竜として異世界に転ず 作:暁悠
勢いよく大扉を開け、次の部屋に進む俺達。そんな俺達の視界に映りこんだのは──
「あ…………あ……あ………………」
機械仕掛けの
天井には巨大な穴が空いており、既に主砲は地表に露出してしまったのだと悟られる。しかし、人々の悲鳴は聞こえない。のだが……シルティオスが言う通りに、時限性の『思念』が緊急事態を知らせてくれたとも思えない。そもそもの時限認識にズレがあったのだから、時限性の『思念』で伝えられる筈がない。
つまり──
「……………………遅かったか」
宮殿内の人間は、多分全員死んでいる。死んでいないにしても、意思疎通の取れない状況……つまり気絶しているか、声が漏れない場所にいるか。
最悪だ。
想定すら出来なかった最悪の事態が今、起こっている。
シルティアスの方も、なんだかヤバそうだ。意思疎通は完全に取れない状況で、うわ言のように何か繰り返している。
「私……壊……ス…………私……ハ……イラ……ナイ……子……」
自虐か? って、そんな事言ってる場合じゃないな。
「キカイを先に止め──」
そう思い、キカイに向かおうとした矢先だった。
途轍もない違和感が、俺の腹の辺りを襲う。
腹が……抉れ……っ!? ──て、ない? 勘違い……?
「避けろッ!!」
シルティオスの声で反射的に動いた体がその場を離れる。先程まで俺がいた場所は、小規模の爆発を起こして地面が抉れていた。
『今のはシルティオスの『
クレアボヤンス? 未来予知……って事?
『そういう事。それで、あの爆発はシルティアスの『
…………。
兄妹揃って強すぎませんかね?
これさ、シルティオスとルディアがいたから何とかなりそうだけど、初見のタイマンだと俺が確実に負けそうなんですけど?
『そこはまぁ、経験と技量の差もあるしね?』
………………。
まぁ、いいか。今はシルティアスを止めるのが先だ。
「サンキュ、助かった」
「私としても、お前がいなければ勝てないと思ったのでな」
おお、嬉しい事言ってくれるじゃないか。
さてさて、これにて戦闘が始まった。
とりあえず、キカイには熱が有効だろう。そう思ったので、すぐに
「──
仕方ないのでキカイを破壊しようと試みた。シルティアスが囚われている、回転する
「チッ、
キィーーーーンッ──というかん高い音色を響かせ、俺の
「ここはわたくしが」
──っと、なんとリーベが俺の隣に巨大な鎌を持ってきた。
というか、なんか見た目が変わっている。真っ白な髪は黒く染まり、瞳は美しい碧眼からギラギラと光る真っ赤な瞳に変わっている。なんというか、シュトルツ色だな。
「──
今度は、リーベが手に持っている鎌でキカイを切り裂こうとしたようだ。
しかし……それもまた、弾かれた。
「……やはりダメですわね。わたくしの『絶対
何それ、怖……。
今回は相性が悪かったわけだが、生命ある存在に対しては無条件特効の攻撃って事だろ?
「そうだね。彼女の権能は、生命に対して絶対の効果を発揮するよ」
と、いつの間にか俺の中から出てきたルディアが説明してくれた。
何それえげつない……。
『戦えるの?』とかいう質問がかなりの失礼になってしまいそうなほど、リーベの力は圧倒的だった。
ちなみにだが、シュトルツは態度に反して結構消耗しているようで、前の部屋で一旦休んでいるそうだった。
「
シルティオスが生み出した光の刃がキカイを襲う。
というか、俺達が行ったどの攻撃よりもダメージを与えているように見える……。
「──
無数の
…………やっぱさ、権能自体は微妙なモノって、〝
で、今は全員で一斉攻撃を行っている。
「シルティアスは、一切の加減なく魔力を使っている。ここまで抵抗されると、やはり止めるのも大変だな……」
「だな。普通なら消耗率とか後先考えるモンだが、今のシルティアスはそんな事考えちゃいないしな……」
本当に深刻である。
ヴァルネリにキカイの攻撃が放たれる事以上に、シルティアスの身が持たない。止めなければ……そう、魔力欠乏症で死にかねない。
「……仕方ない。リーベ、キミは回復魔法の発動に全神経を注いで」
「え? あ、はい……」
「アブーリア、だっけ? キミは、前の部屋に戻っていて。危ないからね。アヴとシルティオスは、キカイの破壊に専念。もうとやかく言っている場合じゃない。シルティアスは、ボクがどうにかする。ボクがシルティアスを止めるから、寸分の狂いなく、止めた直後にキカイを破壊して」
──と、ルディアからの指示が飛ぶ。
何をする気かは知らんが、必勝の策があるのだろう。俺は、それに乗るだけだった。
「永遠なる愛の竜としての御力。愛は永遠なる道標として、愛は万物万象を
指示が飛んですぐ、リーベが詠唱を始めた。
何はともあれ、最大火力をお望みのようだ。それなら、そうしてやろうじゃないか。
俺は両脇腹辺りから鎖のようなものを出し、地面に突き刺して俺の体を固定する。俗に言う
「さて、キミがじゃじゃ馬のようなのは昔から変わらないね。──今、止めてあげるよ」
「……………………」
直前まで絶叫していたシルティアスが、何故か止まった。仲間の声が聞こえて──なんていう、そんな事が起こるとは思えない。
考えうる事としては、ルディアが超強い『思念』を送っている……くらいだな。
「ごめんけど、一旦我慢してね──
円環するキカイの隙間を縫って、ルディアが持つ
「今だ!!」
ルディアからの合図。俺の体は、反射的に動き出した。
自分の体を固定していた
音速を超え、光速にすら至ろうかという速度。その速度を乗せた
──名付けて、
めちゃくちゃ安直だが、それなりに格好いいネーミングじゃなかろうか。
「
そしてシルティオスも、使える限りの力を使おうとしていた。凄まじい魔力消費であり、シルティオス自身を光を化した攻撃……だそうだ。
光速化した二人による全力攻撃。
流石のキカイ──シルティアスを蝕んでいた円環渾天儀のようなキカイも、完全に破壊された。
ところで……。
「威力強いのはわかってたけど、まさかだよね!!」
俺達の攻撃によって起きた爆発の中から、シルティアスを抱えたルディアが現れた。
「リーベ、指示通りに!!」
「わかりましたわ!!」
ルディアが短距離転移で、すぐさまリーベの前に現れる。
「この子の全魔力を一時的に消し去っている。すぐに回復させて、蘇生するよ」
「そんな無茶をしたんですか……」
呆れながらも、リーベは魔法を発動した。
「
それは、回復魔法を司る神聖魔法よりも高度な回復魔法にして、リーベの独自魔法。リーベにのみ扱える、究極の
枯渇した生命力や魔力を蘇らせ、時には老化すらも巻き戻し、肉体の全盛へと巻き戻す。
長い詠唱と多大なる魔力消費を伴うが、強大な生命力を司る究極の魔法だった。
「カハッ……ゲホッゲホッ…………うう……」
生命が完全に停止していたシルティアスが息を吹き返した。
「シルティアス!!」
シルティアスの声を聞き、すぐにシルティオスが駆け寄った。
俺と同じ、凄まじい魔力消費でかなり疲労しているようだったのに……なんというか、やっぱり少し似ているかもしれない。
俺も魔力欠乏症になるギリギリだ。
って、あれ? ルディアも同じ感じじゃん。
「ルディア」
「うん? なんだい?」
「珍しいな、お前がそんなに消耗しているなんて」
「ああ、うん。ボクが使った〝
ちょっと余裕そうだな。
ルディアによると、能力には元から備わっているモノと外付けのモノもあるらしい。俺がフィエットから託されたスキルも外付けらしく、それと同じだそうだ。
なんでも、外付けの能力というのは自身の体質にあっていない事が多い。だからこそ使うのにはそれ相応の代償が必要であり、ルディアの場合は多大なる魔力……というわけだった。
まぁ何はともあれ、シルティアスも無事……とは言い難いが、生きている。
俺達も、誰一人欠ける事はなく──
「な、なんだ……?」
地面が揺れる。
天井が揺れる。
「……
シルティオスの声が聞こえる。
事態はまだ、終息していないようだ。