竜として異世界に転ず   作:暁悠

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第32話 暴走と制圧

 勢いよく大扉を開け、次の部屋に進む俺達。そんな俺達の視界に映りこんだのは──

 

「あ…………あ……あ………………」

 

 機械仕掛けの渾天(こんてん)()のようなモノの中心に浮く、何やら仮面のようなモノをつけられたシルティアス。

 天井には巨大な穴が空いており、既に主砲は地表に露出してしまったのだと悟られる。しかし、人々の悲鳴は聞こえない。のだが……シルティオスが言う通りに、時限性の『思念』が緊急事態を知らせてくれたとも思えない。そもそもの時限認識にズレがあったのだから、時限性の『思念』で伝えられる筈がない。

 つまり──

 

「……………………遅かったか」

 

 宮殿内の人間は、多分全員死んでいる。死んでいないにしても、意思疎通の取れない状況……つまり気絶しているか、声が漏れない場所にいるか。

 最悪だ。

 想定すら出来なかった最悪の事態が今、起こっている。

 シルティアスの方も、なんだかヤバそうだ。意思疎通は完全に取れない状況で、うわ言のように何か繰り返している。

 

「私……壊……ス…………私……ハ……イラ……ナイ……子……」

 

 自虐か? って、そんな事言ってる場合じゃないな。

 

「キカイを先に止め──」

 

 そう思い、キカイに向かおうとした矢先だった。

 途轍もない違和感が、俺の腹の辺りを襲う。

 腹が……抉れ……っ!? ──て、ない? 勘違い……?

 

「避けろッ!!」

 

 シルティオスの声で反射的に動いた体がその場を離れる。先程まで俺がいた場所は、小規模の爆発を起こして地面が抉れていた。

 

『今のはシルティオスの『未来予見(クレアボヤンス)』だね……。彼の固有能力は彼自身にしか与えられないと思っていたけれど、権能の成長は止まっていなかったんだね』

 

 クレアボヤンス? 未来予知……って事?

 

『そういう事。それで、あの爆発はシルティアスの『幻隠視(ファントム)』っていう権能。幻を駆使する権能で、モノを隠す事も可能。隠された不可視の攻撃を得意としているんだ』

 

 …………。

 兄妹揃って強すぎませんかね?

 これさ、シルティオスとルディアがいたから何とかなりそうだけど、初見のタイマンだと俺が確実に負けそうなんですけど?

 

『そこはまぁ、経験と技量の差もあるしね?』

 

 ………………。

 まぁ、いいか。今はシルティアスを止めるのが先だ。

 

「サンキュ、助かった」

「私としても、お前がいなければ勝てないと思ったのでな」

 

 おお、嬉しい事言ってくれるじゃないか。

 さてさて、これにて戦闘が始まった。

 とりあえず、キカイには熱が有効だろう。そう思ったので、すぐに燃え滾る竜(ボルケーノドラゴン)に『変化』した。

 

「──紅炎(こうえん)ッ!」

 

 仕方ないのでキカイを破壊しようと試みた。シルティアスが囚われている、回転する()に囲まれた機械仕掛けの渾天(こんてん)()のようなキカイを斬り割ろうとしたのだが──

 

「チッ、()ってぇ!!」

 

 キィーーーーンッ──というかん高い音色を響かせ、俺の黒銀蒼の竜剣(カレドヴルッフ)が弾かれる。

 

「ここはわたくしが」

 

 ──っと、なんとリーベが俺の隣に巨大な鎌を持ってきた。

 というか、なんか見た目が変わっている。真っ白な髪は黒く染まり、瞳は美しい碧眼からギラギラと光る真っ赤な瞳に変わっている。なんというか、シュトルツ色だな。

 

「──虐殺命断割(ジェノサイドクラック)

 

 今度は、リーベが手に持っている鎌でキカイを切り裂こうとしたようだ。

 しかし……それもまた、弾かれた。

 

「……やはりダメですわね。わたくしの『絶対命断(めいだん)』で切り裂けるのは〝生命〟だけらしいですわ」

 

 何それ、怖……。

 今回は相性が悪かったわけだが、生命ある存在に対しては無条件特効の攻撃って事だろ?

 

「そうだね。彼女の権能は、生命に対して絶対の効果を発揮するよ」

 

 と、いつの間にか俺の中から出てきたルディアが説明してくれた。

 何それえげつない……。

『戦えるの?』とかいう質問がかなりの失礼になってしまいそうなほど、リーベの力は圧倒的だった。

 ちなみにだが、シュトルツは態度に反して結構消耗しているようで、前の部屋で一旦休んでいるそうだった。

 

光刃(コウジン)

 

 シルティオスが生み出した光の刃がキカイを襲う。

 というか、俺達が行ったどの攻撃よりもダメージを与えているように見える……。

 

「──(ラン)

 

 無数の光刃(コウジン)が次々とキカイに襲いかかる。

 …………やっぱさ、権能自体は微妙なモノって、〝自分(ルディア)の権能に比べれば〟って意味じゃない? 確実にめちゃくちゃ強いんですケド……。

 で、今は全員で一斉攻撃を行っている。

 

「シルティアスは、一切の加減なく魔力を使っている。ここまで抵抗されると、やはり止めるのも大変だな……」

「だな。普通なら消耗率とか後先考えるモンだが、今のシルティアスはそんな事考えちゃいないしな……」

 

 本当に深刻である。

 ヴァルネリにキカイの攻撃が放たれる事以上に、シルティアスの身が持たない。止めなければ……そう、魔力欠乏症で死にかねない。

 

「……仕方ない。リーベ、キミは回復魔法の発動に全神経を注いで」

「え? あ、はい……」

「アブーリア、だっけ? キミは、前の部屋に戻っていて。危ないからね。アヴとシルティオスは、キカイの破壊に専念。もうとやかく言っている場合じゃない。シルティアスは、ボクがどうにかする。ボクがシルティアスを止めるから、寸分の狂いなく、止めた直後にキカイを破壊して」

 

 ──と、ルディアからの指示が飛ぶ。

 何をする気かは知らんが、必勝の策があるのだろう。俺は、それに乗るだけだった。

 

「永遠なる愛の竜としての御力。愛は永遠なる道標として、愛は万物万象を抱擁(いだ)く神の声として──」

 

 指示が飛んですぐ、リーベが詠唱を始めた。

 何はともあれ、最大火力をお望みのようだ。それなら、そうしてやろうじゃないか。

 俺は両脇腹辺りから鎖のようなものを出し、地面に突き刺して俺の体を固定する。俗に言う留め具(アンカー)である。そして背中から噴出口(マフラー)を出し、流体魔子を噴出し始める。

 

「さて、キミがじゃじゃ馬のようなのは昔から変わらないね。──今、止めてあげるよ」

 

「……………………」

 

 直前まで絶叫していたシルティアスが、何故か止まった。仲間の声が聞こえて──なんていう、そんな事が起こるとは思えない。

 考えうる事としては、ルディアが超強い『思念』を送っている……くらいだな。

 

「ごめんけど、一旦我慢してね──零虚終撃(イニシャライズ)!!」

 

 円環するキカイの隙間を縫って、ルディアが持つ(さん)()(けん)の刃がシルティアスの胸に届く。その刃が突き刺さると同時に──シルティアスの意思と動きが、完全停止した。

 

「今だ!!」

 

 ルディアからの合図。俺の体は、反射的に動き出した。

 自分の体を固定していた留め具(アンカー)が弾ける。最大出力を超えた超炎熱化加速推進(バーニングアクセラレーション)によって限界加速し続けた俺の体が解き放たれた。

 音速を超え、光速にすら至ろうかという速度。その速度を乗せた灼熱熔化蹴撃(ボルケニックバースト)が炸裂しようとしていた。

 ──名付けて、超灼熱熔化加速蹴撃(ボルケニックアクセラレーション)

 めちゃくちゃ安直だが、それなりに格好いいネーミングじゃなかろうか。

 

根源光輝撃(プロートス・ルミナス)

 

 そしてシルティオスも、使える限りの力を使おうとしていた。凄まじい魔力消費であり、シルティオス自身を光を化した攻撃……だそうだ。

 光速化した二人による全力攻撃。

 流石のキカイ──シルティアスを蝕んでいた円環渾天儀のようなキカイも、完全に破壊された。

 ところで……。

 

「威力強いのはわかってたけど、まさかだよね!!」

 

 俺達の攻撃によって起きた爆発の中から、シルティアスを抱えたルディアが現れた。

 

「リーベ、指示通りに!!」

「わかりましたわ!!」

 

 ルディアが短距離転移で、すぐさまリーベの前に現れる。

 

「この子の全魔力を一時的に消し去っている。すぐに回復させて、蘇生するよ」

「そんな無茶をしたんですか……」

 

 呆れながらも、リーベは魔法を発動した。

 

深き愛の祝福(アムールブレッシング)

 

 それは、回復魔法を司る神聖魔法よりも高度な回復魔法にして、リーベの独自魔法。リーベにのみ扱える、究極の独自技術(オリジナル)

 枯渇した生命力や魔力を蘇らせ、時には老化すらも巻き戻し、肉体の全盛へと巻き戻す。

 長い詠唱と多大なる魔力消費を伴うが、強大な生命力を司る究極の魔法だった。

 

「カハッ……ゲホッゲホッ…………うう……」

 

 生命が完全に停止していたシルティアスが息を吹き返した。

 

「シルティアス!!」

 

 シルティアスの声を聞き、すぐにシルティオスが駆け寄った。

 俺と同じ、凄まじい魔力消費でかなり疲労しているようだったのに……なんというか、やっぱり少し似ているかもしれない。

 俺も魔力欠乏症になるギリギリだ。

 って、あれ? ルディアも同じ感じじゃん。

 

「ルディア」

「うん? なんだい?」

「珍しいな、お前がそんなに消耗しているなんて」

「ああ、うん。ボクが使った〝零虚終撃(イニシャライズ)〟っていう技は、ボクのこの武器──〝零虚竜杵(イニシャライザー)〟の能力なんだけど、やっぱり外付けの能力を使うのには多大なるエネルギー消費が必要なんだよね」

 

 ちょっと余裕そうだな。

 ルディアによると、能力には元から備わっているモノと外付けのモノもあるらしい。俺がフィエットから託されたスキルも外付けらしく、それと同じだそうだ。

 なんでも、外付けの能力というのは自身の体質にあっていない事が多い。だからこそ使うのにはそれ相応の代償が必要であり、ルディアの場合は多大なる魔力……というわけだった。

 まぁ何はともあれ、シルティアスも無事……とは言い難いが、生きている。

 俺達も、誰一人欠ける事はなく──

 

「な、なんだ……?」

 

 地面が揺れる。

 天井が揺れる。

 

「……地表(うえ)か!!」

 

 シルティオスの声が聞こえる。

 事態はまだ、終息していないようだ。

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