イナズマイレブンGO 紅蓮の翼   作:シキDX

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第十四話 覚醒の予兆

 

 試合の喧騒が嘘のように静まり返った、帝国学園の奥深く。

 俺たちは、鬼道監督と佐久間コーチ、そしてキーパーの雅野に案内され、重厚な扉を抜けて地下へと続くエレベーターで下りていた。

 

「これから会ってもらうのはレジスタンスの中心人物だ。俺たちはこの方と共に革命を起こそうと考えているのだ」

 

辿り着いたのは、無機質だがどこか神聖な空気の漂う空間だった。

 

「久遠監督!」

 

 天馬が声を上げた。そこに立っていたのは、フィフスセクターによって雷門を追われたはずの久遠監督だった。

 

「お前達、頑張っているようだな……。雷門イレブン本来の力を見せてもらったぞ」

 

 あの厳しい久遠監督が、僅かに口角を上げて俺たちを労った。

 

「久遠監督……」

 

「それじゃあ久遠監督がレジスタンスの中心人物なんですか?」

 

「いや、私ではない」

 

 久遠監督が振り返る。その目線の先にいたのは、かつて雷門を率いた男、響木正剛さんだった。

 

「久しぶりだな、円堂」

 

 響木さんは鋭い眼光を俺たちに向け、衝撃の事実を口にした。

 

「我々は、フィフスセクター総帥イシドシュウジかれ『聖帝』の座を奪い取る。そうすれば以前のような自由なサッカーを取り戻すことができると考えている」

 

「革命の成功は君たちの肩に掛かっている頑張ってくれたまえ」

 

 聖帝の座を奪う。そのあまりに巨大な「革命」の計画に皆んなは一瞬で静まり返った。

 俺たちの勝利には、今やサッカー界すべての運命が懸かっていた。

 

「革命とか選挙とか大人の人たちが考えているのことは俺にはまだよくわからない。ただわかっていることは、俺たちがみんなサッカーが大好きだってことなんだ」

 

 天馬の力強い宣言に、俺も、そして隣に立つ剣城も無言で頷いた。

 帝国という壁を越えた先に待っていたのは、サッカーを変えるための本物の戦いだった。

 

 *

 

 帝国戦の勝利から数日。雷門サッカー部には、これまでとは全く違う活気が満ち溢れていた。

 何より大きかったのは、剣城が正式に練習に加わったことだ。あいつがピッチにいるだけで、空気がピンと張り詰め、チーム全体のレベルが底上げされるのが分かる。

 だが、俺たち一年生三人の課題――『トライペガサス』の特訓は、予想外の壁にぶつかっていた。

 

「……おかしいな。タイミングも、ヒロトおじさんが言ってた『星の形』の交差点も完璧なはずなのに」

 

 俺は荒い息をつきながら、地面の跡を見つめた。

 交差する瞬間、足元に青い閃光が走るところまでは行く。だが、そこから巨大なペガサスの姿を結ぶ前に、エネルギーが霧散して消えてしまうのだ。

 

「一旦、気分を変えよう! 基礎練習からやり直しだ!」

 

 天馬の明るい声に応え、俺たちはダッシュとパス回しに切り替えた。不思議なことに、技が完成しない焦りはあるものの、体は驚くほど軽い。

 

「なあ天馬。なんだか……力が湧いてこないか?」

 

「うん、俺も! 体が熱いっていうか、もっともっと動ける気がするんだ!」

 

 俺と天馬は、まるで体の中に未知のエネルギーが渦巻いているような感覚に包まれていた。一歩踏み込むたびに、地面を蹴り出す力が以前より格段に強くなっている。

 その時だった。

 

「……っ! 誰だ!?」

 

 校舎の影、部室棟の屋上付近から、射抜くような鋭い視線を感じた。

 俺が声を上げると、そこにあった人影がひらりと身を翻し、裏手の方へ消えていく。

 

「天馬、追いかけるぞ!」

 

「あ、待ってコウ!」

 

 *

 

 先輩達と共に校舎裏の木立を抜け、古びた倉庫の前でその人影を追い詰めた。

 

「そこまでだ! ……えっ?」

 

 俺と天馬が構えると、そこにいたのは黒ずくめの刺客などではなかった。

 

「一乃!それに青山じゃん。何だサッカー部を除いていたのはお前らかァ」

 

 かつて雷門のセカンドチームに所属し、フィフスセクターの力に絶望して部を去っていった二人だった。

 

「……。変だと思うだろ。未練たらたらでサッカー部を見学したりして」

 

 青山先輩が照れくさそうに、けれど清々しい表情で笑う。

 

「……て気になって帝国戦も観てたんだ。今更こんなこと言うの自分でも調子いいと思うけど……サッカー部に入れてくれ!」

 

「……わかった2人ともよく帰ってきてくれた」

 

 神童先輩は2人の願いを快く引き受けた。

 

「僕たちのサッカーを見て、戦おうって決めてくれる人がいる……こんなに嬉しいこと、ないよ!」

 

 天馬が子供のように飛び跳ねて喜ぶ。俺も、少しずつ「革命」が形になっていることを実感して、胸が熱くなった。

 グラウンドに戻り、ドリンクを飲んで一息ついていると、剣城が静かに俺と天馬の前に立った。その鋭い瞳が、俺たちの体を射抜くように見つめる。

 

「……松風、吉良。お前たち、もしかして化身が出せるんじゃないのか?」

 

「俺達が化身を……まさかぁ!」

 

 驚愕する天馬に対し、俺はハッとして隣に立つ紫を見た。

 

「コウ、前に私が言ったことを覚えてる? あなたには計り知れない潜在能力があるって。それが化身使いとしての資質よ」

 

 確信に満ちた目で頷く。

 

「俺もそう思っていた。マエストロもさっき反応を見せていた」

 

 いつの間にか背後に立っていた神童先輩も、真剣な面持ちで口を開いた。

 

「『トライペガサス』が完成しない理由も、そこにあるのかもしれない。お前たちのエネルギーが強くなりすぎて途中で形になる前に霧散しているのかもな」

 

 俺は自分の右手のひらを見つめた。ドクドクと波打つ鼓動が、今まで以上に熱い。

 

「化身を出せるようになれば、俺たちの力はもっと高みへ行ける。……やってみる価値はあるぜ、天馬!」

 

「……うん。僕にできるかわからないけど、やってみたい! みんなと一緒に、もっとすごいサッカーがしたいんだ!」

 

 革命の炎に、新たな「力」が加わろうとしていた。

 

 *

 

 すっかり日が暮れた河川敷。街灯の下で、俺と天馬は泥だらけになりながら、がむしゃらに「化身」を引き出そうとしていた。

 

「うおぉぉぉぉ! 出ろッ、俺の化身!!」

 

 俺と天馬は全身に力を込め、必死にオーラを練ろうとするが、背後には揺らめく陽炎のような影がわずかに見えるだけで、一向に形を成す気配がない。

 

「……はぁ、はぁ。やっぱり、そう簡単にはいかないね……」

 

 天馬が膝をついたその時、土手の上からどっしりとした声が響いた。

 

「やみくもに力んでも、化身は応えてくれないぞ」

 

「……あ、円堂監督!」

 

 監督はボールを脇に抱え、俺たちの元へ歩み寄ってきた。その瞳には、かつての自分たちを重ねているような温かさと、厳しさがあった。

 

「化身を出そうとする焦りが、お前たちの本来の動きを鈍らせている。……コウ、天馬。まずは目の前のプレーを極めることから始めてみたらどうだ? 『新技』を身につけようとする中で、自然と引き出される力もあるはずだ」

 

「新技……」

 

 監督の助言に、俺たちは顔を見合わせた。

 天馬は、マッハウィンドの加速を一点のステップに凝縮し、相手を翻弄する鉄壁のディフェンス技。俺は、バーンドロウのスライディングの姿勢から、炎の推進力を爆発させて相手をぶち抜くドリブル技を習得することになった。

 

「コウ、行くよ! もっと速く抜き去ってみせて!」

 

「おう、天馬こそ俺の火力を風で受け流してみろ!」

 

 俺達はお互いの得意分野を教え合い、円堂監督の鋭いアドバイスが飛ぶ。

 天馬と特訓を続けていたが、必殺技の完成には至らないまま時間だけが過ぎていった。足は鉛のように重く、頭も熱を帯びてくる。

 指導していた円堂監督も腕を組んで考え込んでいたが、ふとした瞬間に自分の時計を見て、目を見開いた。

 

「……ああ――っ! しまった!!今何時だ!」

 

 「え!?えーっと、わかりません……。でも、もうすぐ夕方じゃないでしょうか?」

 

 突然の叫び声に、俺と天馬はひっくり返りそうになる。

 

「やばい……。商店街が閉まっちやうな。買い物するの忘れてたァ!」

 

 伝説の監督の意外すぎる「うっかり」に、俺たちは顔を見合わせて噴き出した。張り詰めていた空気が一気に和らぐ。

 

 「買い物ですか?良かったらお手伝いしましょうか?」

 

 「おう、三人で行けば重い荷物も楽勝だろ。行こうぜ、監督!」

 

「ホントか?助かるよ。頼まれてる物が多くて、困ってたんだ。じゃあ今すぐ商店街へ付き合ってくれ」

 

 *

 

――ぐぅぅぅ

 

 静かになった夜の商店街に、なんとも気の抜けた音が響いた。

 天馬が真っ赤になってお腹を押さえている。特訓であれだけ動き回れば無理もない。

 

「あはは! 天馬、分かりやすすぎだろ。……監督、俺たちちょっとラーメン屋にでも寄ってから帰るわ」

 

 俺がそう言うと、円堂監督は袋を持ち直してニカッと笑った。

 

「なんだ、腹が減ってるのか! だったら、うちに寄っていけ」

 

「「えっ!? 監督の家に!?」」

 

 俺と天馬は声を揃えて驚いた。あの伝説の円堂監督のプライベートに踏み込むなんて、緊張するなって方が無理だ。

 監督は手慣れた様子で携帯電話を取り出し、耳に当てる。

 

「俺だ。今からサッカー部の部員と帰るぞ。晩メシ追加な!」

 

 電話を切った監督に、天馬が首を傾げて尋ねる。

 

「あの……今のって」

 

「俺の奥さん」

 

 監督は照れる様子もなく、誇らしげに胸を張った。

 

「監督、結婚してたんですか!」

 

俺たちは円堂監督が結婚していた事に驚きながらも円堂監督の家に向かった。

 

 *

 

 そして、たどり着いた円堂家。

豪華な玄関を開けると、そこには気品溢れる、けれどどこか親しみやすい雰囲気の女性が立っていた。

 

「2人とも買い物に通話せちゃったんでしょ?ごめんね。さあ、こっちへどうぞ」

 

 夏未さんに促され、俺と天馬は期待に胸を膨らませて食卓についた。目の前には、見たこともないほど豪華で、彩り豊かな料理がずらりと並んでいる。

 

「すごい!うまそー!」

 

「しかもいっぱいあるぜ!」

 

「育ち盛りなんだもの食べられるわよね?」

 

「「はい!いただきます!」」

 

 天馬と俺は、特訓で空ききった胃袋を満たすべく、勢いよく箸を伸ばした。俺は一番大きな肉料理を、天馬は野菜たっぷりのスープを一口――。

 

「…………っ!?」

 

 その瞬間、俺たちの動きが完全に止まった。

 舌の上に広がるのは、甘いのか辛いのか、はたまた未知の衝撃なのか……脳が理解を拒否するような「強烈」な味。豪華な見た目からは想像もつかない、破壊的な衝撃が口内を駆け巡る。

 

(……な、なんだこれ……!? 味が喧嘩してるどころか、戦争が起きてる……!)

 

 隣を見ると、天馬の顔が真っ白になり、魂が口から抜けかけている。

 

「……美味しい?コウ君?」

 

 夏未さんが、上品に微笑みながら感想を求めてきた。

 嘘がつけない性格の俺は、思わず本音が漏れそうになった。

 

「……これ、正直言ってm――」

 

 ドゴォッ!

 

「……っぐえ!?」

 

 言いかけた瞬間、隣に座っていた円堂監督の鋭い肘打ちが、俺の脇腹にめり込んだ。

 

「――っは、ははは! なあコウ! 感動しすぎて言葉が出ないよな! 夏未の愛情がたっぷり詰まった、最高に『効く』メシだもんなぁ!!」

 

 監督は冷や汗を流しながら、俺の肩をガシガシと叩いて無理やり言葉を封じ込める。その瞳は「頼む、これ以上は言うな!」と必死に訴えていた。

 俺と天馬は、アイコンタクトで覚悟を決めた。ここで残したら、それこそ明日の試合を前に別の意味で終わる。

 

「……う、うま……最高です……!」

 

「はい! どんどん……力が……沸いてくる……です!」

 

 俺たちは涙目になりながら、水で流し込むようにしてなんとか完食した。

 

 胃袋を駆け抜ける未知のエネルギー。ある意味、今までのどんな攻撃よりも恐ろしい体験だったが、不思議と「これを乗り越えた俺たちに、もう怖いものはない」という奇妙な自信が芽生えていた。

 

 

 翌朝、昨夜の晩餐のダメージもようやく抜け始めた頃、俺の端末に紫から「至急、鉄塔へ来なさい。人目につかないように」とメッセージが届いた。

 

(……一体、何が始まるんだ?)

 

 指定された場所に向かうと、そこにはいつものようにタブレットを操作する紫が立っていた。しかし、その雰囲気は普段の冷静な分析官とは一線を画す、鋭く冷徹なものだった。

 

「来たわね、コウ。……今日、ここでやることは他言無用よ」

 

「……あ、ああ。分かってるけど、特訓って何をするんだ?」

 

「化身を出す特訓を本格的に始めるのよ」

 

 紫は一歩前に出ると、深く息を吸い込んだ。その瞬間、周囲の温度が急激に下がり、地面から白い冷気が立ち昇る。

 

「出なさい――『氷雪の女神スカジ』!!」

 

 凄まじいプレッシャーと共に、紫の背後に巨大な青白いオーラが形を成した。美しくも冷酷な、弓を構えた女神の姿。紛れもない「化身」だ。

 

「……っ!? 化身!? ゆかり、お前……本当に何者なんだよ!」

 

 俺は驚愕して叫んだ。一介のマネージャーが出せる代物じゃない。紫は女神のオーラを纏ったまま、冷たい視線で俺を見据えた。

 

「言ったはずよ、ただのサッカーマニアだって。……さあ、講釈は終わり。これから数時間、このスカジを纏った私からボールを奪ってみなさい。化身の圧力を肌で感じない限り、あなたの化身は目覚めないわ」

 

 特訓は過酷を極めた。

 紫の動きは無駄がなく、女神の加護を受けているかのように氷のように滑らかで速い。俺が『バーンドロウ』で突っ込んでも、冷気の壁に弾き飛ばされる。

 

「そんなもの? あなたの情熱はその程度なの?」

 

 挑発的な言葉が飛ぶ。俺は何度も地面に叩きつけられながら、泥だらけになって食らいついた。

 

 *

 

 どれくらいの時間が経っただろうか。

 体中が悲鳴を上げ、呼吸もままならない。だが、その極限状態の中で、俺の心臓の鼓動が、スカジの放つ冷気に対抗するように熱く波打ち始めていた。

 

 ピピピ、ピピピ。

 

 突然、紫のポケットから無機質な着信音が鳴り響いた。女神の姿が静かに消え、周囲の冷気が霧散していく。

 

「……はい、紫よ。ええ、分かったわ。すぐに向かうわね」

 

 電話を切った紫が、いつもの冷静な表情に戻って俺を振り返る。

 

「葵さんから連絡よ。剣城君がシードの人達に連れて行かれたみたい」

 

「なっ……⁉︎早く助けに行かねえと!」

 

 葵からの連絡を受けた紫の言葉に、俺は弾かれたように駆け出そうとした。だが、紫は動じず、冷徹なまでに静かな声で俺を止めた。

 

「待ちなさい、コウ。今から学校へ向かっても手遅れよ。……それに、向こうから『こちら』に来るはずだわ」

 

「こちらに……? どういうことだよ!」

 

紫に促され、鉄塔付近へと急いだ。すると、そこには血相を変えて走ってくる天馬と信助たちの姿があった。

 

「天馬! 信助! 何があったんだ!?」

 

「コウ! 紫さんも! 大変なんだ、剣城が……海王学園の選手たちに連れて行かれちゃったんだ!」

 

天馬の話によれば、練習後の剣城の元に海王学園の奴らが現れ、挑発するように彼を連れ去ったという。俺たちは天馬たちと合流し、鉄塔の広場へと向かった。

 

「……いたぞ!」

 

鉄塔下の開けた場所。そこには、数人の男たちに囲まれた剣城の姿があった。海王学園のユニフォームを着た奴らは、不気味な笑みを浮かべながら剣城を弄ぶように睨みつけている。

 

「ひどい……あんな大勢で囲むなんて!」

 

信助が怯えながらも声を上げる。

剣城は一人、鋭い眼光を崩さずに立っていたが、その周囲には海王の選手たちが放つ、重苦しい「化身使い」独特のプレッシャーが渦巻いていた。

 

「よーく、目に焼き付けとけ。しばらくは、お天道様を拝めねえかもしれないんだからな」

 

海王のリーダー格と思われる男が、嘲笑を浮かべて一歩前に出る。その瞬間、彼の背後から波打つようなプレッシャーが溢れ出した。

 

「オレはお前の無駄口に付き合ってるほど暇じゃない。さっさとやれ」

 

剣城が低く唸るように返す。その時――

 

「やめろ!剣城を返せ!」

 

 天馬の叫びが夜の鉄塔に響き渡る。

 

「おまえら……バカが。オレに構うなと言ったはずだ!お前らは、フィフスセクターの恐ろしさを知らないんだ。フィフスセクターは裏切りを許さない。お前らが巻き込まれる必要はない……」

 

「そんな……寂しい事言うなよ。一緒にサッカーするって約束しただろ!」

 

「そうだぜ!お前がいないと始まらねえだろ!」

 

 俺たちは剣城に必死に訴えかけるが海王学園の奴らは鼻で笑い、リーダであろう浪川と呼ばれた男が無造作にボールを蹴り出した。

 

「フン、いいだろう。ただし俺たちとの決闘に勝ったらな。行くぞ!」

 

 始まったのは、5対5のミニサッカーバトル。だが、相手は全員がシードだ。個人の身体能力だけで、俺たちは序盤から防戦一方に追い込まれる。

奴らのパス回しは重く、鋭い。俺が食らいつこうとしても、パワーで強引に弾き飛ばされる。

 だが、倒れ込んだ俺の視界に、一人で戦い続けてきた剣城の背中が映った。

 

「ここで負けたら剣城は……。そんなのダメだ!俺は剣城と……みんなと一緒にサッカーやるんだ!だから、絶対に何とかするんだ!」

 

 天馬の瞳に、激しい闘志が宿る。相手がドリブルで仕掛けてきたその瞬間、天馬の周囲に激しい気流が巻き起こった。

 

「マッハウィンドの加速を一点に……! 『スパイラルドロー』!!」

 

 螺旋状に渦巻く風が、磁石のようにボールを吸い寄せる。天馬が特訓で掴みかけていた新技が、仲間を想う力でついに完成した!

 

「コウ、行って!!」

 

「おうっ、任せろ!」

 

 風のパスを受け取った俺の前に、海王のディフェンダーが二人がかりで立ちふさがる。

 

「行かせるかよ!」

 

「どけぇッ! 俺たちを……舐めるな!!」

 

 俺は低く身を沈め、右足の瞬発力を爆発させた。バーンドロウの「奪う」踏み込みを「抜く」推進力へ。背後に熱風を引き連れ、俺は突風のごとき速さで相手の股下を、そして横を一瞬で駆け抜ける!

 

「『烈風ダッシュ』!!」

 

 目にも止まらぬ速度で相手を置き去りにし、俺は無人のゴールへ魂を込めたシュートを叩き込んだ。

 

「……チッ、今のは……」

 

 海王の奴らの顔から余裕が消える。激高した一人が再び化身のオーラを昂らせようとした、その時だった。

 

 ピリリリッ。

 

 リーダー格の男の携帯が鳴る。奴は舌打ちをして通話に出ると、すぐに不気味な笑みを浮かべてこちらを見た。

 

「野郎ども!引き上げだ!」

 

「えー!そりゃねえぜ、キャプテン!」

 

「イシド様が剣城は放っておけって言うんだ!だったら俺たちは従うだけだ!」

 

 

 去り際、リーダーの男が振り返って言い放った。

 

「いいか雷門!次の試合お前達の首を頂く!」

 

 静まり返った鉄塔の下。俺と天馬は肩で息をしながら、ようやく解放された剣城の元へ駆け寄った。

 

「剣城、無事で良かったよ」

 

「フン……、助けなんて頼んでないぜ」

 

 剣城はいつものように素っ気なく言ったが、その視線はどこか柔らかかった。

 

「わかってる。でも良かった」

 

 剣城が戻ってきた事に俺と天馬は顔を見合わせて笑った。

 しかし、海王学園が去った後の鉄塔広場には、重苦しい沈黙が流れていた。

 今しがたの新技で一矢報いたとはいえ、相手はまだ本気ですらなかった。スタメン全員がシード――その事実が、雷門イレブンの心に冷たい影を落とす。

 

 「なんか今になって『革命』の重さがどーんとのしかかって来た感じ……」

 

 信助が不安げに漏らすと、他のメンバーも俯いてしまう。せっかくの勝利の余韻が、決勝戦への巨大なプレッシャーに塗り替えられようとしていた。

 その時ーー

 

「よし、こんな時はあそこに行ってみるか!お前達も行かないか?きっと気にいるぜ!」

 

「行くってどこですか?」

 

 円堂監督の唐突な提案に、神童先輩は首を傾げる。

 

「俺のお気に入りの場所。いいから着いてこいよ!いいものを見せてやるからよ」

 

 監督に促され、俺たちは一つずつ、鉄塔の階段を、梯子を登っていった。一段登るたびに、地上を吹き抜ける風が冷たく、けれど心地よく頬を撫でる。

 たどり着いた展望スペース。そこから見えたのは、稲妻町の風景だった。

 鉄塔の頂上から見下ろす稲妻町の風景は、息を呑むほどに美しかった。地上の喧騒が遠のき、ただ風の音だけが耳を掠める。

 

「うわー!いい眺め!」

 

「だろ?、俺とおじいちゃんの一番のお気に入りの場所なんだ。なんかパワーをもらえるからさサッカーのことで悩んだらここに来るようにしてた」

 

 円堂監督の言葉に、俺たちは静かに聞き入った。かつてこの場所で、伝説のキーパーも俺たちと同じように葛藤し、そして勇気を手に入れてきたんだ。

 

「……だが、感傷に浸っている時間はないはずだ」

 

 静寂を破ったのは剣城だった。その瞳は、地上にいた時よりも鋭く、戦士の輝きを放っている。

 

「海王学園は全員がシード。対抗するには、俺たちも化身を出すしかない。……ここで、化身共鳴を使って天馬の化身を引き出す」

 

 剣城の提案に、天馬が力強く頷く。

 

「うん、やろう! 怖がってちゃ何も始まらない!」

 

 神童先輩と剣城が化身を出し、天馬に「化身のオーラ」を浴びせる特訓が始まった。激しいオーラの激突が鉄塔を震わせる。

 俺は、その様子を横で見ていた紫と視線を合わせた。紫は無言で頷き、少し離れた人目のつかない場所へと俺を促した。

 

「コウ、私たちは私たちの特訓を続けるわよ。私とあなたの力は少し似通ってるから私たちでやったほうが効率的なはず」

 

 紫目を閉じると背後からオーラを出して化身を顕現させる。

 

「出すわよ――『氷雪の女神スカジ』!!」

 

 鉄塔の影で、再び現れる青白い女神。その弓が俺の胸元に向けられる。

 

「さっきの『烈風ダッシュ』は良かったわ。でも、化身使いを相手にするには、まだ熱量が足りない。……来なさい、コウ! あなたの心臓を焼き尽くすほどの炎を見せて!」

 

「……ああ、分かってる!!」

 

 俺は叫び、紫の放つ氷の衝撃波の中へと飛び込んだ。

 海王学園との決戦まで、あと少し。

 鉄塔の頂上で、「革命」を完遂するための、特訓は夜更けまで続いた。




新必殺技:『烈風ダッシュ』
属性:火
使用者:吉良恒陽
詳細:
既存技。
炎をまとった超スピードで 敵を抜き去る。


新化身:『氷雪の女神 スカジ』
属性:風
使用者:藤原 紫
詳細:
弓矢を持つ雪の女神。
必殺技:???

ホーリーロード編までの設定集とか欲しいですか?

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