竜として異世界に転ず   作:暁悠

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第14話 漲る力、迸るマグマ

 明くる日。

 時間は、ぴったり正午といったところだろうか。

──そろそろだろう。

 

「ルディア」

「もういいのかい? まだ、不安が残っているように思うけど?」

 

 何を言っているのやら。

 そんなの、不安に決まっている。今から戦うのは、この異世界で初めての障壁だから。

 

「不安に決まってんだろ。でも、同時に安心もしてる。いざって時は、お前が止めてくれるだろうし」

 

 なので、俺はそう言ってはにかむ笑顔を浮かべるのだ。

 俺にはルディアがいるので、何の心配もしなくていい。最悪の場合でも、俺が死ぬ事はないだろうなと思える。

 それに、『形態変化(トランスフォーム)』もバッチリ習得済みだ。

 

──あの時々こそ、怒りに身を任せて使った力。

 

 もう、負ける気はない。

 

──しかし、今日は違う。今日は戦って、勝つためにこの力を(ふる)う。

 

   ◇◇◇

 

 ルディアによる『転移』スキルで、あの荒れ地に舞い戻ってきた。

 見渡してみると、広大な荒れ地の真ん中に、男がいた。真っ黒な長髪に、ギラギラと輝く真っ赤な瞳を持った、美しい男。

 見紛うはずもない、シュトルツである。

 

「やっと来たか」

「ああ、準備に手間取ってな」

 

 そんな会話を交わして、お互いに戦闘態勢を取る。

 

「あの剣は使わないのか?」

「ああ。熔けちゃいけない(・・・・・・・・)んでな」

「なに?」

 

 如何に魂を使用した剣であろうとも、俺の〝熱〟には耐えられない可能性があった。

 なので、黒銀蒼の竜剣(カレドヴルッフ)は使わない。

 

「さぁ、()ろうか」

 

 そう呟きながら、俺は肉体に宿る属性概念を変化させていく。〝火・水・土・風〟──自然四大属性を均等に統べていたものを、極熱──〝炎〟だけに一極化させて。

 俺の純白の長髪が燃え滾る炎のような紅蓮の色に変化する。後ろ髪がチリチリと音を立て、灼け落ちた。長かった髪は、俺自身の熱によって短髪になるまでに灼ける。

 体が灼けるように熱い。これだ、この感覚だ。

 力が漲る。魂が燃える。

 迸るマグマのような力が湧いてくる。

 名を冠するとするならば──

 

燃え滾る竜(ボルケーノドラゴン)……カッコイイ名前だろ」

 

 これがピッタリなのではなかろうか。

 

「アハハっ、ピッタリじゃないか! さて、どうなるかな?」

 

 ルディアもこう言ってくれているしね。

 もう、負ける気がしない。俺の視界にあるのは〝勝利〟の二文字のみだ。

 

「フンッ、少し姿が変わったくらいで、オレが負けるとでも──」

 

 やっぱり、油断しているな。ま、俺の勝機はそこにしかないわけだが……笑えるほど上手く行ってしまった。

 

「ふぐぅっ!?」

「遅い」

 

 シュトルツ……コイツは、さぞや困惑した事だろう。

 当たり前だ。つい一秒前まで目の前……それも、拳など届くはずもない位置にいたのが、急に懐に現れてブン殴られていたのだから。

 

 核熱ロケットというものがある。原子力推進……またの名を〝核熱推進〟というのだが、それを利用したロケットの事。

 原理としては、核分裂炉又は核融合炉が生み出す高熱により、直接推進剤──多くは水素が用いられる──を加熱膨張させ、ノズルから噴出して推進する方式。

 今回は、これを利用した戦術を編み出した。

 名付けて、超炎熱化加速推進(バーニングアクセラレーション)

 原理も前述のそれとほぼ同様で、水素の代わりに魔子を用いている。

 まず魔子についてだが、魔物というのは全身が魔子で構成されている……または、血液の代わりに液体魔子が巡っているのだが、俺の場合は前者。なので、それを利用する。

 身体を構成する魔子の一部を、燃え滾る竜(ボルケーノドラゴン)状態によって生み出される熱で加熱膨張させて、背中から体外に噴出する。人外じみた方法だが、これでいい。

 欠点といえば、自力で止まるのが困難な事ぐらいだ。直線上の瞬間最大速度は音速にすら届くものであり、視認するのは容易ではない。なので、デメリット以上にメリットが大きい。

 ルディアならば視認ぐらいなら可能だそうなので、同格であろうシュトルツも視認出来る前提で挑んでいた。

 なので、相手の油断のみが勝機だった。……のだが、案外簡単そうである。

 

「ばっ、馬鹿な……何だ、今のは?」

「へっ、油断したな、馬ァー鹿!」

 

 ここぞとばかりに煽る俺。だが、これでいいのだ。

 

「チッ、舐めやがって……」

 

   ◇◇◇

 

 いや、ヤバいかも……。

 煽ったのは間違いだったかもしれない。

 初手こそ俺が出し勝ちしたようなもんだが、それだけじゃ終わらなかった。当たり前だけど。

 問題は、相手(コイツ)の肉体スペックだ。

 シュトルツも素手(ステゴロ)で戦うタイプらしいが……拳速(けんそく)が速過ぎる。対応するのもギリギリで、反撃の隙がない。攻撃の出がもの凄く早いのだ。

 しかも、あの反発力もある。下手に食らうと終わりなので、受け流すしか方法はない。

 更に、コイツの技量も中々だ。先々を読んだ攻撃……といえばいいか。俺の攻撃や行動を読まれて、次々と対策を打ってくる。

 

「先程の威勢はどうした?」

「うるせぇなマジで」

 

 相手も煽ってきやがるので、ちょっとイライラしてくる。

 でも、キレてはいけない。キレて視野(しや)(きょう)(さく)になれば、瞬殺される未来が待っているからだ。

 

「お前の熱も厄介だな」

「テメェこそ、何だよその拳速は」

「フッ、伊達に鍛えていないのでな」

 

 無駄に格好良くキメやがりよってからに……。

 だが、徐々に慣れてきている。

 ここからは、反撃の時間だ。

 

「むっ!?」

「やっと焦ってきたみてーだなァ!」

 

 ずっと溜めていたのだ。

 激しい攻防の間も、ずっと。初撃から、ずっと。

 最大効率の超炎熱化加速推進(バーニングアクセラレーション)ならば、音速の壁すら易々(やすやす)と超えられる。

 それを、ギリギリまで接近したところで──

 

「ぐふっ!?」

 

 右肘から噴出し、音速を超えた殴打をブチ込む。

 そして、必殺技は一つだけではない。

 

「ふぅうううぅ……」

 

 俺は、生み出された灼熱を右脚に収束させていく。体外に放出されていた熱がピタリと止まり、放出されるはずだった熱までも、全てが右脚へ。

 熱量は圧縮され、破壊力すらも生み出すほどに。

 

「くっ!?」

 

 俺は高く飛び上がり、最高地点から落下を始める。

 少しだけ残った熱で、申し訳程度に加速しながら──

 

 ………

 ……

 …

 

「もう一つの必殺技を用意したい?」

 

 ルディアが、少し驚いたような声で聞いてくる。

 

「一つだけで十分ではないかい? そのバーニングアクセラレーションとやらだけでも、十分に太刀打ち出来ると思うけど?」

「そうじゃないんだな、これが」

 

「じゃあ、どういう事だい?」

「万全を期したいんだよ。絶対勝ちたいからな」

 

「熱を収束させた蹴り、ねえ。確かに、とても有効だと思うよ。けど、なんで蹴り?」

「脚の方が、着地が楽だろ? あとはまあ、カッコイイからかな!」

 

 ………

 ……

 …

 

灼熱熔化蹴撃(ボルケニックバースト)!!」

高潔なる打破(フィエールブレイキング)ッ!!」

 

 俺の足とシュトルツの拳がぶつかる。

 万物を破壊するほどの威力が篭もったシュトルツの拳は、かなり厄介だ。

 厄介……それだけである。

 解釈を拡大した俺の〝熱〟は、概念すら灼き尽くす。破壊の干渉波すらも熔かして、超えていくだけなのだ。

 

「ぐぅうっ!!」

「これで終わり(フィニッシュ)だ、つったろ!!」

 

 ぶつかった事で威力が拮抗し、勢いを保ちながら止まれた事が幸運だったな。

 熱はもう、充填(リロード)済みである。

 

「ううぅぅううううううぁあああああ────ッ!!」

 

 今回三度目の、超炎熱化加速推進(バーニングアクセラレーション)

 加速で威力が加えられ、繊細な均衡が崩れる。

 俺の全力の蹴りがシュトルツに命中。そのまま、シュトルツを蹴り飛ばしたのだった。

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