竜として異世界に転ず 作:暁悠
「ドラゴンちゃん、こっちだよ! こっちに、美味しい木の実があるの」
「きゅい、きゅいー!」
今の俺は、フィエットと一緒に暮らしていた。
フィエットは迷子らしいので、幼いとはいえ、竜である俺が近くにいれば、少しは気軽だろうと思っての事。
……というのは建前で、俺も寂しいのだ。
頭の中で聞こえてくる声は胡散臭いので、まともな人が近くにいてくれて助かっている。心細くない。
《ちょっと。それかなり失礼じゃないかい?》
失礼で結構。
お前の事は信用してないし。
……でもまあ、良き隣人になれる事を期待しているよ。
《ん……いいよ、任せて!》
なんだか嬉しそうだな。ま、俺の知ったこっちゃないが。
「ね、美味しいでしょ?」
「きゅい、きゅいきゅい!」
おお、確かに美味しい……!
──一時はどうなる事かと思っていた。
「うふふ、かわいい♪」
「きゅい……」
ええ……。
──母さんや美羽を庇って、何度も刺されて、苦しんで、死んで。
「きゅい、きゅいっ!」
「え、あたしにも分けてくれるの? ……ふふ、優しいね、ドラゴンちゃん」
──気づいたら、こんなわけのわからない世界にいて。
《随分と楽しんでいるんだね?》
そりゃ、心細くないしな。俺には、フィエットとか……お前も、いるし。
《アハハ! なーんだ、素直じゃないだけかあ》
うっせーよ!!
──それでも俺には、フィエットも、ルディアもいて。
──充実、していた。
◇◇◇
そういえば、なんだかキラキラとしたものが宙を漂っているが……?
《これは小さな、下位の精霊だね》
せ、精霊……? そんなのもいるのか、この世界は?
《うん。もちろんいるよ。悪魔とか、天使とか、竜以外の魔物とかさ》
ほう! いつか見てみたいな、天使。
《目線はそこに行くんだね……。まあ、いいけどさ》
──と、その時。
「きゅいっ!?」
勢いで、小さな精霊が俺の口の中に入ってしまった。
「きゅっ、きゅいきゅいっ!?」
急いで吐き出そうと口をモゴモゴさせるが、上手く外に出せない……!
果てには、なんと、飲み込んでしまった。
「きゅ──い?」
あれ? 美味しい……ぞ?
どうなってんだ、これ?
《も、もしかしてキミ、精霊を食べちゃったのかい?》
ルディアが珍しく狼狽えている。いやいや、そんな事言ってる場合じゃなくってだな……。
ええっと、精霊、なんだっけ? 思ったより、甘いな……。
甘くて……美味しい、ぞ!?
フフフ……もの凄い事を知ってしまったぞ。
この精霊、今食ったのは赤色だったが、他にも、土色、緑色、青色……計四色がいる。つまり、それだけ
いや、野暮だな。検証すればわかる事!
《ちょ、ちょっと……キミは一体何をしようとしてるの……?》
ルディアの声が聞こえた気がしたが、そんなもんフル無視だ。
そうと決まれば、善は急げ! である。宙に浮いている様々な種類の精霊達を、次から次にパクパクと食べ進めていく。
「わあ、ドラゴンちゃんっ!? そんなわけわかんないもの食べちゃだめだよーーーっ!!」
「きゅい、きゅいきゅい!」
美味しいし、別にいいじゃん!
「そ、そう、かなあ……」
ふむ。色んな味があるみたいだな。
赤は甘味、青は酸味、緑は苦味、土色は辛味……。
俺の好みは赤だけか。
実は俺、甘党なのである。
《へえ、そうなんだ。ボクは人間の料理には興味なかったけど、甘味ってそんないいものなの?》
そうだよ? めちゃくちゃいいよ?
まさか、食べた事ないのか?
《え? うん》
うわー、人生損してるな、お前。
《何言ってるのかワカラナイけど、そうなんだ? じゃあ、食べてみたいな》
コイツ、結構世間知らずなのか……?
《そう、なのかな?》
いや、俺に聞くなよ。
《ま、確かにそうだよね。一度は経験してみたいな、甘味》
うんうん、それがいいと思うぞ。
………
……
…
と、いうわけで。
選り好みしつつも、結構まんべんなく全種類を食ったと思う。でも、比率的に赤の方が多かっただけだからね?
「きゅい〜……」
なんだろうか、もの凄い満腹感を感じる。フィエットに紹介してもらった果物とかは美味しかったが、満腹感は得られなかった。
しかし、この精霊はどうか!
食えば食うだけ腹が満たされていく感覚を味わえる。
《………………》
ルディアが意味深に沈黙している。
ま、どうでもいいな。
「……お、美味しかった?」
「きゅい〜!」
「そ、そうなんだ……」
フィエットもなんだか引いている……?
い、いやいや……。き、きっと見間違いだな……。そんな事耐えられない……。
俺は、美羽の面影をフィエットに重ねていたので、そんなフィエットに引かれて、嫌われるなんて、絶対にイヤだ……。
《き、キミ……頑固だね》
ウルサイよ!
美羽が本当に可愛かったんだ。なので、仕方ない事なのだ。
《なので、じゃないんだよね。どこが仕方ないの?》
お、おい! しつこい男は嫌われるぞ!
《何言ってるかわかんない……ま、まあ、いいか……》
やっぱり引いてるよね!?
酷いやつだ……。
《ご、ごめんってば》
まあ、いいけど。
《ああ、そうだ。それに、キミはまだ
ドラゴネット?
《うん。キミは、可能性の塊だからね》
何を言ってるのかわからないが……別に、悪い事ではないんだな? 精霊を食うってのは?
《う、うん……ま、まあ、まあね》
あ、それはダメなんだ。マイナスに働かないってだけでいい事ではないのね。
………
……
…
時間が飛んで、夜になった。
「うーん……」
フィエットが目を擦りながら唸っていた。
「きゅい?」
眠い?
ちょっと心配になったので、咄嗟に聞いてしまう。断っておくが、俺はロリコンではない。断じて。
「うーん……うん……」
「きゅーい」
寝よっか。
「うん……」
フィエットに、魔物の毛皮で作った毛布をかけてあげる。
《キミも、結構お節介だよね》
まあ、フィエットにはここまでしてもらってるしな。
《キミがしてあげてる事の方が多いんじゃないかい?》
いやいや。フィエットがいてくれるだけで、全っ然心細くないんだ。
《…………それって、重要?》
はあ!? 重要に決まってんだろうが!! そうじゃないにしても、右も左もわからない未知の世界で一人ぼっちだったんだぞ? お前はいるけどさ。
そんな俺にとって、人間ってのは重要な奴らなのさ。
《……フーン、そうなんだね》
何やら不安げなルディアの声が、ただ聞こえるだけだった。
星空を見上げ、その景色に見入る。
なんて美しいんだと、こんな美しいものがあったのかと、俺は感動した。
前世ではそんな事思わなかったのだが、この世界では接する何もかもが美しく感じる。
俺はそんな事を思いながら、眠りについた。
結構自信作ですね。
……なんかあとがき書くのが面倒になってきた今日この頃です。あとがきを書くか否かは、その時の気分で決まるでしょう。