イナズマイレブンGO 紅蓮の翼   作:シキDX

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第十三話 VS帝国学園

ホーリーロード地区予選準決勝、当日。

 帝国学園に辿り着いた雷門イレブンの表情は、かつてないほどに険しかった。

 結局、昨日まで続いた特訓でも『アルティメットサンダー』は一度も成功せず、俺たちの『トライペガサス』も、ヒロトおじさんのアドバイスで形は見えたものの、実戦で使えるレベルには至っていなかった。

 剣城京介――結局、あいつは一度も練習に姿を見せなかった。

 整列のためにピッチへ向かおうとした時、俺の視界に「あの男」が入った。

 帝国学園ベンチの中央、冷徹なゴーグルを光らせるドレッドヘアーの男。

 

(……鬼道有人。伝説の司令塔……!)

 

 俺は思わず息を呑んだ。一瞥しただけでわかる。あの男の瞳は、全てを読み切っているような、底知れない深さがあった。

 

 ピーッ!

 

 乾いたホイッスルの音が、決戦の始まりを告げた。

 雷門のキックオフ。神童先輩が浜野先輩へパスを繋ぎ、まずは様子を見るようにビルドアップを開始する。だが、その一歩目から俺たちは帝国の力を思い知ることになった。

 

「うわっ!? なに、今の動き……!」

 

 浜野先輩の前に、帝国の龍崎が音もなく立ちはだかる。右へ抜こうとしても、左へ振ろうとしても、まるで鏡を見ているかのように完璧にコースを塞がれる。

 苦し紛れに放ったパス。だが、そのボールが届くことはなかった。

 

「遅いな」

 

 疾風のごとき速さで間に割り込んだのは、帝国の飛鳥だ。

 奪われたボールは、芸術的なまでのダイレクトパスで雷門の陣内を貫き、瞬く間に最前線の御門へ。

 

「挨拶代わりだ。受け取れ!」

 

 必殺技ですらない、ただのノーマルシュート。だがその威力は、空気を爆ぜさせるほどだった。

 

「させるかぁ! 『バーニングキャッチ』!!」

 

 三国先輩が全力で迎え撃つ。燃え盛る両手でボールを掴み取るが、着地した先輩の足が芝生の上をズルズルと後退し、ゴールラインの数センチ手前でようやく止まった。

 

「……嘘でしょ。ただのシュートを止めるのに、必殺技を使ってギリギリだなんて……」

 

 信助が顔を青くして呟く。

 

「攻めるぞ! 繋げ!!」

 

 神童先輩の咆哮と共に、雷門の反撃が始まった。

 指先から放たれる光の指揮――必殺タクティクス『神のタクト』。そのタクトに導かれ、天馬と倉間先輩が目まぐるしくポジションを入れ替え、帝国の隙を突こうと駆け上がる。

 流れるようなパスワークで敵陣深くへ侵入する。だが、ペナルティエリア手前で倉間先輩が前を向いた瞬間、そこには壁のように帝国のディフェンス陣が揃い踏みしていた。

 

「どけぇっ!!」

 

 倉間先輩が渾身のシュートを放つ。しかし、帝国のディフェンダーが微動だにせずその身を投げ出した。

 シュートは必殺技を出すまでもなく、鉄化面の肉体によってあっさりとブロックされる。

 

「……っ! 嘘だろ、シュートコースを完全に読まれて……」

 

 倉間先輩が驚愕に目を見開く。

 驚く暇もなく、跳ね返ったボールは一瞬にして帝国の反撃へと切り替わる。一糸乱れぬパス回し。ボールは吸い込まれるように再びエース・御門の足元へ届けられた。

 雷門ディフェンス陣は必死のマンマークで対応するが、一人少ない十人での戦い。数学的な必然として、どうしてもフリーの選手が生まれてしまう。

 

「あいつがフリーだ! 止めろ!!」

 

 ノーマークの選手がサイドから鋭く切れ込んでくる。

 

(……ここで通させたら終わりだ!)

 

 俺は迷わず、その突破を阻止すべく走り込んだ。

 

「『バーンドロウ』!!」

 

 炎を纏ったスライディングでボールを刈り取ろうとする。だが、相手は俺の動きを予見していたかのように、一瞬だけスピードを緩めた。俺の足がボールのわずか数ミリ横を虚しく通り過ぎる。

 ガッ、と足先がボールを掠めたが、コントロールを奪うには至らず、ボールは無情にもタッチラインを割って外へ転がっていった。

 

「クソッ……タイミングを外された……!」

 

 俺は芝生を叩いて悔しがる。

 

「コウ、落ち着いて! 焦りは禁物よ!」

 

 紫の鋭い声が飛ぶが、ピッチに漂う絶望感は確実に俺たちの精神を削り始めていた。

 

「神童先輩、一度守りを固めましょう! このままじゃ相手の思うツボだ!」

 

 俺は叫んだ。だが、神童先輩の瞳に宿る炎は消えていなかった。

 

「……いや、守っていても勝てない。まして相手は帝国。勝つには……。アルティメットサンダーしかない!」

 

 その決意に応えるように、再開直後、普段は消極的な速水先輩が驚異的な執念でボールを奪取し、神童先輩へ繋いだ。

 

「行くぞ! アルティメットサンダー!!」

 

 神童先輩の号令。起点となる浜野先輩へパスが送られ、同時に天馬と倉間先輩が最前線へと駆け上がる。

 浜野先輩から速水先輩、霧野先輩、そして天城先輩へ。パスが繋がるたびに、ボールにはバチバチとエネルギーが蓄積されていく。

 ピッチ中央で展開されるその異様な光景に、帝国ベンチの鬼道監督が、ゴーグルの奥の目を僅かに細めた。

 いよいよラストパスが天城先輩から神童先輩へ。

 

「――今だッ!!」

 

 神童先輩が渾身の力で右足を振り抜く。練習で何度も繰り返した、あの「雷を蹴る」感触。だが――。

 極限まで高まったエネルギーの奔流は、またしても神童先輩のキック力を上回った。

 凄まじい衝撃波が巻き起こり、ボールは推進力を得るどころか、その場で激しくバウンドして力なく転がった。

 

「……っ、そんな……完璧なタイミングだったのに……!」

 

 膝をつく神童先輩。それを見届けた鬼道監督が、冷徹に片手を上げた。

 

「これが『今』の雷門か。破壊しろ」

 

 指示は一瞬。こぼれ球を拾った帝国のカウンターが、無防備な雷門陣地を強襲する。

 

「やっと命令が来たか。行くぞっ!!」

 

 御門が口笛を吹く。すると、地面から七羽のペンギンが飛び出した。

 

「『皇帝ペンギン7』!!」

 

 放たれたシュートは、虹色に光りながら七羽のペンギンと共にゴールへ突き進む。

 

「させるかぁぁぁ!!」

 

 三国先輩が飛びつくが、指先を掠めることすら許されない。

 雷門のゴールネットが、悲鳴を上げるように激しく揺れた。

 

 スコアは1-0。

 

 あまりの破壊力に、スタジアムが静まり返る。

 

 *

 

 ピーっ!

 

 前半終了のホイッスルが、重苦しくスタジアムに響き渡った。

 スコアは1-0。だが、それ以上の絶望感が雷門イレブンを支配していた。

 何度試しても、アルティメットサンダーは発動すらしない。神童先輩の足は限界を迎えつつあり、ベンチに戻った誰もが沈黙に沈んでいた。

 

「……計算上、今の成功率はゼロに近いわ」

 

 紫の声が、追い打ちをかけるように冷たく響く。

 

「誰かが、あの雷を受け止めるだけの規格外のキック力を発揮しない限り、帝国のディフェンスは崩せない」

 

「くそっ……俺の力じゃ……」

 

 俺が自分の右足を握りしめた、その時だった。

 

「俺を出せ」

 

 聞き慣れた、けれどこの場には似つかわしくない声がして、全員が顔を跳ね上げた。

 通路の闇の中から、剣城京介が歩み寄ってきた。

 

「剣城!」

 

 天馬が驚きの声を上げる。

 

「俺を試合に出してくれ」

 

 神童先輩は、痛む足を引きずりながら立ち上がり、鋭い視線で剣城を射抜いた。

 

「今度は逃げないのか」

 

 冷ややかな問い。だが、剣城の瞳に、これまでの虚無感や反抗心はなかった。

 

「シードじゃない。1人のサッカープレイヤーとして頼む」

 

「信用できるわけない。ですよね、円堂監督……」

 

 車田先輩は反対のようだが

 

「決めるのはお前達だ」

 

 円堂監督はあくまで決定権は俺たちにあると伝える。

 無論ほとんどの人が信用していなかったが神童が信じたことで皆が信じて剣城が雷門の1人として加わった。

 

 *

 

 後半開始早々、雷門は再び『アルティメットサンダー』を仕掛けた。だが、最後を託された剣城のシュートは、力なく不発に終わる。

 

「どうしてだ!なぜ打てない……」

 

 膝をつく剣城の瞳には、かつてない迷いがあった。

 

「どうしたんだ!剣城‼︎」

 

 叫んだのは天馬だった。

 

「今のお前ちゃんとサッカーに向き合っていない‼︎そんなんじゃサッカーが泣いてるよ!」

 

 その言葉に、剣城の表情が劇的に変わった。迷いが消え、鋭い闘争心がその瞳に宿る。

 だが既に帝国のカウンターは始まっていた。敵のドリブルに対し、俺は渾身の力で地面を蹴り上げる。

 

「『バーンドロウ』!!」

 

 炎と共にボールを奪い取ると、神童先輩の鋭い指示が飛んでくる

 

「パスを回せ! 今度こそ決めるぞ!!」

 

 俺からスタートしたパスが、再び雷門の陣を駆け抜ける。浜野先輩、速水先輩、霧野先輩、天城先輩……。そして、かつてない高密度の放電を纏ったボールが、ペナルティエリア外に立つ剣城の元へ届く。

 

「……うおぉぉぉぉぉ!アルティメットサンダー!!」

 

 迷いを断ち切った剣城が、渾身の力でボールを叩く!

 凄まじい雷鳴。衝撃波だけで帝国のディフェンス陣が木の葉のように吹き飛ばされる。もはや帝国自慢の鉄壁など存在しない。ただ、ゴールへの道が一本の光となって開かれた。

 

「天馬!!打てっ!!」

 

「はいっ!!」

 

 弾け飛ぶディフェンスの隙間を縫って、天馬が真っ先にゴール前へと滑り込む。

 

「これで決める……! 『マッハウィンド』!!」

 

 超高速の風を纏ったシュートが放たれた。帝国の雅野が必殺技『パワースパイク』で迎え撃つが、風の刃がその巨大な重圧を真っ向から切り裂いた!

 ――突き刺さる、同点のゴール!

 

「やったぁぁぁ!!」

 

 信助と天馬が抱き合い、ベンチも歓喜に沸く。俺は天馬に駆け寄り、その肩を叩いた。

 

「おい天馬! いつの間にあんな凄いシュート覚えたんだよ!?」

 

 驚く俺に、天馬は照れくさそうに笑う。

 

「コウと一緒に練習した『トライペガサス』の走り込みだよ。あの時のスピードと風の感覚を、そのままシュートに乗せてみたんだ!」

 

 どうやらトライペガサスの特訓が別の形でみ実を結んだようだ。

 スコアは1-1。伝説の帝国を相手に、雷門が、そして剣城がついに目を覚ました。

 

 *

 

 天馬のマッハウィンドが決まった瞬間、スタジアムの空気が一変した。

 

「勝つぞ!!」

 

 神童先輩の魂の叫びに、全員が「おおおおお!」と腹の底から声を上げる。これまでフィフスセクターの影に怯えていた先輩たちの目にも、かつての雷門らしい、熱い闘志が宿っていた。

 だが、帝国はまだ死んでいなかった。

 

「……調子に乗るなよ、雷門ッ!!」

 

 帝国のキャプテン御門が、凄まじいプレッシャーを放ちながら強引にボールを奪い取る。そのままトップスピードで駆け上がり、再びあの禁断の口笛を吹いた。

 

「『皇帝ペンギン7』!!」

 

 七羽のペンギンを纏ったシュートが雷門ゴールを強襲する。

 

「させないっ!!」

 

 信助がバネのように弾け飛んだ。

 

 「『ぶっとびジャンプ』!!」

 

 小さな体で真っ向から受け止めるが、ペンギンの衝撃に耐えきれず、信助は後方へ吹き飛ばされてしまう。

 

「信助! ……でも、威力は落ちた!」

 

 俺は足に炎を纏い大きく振りかぶる。

 

「行けぇッ!『フレアドライブ』!!」

 

 必殺シュートをディフェンス技として使い、ボールを前線へと力一杯跳ね返した。

 ボールは一直線に帝国のゴール前へ。だが、そこには鉄壁のディフェンス陣が壁を作っていた。

 

「甘い!」

 

 敵の足がボールに届こうとしたその時、空から鋭い黒い影が飛び出した。

 

「甘いのはお前達だ……落ちろッ!」

 

 剣城だ。漆黒のオーラを纏い、俺の跳ね返したボールにさらなる加速を加える!

 

「『デスドロップ』!!」

 

 シュートチェイン! 俺の熱量と剣城の闇が混ざり合い、シュートの軌道を変えディフェンスの間をすり抜けていく。

 

「なっ!?『パワースパイク』!!」

 

 慌てて雅野が『パワースパイク』を繰り出すが、その拳が届くより早く、漆黒の雷鳴がゴールネットを無慈悲に揺らした。

 

 ピーッ! ピーッ! ピーーーッ!!

 

 試合終了の長い笛が鳴り響く。

 2-1。雷門中、伝説の帝国学園を相手に大逆転勝利。

 静まり返るスタジアム。やがて、雷門応援席から地鳴りのような歓声が沸き起こった。

 

「……やったな、剣城」

 

 肩で息をしながら、俺は剣城に向かって拳を突き出した。

 剣城は少しだけ、フンと鼻で笑うと、その拳を俺の拳に軽く当てた。

 

「……悪くないパスだった。お前のあの無茶な跳ね返しがなかったらこの得点はなかった」

 

「へへっ。お前のシュートチェインこそ、しびれたぜ」

 

 俺たちは泥だらけの顔で見つめ合い、確かな手応えを感じていた。

 シードでもない、ただの仲間として。ここから、新しい雷門の快進撃が始まるんだ。

 遠く、帝国ベンチで鬼道監督が静かに立ち上がる。その唇が、微かに微笑んだように見えたのは、俺の気のせいじゃなかったはずだ。

 

ホーリーロード編までの設定集とか欲しいですか?

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