竜として異世界に転ず 作:暁悠
あの洞窟に着くと、そこにはトリステスさんとルディアがいた。
って、ルディア? さっきまで俺の隣に──
「あれ、いない?」
ルディアは、いなかった。
どういう事だ?
聞いてみると、ルディアは──
「気にしないでよ」
と、笑った。
まあ、深く詮索はしないでおこう。
「……あの」
トリステスさんが、少し深刻そうな顔で話しかけてくる。
「何でしょう?」
「……あの、村は……?」
やっぱり気になっちまうか。ルディアが上手いこと誤魔化してくれたようだが、効果は薄いらしい。
フィエットは心の底からあの村を憎んでいたようだが、トリステスさんはそうでもないだろう。
しかし……なんて言うべきだろうか?
事実をそのまま伝えるか、隠すか……。
ルディアはそういう誤魔化しが
「俺が滅ぼしました」
「なっ……」
「それが、あの娘の願いだった。最後の最期で俺に託された、あの娘の願いだったんですよ」
──おまえを苦しめた奴ら、全員ブッ殺してやる!
俺が主張した事でもあった。
そうでもしないと、腹の虫が治まらなかった。
もう、綺麗事なんて言っている場合でもなくなってしまったしな。
不殺の心を貫いて、だとか、誰も死なないハッピーエンド、だなんて、結局は絵空事のまやかし。そんな邪魔な綺麗事はいらない。だってこの世界は、喰うか喰われるかだからな。
「……そう、なのですね。確かに……あの村での、あの娘の扱いは下劣なものでした。まともに家も与えられず、外出も禁止、食事も三日に一度……。本当に、苦しい場所だったように思います」
トリステスさんの瞳に涙が浮かぶ。
その視線は、俺でも、ルディアでも、はたまた集落跡でもなく、どこか、もっと遠い──空の上を見つめていた。
綺麗な人が涙を流すと、どうしたってこう、美しくて──儚く、見えるのだろう。ここはやっぱり、母娘だな。
彼女も、死ぬ間際には涙を流した。そんなあの娘を想う、この人もまた──。
「では、私は旅立とうと思います。ですがその前に──」
「その前に?」
「ここに、あの娘のお墓を、と思いまして」
墓? 墓石は持ち合わせていないんだが……。
『そんなのじゃないよ、きっと』
あ、そう。
『ならいいや』
それだけ返して、俺はもう一度、トリステスさんに意識を向ける。
◇◇◇
フィエットの遺体を土に埋め、簡易的な墓を作る。
移ろうその魂は俺が喰っちまったが、どうか肉体だけでも……想い出のこの場所で、安らかに。
そう願って、手を合わせる。
「さて、行きましょうか。とは言いますけど……どこに?」
「貴方が言ったんではありませんか。ここより遥か北に位置する都──アグニル王国ですよ」
アグニル……? そんな名前だったっけ?
『なあ』
『合ってるよ、この名前で。大方、キミがボクの説明を聞き流していたんじゃないの?』
うっ!?
そう言われると、俺の失態に聞こえなくも……って、俺の失態ではあるのか。
「この森を進む必要がありますが……北に行けば大丈夫でしょう」
この人、結構脳筋気質あるな?
この森って結構入り組んでいるのに、北に行けば大丈夫って……。まあ、間違いはないんだけどね? どうも脳筋の気配を感じるというかさあ……。
ちょっと力業過ぎないかな? 別にいいんだけどね。
「ですね。それじゃあ、向かいましょうか。ルディア」
「はいはい」
嫌そうに返事をしたルディアが、光となって俺の内部に入り込む。ルディアは俺よりも遥かに強いと思われるので、切り札にしておきたい。万が一にも、俺じゃ勝てないような相手に遭遇した場合のためだ。
「それって、どうなっているんです……?」
「まあまあ、細かい事は気にしなさんな」
細かい事じゃないんですけど──というトリステスさんのツッコミが聞こえた気がしたが、今は無視である。ゴメンね。
そんな会話を繰り広げながらも、俺達は森を進んでいた。基本は歩きなのでかなり移動速度は遅いが、まあ問題はなかろう。
魔物の肉の調理方法も
休息のタイミングで、トリステスさんに魔法を教えたりもしている。最初は俺が教えていたのだが……。
「ほら、これが風属性の元素魔法、その初級。
「おお! 私の村の傭兵が使っていた魔法よりも高度、そして卓越した法則操作技術! 素晴らしいです、ルディアさん!」
「ハハハ、どうって事ないよ、こんな事」
現在はルディアが教えていた。俺もそれにあやかって学んでいる状態である。
最初こそ俺が教えていた──それも、ルディアの知識の受け売りだが──のだが、俺は教えるのがトコトン苦手なのだ。痺れを切らしたルディアが出てきて、俺の代わりに教え始めたのである。
俺達三人の中で一番博識で一番強いのがルディアなので、この体制に文句はないのだが……。
「ボクは最上級の元素魔法を扱えるけど、キミらにはまだ早いし、出来て中級だろう? ゆっくり覚えていこうね」
「はいっ!」
ぐ、ぐぬぬ……いっちょまえに格好つけよってからに……。
ちょっと悔しいぞ……イヤマジで。
最上級の元素魔法ねえ……。精霊魔法なら、全属性──〝火・水・風・土〟の自然四属性──の最上級魔法を扱えるんだけどさ、これって、俺の固有能力みたいな面もあるそうなんだよね。
まず、俺の最初の種族は〝
そこから〝
その時の俺の主食は、下位の精霊達。
まず、
俺はその精霊を食らって吸収する事で、自身の成長の糧に変換していたようだ。それが、フィエットによる〝名付け〟とフィエットの魂の吸収によって急速に開花を始め、エレメンタルドラゴンへと至った。
エレメンタルドラゴンだが、その名の通り自然の元素──つまり、自然属性を操る。各種精霊王の如き所業も可能だそうだ。なので、別名として〝精霊竜〟とも呼べる。
まあ辛辣な意見を述べるとすれば、最上級の精霊魔法は扱えて当然なのだ。そうでなければオカシイ、そういう次元の話。
だから、誇れる事じゃないんだよね。
しかも、俺は魔法として発動したが、普通であればもっと自然的な超常現象を起こせるとの事。息をするように自然に、地獄の業火を燃え上がらせ、万物を凍てつかせる。そんな事が可能らしい。
先代のエレメンタルドラゴンは──と聞いてみたが、わからないと即答されてしまった。
実に難しい問題である。
「ねえちょっと、聞いてる?」
「え? あ、うんうん。聞いてますとも」
「ホントかなあ……?」
危ない危ない。
危うく、集中していないのがバレるところだった。
「元素魔法だけじゃなくて精霊魔法にも共通する点だけど、それぞれの属性があるよね。〝火・水・風・土〟……〝水〟は〝氷〟になってたりするけれど、大体一緒。これには術者の相性もあって、相性によって使いやすさも変わってくる。アヴで言えば圧倒的な〝火〟……というか〝炎〟だね。そんなふうに、適正の属性がある。だから、その魔法が上手く体得出来ない場合は、諦めて別の属性に切り替えるのも手だよ」
アヴというのは、俺の愛称である。〝アヴラージュ〟の〝アヴ〟。単純だが、呼びやすそうで何より。
それよりも……いやはや、ルディアの教え方は本当に上手い。
なんというか、話に興味を持たせるのが上手いのかな? もっと聞きたいという気にさせる話し方をしていて、本当に教え方が上手だった。
元の世界だと、教師にでもなっていそうだ。
こうして、ルディアによる魔法講義は、一晩かけて行われる事となった。