竜として異世界に転ず   作:暁悠

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第18話 継承・心、惹かれ

 シャムは信じられない気持ちになる。

 自分が負けるなんて、考えられなかった。

 前の個体は負けたようだが、自分は、その時の経験(データ)を元に強化された個体だったから。

 あの時、自分を殺した対象よりも、圧倒的に強かったから。

 多勢に無勢であろうとも、負ける事は考えられなかった。

 なのに──

 

(………………どうして…………ボクは、負けてしまったんだろう…………)

 

 その対象は、(ことごと)く自分の想定や計画を超えてきた。

 周りにいた存在の実力も鑑みて強化された個体が自分であったのに。

 それなのに、その対象だけではなく……あろう事か周囲の存在までもが、自身の限界を超えてきていた。

 それがシャムには、理解出来ない。

 

「…………キミは一体……何なんだ…………」

 

 そう問いかけるのが、シャムにとっては精一杯だった。

 そんな儚い問いに、彼はこう答えたのだ。

 

「俺? 教えといてやるよ。俺は、ただの〝竜〟さ」

 

 それを聞いて、シャムは思わず笑ってしまう。

 自分の想定や計画を全て超え、自身の〝母〟が命じてきた完璧な計画さえも乗り越えて。

 そんな対象が、〝神〟やそれ以上の存在ではなく、ただの〝竜〟だというのだから、とんだ笑い話である。

 

(……いや、だから、か。だから、母さん(・・・)の計画すらも超えていけたんだね……)

 

 シャムは、そんな、奇妙な納得感を得てしまう。

 この存在ならば、世界そのものの〝母〟でもあるシャムの母を、超えられるかもしれない──そうすれば、母さんも救われるかもしれない──そう、考えた。

 だから、最後に助言を残そうと思ってしまうのである。

 

「…………そっか。頑張ってね──────」

 

   ◆◆◆

 

 シャムのやつ、何を言っているのやら。

 ここまで俺達を追い詰めといて、頑張ってね、だと?

 ふざけんじゃねぇと、最後に文句だけでも言ってやりたくなった。

 ──しかし、それは叶わなかった。

 俺が文句を言う前に、シャムの肉体に変化が起きたのだから。

 

「どうなってんだ……?」

 

 シャムの肉体が、闇色の光を放ち始める。

 それは、攻撃に使われていたような、苛烈で攻撃的な光ではない。もっと、包容力を持った、温かい光。

 光が晴れると──そこには。

 

「……?」

 

 小さなビー玉のような形状の、鮮やかな灰色の宝玉(オーブ)が、その場に落ちていたのだ。

 

「どうなってんだ……? 前倒した時は、こんな事──」

 

 そこまで呟きかけた時、俺は自身の体に異変を感じた。

 視界がボヤけている。そういえば、鼻血も出ているし、体中から出血していた。

 先程よりも重度の魔力欠乏症にもなっているし──って、ヤバくね? これ、死ぬんじゃ……?

 

「ぁ──」

 

 助けを求めようとしたが、それは許されなかった。

 

「ガハッ!? ゴホッ、ゲホッ」

 

 地面に膝をついて吐血してしまった。

 辛い……苦しい……。

 

「た……ずけ……」

 

 ルディア。

 助けて、ルディア。

 苦しいよ、辛い。このままだと死んでしまいそうなんだ。

 お願い、助けて──

 

「大丈夫かい、アヴ!」

 

 そう願った時、ルディアがいつも通りに俺を助けてくれる。

 

「あ、ぅ」

「もう大丈夫だよ」

 

 欲すれば、抱きしめてくれる。

 いつだって、そばにいてくれる。

 そんなルディアが──

 

   ◆◆◆

 

 気絶してしまったアヴラージュを抱きしめたままのルディアが、地べたに不可解なものを発見する。

 

「なんだい、これは?」

 

 それは、シャムの力が込もった──シャム自身と言っても差し支えない、言うなれば〝(こん)(しょう)〟とでも言うべき物質だ。

 ルディアは、それにそっと触れた。

 

(何か……不思議な〝何か〟を感じるけど?)

 

 ルディアは、その〝何か〟を突き止められずにいた。

 

(これを活かすには……まあ、食べれば〝吸収〟出来るよね)

 

 最悪な考えを思いつき、それを実行してしまうルディアである。

 そうと決まれば行動は早い。ルディアは、手に持つシャムの〝(こん)(しょう)〟をパクリと口の中に含んだ。

 

(おや?)

 

 ルディアの中に感情(キオク)が流れ込んでくる。

 

『おはよう、母さん』

『おはよう。早速なんだけど、また頼みたい事があるの』

 

 受けたのは、期待。

 

『任せてよ、母さん! ボク、今度は(・・・)負けないよ!』

『ええ。今度こそ、ね』

 

 向けたのは、自信。

 

『どうしよう、どうしよう母さん! ボク──』

『また負けるのね。期待外れだわ』

 

 どうして見捨てるの、どうして──

 ボクは、まだ──

 

「……そうかい。キミも、母さんに振り回されていたんだね」

 

(きっとコレは、シャムの魂か。彼が何度も襲いかかってきたのは、コレに込められ、刻まれた情報が母さんの(もと)に還元される事で〝複製〟されていた、というわけか)

 

 ルディアは流石の観察眼と考察力で、真実を突き止めていた。

 ルディアを産み、ルディアに生ませた(・・・・)母親──その存在に、その存在のエゴに、シャムだって振り回されていたのだと。

 

「どういう事だ?」

 

 ルディアの背後には、シュトルツが立っていた。

 足音もなく近づいていた辺りで、シュトルツの技量(レベル)(うかが)える。

 

「シャム……彼は、ボクを元に造られたって言ったよね」

「ああ、言っていたな」

「ボクの母さんに造られたようなんだよね」

「何だと?」

 

 それは、シュトルツからしても想定外の事実である。

 本当にそうであるなら、かなり問題だからだ。それこそ、〝ただの大事件〟では済まないような──

 

(そんな思惑……因果が巡ってしまっている、としか思えん)

 

 そう思ったシュトルツは、警戒を密にする。

 そして、ルディアも。

 

(母さんが黒幕だっていうなら、マズイかな……。この世界すらも揺るがす大事件の匂いがするよ)

 

 最悪の事態を想定し、最適な行動を心がける事になる。

 そうして、アヴラージュの知らぬ間に事態は急転していく──。

 

   ◆◆◆

 

 うう、光が眩しい……。

 これ、は……?

 

「お、目が覚めたかい?」

 

 ルディア……。

 

「おはよう」

「お、はよう……」

 

 笑顔が眩しい。

 ああ、やっぱり。

 やっぱり、ルディアが──

 

「ありがとう、ルディア……」

 

 ──大好きに、なってしまっていた。

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