鎖を振り回し周囲の呪霊を退けると、男は飛び上がって石像の呪霊へと剣を突き立てた。

 

 煙となって消える石像の呪霊。

 

 しかし、上空に飛び上がり身動きの取れない状態となったのを見逃さず、男へと呪霊をけし掛ける。

 

 男は()()()()()逃れ、呪霊を真っ二つに斬殺した。

 

「化け物が」

 

「なるほど、悪くねえ」

 

 攻防は続く。

 

 男は圧倒的な身体能力によって、夏油が呪霊を呼び出すたびいとも簡単に屠っていく。

 どんな呪霊を出しても、さまざまな武器とそれらを万全に扱う戦闘技術によって対応してしまう。

 もちろん、まったくダメージを与えられていないわけではない。だが、致命傷や戦況に響くような怪我は上手く避けられてしまっているのが現状だった。

 

 夏油の方も何度か男の重い攻撃を受けた。

 天内と黒井だけは指一本触れさせることなく、死守していた。しかしだからこそそこに隙が生まれてしまい、男は的確にその隙を突いてきた。

 反転術式で回復はできる。

 呪霊操術は呪力の効率が良く、術式自体にあまり多くの呪力を必要とはしない。

 とはいえ、莫大な呪力を消費する反転術式をあとどれほど行使することができるだろうか。

 

 それに、呪霊も無限ではない。

 弱い呪霊ならばまだまだ呼び出せるが、そのような呪霊を使う意味がどれほどあるのか。

 ゆえに強力な呪霊を優先的に使うことになるのだが、それでさえ次々と倒されていくものだから、その貯蓄がかなりのペースで減らされていく。

 

 反転で目減りする呪力。

 削られる呪霊。

 あと、どれほど戦闘を続けることができるのか。

 力尽きる前に敵を排除できるのか。

 

 夏油は戦いの中で冷静に思考を回転させて、薄い可能性の中で勝利を掴もうと足掻く。

 

 そんな中、夏油の視線の先に見知った影が現れる。その姿を見て夏油の顔に歓喜が浮かぶ。

 

「悟!」

 

 五条だった。

 服や白い髪には多量の血痕が残り、幽鬼のように立っているその姿まるで死体のような様相。

 しかし、本人の体に傷はなく。

 その青い目は、殺意と興奮に爛々と輝いていた。

 

 殺されたと思っていた親友の登場。

 安堵と歓喜。

 その無事な姿を見た夏油の脳内は、逆に冷静さを失ってしまい埋め尽くされていく。

 奇しくも。

 死の淵から現れた親友の存在が、戦いの最中にある夏油の致命的な隙となる。

 

「そうか、よかったな。死ね」

 

「っ!」

 

 刹那。

 安堵と歓喜の隙間を縫う男の刃が、夏油の喉元に迫る。

 

 しかし、五条は。

 すでに術式を回していた。

 

「術式反転――『赫』」

 

「グッ!?」

 

 目の前に迫っていた男が、その刃が夏油の首を斬り裂く間際に突如として吹き飛んでいく。

 

「悪い、傑。少し寝てた。状況は…………天内は()()()を選んだんだな」

 

「詳しい話は後だ。まずは目の前の敵を倒すよ」

 

「ああ」

 

 夏油と五条が並び立つ。

 

 おそらく、五条は死の間際に反転術式を習得して生還したのだろうと夏油は察する。

 衣服についた血痕と傷のない体を見ればわかる。

 

 さっきの術式も、五条本人の口から聞いたことのある『無下限呪術』のもう一つの力。

 無限を収束する『蒼』の逆。

 無限を発散する『赫』、術式の反転。

 

 何はともあれ、天内のことも含めて詳しい話は後。

 

 夏油と五条は2人で最強だ。

 もはや負ける気など、微塵も感じなかった。

 

「ハッ、クソだな。殺しただろお前は」

 

 五条の術式によって壁に叩きつけられた男は、口から血を吐きながら立ち上がる。

 満身創痍。

 片腕は使えず、頭から血を流し、吐血し。

 

 反対にこちらはほぼ万全。

 夏油は呪力こそ減っているが、反転で自身の体を治しているのでダメージはなし。

 天内と黒井も見事に守りきった。

 五条も死から生還した影響か一種のトランス状態のようになっているみたいだが、呪力も体も万全。

 

 この状況、つまり――勝ちだ。

 

「傑、そのまま天内たちを守っていてくれ。こいつは俺が殺す。この力を早く試したい」

 

「まったく、良いところだけ持っていくつもりか?」

 

「悪いな!」

 

 ニヤリと笑って、五条は前に立つ。

 

 術式を回し。

 その手を、満身創痍の男へと向ける。

 

 そして。

 

「術式――――あ゙? 何のつもりだ?」

 

「見ての通りだ」

 

 男は武器を捨てた。

 武器庫となっていた呪霊も遠くへと投げ捨て。

 

 動かせる右手を無抵抗に上に上げる。

 

「降参する。そっちの呪霊操術だけでも殺しきれてねえのに、覚醒した無下限まで相手できるか。割に合わねえ。億積まれても受ける仕事じゃねえよ」

 

 予想外の降参。

 

 だが、夏油は納得する。

 この男は仕事と言った。つまり、盤星教など天内の命を狙う組織に所属しているわけじゃない。

 部外から金で雇われた、暗殺者の類なのだろう。

 

 片腕が使えず、ダメージは大きく満身創痍。

 そんな状態で夏油と五条を同時に相手するなど、彼我の戦力差を考えればただの自殺志願者でしかなく。

 ましてや金で雇われただけ。

 であれば、手を引くというのは当然の行動。

 

 仮に、あの男に意地や()()()があったとしても。

 それを張るレベルの状況ではなくなっているだろう。

 

 ただし、致命的な問題があるとすれば。

 こちら側がそれを呑むわけがないということだが。

 

「あ゙あ゙!? 認めると思ってんのか!?」

 

「落ち着けよ。タダで見逃せなんて言わない。取引だ」

 

「取引?」

 

「はぁ!? 知るか、お前は俺に殺させろ!」

 

「少し落ち着け、悟」

 

 夏油はため息を吐いて、暴れる五条の首根っこを掴んで静止する。

 

 別に取引がどうとか、そんなものを考えずこの男を殺してしまっても良いと夏油は考える。

 だが、話くらいは聞いても良いだろう。

 仮に五条が死んでたら。

 天内や黒井が死んでいたら。

 問答無用で、この男を殺す以外の選択肢はなかった。

 

 だが、現状はこちらの被害は軽微。

 

 殺されかけた五条は自力で復活し、同じく死の間際にあった黒井の命は間に合った。

 ならば、さほどの恨みもすでになく。

 戦闘の熱も冷め始めていた。

 

「聞こうか」

 

「ずっと疑問に思っていた。なんで星漿体が引き返してきたのかってな。理由は知らねえが、同化すんのをやめたんだろ。で、お前はそれに手を貸した」

 

「その通りだ」

 

「だが、それは問題だ。天元に逆らったとなれば、お前は無事ではいられない。呪術界から追放され、討伐対象になるだろうな。特に腐った上層部は許さねえ」

 

「覚悟の上だ」

 

 男の推察は当たっている。

 

 天内を助け、天元との同化を阻止した以上夏油の立場は呪詛師と何ら変わらない。

 追われる身になるだろう。

 だけどそれは、すでに覚悟をしたこと。

 

 今更な話でしかない。

 

 だが、男はここからが本題だと続けた。

 

「そこで、俺だ」

 

「何が言いたい?」

 

「俺が星漿体を攫う。もちろん殺さねえし、危害も加えねえ。俺を雇った連中のところには戻らねえし、先に受けた仕事はバックレる。むしろ星漿体を護衛してやるよ。そしてお前たちは、晴れて任務失敗だ」

 

「…………つまり、()()()()()()にしろと?」

 

「話が早いな」

 

 男の言う『取引』を理解する。

 

 夏油は天内を助けたい、そして男はこの場を見逃す代わりにその計画に協力すると。

 

 もしも夏油が天内を連れ去れば、男が先ほど言ったように呪術界から追放され追っ手がかかることになる。

 だが、この男が天内を連れ去れば。

 夏油たちは任務失敗となり――それだけで終わる。

 

 後はほとぼりが冷めるか何らかの理由で天元の同化が不可能になったところで、『救出に成功した』とでも見せかけて天内の身柄を引き取ることができれば。

 そうすれば、すべてが丸く収まると。

 天内は同化を免れ。

 夏油も五条も、呪術界を追放されることはなく。

 

 なるほど名案だ。

 

 逆転の、これ以上ないほどの冴えたやり方だ。

 

 だが、と夏油は首を振った。

 

「断る」

 

「あ゙?」

 

「元より私は覚悟の上だ。悟もそうだろう?」

 

「ああ。天内が選んで、傑が決めたんなら俺はそれでいい。最初からそういう話だったろ」

 

 夏油の問いかけに、五条は当然とうなずいた。

 

「馬鹿なのか?」

 

「そうだな。私たちは馬鹿だよ。だが、たとえどれほど有意義な取引だったとしても、オマエの手に一秒たりとも理子ちゃんを委ねるわけがないだろう。指一本触れるな。彼女は私たちが守ると決めたんだ」

 

「そーいうこと。じゃ、そろそろ殺すな?」

 

「チッ、ガキの遊びかよ」

 

 これにて、交渉は決裂。

 

 男は武器を再度構え。

 夏油と五条も臨戦態勢をとった。

 

 しかし、そのとき。

 夏油の後ろで黙って話を聞いていた天内が、意を決したように声を上げる。

 

「わ、私は、それで良いと思う!」

 

「理子ちゃん?」

 

 それは予想外の行動だった。

 

 決意を込めた目で、天内は夏油たちを見る。

 

「それで2人が呪詛師にならなくて済むなら、その方が良いって私は思うの」

 

「いや、私たちは別に構わないが」

 

「私が構う! それしか道がないならともかく、そうじゃない道があるなら絶対にそっちの方が良い! っていうか、何で断ったの!? 私のことを考えてくれてるのは嬉しいけど、どう考えても名案だよ!」

 

 天内は叫ぶ。

 

 そりゃそうだ。

 男の提案した取引が、有意義なことであるのは夏油も五条もわかっている。

 

 だが、しかしである。

 

「ハッ、良い歳した馬鹿な男どもより中学生の小娘の方が道理がわかるらしいな」

 

「…………天内、コイツとしばらく一緒だぞ。俺たちがいつ迎えに行けるかわからねえ。もしかしたら、数年かかるかもしれねえ」

 

「うっ、それは…………我慢する」

 

「理子ちゃん、無理しなくて良いんだ。一緒に行こう」

 

「む、無理じゃないもん!」

 

 夏油と五条は説得を試みる。

 

 しかし、天内の意思は固く。

 彼女の中では、この取引を受けることがすでに決定事項となっているようだった。

 

 天内の意思を無視することはできる。

 夏油も五条も、追われる身になっても良いと本心から思っている。

 だが、彼女の決断を無為にするのもどうか、と。それはそれで、天内のためにはならない。

 守ると決めたのに、さっそくこちらの感情や都合でその意思を捻じ曲げてしまうのかと。

 

 夏油は頭を悩ませ葛藤した。

 

「…………私も、理子様についていきます。お二人が連れ戻すまで、決して一人にはさせません」

 

「あ、黒井!」

 

 気絶していた黒井が起き上がる。

 

 話を途中から聞いていたのか、彼女は天内の意思を尊重する形をとった。

 代わりに自分が近くにいると。

 そう言った。

 

「さっき言ってたよ。私がどんな選択をしても、未来を保障してくれるって。それなら、私はみんなが一番幸せになれそうな選択をしたい!」

 

「…………それを言われたら、困るな」

 

 夏油は苦笑する。

 

 これでは、天内の選択を無視して自分の意見を押し通す正当性がなくなってしまう。

 仕方なく、夏油は首を縦に振った。

 

「わかった。ただし、オマエ…………名前は?」

 

「伏黒」

 

 男――伏黒に夏油は告げる。

 

「じゃあ、伏黒。必ず理子ちゃんを守れ。黒井さんもね。決して危害を加えず、誰にも危害を加えさせず。私たちが二人を迎えに行くまで、その命を懸けて絶対に守れ。縛りを結んでもらうぞ」

 

「ああ、それでいい」

 

 伏黒はうなずく。

 

 これにて取引は成立。

 夏油たちがこの場で伏黒を見逃す代わりに、二人を守るよう縛りで約束させた。

 

 その後、夏油は反転術式で伏黒の怪我を治しておく。敵であるならこんなことはしないが、これからは天内たちを守る役目をコイツが担う。

 手負のままでは、万が一が起こり得てしまう。

 

 そうして、夏油たちは別れることになった。

 

「――必ず、迎えに来てね!」

 

 その言葉を最後に、天内は黒井ともども伏黒に連れられて去っていった。

 

 それを見送った夏油はつぶやく。

 

「…………これで本当に良かったのだろうか。結局、私たちは保身を優先したのか?」

 

 保身。

 そう、保身だ。

 

 天内の意思を尊重したと言えば聞こえはいいが、結局のところ夏油たちは保身をとったような形だ。

 呪術師のままでいられる。

 任務失敗のペナルティはあるだろうが、追われる身となることと比べれば大した問題ではなく。

 

 天内の選択を都合良く利用し、彼女を守るなどと言いながら自らの保身を優先した。

 そんな風に考えることもできてしまった。

 

「それに、私たちの会話も。成り行きも。取引も。すべて天元様は見ていたんじゃないのか」

 

 ここは薨星宮。

 天元の膝元だ。もしかしたら、先程のやりとりをすべて把握しているかもしれない。

 そも、天元は結界で日本中を見ていると聞く。

 

 もしそうだとしたら、自分たちのやったことも天内の選択や決意もすべてが最初から無駄なのかもしれない。

 

 夏油は本当にこれで良かったのかとため息を吐いた。

 

「ま、いいんじゃねえの?」

 

 しかし、五条はあっけらかんと笑い飛ばした。

 

「俺たちは最強だ。仮に天元様と敵対することになったとしても、他にどんなことが起こったとしても、何とかなるさ。そうだろ?」

 

「…………フッ、そうだな。私たちは最強だ」

 

 まったく心強い相棒だ。

 夏油もまた、悩みや葛藤を笑い飛ばした。

 

「あ、廿楽さんには連絡して話を通しておかないとね。理子ちゃんの救出任務がうっかり彼女に振られたら、伏黒が殺されてすべてがパァだ」

 

「いや、反転を習得した今の俺ならあのちびっ子にも勝てる。ついに最強を証明する日が来たかな」

 

「…………ま、悟の武運を祈っとくよ」

 

 そうして今回の任務は終わる。

 任務失敗という、素晴らしく後味の()()結果に2人はお互い笑い合って拳をぶつけたのであった。

 

 

 

『星漿体、天内理子。同化までの護衛、及びその抹消。天内理子の誘拐によって――任務失敗』

 

 

 

 




 バタフライエフェクト解説のコーナー
①藍花の存在による影響で、五条と夏油が原作よりも鍛えて強くなる。
②五条と甚爾の戦闘時間が長くなる。五条は敗北するが、甚爾の片腕を封じることに成功。
③五条と甚爾の戦闘時間が長くなったおかげで、夏油と天内は無事に薨星宮を引き返す。(天内生存)
④黒井が斬られた直後に間に合う。夏油は藍花に教えを乞い反転術式を習得していたので、黒井を治すことができて助けることに成功。(黒井生存)
⑤夏油が原作よりも強い&甚爾の怪我で、天内たちを守りながら対等に戦うことができた。
⑥五条復活。怪我がなく、五条だけなら甚爾は原作通り挑んだが状況的に無理だと判断。降参し、夏油たちに取引を持ちかける。(甚爾生存)

 多分、そんなにご都合主義感はないと思う。
 はず。
 あ、あ、石を投げないで…………
 

◾️天元
「あ、他の星漿体と無事に同化しました(大嘘)」

 > 大 本 営 発 表 <

 壁に天元、障子にも天元。
 成り行きも天内の逃亡計画もすべて聞いてたけど、自分のために犠牲になる星漿体に対して思うところがあったのでほなええかと受け入れる。
 寛大な心で天内も五条&夏油も許した。


◾️天内理子
 バタフライエフェクト的に生き残った。

 天元の大本営発表(大嘘)のおかげで、わりと早めにシャバに戻ることができた。
 今は五条の下で保護されている。
 普通の女の子に戻った。普通の女の子なのでのじゃとか妾とかはもう言わない。
 学校にも無事に戻ることができた。

 自分の護衛があったとはいえ、まったく働かないし、生活力もなく、賭け事にハマっている甚爾のことをまるでダメなオッサン――略してマダオだと思い始めている。


◾️黒井
 バタフライエフェクト的に生き残った。

 すべてが丸く収まって、変わらず天内と一緒にいることができて人知れず涙した。
 今は天内のことを家族として、誰よりも大切に思いながら幸せな日々を送っている。
 伏黒のことはマダオだと思ってる(確信)。


◾️マダオ
 バタフライエフェクト的に生き残った。

 原作では覚醒した五条を殺して、自分を否定した呪術界を否定してやると挑んでしまった。
 気の迷いである。
 本来のマダオは無駄な戦いはしない主義。
 この二次創作では、そんな気の迷いが湧き出てくるような状況でもなく即座に降参。
 結果的に生き残ることができた。

 戦闘力が高いだけのマダオ。
 天内と黒井が五条に保護される際、強さを見込まれてマダオも私兵として雇われた。
 祝、定職。
 敗北や定職についたことから心境の変化があり、過去に捨てしまった恵と津美紀を回収。
 二人を五条家の保護下に入れさせた。

 なんだかんだ、根本的に恵への愛がある不器用なマダオ。この二次創作ではその愛が少しは伝わってほしいけど、無理なんじゃねえかな。
 だってこいつ、マダオだしな。


◾️伏黒恵
 原作よりも早くに五条に保護される。
 彼の物語はまだ先の話。


◾️伏黒津美紀
 五条に保護されていて、近くにマダオがいる状況なので原作よりも安全地帯にいる。
 さすがに羂索もリスクが大きくて手を出さないかな。
 万の器は別の誰かへ。

 義父であるマダオよりも黒井に懐いている。

 バタフライエフェクト的に生き残るのがほぼ確定。


◾️夏油傑
 今回一番頑張った人。
 書きながらコイツかっこいいなと作者は思った。

 反転術式は藍花に教えてもらった。
 五条にはできないアウトプットもできるので、五条が覚醒しても原作ほど置いていかれたとは思ってない。
 というか五条が強くなったところで、もっと上(藍花)がいるので気にする余裕はない。

 少し冷静に考えれば、呪霊操術を持つ夏油には五条にはない強みがあるので、置いていかれたとかそういう次元の話ではないことに気づける。
 そもそも強さの向いているベクトルが違うのだ。
 違う形の最強を目指そうね。

 ・闇堕ちゲージ
 ◼︎◼︎◻︎◻︎◻︎◻︎◻︎◻︎◻︎◻︎
 呪霊を取り込む際のスリップダメージがあるので、どうしてもゲージはゼロにはならない。
 今回、原作と違って天内も黒井も助かり盤星教の猿ムーブも見てないのでノーダメージ。
 この調子で光の夏油のままでいてほしい。


◾️五条悟
 藍花の存在によって原作よりも強くなった結果、マダオの片腕を封じるダメージを与えることに成功。
 時間も多く稼ぎ、黒井が死ぬ前に夏油が間に合った。

 とはいえ原作通り勝つことはできず、死に際に呪力の核心を掴み反転習得。
 何とか復活することができた。

 この話のすぐ後に大本営発表(大嘘)があり、想定よりかなり早く天内と黒井を迎えに行った。
 その際にマダオも雇う。
 強くて役に立ちそうだし、野放しにするには普通に危険すぎるだろってことで自分の下に置くことにした。

 その後、マダオから恵と津美紀のことを聞いてそっちも保護した。
 クソガキな五条だが、想像を絶するろくでなしクズなマダオの事情を知ってクソガキながらもヒいた。

 消化不良だったので藍花に喧嘩をふっかける。
 天上天下唯我独尊もやった。
 茈も撃った。
 負けた。

 最近はどうにかして水の中で呼吸する方法を模索中。
 多分無理だと思う。


◾️廿楽藍花
 まだ二話目なのにまさかの未登場で終わる清楚系天才美少女呪術師。
 主人公の姿か…………これが?

 夏油からアドバイスを求められたので、快く反転術式の習得に力を貸した影の立役者。
 教え方はかなり上手かったらしい。
 戦闘時以外は基本温厚なので、普通に接している限りは優しいし面倒見の良い素晴らしい先輩。
 五条にもアドバイスを求められたが教えなかった。理由は後輩のくせに生意気だから。
 まずはちびっ子って呼ぶのやめるとこからじゃんね。

 ▼一方その頃(藍花ちゃん物語①)
 姉妹校交流会の少しあと、遠縁ではあるが親戚ということで禪院家にお呼ばれした。
 その際になんか京都弁でうさんくさそうな声(CV.遊佐浩二)のやつがダル絡みしてくる。
 女がどうとかチビだとかあっち側がどうとか嫌なこと色々言ってくるし、態度も性格も悪いのでとりま「めっ!(暴力)」してボロ雑巾にしてから舎弟にした。
 学校に行ってなかったらしいので、一年遅れではあるが京都高専に新一年生として編入(強制)させる。

 廿楽藍花は礼儀や作法に厳しい。
 このボロ雑巾が二度とふざけた言葉を吐かないよう、厳しく指導してわからせている最中。
 指導方針は力とパワーと拳と暴力。
 性根以外は能力も素質も根性もある舎弟なので、育成ゲームみたいな感じで楽しんでるしとても期待している。

 それはそれとして、最近はバンザイ体操に限界を感じつつあって不安を感じてる。
 豊胸マッサージも始めようとしたが、揉めるだけの最低限すらなかったので断念。
 そんな中、藍花は豆乳へと活路を見出した。


◾️ボロ雑巾
「女のくせに特級術師なんやって。悟君に勝ったんやって。貧乳のチビなんやって。三歩後ろ歩かへん女なんやって。どんなショボくれた乳しとんのやろ。どんな惨めな身長しとんのやろ」
「めっ!(暴力)」
「ドブカス…………がぁ!(ボロ雑巾)」

 藍花に舎弟にされ、強制的に京都高専へとぶち込まれ、日々ボロ雑巾にされてるボロ雑巾。
 可哀想なボロ雑巾…………!! ひとえにテメェがドブカスなせいだが…………(豹変)
 ドSロリによるあまりにも雑な仕打ちと、普通に血反吐を吐いたりする過酷な指導を前に毎日「このチビ、人の心とかないんか?」と枕を濡らしてる。
 違う意味で『あっち側』の光景を何度も幻視した。

 キツすぎて泣くことはあるけど、なんだかんだ本心では『あっち側』に立っている藍花から指導してもらえる立場を悪くは思っていない。
 追いつかんとする向上心はめっちゃある。努力を惜しむようなタイプでは決してない。
 藍花もそこはちゃんと評価してる。
 でも相変わらずドブカスなので、性格面で矯正されて綺麗に漂白されるまではボロ雑巾にされてしまう運命。

 きっとその内、人の心を得た綺麗なドブカスとなってみなさまの前にお出しされることになるでしょう。


◾️羂索(ママ)
「失ッ敗ッ! 天元同化失敗ッッ!! 天元同化失敗ッッ!! 天元同化失敗ッッ!! 天元同化失敗ッッ!! 天元同化失敗ッッ!!」
「してェ…………混沌してェ〜〜〜〜〜」

 五条やらロリやら障害が多すぎるクソみたいな時代だけど、因果が壊れたことに大歓喜。
 野望と策謀とワクワクが止まらない。
 逆に言うと、五条とロリ以外は状況が都合良すぎて引くに引けなくなったとも言える。
 多分今が絶頂期。
 相変わらず余命というか運命は短いので、今のうちに存分に笑えばいいと思うよ。

 おめでとうメロンパン! さあ、みんなも!
 おめでとう!
 おめでとう!
 おめでとう!
 おめでとう!
 おめでとう!
 おめでとう!
 おめでとう!
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