竜として異世界に転ず   作:暁悠

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第2話 日常

「ドラゴンちゃん、こっちだよ! こっちに、美味しい木の実があるの」

「きゅい、きゅいー!」

 

 今の俺は、フィエットと一緒に暮らしていた。

 フィエットは迷子らしいので、幼いとはいえ、竜である俺が近くにいれば、少しは気軽だろうと思っての事。

 ……というのは建前で、俺も寂しいのだ。

 頭の中で聞こえてくる声は胡散臭いので、まともな人が近くにいてくれて助かっている。心細くない。

 

《ちょっと。それかなり失礼じゃないかい?》

 

 失礼で結構。

 お前の事は信用してないし。

 ……でもまあ、良き隣人になれる事を期待しているよ。

 

《ん……いいよ、任せて!》

 

 なんだか嬉しそうだな。ま、俺の知ったこっちゃないが。

 

「ね、美味しいでしょ?」

「きゅい、きゅいきゅい!」

 おお、確かに美味しい……!

 

──一時はどうなる事かと思っていた。

 

「うふふ、かわいい♪」

「きゅい……」

 ええ……。

 

──母さんや美羽を庇って、何度も刺されて、苦しんで、死んで。

 

「きゅい、きゅいっ!」

「え、あたしにも分けてくれるの? ……ふふ、優しいね、ドラゴンちゃん」

 

──気づいたら、こんなわけのわからない世界にいて。

 

《随分と楽しんでいるんだね?》

 

 そりゃ、心細くないしな。俺には、フィエットとか……お前も、いるし。

 

《アハハ! なーんだ、素直じゃないだけかあ》

 

 うっせーよ!!

 

──それでも俺には、フィエットも、ルディアもいて。

──充実、していた。

 

   ◇◇◇

 

 そういえば、なんだかキラキラとしたものが宙を漂っているが……?

 

《これは小さな、下位の精霊だね》

 

 せ、精霊……? そんなのもいるのか、この世界は?

 

《うん。もちろんいるよ。悪魔とか、天使とか、竜以外の魔物とかさ》

 

 ほう! いつか見てみたいな、天使。

 

《目線はそこに行くんだね……。まあ、いいけどさ》

 

 ──と、その時。

 

「きゅいっ!?」

 

 勢いで、小さな精霊が俺の口の中に入ってしまった。

 

「きゅっ、きゅいきゅいっ!?」

 

 急いで吐き出そうと口をモゴモゴさせるが、上手く外に出せない……!

 果てには、なんと、飲み込んでしまった。

 

「きゅ──い?」

 

 あれ? 美味しい……ぞ?

 どうなってんだ、これ?

 

《も、もしかしてキミ、精霊を食べちゃったのかい?》

 

 ルディアが珍しく狼狽えている。いやいや、そんな事言ってる場合じゃなくってだな……。

 ええっと、精霊、なんだっけ? 思ったより、甘いな……。

 甘くて……美味しい、ぞ!?

 フフフ……もの凄い事を知ってしまったぞ。

 この精霊、今食ったのは赤色だったが、他にも、土色、緑色、青色……計四色がいる。つまり、それだけ味の種類(バリエーション)もあるという事だろうか?

 いや、野暮だな。検証すればわかる事!

 

《ちょ、ちょっと……キミは一体何をしようとしてるの……?》

 

 ルディアの声が聞こえた気がしたが、そんなもんフル無視だ。

 

 そうと決まれば、善は急げ! である。宙に浮いている様々な種類の精霊達を、次から次にパクパクと食べ進めていく。

 

「わあ、ドラゴンちゃんっ!? そんなわけわかんないもの食べちゃだめだよーーーっ!!」

「きゅい、きゅいきゅい!」

 美味しいし、別にいいじゃん!

「そ、そう、かなあ……」

 

 ふむ。色んな味があるみたいだな。

 赤は甘味、青は酸味、緑は苦味、土色は辛味……。

 俺の好みは赤だけか。

 実は俺、甘党なのである。

 

《へえ、そうなんだ。ボクは人間の料理には興味なかったけど、甘味ってそんないいものなの?》

 

 そうだよ? めちゃくちゃいいよ?

 まさか、食べた事ないのか?

 

《え? うん》

 

 うわー、人生損してるな、お前。

 

《何言ってるのかワカラナイけど、そうなんだ? じゃあ、食べてみたいな》

 

 コイツ、結構世間知らずなのか……?

 

《そう、なのかな?》

 

 いや、俺に聞くなよ。

 

《ま、確かにそうだよね。一度は経験してみたいな、甘味》

 

 うんうん、それがいいと思うぞ。

 

 ………

 ……

 …

 

 と、いうわけで。

 選り好みしつつも、結構まんべんなく全種類を食ったと思う。でも、比率的に赤の方が多かっただけだからね?

 

「きゅい〜……」

 

 なんだろうか、もの凄い満腹感を感じる。フィエットに紹介してもらった果物とかは美味しかったが、満腹感は得られなかった。

 しかし、この精霊はどうか!

 食えば食うだけ腹が満たされていく感覚を味わえる。

 

《………………》

 

 ルディアが意味深に沈黙している。

 ま、どうでもいいな。

 

「……お、美味しかった?」

「きゅい〜!」

「そ、そうなんだ……」

 

 フィエットもなんだか引いている……?

 い、いやいや……。き、きっと見間違いだな……。そんな事耐えられない……。

 俺は、美羽の面影をフィエットに重ねていたので、そんなフィエットに引かれて、嫌われるなんて、絶対にイヤだ……。

 

《き、キミ……頑固だね》

 

 ウルサイよ!

 美羽が本当に可愛かったんだ。なので、仕方ない事なのだ。

 

《なので、じゃないんだよね。どこが仕方ないの?》

 

 お、おい! しつこい男は嫌われるぞ!

 

《何言ってるかわかんない……ま、まあ、いいか……》

 

 やっぱり引いてるよね!?

 酷いやつだ……。

 

《ご、ごめんってば》

 

 まあ、いいけど。

 

《ああ、そうだ。それに、キミはまだ幼き竜(ドラゴネット)だけど、食べた精霊によっては……》

 

 ドラゴネット?

 

《うん。キミは、可能性の塊だからね》

 

 何を言ってるのかわからないが……別に、悪い事ではないんだな? 精霊を食うってのは?

 

《う、うん……ま、まあ、まあね》

 

 あ、それはダメなんだ。マイナスに働かないってだけでいい事ではないのね。

 

 ………

 ……

 …

 

 時間が飛んで、夜になった。

 

「うーん……」

 

 フィエットが目を擦りながら唸っていた。

 

「きゅい?」

 眠い?

 

 ちょっと心配になったので、咄嗟に聞いてしまう。断っておくが、俺はロリコンではない。断じて。

 

「うーん……うん……」

「きゅーい」

 寝よっか。

「うん……」

 

 フィエットに、魔物の毛皮で作った毛布をかけてあげる。

 

《キミも、結構お節介だよね》

 

 まあ、フィエットにはここまでしてもらってるしな。

 

《キミがしてあげてる事の方が多いんじゃないかい?》

 

 いやいや。フィエットがいてくれるだけで、全っ然心細くないんだ。

 

《…………それって、重要?》

 

 はあ!? 重要に決まってんだろうが!! そうじゃないにしても、右も左もわからない未知の世界で一人ぼっちだったんだぞ? お前はいるけどさ。

 そんな俺にとって、人間ってのは重要な奴らなのさ。

 

《……フーン、そうなんだね》

 

 何やら不安げなルディアの声が、ただ聞こえるだけだった。

 

 星空を見上げ、その景色に見入る。

 なんて美しいんだと、こんな美しいものがあったのかと、俺は感動した。

 前世ではそんな事思わなかったのだが、この世界では接する何もかもが美しく感じる。

 俺はそんな事を思いながら、眠りについた。




 結構自信作ですね。
 ……なんかあとがき書くのが面倒になってきた今日この頃です。あとがきを書くか否かは、その時の気分で決まるでしょう。
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