イナズマイレブンGO 紅蓮の翼   作:シキDX

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第十二話 不穏な影

 万能坂中との死闘から数日が経った、ある早朝。

 静かな河川敷に、ボールを蹴る鋭い音が響いていた。

 

「コウ! もう一回、もっと高くお願い!」

 

「おう、分かってるって! 行くぞ、信助!」

 

 俺は大きく踏み込み、ボールを天高く蹴り上げた。信助の必殺技習得に向けた特訓――空高く舞い上がったボールを信助がヘディングで叩き込むという信助の跳躍力を活かした特訓だ。

 信助は小さな体を目一杯バネのようにしならせて地を蹴るが、タイミングが合わず空を切る。

 

「……あちゃあ。やっぱり難しいなぁ」

 

「気にするな。お前のジャンプ力なら、いつか絶対に捕らえられるはずだ」

 

 俺がボールを拾い上げると、土手の上を猛スピードで走ってくる影が見えた。

 

「天馬!? おーい!」

 

「あ! コウに信助! おはよ……うっ、はぁ、はぁ……」

 

 走り寄ってきた天馬は、肩で息をしながら顔を上げた。

 

「二人とも、朝から特訓? ……あ! いけない、俺、寝坊しちゃって……もうすぐ朝練の時間だよ!」

 

「えっ、もうそんな時間!? 夢中で気づかなかった……」

 

 信助が慌てて時計を確認する。朝練開始まであとわずか。急がなきゃ間に合わないが、信助の目にはまだ「やり遂げたい」という強い光が残っていた。

 

「……コウ、あと一回! ラスト一回だけ付き合って!」

 

「……よし、わかった。次で最後だ、最高の一撃を決めろよ!」

 

 俺は全ての集中を右足に込め、今日一番の高さでボールを打ち上げた。

 ボールは朝日を背負い、空の彼方へと吸い込まれていく。

 

「いっけえぇぇぇ!!」

 

 信助が叫びと共に地を蹴った。その跳躍は、これまでのどのジャンプよりも鋭く、高かった。

 

「あ……っ、高く飛びすぎちゃった!?」

 

 勢い余った信助の体は、頂点に達したボールよりもさらに高い位置まで到達してしまう。だが、そこで信助は諦めなかった。空中で体勢を翻すと、ヘディングではなく、その両足でボールを真上から力一杯踏みつけたのだ!

 

「これなら……どうだぁーっ!!」

 

 足の裏で強烈なプレッシャーをかけられたボールは、まるで流星のような速さで地面に突き刺さった。

 

「やった……。今のみた!? これがボクの『ぶっとびジャンプ』だ!!」

 

「すごいよ信助! 今の、完璧な必殺技だよ!」

 

 三人でハイタッチして大喜びした。信助の新しい力が、この朝、河川敷で産声を上げたんだ。

 ……だが、余韻に浸っている暇はなかった。

 

「……あ。ねぇ、二人とも。朝練まであと数分しかないよ」

 

 天馬の引きつった声に、俺と信助は顔を見合わせた。

 

「「「うわああああ! 急げーーーっ!!」」」

 

 俺たちは慌てて荷物を掴むと、完成したばかりの必殺技の喜びを胸に、全速力で雷門中へと駆け出した。

 

 *

 

「……重役出勤のつもり?いつからそんなに偉くなったのかしら」

 

「朝っぱらから特訓なのはいいけど、練習に遅れたら意味ねーだろ!」

 

 校門を駆け抜け、グラウンドに滑り込んだ俺たち三人を待っていたのは、紫の冷徹なツッコミと、水鳥の雷だった。

 

「……す、すまん! 信助の必殺技が完成したもんでつい……」

 

 俺が言い訳しながら横を見ると、信助と天馬も縮み上がっている。

 気を取り直して、俺たちは先輩たちとの練習に合流した。そこには、万能坂戦でボロボロだった霧野先輩も、ケガを完治させて元気に練習する姿があった。

 だが、一人だけ、あの男の姿がない。

 

(……剣城。やっぱり来ねぇか)

 

 万能坂戦のあと、あいつは「万能坂がむかついただけだ」と突き放すように言っていた。でも、あのシュートは確かに俺たちの力になっていたはずだ。

 天馬が不安そうに、誰もいないゴール裏を見つめる。

 

「剣城、今日も来てないんだ……。やっぱり罰を受けちゃったのかな……」

 

「オレたちだって他人事じゃないんですよ」

 

 速水先輩が、いつもの弱気なため息をつきながら言った。

 

「少年サッカー法の第五条を破った…オレたちもどうなるか……」

 

「覚悟はしているド。俺達の意思でフィフスセクターに逆らうって決めたんだド」

 

 天城先輩が胸を叩いて豪快に笑うが、天馬は首を傾げた。

 

「あの……第五条って、何ですか?」

 

「知らないのか?」

 

 霧野先輩がボールを止め、天馬に向き直る。

 

「『サッカーは皆平等に愛されるべきであり、その価値ある勝利も平等に与えられるべきである』。フィフスセクターは、この第五条を実行するために作られたんだ」

 

「第五条……。それがサッカー界を変にしちゃったんだ」

 

 そんな話をしていると、校舎の方向から葵の声が聞こえた。

 

「皆さーん!ちょっといいですか。次の準決勝の相手について発表があるそうなんです。サロンまで来てもらえますか?」

 

「発表?準決勝の相手は『青葉学園』になったと聞いていたが」

 

「はいそのはずなんですけど今理事長と、円堂監督が話しているのでとにかくサロンに来てください」

 

 もしかして相手が変わったのか?だが普通はそんなことはしないはず……。俺たちは不安を抱えながらサッカー棟へと向かった。

 

 *

 

 サッカー棟のサロンに駆け込んだ俺たちを待っていたのは、信じられないほど重苦しい空気だった。

 円堂監督と音無先生の目の前で、金山理事長と冬海校長が幽霊のような顔をしてうなだれて逃げるように部屋を出て行ってしまった。

 

「どうかしたんですか?」

 

 天馬が代表して、静まり返った室内で声を上げた。

 監督は腕を組んで答えた。

 

「……次の対戦相手が『帝国学園』に変わった」

 

「て、帝国学園……!?」

 

 その名が出た瞬間、サロンの空気が凍りついた。一回戦や二回戦の比ではない。かつて雷門が何度も死闘を演じてきた、全国屈指の名門だ。

 

「そこまでして帝国学園をぶつけて来たってわけか。連勝もここでストップだな」

 

「今や帝国学園はフィフスセクターの手の中にある。化身使いだって何人もいるらしいぞ」

 

 他の先輩たちも、さっきまでの活気が嘘のように意気消沈し、沈黙が支配する。だが、ただ一人だけ、目を輝かせている奴がいた。

 

「でも帝国学園と戦えるなんてすごいじゃないですか!雷門VS帝国。ワクワクします」

 

 天馬の屈託のない叫びに、全員がポカンと口を開けた。

 

「フン南沢さんはいないし剣城も練習に出てこないんだぜ。勝ち目はねえよ」

 

「……だか諦めるわけにはいかない」

 

 天馬の無邪気な明るさとは反対に皆んなはネガティブな雰囲気になっていたがそこで神童が喝を入れる。

 

「試合の勝敗を管理するサッカーはいらない。ホーリーロードに勝ち続けて取り戻すんだ。本当のサッカーを」

 

 神童先輩の喝でみんなの表情が真剣なものになる。

 

「その意気だ!このメンバーで勝利に向けて突っ走るぞ!」

 

「「「はい!」」」

 

 *

 

 放課後。練習に向かおうとしたところで、神童先輩、三国先輩、霧野先輩の三人が深刻な顔で話し合っているのが見えた。

 

「どうかしたんですか、先輩?」

 

 俺と天馬が駆け寄ると、神童先輩と三国無先輩が眉をひそめて答えた。

 

「音無先生が見当たらない」

 

「学校中を探したんだがどこにもいない。お前見ていないか?」

 

「見ていません。そういえば朝元気がなかったし何かあったのかも……」

 

 天馬が不安そうに呟く。

 そこで通りがかった一人の先生が声をかけてきた。

 

「音無先生なら、さっき帝国学園行きのバスに乗るのを見かけましたぞ。何か急ぎの用事でもあるのか、ひどく思い詰めたような顔をしていたが……」

 

「えっ、帝国学園へ⁉︎でも帝国学園はフィフスセクターの手に落ちてるって噂じゃあ」

 

 三国先輩の判断は早かった。

 

 「心配だ。オレたちも帝国学園行ってみよう!」

 

 俺たちが急いで校舎を出ようとした、その時だった。

 近くの教室の影から、剣城が静かに現れた。

 

「あっ剣城!剣城学校来てたんだ。ねえどうして練習に来ないの?」

 

 天馬が詰め寄るが、剣城は冷たい視線を向けるだけだった。

 

「……馴れ馴れしいんだよ。オレはお前達の仲間になったわけじゃない。あの試合も万能坂のヤツらが気に入らないからやっただけと言ったはずだ。勘違いするな」

 

 そう言い残すと、剣城は俺たちの制止を振り切り、一人でどこかに行ってしまった。

 

「あいつ……。でも、今は音無先生が先だ!」

 

 俺たちはバスに飛び乗り、因縁の地、帝国学園へと向かった。

 

 *

 

 帝国学園の重厚な門を潜り、不気味なほどに静まり返った敷地内を急ぐ。

 

「……あ! 音無先生!」

 

 天馬の声に顔を上げると、校舎の影で一人隠れている音無先生を見つけた。

 

「あなた達どうしてここに!?」

 

「音無先生を捜しにに来たんです。先生こそどうして1人で帝国学園へ?」

 

「俺たちに何か隠していますよね?今朝も何だか元気なかったですし……」

 

「……そうだったの。ごめんなさい。生徒に心配かけるなんて教師失格ね。わかったわ全部話す……これを見て頂戴」

 

 音無先生は資料を俺たちに差し出した。そこには、帝国の全選手の詳細なデータと、監督の名前がはっきりと記されていた。

 

「……監督、鬼道有人……!?」

 

 神童先輩の顔が驚愕に染まる。

 「……⁉︎『鬼道有人』ってもしかして、円堂監督と一緒にイナズマジャパンで活躍したあの鬼道さんですか!」

 

「ええそうよ。『鬼道有人』は……私の兄なの」

 

「ええーそうだったんですか!」

 

 音無先生の言葉に、天馬は驚いた。

 

「……円堂監督にもこのことは話したわ。でも円堂さんも、兄が帝国にいるなんて信じていない。だって兄はサッカーのイタリアリーグで活躍しているはずだもの。確かに最近は連絡が取れないけど……」

 

 先生の悲痛な思いを聞き、俺たちは黙っていられなかった。

 

「先生、俺たちも行きます。一緒に手がかりを探しましょう!」

 

 音無先生を囲み、潜入捜査さながらに学園の深部へと足を進める。

 だが、その時だった。

 空気を切り裂くような鋭い音が背後から聞こえ、俺たちのすぐ脇を凄まじい速度のボールが通り過ぎた。ボールはコンクリートの壁を激しく叩き、不気味な反響音を残す。

 

「こちら御門。侵入者を発見。直ちに排除する!」

 

 

 振り返ると、そこには帝国のユニフォームを纏った選手たちが、冷徹な目で見下ろしていた。

 その体から放たれる圧倒的な威圧感は、これまでの相手とは格が違った。

 

「竜崎!鬼道監督に報告だ!」

 

「今、鬼道監督って言いましたよね」

 

「……!まさかそんな……」

 

 音無先生は鬼道さんの名前が出たことに驚くがその間にも帝国の生徒達が集まってくる

 

「くっここは一旦帰りましょう!いいですね?音無先生」

 

 俺たちは悔しさを滲ませながらも、包囲網が狭まる前にその場を後にした。

 帰り道のバスの中、音無先生はずっと窓の外を見つめていた。

 かつての伝説の1人、鬼道有人。彼が何を考え、なぜ敵として立ちはだかるのか。その謎は、深く暗い霧のように俺たちの前に立ち込めていた。

 

 *

 

 雷門中に戻った俺たちを、円堂監督が静かに待っていた。監督の目は、まるで俺たちが何を見てきたのか、すべて見抜いているようだった。

 

「……どうだ?帝国で何か見えたことはあるのか?」

 

 監督の問いに、霧野先輩が苦渋に満ちた表情で答える。

 

「見えたこと……さっき帝国の御門とかいうヤツが打ったシュートは凄かった……」

 

 三国先輩も深刻な面持ちで後に続く。

 

「シュートだけじゃないぞ。帝国は守りにも優れている。勝つためには何か手がいるな」

 

 重苦しい沈黙が流れる中、神童先輩が力強い足取りで一歩前に踏み出した。その瞳には、キャプテンとしての揺るぎない覚悟が宿っている。

 

「……監督。以前、久遠前監督と考えた必殺タクティクス『アルティメットサンダー』があります。あれなら帝国のディフェンスを打ち破れるかもしれません」

 

 

「そうか、やってみる価値はありそうだな。よし!アルティメットサンダーを試してみよう!」

 

 円堂監督の言葉に、神童先輩は力強く頷いた。

 

 

 *

 

 ミーティングルーム。大型モニターの前で、神童先輩が『アルティメットサンダー』の戦術図を示しながら説明を始めた。

 

「この必殺タクティクスは、何人かがパスを回し、その全エネルギーを一つのボールに凝縮させ、一気に相手のディフェンス陣に打ち込んで崩す戦術だ。……だが、これまで一度も成功していない」

 

「どうしてですか?」

 

 天馬が問いかける。

 

「最後にエネルギーが極限まで溜まったボールを蹴り出す瞬間、足にかかる負荷が凄まじいんだ。並のキック力ではボールの威力に押し返され、不発に終わってしまう。……文字通り、雷を蹴るようなものなんだ」

 

 神童先輩の言葉に、室内が静まり返る。すると、天馬がふと思いついたように口を開いた。

 

「……剣城ならできるかも」

 

「だけど、あいつは練習に参加する気ねーんだろ。数に入れるだけ無駄だって」

 

 倉間先輩が即座に、鋭い声でそれを否定した。

 

「……よし。まずは俺が最後を務める。みんな、グラウンドへ出よう!」

 

 神童先輩の号令で、全員がグラウンドへ飛び出した。

 

 *

 

「くっ……ああああっ!!」

 

 何度目かの衝撃音がグラウンドに響き、神童先輩が再びピッチに倒れ込む。神童先輩のテクニックを持ってしても、極限まで圧縮されたエネルギーの奔流を制御しきれない。

 

「……やっぱり、この負荷は並大抵じゃないド」

 

 天城先輩が額の汗を拭う。先輩達が肩で息をする中、紫が手元のメモを俺に見せた。

 

「神童先輩のキック力は及第点だけど、ボールの力がそれを上回っているわ。……コウ。あなたの『フレアドライブ』で鍛えた脚力なら、あるいは……」

 

「俺が……?」

 

 俺の言葉に、神童先輩が顔を上げた。

 

 「……やってみてくれ、コウ。お前のキック力なら、この力を押し返せるかもしれない」

 

 俺は深く息を吐き、センターサークルに立った。

 パスが回る。車田先輩、浜野先輩、霧野先輩……。高速で繋がるたびに、ボールは青白い稲妻を纏い、もはや直視できないほどの輝きを放ちながら俺の元へ迫ってきた。

 

「……来いッ!!」

 

 足に触れた瞬間、骨が軋むような凄まじい圧力が全身を襲った。まるで大型トラックを正面から受け止めているような衝撃。

 

「……うおおおおおぉぉぉぉっ!!」

 

 俺は痛む足の筋肉を気合でねじ伏せ、全身の熱量を右足に叩き込んだ。

 凄まじい爆発音と共に、ボールは俺の足から解き放たれた。

 

「やった、蹴り返したぞ!」

 

 天馬が歓喜の声を上げる。だが、その喜びは一瞬で驚愕に変わった。

 俺の足から放たれたボールは、ゴールとは全く無関係な、明後日の方向へと凄まじい速度で消えていったのだ。

 

「……っ、ハァ、ハァ……。クソッ、なんて力だ……」

 

 俺は膝をつき、激しく震える右足を抑えた。

 

「……ダメね。威力は十分だけど、エネルギーを押し返すことに全神経を奪われて、正確なコントロールを失っているわ」

 

 紫が駆け寄り、厳しい表情で指摘する。

 

「今のコウには、あの荒ぶる雷を『狙った場所へ流す』ための精密さが足りない。ただ跳ね返すだけじゃ、帝国のディフェンスは崩せないわよ」

 

「……コントロール、か」

 

 俺は遠く、ボールが消えていった空を睨みつけた。

 力だけじゃダメだ。この暴れ馬のようなエネルギーを飼いならさなきゃ、アルティメットサンダーは完成しない。

 だが結局、アルティメットサンダーの候補から俺は外れることになった。あの凄まじい反動を抑え込みながら、正確なコースへ蹴り出すには、今の俺にはまだコントロールの繊細さが足りないようだ。

 特訓の輪から離れた俺は、同じくサポートに回っていた天馬と信助の元へ歩み寄った。二人は、苦戦する神童先輩たちを心配そうに見つめている。

 

「コウ、大丈夫……?」

 

「ああ。キック力だけじゃどうにもならない壁ってのがあるんだな。……でも、俺たちが指をくわえて見てるわけにはいかないだろ」

 

 俺の言葉に、信助が力強く頷く。

 

「うん! アルティメットサンダーは先輩たちに任せるとしても、僕たちにしかできないことが何かあるはずだよ!」

 

 俺は二人の顔を交互に見ながら、紫と一緒に過去のデータを漁っていた時に見つけた「ある必殺技」について話し始めた。

 

「……なぁ。三人で、新しい連携技を試してみないか?」

 

「連携技?」

 

「ああ。……その名は、『トライペガサス』だ」

 

 天馬が目を丸くした。

 

 「『トライペガサス』……! 確か、初代雷門がフットボールフロンティアで使っていたっていう技だよね!?」

 

「やり方はよくわかんねえけど多分……」

 

 俺は説明するために地面にトライペガサスのやり方を書く。

三人のプレイヤーが交差し、そこから青い炎が立ち上り巨大なペガサスとなってゴールへと向かう壮大な技だ。

 

「今の俺たちの力があれば、この技を俺たちなりに再現できるはずだ!」

 

「トライペガサス……やろう、俺たちで!」

 

「僕もやるよ! 三人で伝説を蘇らせよう!」

 

 神童先輩たちが必死に雷を飼いならそうとしている隣で、俺たち一年生三人の、新たな挑戦が始まった。

 

 *

 

 放課後の練習が終わった後も河川敷に移動し俺たちは特訓を続けた。

 

「もう一回だ! 信助、左に寄りすぎてるぞ! 天馬、もっとスピードを上げて!」

 

「わ、分かった! 行くよ!」

 

 河川敷にはすっかり夜の帳が下り、街灯の光がピッチを淡く照らしている。三人で泥だらけになりながら、何度も走り込む。だが、トライペガサスを完成させるための青い炎はすぐに霧散してしまう。俺たちが諦めかけたその時だった、

 

「――情熱的なのはいいけれど、がむしゃらなだけじゃ、そのペガサスは羽ばたいてくれないよ」

 

 土手の上から、落ち着いた、けれどどこか楽しげな声が響いた。

 振り返ると、そこには端正な顔立ちに赤い髪、そして知的な眼鏡をかけた男性が立っていた。

 

「あ……ヒロトおじさん!」

 

 俺が声を上げると、男性は苦笑いしながら土手を下りてきた。

 

「コウ、久しぶりだね。でも『おじさん』と呼ぶのはやめてほしいな。まだその年齢じゃないよ」

 

「えぇっ!? コウ君、知り合いなの!?」

 

 天馬が驚愕の声を上げる。信助も目を丸くしている。

 

「へへっ、驚いたか? この人は基山ヒロトさん。『吉良財閥』の会長さんだけど、昔は伝説のイナズマジャパンで活躍した、世界トップクラスのストライカーなんだぞ!」

 

 俺が自慢げに紹介すると、ヒロトおじさんは照れたように眼鏡を直した。

 

「今はただのビジネスマンだよ。……でも、君たちの走りは、かつての仲間たちの情熱を思い出させてくれるね」

 

 ヒロトおじさんはピッチの中央、俺たちが交差しようとしていた地点に立ち、鋭い目で地面を見つめた。

 

「トライペガサスで重要なのは3人で息を合わせて一点で交わることだ。丁度交差する点が小さな星のように*の形になればきっとできるはずだ」

 

そういえば俺たちはただ交差すればいいと思っていた。

 

「そうか……もう一度、行こう! 天馬、信助!」

 

「「うん!!」」

 

 ヒロトおじさんの見守る中、俺たちは再び走り出した。夜の河川敷に、三つの光がより鮮明に、より力強く交差しようとしていた。




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