竜として異世界に転ず 作:暁悠
目を開ける。
そこは、明らかに我が家ではない。病院、でもなかった。
では、どこだろう?
ゴツゴツとした岩肌に囲まれ、俺はその岩肌に寝そべっていた。
──って、はあっ!?
なんで岩っ!? って、絶対、俺の家じゃないな……。てか、病院でもないし──って、洞窟じゃねーか!?
《フフ、驚いているようだね。まあ、無理もないけどさ》
頭の中に声が響く。どこか、フザケたような声色だ。
(いや。誰だよ?)
《じきにわかると言っただろう? ボクの事は、まだいいんだよ》
わけがわからなかった。
そういえば、この声だ。俺が痛いと、怖いと叫んだ時、聞こえた声は。
確か、二度目の人生とかなんとか言っていたよーな……?
《ハハハ、その通りだよ。キミはトクベツ勇気がある人間だったからね。僕の手で、新しい人生をあげたのさ》
はあ? どういう──
そこまで思った時、俺は俺自身の体に違和感を覚える。
背中に──何か、小さな突起物のようなものを。それは細長くて……きちんと、自分の意思で動かせる。
そういえば、声も上手く出せない──が、少しずつ感覚を取り戻してきたぞ。
ええっと──
「きゅいっ!」
ようやく発した言葉が、これだ。
そして、なんとなーく、俺の全体像も掴む。
人間ではないし、それに、背中の突起物は小さな翼だった。
手も足も小さく、一本の尻尾がある。
オマケに、鳴き声は「きゅい!」というもの。
つまり──
「きゅいっ、きゅいーーーーーっ!!」
イヤ、竜じゃねーか!!
そう、竜だ。まだ小さいが、確かに竜の体だった。
つまり、俺の
「きゅいーーっ!?」
ドラゴンかよ!?
──人生ではなく、ドラゴン生(?)だった。
◇◇◇
よし、まずは、俺の記憶を振り返ってみよう。
俺の名前は
よし、ちゃんと覚えてるな。まだ慌てる時間じゃないようだ。
え? 普通、もうちょっと取り乱すものなんじゃないかって? イヤ、不思議と大丈夫なんだよな。
人間の脳は不思議な構造をしていて、パニックになりすぎると、逆に落ち着くのだ。今の俺が代表例。
《やっと落ち着いたようだね》
まあ、うん。そうだね。
《良かった良かった》
なんなんだ、この会話は?
《アハハ、別にいいだろう? キミ、名前は?》
はあ? フツーはさ、そっちから名乗るのが筋ってもんじゃねーの?
《おやおや、ボクとした事が。仕方ないな。ボクは〝ルディア〟。ちゃんと覚えてよ? かなり気に入ってる名前なんだからさ》
ルディア、ルディアね。意外とカッコイイ名前じゃん。
《意外とって失礼じゃないかい? さあ、今度はキミの──》
そこまで聞こえた時、近くで声が響いた。
「わあーーーっ!?」
「きゅいーーーっ!?」
何やら幼い、少女の声だ。
俺は慌てて、その声の方を向く。
「………………あなた、だあれ?」
そこにいたのは、息を呑むほど美しい少女だった。
髪色は、黒と銀を混ぜたような……
……とは言ってみたが、要はチョー可愛い美少女ってコト。
いやさ、だあれ? って、聞かれてもねえ? 俺は喋れないんだし……。
「きゅい、きゅい!」
喋れないの!
とは言ってみたが、伝わるわけな──
「ええっ、喋れないの? ま、まあ、そうだよね」
伝わった!?
《アハハ。この世界、結構便利でね。思念……〝想い〟っていうのかな? それを乗せて発声する事で、やんわり伝わるんだよ》
や、やんわりって……。
つまり、ちょっとだけ伝わる、と?
《まあ、そんな感じ。あとは、キミの発声器官がダメダメだからかな》
おい、ちょっと失礼じゃないか?
確かに今はまだ幼竜って感じだが、これからだなあ──
《ハイハイ、わかったから。それより、あの娘の質問に答えてあげたら?》
それもそうだな──と、俺は思考を切り替える。
「きゅい──」
俺は──
そこまで考えて、ムムム、と唸る。
俺の名前は天音龍我。これは、覚えている。……が。ルディアの名前的に、この世界で日本名ってのはかなり希少……というか、存在するのか?
《わかんないけど、聞かない名前ではあるね。その、アマネリュウガって感じの名前も》
ふーん。
じゃあやっぱり、前世の名前のまま……ってのは、マズイよな。
《そもそも、魔物が名前を持ってるのがマズイと思うよ。そもそも、それは
は?
やっぱり、竜も魔物なんだ──じゃなくって、どういう事だよ?
《まず、この世界で個体名を持つ魔物っていうのは、強力な存在だ。存在として上位に位置してるんだよね。あの娘は人間。だから、名前を名乗ろうものなら、余計な恐怖心を抱かせる事になると思うよ》
先程までのフザケたような雰囲気が嘘だったかのように、真剣な声色で説いてきたルディアだ。
そう、なのか……。それなら──
「きゅい? きゅいっ!」
名前? ないよ!
これが、ベストアンサーだろう。
《そうだね、それでいいと思うよ》
だよね。
さて、あの娘の反応は──?
「そうだよね、そうだった。あたし、フィエット。よろしくね、ええっと──ドラゴンちゃん!」
どっ……まあ、いいか。
《アハハ! 可愛らしくていいじゃないか、ドラゴンちゃん♪》
お前がその名前で呼ぶ事は許さん。引き続き〝リュウガ〟と呼べ。
《ハイハイ。わかったよ、リュウガ》
──と、言うわけで。
謎の声ルディアや、人間の少女フィエットと出会う事で、俺の異世界生活が幕を開けた。
前の世界に未練がないわけではもちろんないが、コチラの世界に渡ってしまったからには仕方ない。精一杯、この世界での生活を満喫してやろうじゃないか!
──というのが、地獄とも言える異世界生活の幕開けになってしまったのだった。