竜として異世界に転ず   作:暁悠

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第35話 それじゃあまたね

 明くる日。

 またシルティアス達と共に水竜祭巡りである。

 

「見て見て! これ!」

「キラキラしてて……綺麗だな、これ」

「でしょー? うちの国の特産品だよ! 周囲の魔力密度によって色とか光の具合が変わるんだよ!」

 

 いつぶりだろうか、こんなに平和な日々を歩むのは。

 

「ほら、これ!」

「これは……ネックレス?」

「そう、プレゼント!」

 

 いつになく嬉しそうなシルティアスを見ていると、なんだか浄化されるような思いだ。

 

「うぉっ、ルディア!?」

 

 背中から俺を抱きしめたのは、紛うことなきルディア。

 

「ねぇ、いつまでシルティアスとイチャついてるの?」

「イチャ……!? ルディアじゃないんだから、そんな事しないよ!!」

 

 あ、これ喧嘩が始まるパターンだ。

 そんな事の渦中にいたくないんですけど…………。

 

 ………

 ……

 …

 

「まずさ、ルディアはほぼ毎日アヴラージュと一緒にいるでしょ? 今日くらい、私がアヴラージュと二人っきりになってもいいと思うの」

「いいや、ダメだね。ダメなものはダメだよ。アヴはボクと一緒にいるの」

「…………二人で言い争ってても決まらないね。ここは、アヴラージュに決めてもらおう? ね、アヴラージュ、どっちと一緒がいい?」

 

 き、聞かれても困るんですけど──と、若干……いやかなり困惑する俺。

 

「俺はどっちとでも──」

「ダメなの! どっちか決めて!」

 

 面倒な……。

 

「そ、それじゃあ……シルティアスと……?」

「やった! ほらね、シッシッ」

「ぐ、ぐぬ……」

 

 俺に言われると流石に強要出来ないのか、ルディアは渋々といった感じで単独行動を開始した。

 

「今日もさ、一緒に楽しもうね!」

「う、うん……」

 

 目の前ではにかむシルティアスを前に、どうしてこんなにもしょうもない事で喧嘩してしまうのか……と、少し呆れる俺であった。

 

 ………

 ……

 …

 

 こんな感じで喧嘩は終わった。

 一人を取り合って……なんていう、ラブコメでよく見る構図なのだが、当事者になってみると面倒極まりない。それを読んでいた時はある種のハーレム状態にある主人公を妬んだりしたものだが、いざその状況になってみると面倒というか、呆れるというか。いや、マジで。

 ──って、うん?

 

「どうしたんですか?」

 

 何やら、屋台の中であたふたと頭を抱えている人がいた。

 見た限り……アイス屋か? ジェラート……かな。

 

「ああ? アンタ誰──って、水竜様じゃねぇか!!」

「あ、はいはい。で、どうしたんですか?」

「え? あ、ああ……ウチは屋台で氷菓を売っていてな。だが……思った以上に売れて、昨日だけで氷を切らしちまったんだよ。売る量が多いもんで、店仕舞いも遅くなっちまってな……。氷がなくっちゃ、氷菓も作れねぇ」

 

 だそうだ。かなり困っていそうだったので、とりあえず助けておく事にした。

 

「どれぐらい必要ですか? 必要量を指定していただければ、用意しますよ」

「おいおい、マジかよ!? こりゃ幸運だな。これも、水竜様の導きか……。って、量だったな。これを五袋分満たしてくれりゃいいよ」

 

 そう言って差し出されたのは、縦横二十センチ程度の麻袋五つ。

 なんだ、思ったより少なそうで安心したぞ。

 

「それじゃあ……氷結化(フローズン)

 

 氷結化(フローズン)は『変化』しなくても使えるのだ。これ、結構便利なんだよね。どこで使うのかって? ……それは聞かないでおくれよ。

 そんなこんなあって、一瞬で必要量を満たす事が出来た。

 

「お、おおおおおおっ!! 助かったぜ!! 一個サービスしてやっから、ちょっと待っときな!」

 

 ……となって、出てきたのは……バニラアイスかな?

 舐めてみると、まんまバニラアイス。世界観からして違うのに、どこからこれの材料が来るのか知ってみたいとも思ったが……ま、野暮かな。美味しいし、いいや。

 

「ひんやり美味しい〜♪」

 

 シルティアスもゴキゲンである。

 

   ◇◇◇

 

 そうして時間は経ち、いつの間にか日も沈み……。もう夜である。

 

「時間の流れって早いね……」

「だな」

「もっと一緒に楽しみたかった……」

 

 何を言ってるんだか。

 

「あ、そうだ! 今日って最終日だよね?」

「え? ああ、うん。そうらしいな?」

「だったらもうすぐあれ(・・)が始まるはずだよ! ついてきて!!」

 

 そうして手を引かれ、ある場所に連れてこられた。

 それは──〝星天(せいてん)()(かん)〟の、主砲の頂上。

 

「えっ、ここって……」

「今はここが一番高いもん! で、あれ(・・)が始まるよ」

 

 あれ……?

 あれってなんだよ──と、口にしようとした瞬間、それは起こった。

 

 バンッ!!

 

 破裂音のようなものが響き、空に花が咲く。

 

「……花火?」

「そう! 最終日には色んな色の花火が上がるんだよ!」

 

 赤、青、黄、緑、それぞれの様々な色に明滅する花火が幾つも上がり、夜色の空を彩っている。

 

「……水竜祭といえば、これだよね」

 

 シルティアスも見入っている。

 事件の面影はあちこちにあるが、こうしてみると、何もなかったみたいだ。空は綺麗で、誰かと一緒にお祭りを楽しんでいて、こんなふうに花火に見入って。

 こんなに幸せでいいのだろうか。

 

「あの、アヴラージュ」

「うん? どうした?」

「あのね、今日、楽しかった」

「へ? お、おう……? 俺も、楽しかったよ?」

 

 急に何を言い出すんだろう。

 

「また次の年……また一緒に、楽しめないかな?」

「え? 別にいいけど……なんで俺?」

「…………特に理由は無いよ」

 

 変な奴だな……。

 

 ──夜は深まる。一人の少女の、恋心と共に。

 

   ◇◇◇

 

 明くる翌朝。今度は徹夜せずに朝起きる事が出来た。

 ……で。

 

「なんで隣にいるんですかね?」

「え?」

 

 隣で寝ているのはシルティアスである。

 寝て起きた時はなぜ毎回隣に人がいるのか。本当にわけがわからない。事案だなんだと誤解されそうなので、本当にやめてほしいものだ。

 

「なんで隣にいるんだよって」

 

 衣服換装(リプレイス)という魔法──空間属性魔法と『格納空間』を利用した瞬間お着替えの便利魔法──で普段着に着替えながらちょっと愚痴り気味に言ってみる。

 俺の普段着は、ルディアに買ってもらった高めのブランド服である。一着銀貨十枚……つまり十万円相当の高額衣服である。ハイネックに大きめのフードがついた蒼い裏毛の黒いパーカーと黒いバギーパンツで、今のお気に入り。

 前はもっと違う服を着ていたのだが……シャムと戦ったあの日、実は魔力に馴染んでいた服でも限界で、溶けかけていた。冷却するより買い直そうという話になって、ルディアが散財してくれた……というわけである。

 ルディアの底なしの財力に感謝だ。

 

「ダメ?」

「ダメだよ!!」

 

 まったく……。

 俺としては、寝ている時、隣に女子がいるとドギマギして眠れない。しかもシルティアスは、実年齢的には違うだろうが、背格好からして同年代かそれ以下……。これで、俺が喜ぶより嫌がる理由をわかってもらえただろう。

 

「えー」

「えー、じゃない! わかったら今度からは控えるように。今度とかないかもだけど」

「はーい……って、今度とかない、って?」

 

 うん、そりゃ触れるよね。

 

「俺は放浪者だぞ? 定住族じゃないし、このままここに住み着く事もしない。この先にある乗船所から行けるゼルハーク大陸……それと、大陸の大部分を占める帝国の存在が気になるんだよね」

 

 俺はまだまだ異世界初心者なので、見聞を広める必要があるのだ。なので、人類国家を巡る事は最重要事項である。なので、一つの国家に定住している場合ではないのだ。

 

「ええーっ!! もっとうちにいなよー!!」

「そう言われてもな……」

 

 これは俺がこの世界で生きる事に直結する問題なので、本当に最重要事項なのだ。

 

「はいはい、駄々こねない」

 

 と、ルディアがシルティアスの首根っこを掴んで叱っている。

 何をしてるんだか、毎回毎回……。

 

「さて、ルディア、行くぞ」

「え? どこに?」

「どこって……忘れたか? 俺ら、フツーに冒険者だろ。活動しなきゃ」

 

 最近バタバタしていて忘れていた。俺達は冒険者で、それで食って行こうとしてる。だから、お金を稼ぐためには当然依頼(クエスト)をこなさなければならない。

 

「あ、そうだったね」

「俺ら普通に国家救ってたけど、本業は冒険者なんだよな……」

 

 最近は本当に激動の日々だったので、実感が薄れていた。

 たまには平和に活動もいいなと、俺はそう思うのだった。

 

   ◇◇◇

 

 早速、ルディア達と共にヴァルネリの東門まで来ている。

 ルディア()。そう。シルティアス……加えて、シュトルツやリーベまで一緒である。

 

「オレ達も帝国に用があってな。そろそろ、顔を出しておかねば」

「わたくしもですわ。まぁ、シュトルツの付き人として、ですが」

 

 二人とも、諸事情ありそうである。

 で、シルティアスはというと……。

 

「行かないでーーっ、やだぁーー!」

「はいはい、やめてねー」

 

 そう言って、俺に縋り付くシルティアスを引き離すルディア。

 

「ふぇええん……行かないでよぅ……」

「猫なで声で言ってもムダだよ」

「ふぐっ……」

 

 最後まで言い合ってるし。ここまで来ると笑えるな。

 

「じゃあ、またな。次はみんなで、生きて会おう」

「縁起でもないなぁ」

「だって、こんな世界だしな。ま、次期大統領……頑張れよ!」

「うん。ちゃんと、こなしてみせるよ! それじゃあ、またね!」

 

 そう言って、みんなで笑い合う。

 明日もこうだといいなと、そう思うのだった。

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