竜として異世界に転ず   作:暁悠

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第6話 魔法について

 あの洞窟に着くと、そこにはトリステスさんとルディアがいた。

 って、ルディア? さっきまで俺の隣に──

 

「あれ、いない?」

 

 ルディアは、いなかった。

 どういう事だ?

 聞いてみると、ルディアは──

 

「気にしないでよ」

 

 と、笑った。

 まあ、深く詮索はしないでおこう。

 

「……あの」

 

 トリステスさんが、少し深刻そうな顔で話しかけてくる。

 

「何でしょう?」

「……あの、村は……?」

 

 やっぱり気になっちまうか。ルディアが上手いこと誤魔化してくれたようだが、効果は薄いらしい。

 フィエットは心の底からあの村を憎んでいたようだが、トリステスさんはそうでもないだろう。

 しかし……なんて言うべきだろうか?

 事実をそのまま伝えるか、隠すか……。

 ルディアはそういう誤魔化しが(うま)いが、俺はそうでもない。隠すのも大変なので、包み隠さず話す事にした。

 

「俺が滅ぼしました」

「なっ……」

「それが、あの娘の願いだった。最後の最期で俺に託された、あの娘の願いだったんですよ」

 

──おまえを苦しめた奴ら、全員ブッ殺してやる!

 

 俺が主張した事でもあった。

 そうでもしないと、腹の虫が治まらなかった。

 もう、綺麗事なんて言っている場合でもなくなってしまったしな。

 不殺の心を貫いて、だとか、誰も死なないハッピーエンド、だなんて、結局は絵空事のまやかし。そんな邪魔な綺麗事はいらない。だってこの世界は、喰うか喰われるかだからな。

 

「……そう、なのですね。確かに……あの村での、あの娘の扱いは下劣なものでした。まともに家も与えられず、外出も禁止、食事も三日に一度……。本当に、苦しい場所だったように思います」

 

 トリステスさんの瞳に涙が浮かぶ。

 その視線は、俺でも、ルディアでも、はたまた集落跡でもなく、どこか、もっと遠い──空の上を見つめていた。

 綺麗な人が涙を流すと、どうしたってこう、美しくて──儚く、見えるのだろう。ここはやっぱり、母娘だな。

 彼女も、死ぬ間際には涙を流した。そんなあの娘を想う、この人もまた──。

 

「では、私は旅立とうと思います。ですがその前に──」

「その前に?」

「ここに、あの娘のお墓を、と思いまして」

 

 墓? 墓石は持ち合わせていないんだが……。

 

『そんなのじゃないよ、きっと』

 

 あ、そう。

 

『ならいいや』

 

 それだけ返して、俺はもう一度、トリステスさんに意識を向ける。

 

   ◇◇◇

 

 フィエットの遺体を土に埋め、簡易的な墓を作る。

 移ろうその魂は俺が喰っちまったが、どうか肉体だけでも……想い出のこの場所で、安らかに。

 そう願って、手を合わせる。

 

「さて、行きましょうか。とは言いますけど……どこに?」

「貴方が言ったんではありませんか。ここより遥か北に位置する都──アグニル王国ですよ」

 

 アグニル……? そんな名前だったっけ?

 

『なあ』

『合ってるよ、この名前で。大方、キミがボクの説明を聞き流していたんじゃないの?』

 

 うっ!?

 そう言われると、俺の失態に聞こえなくも……って、俺の失態ではあるのか。 

 

「この森を進む必要がありますが……北に行けば大丈夫でしょう」

 

 この人、結構脳筋気質あるな?

 この森って結構入り組んでいるのに、北に行けば大丈夫って……。まあ、間違いはないんだけどね? どうも脳筋の気配を感じるというかさあ……。

 ちょっと力業過ぎないかな? 別にいいんだけどね。

 

「ですね。それじゃあ、向かいましょうか。ルディア」

「はいはい」

 

 嫌そうに返事をしたルディアが、光となって俺の内部に入り込む。ルディアは俺よりも遥かに強いと思われるので、切り札にしておきたい。万が一にも、俺じゃ勝てないような相手に遭遇した場合のためだ。

 

「それって、どうなっているんです……?」

「まあまあ、細かい事は気にしなさんな」

 

 細かい事じゃないんですけど──というトリステスさんのツッコミが聞こえた気がしたが、今は無視である。ゴメンね。

 そんな会話を繰り広げながらも、俺達は森を進んでいた。基本は歩きなのでかなり移動速度は遅いが、まあ問題はなかろう。

 魔物の肉の調理方法も習得(マスター)しているし、食糧には困らないのだ。

 休息のタイミングで、トリステスさんに魔法を教えたりもしている。最初は俺が教えていたのだが……。

 

「ほら、これが風属性の元素魔法、その初級。風刃(ウィンド)だ」

「おお! 私の村の傭兵が使っていた魔法よりも高度、そして卓越した法則操作技術! 素晴らしいです、ルディアさん!」

「ハハハ、どうって事ないよ、こんな事」

 

 現在はルディアが教えていた。俺もそれにあやかって学んでいる状態である。

 最初こそ俺が教えていた──それも、ルディアの知識の受け売りだが──のだが、俺は教えるのがトコトン苦手なのだ。痺れを切らしたルディアが出てきて、俺の代わりに教え始めたのである。

 俺達三人の中で一番博識で一番強いのがルディアなので、この体制に文句はないのだが……。

 

「ボクは最上級の元素魔法を扱えるけど、キミらにはまだ早いし、出来て中級だろう? ゆっくり覚えていこうね」

「はいっ!」

 

 ぐ、ぐぬぬ……いっちょまえに格好つけよってからに……。

 ちょっと悔しいぞ……イヤマジで。

 最上級の元素魔法ねえ……。精霊魔法なら、全属性──〝火・水・風・土〟の自然四属性──の最上級魔法を扱えるんだけどさ、これって、俺の固有能力みたいな面もあるそうなんだよね。

 

 まず、俺の最初の種族は〝幼き竜(ドラゴネット)〟というらしい。字面通りだな。

 そこから〝自然を統べる竜(エレメンタルドラゴン)〟へと進化したらしいが……この原因は、俺のドラゴネット時代の食生活である。

 その時の俺の主食は、下位の精霊達。

 

 まず、精霊(スピリット)とは、自然の属性が具現化した存在らしい。堕天して肉体を得る事で新たな種族が生まれたりするらしいが、それに関しては割愛する。

 俺はその精霊を食らって吸収する事で、自身の成長の糧に変換していたようだ。それが、フィエットによる〝名付け〟とフィエットの魂の吸収によって急速に開花を始め、エレメンタルドラゴンへと至った。

 

 エレメンタルドラゴンだが、その名の通り自然の元素──つまり、自然属性を操る。各種精霊王の如き所業も可能だそうだ。なので、別名として〝精霊竜〟とも呼べる。

 まあ辛辣な意見を述べるとすれば、最上級の精霊魔法は扱えて当然なのだ。そうでなければオカシイ、そういう次元の話。

 だから、誇れる事じゃないんだよね。

 しかも、俺は魔法として発動したが、普通であればもっと自然的な超常現象を起こせるとの事。息をするように自然に、地獄の業火を燃え上がらせ、万物を凍てつかせる。そんな事が可能らしい。

 先代のエレメンタルドラゴンは──と聞いてみたが、わからないと即答されてしまった。

 実に難しい問題である。

 

「ねえちょっと、聞いてる?」

「え? あ、うんうん。聞いてますとも」

「ホントかなあ……?」

 

 危ない危ない。

 危うく、集中していないのがバレるところだった。

 

「元素魔法だけじゃなくて精霊魔法にも共通する点だけど、それぞれの属性があるよね。〝火・水・風・土〟……〝水〟は〝氷〟になってたりするけれど、大体一緒。これには術者の相性もあって、相性によって使いやすさも変わってくる。アヴで言えば圧倒的な〝火〟……というか〝炎〟だね。そんなふうに、適正の属性がある。だから、その魔法が上手く体得出来ない場合は、諦めて別の属性に切り替えるのも手だよ」

 

 アヴというのは、俺の愛称である。〝アヴラージュ〟の〝アヴ〟。単純だが、呼びやすそうで何より。

 それよりも……いやはや、ルディアの教え方は本当に上手い。

 なんというか、話に興味を持たせるのが上手いのかな? もっと聞きたいという気にさせる話し方をしていて、本当に教え方が上手だった。

 元の世界だと、教師にでもなっていそうだ。

 

 こうして、ルディアによる魔法講義は、一晩かけて行われる事となった。

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