イナズマイレブンGO 紅蓮の翼   作:シキDX

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第十一話 VS万能坂中

 ホーリーロード二回戦、当日。

 朝の雷門中には、昨日までの迷いを引きずったままの、重苦しい空気が漂っていた。

 

「……みんな、それぞれの結論は出たか?」

 

 円堂監督の問いかけに、真っ先に口を開いたのは倉間先輩だった。

 

「俺たちは今更遅いかもしれないけどフィフスセクターの決定に従うつもりです。これ以上フィフスセクターに逆らってサッカーをする機会まで奪われたくはないですから」

 

 浜野先輩や車田先輩も、苦渋に満ちた表情でうなずく。指示に逆らえば廃部、従えば存続。彼らにとって、それは選ぶことのできない二択だった。

 

「そうか……天馬はどうする?」

 

 監督は短く答えた。その視線が、次に俺たち一年生へと向く。

 

「……俺考えました。考えて考えて……それでもやっぱり本当のサッカーがしたいです」

 

「チッまだそんな……」

 

「でも!それは俺1人じゃなくて雷門サッカー部のみんなと本当のサッカーがしたいんです。だからみんなが本当のサッカーをできるようにするためにも、俺フィフスセクターと戦います」

 

 天馬が真っ直ぐに宣言し、信助も「僕もやります!」と拳を握る。もちろん、俺も同じだ。必死になって特訓してきたは、全ては本当のサッカーのためなのだから

 そこへ、一歩前に踏み出す影があった。

 

「……たく、仕方ないな。つき合ってやるよ神童」

 

「霧野!」

 

 驚いた声を上げたのは神童先輩だった。

 

「オレはそんなに内申書気にしてないし。それにこの間の一回戦結構楽しかったしな」

 

 霧野先輩の瞳には、昨夜までの迷いはもうなかった。たとえチームが二つに割れようとも、彼は友と、そして自分の信念と共に歩むことを決めたのだ。

 

「それじゃあ今から試合会場の万能坂中へ向かいます」

 

 指示に従うと決めた先輩たち、反旗を翻すと決めた俺たち、そして不気味な沈黙を保つ剣城。

 バラバラの思いを乗せたキャラバンが、戦いの地へと走り出した。

 

 *

 

 万能坂中。そこは、これまでの明るい雰囲気とは一変し、どこか冷たく、威圧的な空気が支配していた。

 準備を進める俺たちの視線の先で、不気味な光景が繰り広げられていた。

 万能坂のシード、磯崎研磨たち三人が、剣城を囲んで何やら談笑している。

 

(……あいつ、やっぱりシード側の人間として動くつもりか)

 

 俺は拳を握りしめた。どんなに天馬が信じようとしても、目の前の現実はあまりにも黒い。

 剣城の不審な動きに警戒していると倉間先輩が、俺たち一年生にだけ聞こえるような低い声で吐き捨てた。

 

「いいかお前達が勝とうとしたら俺たちが止める。俺たちは俺たちのサッカーを守る!」

 

「倉間先輩……!」

 

 天馬の悲しげな声。だが、先輩は取り合わず、そのまま立ち上がってピッチへ向かってしまった。指示に従うと決めた先輩たちと、逆らうと決めた俺たち。チームは完全に二つに割れたまま、戦いの幕が上がろうとしていた。

 

 *

 

 ピーッ!

 

 ホイッスルと同時に、万能坂のキックオフで試合が始まった。磯崎が不敵な笑みを浮かべてパスを回すが、そのボールを凄まじいスピードでカットしたのは剣城だった。

 

(一気に攻め込むぞ!)

 

 カウンターに転じようと前線へ走り出す。俺も逆サイドから駆け上がった。

 だが、俺たちの期待は、直後に最悪の形で裏切られた。

 ボールを奪った剣城は、そのままピッチを反転。敵ゴールではなく、自分たちの守る雷門ゴールに向かって猛然とドリブルを始めたのだ。

 

「……!こいつまさか⁉︎おいやめろっ!!」

 

 神童先輩の驚愕の声が響く中、剣城は自陣のペナルティエリア手前で急停止した。

 

「『デスソード』!!」

 

 放たれたシュートは、まるで重力をも切り裂くような轟音と共に、味方キーパーである三国先輩を襲った。

 三国先輩が咄嗟に身構えるが、至近距離から放たれた必殺シュートは、先輩の手を弾き飛ばし、無残にもゴールネットを突き破らんばかりに揺らした。

 

 ――1対0。

 

 無機質なスコアボードに刻まれた数字。それはフィフスセクターが命じた「敗北の指示」そのものだった。

 

「剣城俺たちにも雷門潰しをやらせろよ。楽しみはみんなで分かち合わないとね」

 

 磯崎の合図と共に、万能坂の選手たちが一斉に動き出した。それはサッカーという名のスポーツではなく、獲物を追い詰める獣の群れだった。

 天馬が必死にボールを運び、突破を試みる。

 だが、その瞬間だった。審判の視線を遮るように体が重なった一瞬、鈍い音が響いた。

 

「うああああっ!!」

 

 天馬が苦悶の表情を浮かべてピッチに崩れ落ちる。一見するとただの接触に見えたが、天馬の足は赤黒く変色していた。

 

「な……っ!? おい、今の反則だろ!」

 

 俺は審判に向かって叫んだが、審判は首を振るだけで笛を吹こうとしない。

 どうやら上手く審判から見えないようにして怪我を負わせているようだ。まさかこの騙す技術が恐ろしい秘密ってやつか?

 

「それじゃ、そろそろマジで潰しに行くかな……。まずはお前からだ!」

 

 磯崎の卑劣な命令を受け、万能坂の選手たちが今度は霧野先輩をターゲットに定めた。神童先輩を守るために必死にディフェンスに入る霧野先輩に対し、彼らは執拗に足元を狙う。

 

「わああああっ!!」

 

 激しい接触の瞬間、霧野先輩のソックスが破れ、その下の肌が痛々しく赤黒く腫れ上がった。ただの接触ではない。まるで見えない刃物で切り裂かれたような、異常な腫れ方だった。

 その光景を、離れた場所から冷ややかに見ていた剣城の目が、わずかに細められた。

 

「あの足の腫れ方……。まさかあいつらダメージを増やすためにスパイクに細工をしているのか?」

 

 万能坂のやり方は、サッカーですらなく、ただの効率的な破壊だった。

 さらに追い打ちをかけるように、万能坂の選手が霧野先輩の両足を完全に「折る」ために、悪意に満ちた低いスライディングを仕掛けた。

 

「霧野――っ!!」

 

 神童先輩の叫びが響く。霧野先輩は避けることができず、覚悟を決めたように目を閉じた――。

 だがそんなことはさせない。

 

「……うわああっ!!」

 

 俺は霧野先輩の前に滑り込み、身を挺してそのスライディングをブロックした。相手の特製スパイクが、太ももを傷つける。

 

「コウ!?」

 

「……へへっ、大したことねえ。先輩に……手出しさてたまるかよ……」

 

 コウは痛む足を引きずりながらも、鋭い眼光で万能坂を睨み据えた。

 それを見た剣城の表情が、これまでの冷徹な仮面を脱ぎ捨て、何かを思い出したような、苦しげな色に染まる。

 

「次はお前だ!」

 

 光良が次は天馬を潰そうとするが磯崎がそれを止めた。

 

「おいこいつを潰すのは剣城だ。その辺にしとけよ」

 

「チッわかったよ。ほら剣城お前に譲ってやるよ」

 

 剣城の足元にボールが収まる。

 俺は痛む足を引きずりながら、天馬の前に立とうとした。

 

 「やめろ……剣城……ッ!!」

 

 だが、剣城の瞳に慈悲はなかった。

 

 「……俺はサッカーを守る。そのためにも勝たないと……いけないんだ!」

 

「……!サッカーサッカーって……お前は本当にうぜぇんだよ‼︎俺はここからお前にシュートを打つ!そしてお前を潰す!」

 

「それでも……逃げない!俺は最後まで戦う!」

 

「なぜだ!なぜそこまでやる‼︎」

 

「だって………おれサッカーを守りたいから。サッカーが大好きだから!」

 

 剣城はその言葉を聞きハッと何かを思い出したような表情をするがすぐに切り替えてシュートの体勢に入る。

 

「だっ黙れえぇぇ!!『デスソード』!!」

 

 漆黒の斬撃を纏ったシュートが、無防備な天馬を襲う。至近距離で衝撃を浴びた天馬は、木の葉のようにピッチを転がる。

 

「天馬!!」

 

 俺と信助が駆け寄る。だが、天馬は震える手で地面を掴み、泥に汚れながらも、ゆっくりと、確実に立ち上がった。

 

「俺は……諦めない。サッカーが大好きだから……」

 

 天馬の真っ直ぐな言葉が、スタジアムに響く。だが、万能坂の選手たちはそれを聞いて爆笑した。

 

「フン何が『大好き』だ。ただの球蹴りを」

 

「……!ただの球蹴り……?」

 

「そうさ。サッカーで世界でも目指そうってのか?バカかよ」

 

「サッカーで世界を……」

 

 光良が嘲笑いながら、天馬に向けて容赦ないシュートを振り抜いた。

 

「やっぱ松風は俺がやる。二度とサッカーができないようにケガをさせてやるぜ!」

 

 無防備な天馬に、殺意の籠もったボールが迫る。

 俺は飛び込もうとしたが、足の負傷が激痛となって俺を止めた。

 

 「クソッ、間に合わねぇ……!」

 

 激しい衝撃音。だが、天馬は無傷だった。

 砂煙が晴れた先。天馬の目の前で、迫りくるシュートを右足で踏みつけ、力づくでねじ伏せている男がいた。

 

「……剣城!?」

 

「何のつもりだ。そこを退け!」

 

 そこには、万能坂の攻撃を真っ向から止めた剣城京介が立っていた。

 

「サッカーは……」

 

 剣城の声は、地を這うように低く、冷たかった。その背後から、今までとは比べ物にならないほど禍々しく、かつ巨大なプレッシャーが噴き出す。

 

「サッカーはお前達が語っていいようなものじゃねえ!!」

 

 剣城の瞳に、初めて「シード」としてではなく「サッカープレイヤー」としての激しい怒りの炎が宿った。

 足元でねじ伏せていたボールを蹴り上げると、剣城はそのまま猛然と万能坂の陣内へと突進を開始した。

 磯崎が血相を変えて立ち塞がるが、怒りに燃える剣城のスピードにはついていけない。

 

「『デスソード』!!」

 

 放たれた漆黒の斬撃は、先ほどのオウンゴールとは比べ物にならないほどの威力と気迫を纏っていた。万能坂のキーパーが化身を出す間もなく、シュートはゴールネットに突き刺さった。

 

 ――1対1。

 

 同点のホイッスルが鳴り響くと同時に、前半終了を告げる長い笛がスタジアムに消えていった。

 

 *

 

 ハーフタイムのベンチは、戦場のような慌ただしさと、静かな熱気に包まれていた。

 

「……動かないで。今、冷やしてあげるから」

 

 紫が、膝をついて俺の負傷した足にアイシングを施す。その手つきは驚くほど丁寧だったが、俺を見上げる瞳には隠しきれない怒りと心配が混ざっていた。

 

「後半、もしこれ以上のラフプレイを受ければ……」

 

「……わかってるよ、紫。でも、ここで止まったら、さっきの剣城のゴールも、天馬の頑張りも全部無駄になっちまうんだ」

 

 俺が無理に笑うと、紫は少しだけ視線を伏せて、「……分かったわ」と、短く答えた。

 その隣では、神童先輩が苦悶の表情で霧野先輩を説得していた。

 

「よせ霧野!そんな足で試合に出たら本当にサッカーができなくなるぞ!」

 

「だけど、これで負けたら本当のサッカーは永遠に出来なくなるんだ!」

 

 霧野先輩は、激痛に耐えながらも、凛とした声で返した。

 

「どうせ出来なくなるなら……俺は本当のサッカーを守るために戦う!」

 

 その言葉に、神童先輩は言葉を失い、霧野先輩の震える拳をじっと見つめていた。

 そんなイレブンの様子を、腕を組んで見ていた円堂監督が、いまだに俯いたままの倉間先輩たちに向かって、静かに、けれど腹に響く声で喝を入れた。

 

「車田!天城!倉間!浜野!それに速水!お前らはあいつらを見て何も感じないのか?」

 

 その言葉に、先輩たちがビクリと肩を揺らす。

 

「一緒に練習してサッカーが上手くなりたいとやって来た仲間なんだろ?その仲間達の戦っている姿を見てお前達は何も感じないのか!お前達だって感じているはずだ!あいつらと同じようにサッカーを守りたいっていう気持ちを!」

 

「ぐっ、ぐぐぐぐ……!!」

 

 車田先輩が、奥歯を噛み締めて顔を上げた。その瞳には、恐怖ではなく、かつて持っていたサッカーへの情熱が再び宿っていた。

 

「うおおおお――!あーっ!くそーっ!!!わかったよこれ以上奴らの好きにはさせない!相手が誰だろうが構わない!俺たちは俺たちのサッカーを守ってみせる!」

 

「俺も行くド!やっぱり、仲間がこんな風にされて見過ごすなんてできないド!」

 

「やっぱ、行かなきゃまずいよね。この展開」

 

「……フン!」

 

「え?え?じゃ、じゃあオレも!」

 

 車田先輩の力強い言葉に、ベンチの空気が一変した。

 バラバラだった欠片(パズル)が、今、一つの「チーム」として完成しようとしていた。

 

「いいか!これからが本当の勝負だ!オレたち雷門のサッカーを見せてやるぜ!」

 

 車田先輩の吠えるような宣言と共に後半が始まろうとしていた。

 

 *

 

 後半戦開始のホイッスル。ピッチに立ったのは、前半までとは別人のような目をした雷門イレブンだった。

 

「『ダッシュトレイン』!!」

 

 車田先輩が唸り声を上げ、猛然と突進し、相手選手を跳ね飛ばしてボールを奪う。

 

「今だ、浜野!!」

 

 奪ったボールが浜野先輩へ渡る。

 

「ナイスパス!『なみのりピエロ』‼︎」

 

 ボールを踏みつけるとフィールドが水のように変化しその上を浜野先輩はピエロのようにボールに乗りながら万能坂の包囲網をひらりとかわし、流れるような連携でボールを前線へと運んでいく。

 浜野先輩のラストパスが、最前線に位置する剣城の足元へピタリと収まる。

 

(……来る。あいつの、本当の力が……!)

 

 俺は痛む足を引きずりながらも、その瞬間を凝視した。

 剣城の背後に、これまで以上に巨大で、荘厳な黒いオーラが膨れ上がる。

 

「『剣聖ランスロット』!!」

 

 鎧を纏った騎士の化身が現れた。それに対抗し、万能坂のキーパーも必死の形相で化身を発動させる。

 

「させるかよ! 降臨、『機械兵ガレウス』!」

 

 化身と化身が激突する異様なプレッシャーがスタジアムを支配する。

 

「『ロストエンジェル』!!」

 

 邪悪に光るボールが化身の剣と共にゴールへ叩き込まれる。

 

「『ガーディアンシールド』!!」

 

 万能坂のキーパーが化身の盾を掲げて防ごうとするが、その圧倒的な破壊力を前に、盾は粉々に砕け散った。

 凄まじい衝撃波と共に、ボールがネットを突き刺す。

 

 ――2対1。雷門、ついに逆転!

 

「よしっ!!」

 

 俺は思わず拳を突き上げた。

 

「調子に乗るなよ、雷門……ッ! 掃除の時間だ!」

 

 万能坂の光良が、狂気に染まった瞳で叫ぶ。彼の背後に四本腕のピエロのような化身、「奇術魔ピューリム」が姿を現した。

 

「喰らえ! 『マジシャンズボックス』!!」

 

 化身の魔力が凝縮された、目にも止まらぬ超高速シュートが雷門ゴールを強襲する。

 

「させるか!!」

 

 ボロボロの霧野先輩が、そして神童先輩が化身を出しながら、決死の覚悟でシュートコースへ飛び込んだ。二人の体に強烈な衝撃が走り、弾き飛ばされる。だが、それでもシュートの勢いは衰えない。

 

「霧野先輩! 神童先輩!」

 

 倒れ伏す二人を越え、凶悪なエネルギーの塊が俺の目の前に迫る。

 

(……今だ。紫との特訓、先輩たちの想い……全部この一撃に乗せる!)

 

 俺は痛む足の感覚を気合いで無視し、全身の熱量を右足へと集中させた。右足から立ち昇る炎が、スタジアムの空気を焦がすほどの熱気へと変わる。

 

「……その力を全部喰らって、倍にして返してやるよ!!」

 

 俺は迫りくるシュートの真っ芯に、振り上げた右足を思いっきり振り抜く。

 

「吹き飛びやがれ! 『フレアドライブ』!!」

 

 衝突の瞬間、凄まじい爆発音が響き渡った。相手のシュートを俺の熱い炎が飲み込み、巨大な火柱となって反転する。

 炎を纏ったボールは、万能坂の選手たちが反応する間もなくピッチを縦断し、そのまま相手ゴールへと突き刺さった。

 

 ――3対1。

 

 スタジアムが、一瞬の静寂の後に大きな歓声に包まれた。

 

「……決まった……!相手のシュートの力を燃料にゴールへと突き進む『フレアドライブ』!」

 

 ベンチで紫が、静かに、けれど誇らしげにクリップボードを胸に抱いた。

 そのまま試合終了のホイッスルが鳴り響く。

 雷門中、万能坂を跳ね除け、完全なる勝利を掴み取ったのだ。

 

 




新必殺技:『フレアドライブ』
属性:火
使用者:不知火恒陽
詳細:
燃え盛る炎を足に纏い、大きく振りかぶり力の限りに振り抜いてシュートする技。カウターシュートもできる。

ホーリーロード編までの設定集とか欲しいですか?

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