《ヴァイナルの花》は、枯れないとされていた。
それは谷あいの神殿の最奥、石の祭壇の最奥、花瓶に納まりながら季節も年月も拒むように、常に透き通った透明を宿していた。人々はそれを永遠の証と呼び、やがてそれ自体が神の肉体であると信じるようになった。
ヴァイナル教団は、花を中心に築かれた。
生老病死を超越した存在が、ここにある。
ならば世界は意味を失わない──そう説く教義は、疲れ切った者たちの心を強く掴んだ。
巡礼者は絶えず、祈りは昼夜を問わなかった。
神官たちは花の前で祝福を与え、信者たちは人生の苦難を《一時の曇り》として耐えた。花は変わらなかった。だから教団も、世界も、変わらないと信じられていた。
最初の異変は、誰もが見逃せるほど小さなものだった。
花弁の縁が、ほんのわずかに欠けていた。
「光の加減だ。永遠は人の目には測れぬ」
大神官の言った言葉に信者たちは頷いた。
疑う理由がなかった。疑うことは、人生を再び不確かなものへ引き戻す行為だったからだ。
だが、欠けは増えた。
次の月には、花弁の一枚に細かな亀裂が走った。
さらにその次には、石の床に透明な粉が落ちているのが見つかった。
砕けたのだ、と誰もが理解した。
理解してしまったがゆえに、口には出さなかった。
教義は少しずつ書き換えられた。
「花は試練を受けている」
「信仰の深さが、花の完全さを支える」
信者たちは、より強く祈るようになった。
祈りは救いではなく、修復の作業に変わった。
誰かがつまずけば、花が砕ける。
誰かが疑えば、永遠が崩れる。
やがて、花は明確に崩壊し始めた。
厚かった花弁は剥がれ落ちていく。
それは神々しさよりも、不気味さを感じさせた。
巡礼者は減った。
祈りの声は、言い訳と罵倒を含むようになった。
「信仰が足りない者がいる」
「裏切り者が混じっている」
教団は内側から腐っていった。
神官たちは互いを疑い、役職を守るために教義を盾にした。
花はもう、永遠の象徴ではなかった。
失敗の証拠だった。
最後の夜、祭壇にはわずかな残骸しか残っていなかった。
灰のように積もり、芯は触れれば崩れそうだった。
神官長は独り、花の前に立った。
信じていたのは神か、永遠か、それとも「変わらない」という幻想か。
答えは、砕け散った後にしか現れなかった。
翌朝、神殿は閉ざされた。
ヴァイナル教団は、記録の中でのみ語られる存在となる。
人々は再び、枯れる花を育て始めた。
季節ごとに咲き、散る花を前に、有限であることを受け入れながら。
永遠は救いだった。
だが、砕ける永遠は、希望よりも深い絶望を残す。
石の床に残った塵は、やがて風にさらわれ、どこにも残らなかった。
それでも、人々の記憶の中で、《