イナズマイレブンGO 紅蓮の翼   作:シキDX

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第十九話 VS白恋中

 白恋中の「絶対障壁」を破るべく新たな必殺タクティクスに挑み続けた俺たち雷門。

 そして、試合当日の朝――

 

「やった――!成功だ!!」

 

 何とかギリギリで必殺タクティクスを形にすることができ大喜びで抱き合う天馬と信助。ちなみに俺は新たな必殺タクティクスを受けて尻餅をついていた。このタクティクスなら白恋中の「絶対障壁」も突破できるはず。

 ついに、白恋中を攻略する「切り札」が完成したんだ。

 

 *

 

 俺たちはついに白恋中との決戦の地、スノーランドスタジアムへと到着した。

 最終調整を終え、いざ試合会場へと続く扉の前に立つ。天馬が「なんだか、すごく寒いね」と身震いするが、皆は決戦前の独特な緊張感のせいだと思っていた。

 

「行くぞ、みんな!」

 

 神童キャプテンの号令と共に、扉が開かれる。

 その瞬間、猛烈な冷気が俺たちの身体を襲った。

 開かれた扉の向こうを見て、雷門の選手たちは驚愕に目を見開く。

 

「……な、なんだこれ!?」

 

「うそ……だろ……!?」

 

 そこに広がっていたのは、サッカー場とはかけ離れた、まるで氷に覆われた洞窟のような光景だった。

 フィールドを囲む壁は凍りつき、天井からは巨大な氷柱がいくつもぶら下がっている。白い息が視界を遮るほどの異常な寒さがスタジアム全体を支配していた。

 

 そんな極寒の中で練習時間が始まった。だが、足を踏み出した瞬間、俺たちはこのフィールドの本当の恐ろしさを思い知らされた。

 

「うわぁっ!? と、止まらない!」

 

 天馬が叫び声を上げる。フィールドの表面は完全にアイスバーン状に凍りついており、一歩踏み出すたびに足が滑って、まともに走ることすらできない。

 

「おっとっと……! なんだこれ、スケートリンクじゃん!」

 

 浜野先輩がバランスを崩し、派手に尻もちをつく。

 

「これじゃあサッカーどころか、立ってるのが精一杯だってば……」

 

 不満を漏らす浜野先輩の横で、俺も必死に踏ん張るが、スパイクが氷を掴んでくれない。

 これでは特訓した『ダブルウィング』どころか、普通のパス回しすら不可能だ。

 しかし、そんな俺たちの無様な様子を尻目に、白恋中の選手たちが悠然とピッチへと滑り出してきた。

 

「な……っ!?」

 

 驚愕の声が漏れる。

 白恋中の選手たちは、この鏡のような氷の上を、まるで乾いた芝生を走っているかのような滑らかさで駆け抜けていた。それどころか、氷の滑りを利用して、通常ではありえない鋭いターンや加速を見せている。

 

「……くそっ。完全にアウェイだ」

 

 俺は奥歯を噛み締めた。

 フィールドに翻弄され、絶望的な空気感がチームを包み込もうとしたその時だ。

 

「みんな! 朗報よ!」

 

 スタジアムの冷たい静寂を切り裂くように、サッカー部顧問の音無先生が、雪の上を転びそうになりながらも必死の形相で走ってきた。

 先生は息を切らしながらも、顔を輝かせて叫んだ。

 

「錦君よ……錦龍馬君が、たった今日本に到着して、このスタジアムに向かっているわ! イタリアからのサッカー留学を終えて、帰ってきたのよ!」

 

「えええっ!? 錦先輩が!?」

 

「本当ですか、先生!」

 

 一気に部員たちが音無先生の周りに駆け寄る。

 錦龍馬。先日、部室で写真を見ながらその不在を惜しんでいた、雷門のエースストライカーだ。

 

「しかも、彼は空港からそのままここへ直行しているそうよ。この白恋中との試合に間に合わせるために!」

 

 その言葉は、凍りついていた雷門イレブンの心に、文字通り火を灯した。

 

「錦が……あいつが帰ってくるのか! イタリアで揉まれて、さらに強くなって!」

 

 車田先輩が拳を突き上げ、浜野先輩も「マジで超特大の朗報じゃん!」と、先ほどまでの不満を忘れて跳ね上がった。

 

 *

 

 観客席の歓声さえも寒さに震える中、ホーリーロード二回戦・白恋中戦のホイッスルが鳴り響いた。

 エース錦の到着を待ちながらも、まずは自分たちの力で流れを掴むべく、雷門のキックオフで試合が開始される。

 しかし、現実は非情だった。

 前線でパスを受けた倉間先輩が目を見開く。いつもの感覚でトラップしようとしたボールは、氷の上を滑るように加速し、足元をすり抜けていく。焦って追いかけた倉間先輩だったが、踏ん張った足がアイスバーンに取られ、無様に転倒。その隙を見逃さず、白恋中の木瀧が涼しい顔でボールを奪い去った。

 

「くそっ、返せ!」

 

 すぐさま起き上がった倉間先輩がスライディングタックルを仕掛けるが、氷の上では制動が効かず、そのままラインの外まで滑り抜けてしまった。

 その後のスローイン。神童キャプテンが機敏な動きでボールを奪取し、速水先輩へ鋭いパスを送る。

 

「速水、行け!」

 

「は、はいっ……うわっ!?」

 

 パスを受けた速水先輩だったが、ボールの転がり方が芝生とは全く違う。予測不能な跳ね方と伸びに翻弄され、トラップすらままならず再びラインを割り、マイボールを失ってしまう。

 

 そんな戸惑う雷門に対し、雪村が牙を剥いた。

 天馬がキープするボールに対し、雪村が猛然とチャージをかける。

 

「取らせない……っ!」

 

 天馬はフェイントでかわそうとするが、軸足が氷に滑り、体が大きく流れる。その瞬間を逃さず、雪村は吸い付くようなタッチでボールを掠め取った。

 

「どけっ!」

 

 雪村は雷門陣内へ進撃。追いすがる速水先輩を、氷上でのターンの加速で置き去りにする。

 

「させるかよ!」

 

 俺も雪村を止めるべくコースに飛び出すが、あまりの滑り具合にブレーキが効かず、雪村の横を虚しく通り過ぎてしまった。

 

(ダメだ、普通に走っちゃあいつらには追いつけねぇ……!)

 

 俺が氷の上でもがいている時、背後から鋭い影が飛び出した。

 

「そこまでだ!」

 

 霧野先輩だ。彼は他の部員たちが滑るのを恐れて腰が引けている中、あえて滑ることを利用するように深く重心を沈め、鮮やかなスライディングタックルを繰り出した。

 バシィッ! と乾いた音が響き、雪村の足元からボールが離れる。

 だが、そのボールもまた、まるで生き物のように氷の上を滑り続け、三度サイドラインを割って試合が中断した。

 

「……ハァ、ハァ……。みんな、大丈夫か!?」

 

 霧野先輩が立ち上がるが、その表情には余裕がない。

 環境、経験。その全てが白恋中に味方している。

 雷門はまだ、スノーランドスタジアムという脅威に惑わされていた。

 

 *

 

 試合は一方的な展開だった。氷のピッチを自在に操る白恋中に対し、雷門は立っていることすら精一杯。完全に防戦一方に追い込まれていた。

 

「また滑った……!」

 

 天馬が転倒し、雪村にボールを奪われる。だが、天馬は諦めなかった。氷の上を這うようにして立ち上がると、必死の形相で雪村の前に立ち塞がる。

 

「……まだだ、行かせない!」

 

 天馬の気迫が勝ったのか、こぼれたボールを辛うじて神童キャプテンに繋ぐ。神童は足元の不安定さを嫌い、浮かせたボールをヘディングで前線の剣城へ託した。

 

「決めろ、剣城!」

 

「……っ!」

 

 しかし、パスを受けた剣城も、着地した瞬間に軸足がわずかに流れる。その刹那のトラップミスを、電光石火の速さで戻ってきた雪村が突き倒すように奪い去った。

 

「甘いな、雷門!」

 

 雪村は獣のような鋭いドリブルで雷門の陣内を切り裂いていく。マサキが、そして俺が挟み込もうとするが、彼は氷の滑りを利用した超高速のターンで、俺たちの間を風のように抜けていきゴール前で右足を大きく振り抜いた。

 

「『パンサーブリザード』!!」

 

 雪村の背後に、猛々しく吠えたてる巨大なユキヒョウの幻影が浮かび上がる。かつて吹雪さんが放った『エターナルブリザード』の冷気に、雪村独自の野生的な力強さが加わった、新必殺シュート。

 

「止めてみせる! 『フェンス・オブ――っ!?」

 

 三国先輩が大地を叩こうと飛び上がる。だが、パンサーブリザードの弾丸は、三国先輩の必殺技が発動するよりも遥かに早く、壁ができる前の空間を射抜いた。

 重低音がスタジアムを震わせ、ゴールネットが氷の破片と共に激しく跳ね上がる。

 

 

 先制点を奪われ、勢いに乗る雪村は攻撃の手を緩めない。再びボールを奪うと、雷門ゴールを目掛けて猛然と突進してきた。

 ディフェンスラインの霧野先輩が声を張り上げた。

 

「マサキ、俺についてこい! 二人で止めるぞ!」

 

「……はいっ!」

 

 霧野先輩とマサキが、雪村の進路を塞ぐべく挟み込みに行く。しかし、雪村はスパイクのエッジを巧みに使い、まるで氷上を滑走するスピードスケーターのような鋭いターンを見せた。

 霧野先輩がその加速に振り切られ、あっさりと抜かれてしまう。

 雪村が次にマサキを抜き去ろうと体を沈めた瞬間、マサキの足も滑り、無様に体勢を崩した。

 雪村が笑い、マサキの横を通り抜けようとした――その時だ。

 マサキは転びそうになりながらも、驚異的なバランス感覚で片足を踏ん張り、強引に体を反転させて再び雪村に食らいついたのだ。

 何度もかわされそうになりながら、マサキの目は、雪村の「足元」だけを凝視していた。

 

(マサキ……まさか、一瞬でコツを!?)

 

 俺は目を見開いた。マサキは抜群の観察力で、雪村がどうやって氷を掴んでいるかを見抜いたんだ。

 ガガッ! と氷を削る音が響く。マサキは見よう見まねでスケートのような滑らかな動きで雪村の正面に回り込むと、鮮やかなパスカットを決めてみせた!

 

「なっ……!? 俺の動きを盗んだというのか!」

 

 驚愕する雪村を置き去りにし、マサキは不敵に笑う。

 マサキが見つけ出したその一筋の光は、一瞬にして雷門イレブンを覚醒させた。

 本来の身体能力で圧倒的に秀でる俺たちは、氷上での動きを会得した途端、白恋中を凌駕するスピードを見せ始めた。

 天馬が素早いドリブルで雪村を抜き去り、中盤の神童キャプテンへ繋ぐ。神童はそこから一気に前線の倉間へロングパスを供給。

 

「『サイドワインダー』!!」

 

 倉間先輩が放ったシュートは、氷の上で蛇のような変幻自在の軌道を描き、ゴールを襲う。しかし、白恋中のゴールキーパー・白石も負けてはいなかった。

 

「『クリスタルバリア』!!」

 

 分厚い氷の結晶が壁となり、サイドワインダーを辛うじて凍らせて止めた。シュートこそ阻止されたが、会場を支配する空気は完全に変わっていた。圧倒しているのは、明らかに俺たち雷門だ。

 白恋中イレブンの顔に、焦りの色が浮かぶ。

 ベンチに座る円堂監督が、その熱量をさらに爆発させるように拳を握り、ピッチに向かって吼えた。

 

「さぁみんな、攻めて行けっ!!」

 

「「「ハイッ!!」」」

 

 全員の声が一つに重なり、スタジアムの冷気を吹き飛ばすほどの咆哮となった。

 俺も、そしてマサキも、滑ることを恐れず前へと突き進む。天馬の目は一段と輝きを増し、剣城もまた不敵な笑みを浮かべていた。

 神童キャプテンからのパスを受け、剣城が疾走する。勢いに乗る雷門を前に、白恋中のベンチに座る熊崎監督は不敵な笑みを浮かべ、フィールドの白咲に合図を送った。

 

「真狩、やれ!」

 

 白咲の声が響くと同時に、司令塔の真狩を中心に六人の選手が集結する。

 

 「『絶対障壁』!!」

 

 剣城は怯むことなく、正面から突破を試みる。だが、構築された六人の鉄壁は、まるで巨大な氷柱そのものだった。

 

「ぐわあああっ!!」

 

 衝突の衝撃で剣城が激しく弾き飛ばされ、氷の上を転がっていく。

 

「剣城! 大丈夫か!」

 

 駆け寄る神童は、ここで勝負に出ることを決意した。天馬と剣城を呼び寄せ、鋭い眼光で告げる。

 

「特訓の成果を見せるぞ。『ダブルウィング』で攻める!」

 

 倉間先輩を先頭にしたフォーメーションで、雷門が再び進撃を開始する。

 倉間先輩からのバックパスを受けた剣城と天馬が、猛烈な勢いで左右に分かれた。その前方には神童、浜野、速水、そしてマサキが壁となって並び、相手の視界を遮る。

 マサキたちが必死に攪乱し、中央の氷壁へと迫る。天馬と剣城は何度も激しい横パスをやり取りし、残像を残しながら壁をすり抜けようとした。

 だが、絶対障壁の心臓部、真狩は微塵も動揺していなかった。彼は冷徹な観察力で、パスの「微かな淀み」を捉えていた。

 

「……左だ!!」

 

 真狩の鋭い指示に合わせ、六人の壁が一塊となって左へスライドする。

 ドォォォォン!! という衝撃音と共に、天馬は「絶対障壁」に正面から衝突し、無残に跳ね返された。

 

「そ、そんな……。ダブルウィングでも、抜けないなんて……!」

 

 呆然とする天馬。その後も何度も挑むが、そのたびに双翼の羽根は氷の壁に叩き落とされる。

 

「……やはり、未完成だったか」

 

 ベンチの鬼道コーチが苦渋の表情で分析を口にした。

 

「剣城のパスに比べ、天馬の返すパススピードが僅かに遅い。その一瞬のタイムラグが、真狩にボールの位置を確実に見極めさせているんだ」

 

「……さらにこのフィールド。摩擦のない氷の上なら、白恋中の壁はラストパスを見てからでも十分に間に合う速度で移動できる。……計算外だわ。この環境下では、今の『ダブルウィング』は通用しない」

 

 必死に掴みかけた反撃の糸口が、冷たく、巨大な氷の壁に、無慈悲に絶たれようとしていた。

 その一瞬の隙を突き、白恋中のカウンターが炸裂する。ボールは再び、エース雪村の足元へ。

 

「トドメだ、雷門!!」

 

 雪村が氷を蹴り上げ、再び新必殺シュート『パンサーブリザード』を放つ。ユキヒョウの咆哮と共に迫り来る弾丸。三国先輩が構えるよりも早く、俺は反射的にそのシュート軌道へと飛び込んだ。

 

「これ以上、やらせるかよ! 『フレアドライブ』!!」

 

 氷のピッチを溶かすほどの紅蓮の炎を纏い、俺は力任せにシュートを蹴り返した。炎と氷の力が激突し、スタジアムに激しい水蒸気が立ち込める。弾き飛ばされたボールを見て、雪村が驚愕に目を見開いた。

 

「なに……!? 俺のシュートを跳ね返しただと!?」

 

 だが、その驚きはすぐに冷酷な闘志へと変わった。雪村の背後から、凄まじいプレッシャーを放つ青白いオーラが噴き上がる。

 

「……遊びは終わりだ。現れろ、『豪雪のサイア』!!」

 

 現れたのは、凍てつく大気を纏った巨大な化身。雪村はその化身の力をボールに乗せ、俺が跳ね返したボールを空中でさらに叩き伏せるように蹴り直した。

 

「『アイシクルロード』!!」

 

 凄まじい冷気を纏ったシュートは周りに氷の道を作りながら一直線にゴールへ突き進む。俺の炎さえも一瞬で凍りつかせるその威力に、身体が硬直する。

 

「させる……かぁぁ!! 『フェンス・オブ・ガイア』!!」

 

 三国先輩が渾身の力で大地を叩く。しかし、アイシクルロードの氷の槍は、三国の岩の壁を粉々に粉砕し、容赦なくゴールへと突き刺さった。

 

 ――二点目。

 

 無情にもスコアボードの数字が動き、スタジアムの温度がさらに下がったような気がした。

 

 *

 

 その後も天馬と剣城は、諦めることなく何度も『ダブルウィング』を仕掛けた。しかし、完成しない双翼のパススピードと、「絶対障壁」の冷徹な守備、そして雪村の圧倒的な化身の力の前に、得点はおろか決定機すら作らせてもらえない。

 

 ピーッ、ピッ、ピ――!

 

 非情なホイッスルが鳴り、二点ビハインドのまま前半が終了した。

 凍えるベンチに戻った雷門イレブン。誰もが言葉を失い、三国先輩は悔しそうにグラブを見つめ、天馬は自分の足元の氷をじっと睨んでいた。

 そんな中、重苦しい閉塞感を切り裂くようにスタジアムの入り口から、爆発的なエネルギーを放つ声が響き渡った。

 

「おーい、遅れてすまんきに!錦龍馬只今参上ぜよ!」

 

 土佐弁の豪快な叫びと共に、一人の男が猛烈な勢いで駆け込んできた。

 長く結い上げた髪に、浅黒く焼けた肌。イタリアの太陽をそのまま連れてきたかのような明るさを纏った男――錦龍馬だ。

 

「……錦!」

 

 神童先輩の顔に、パッと光が差し込む。

 

「あまんらが革命じゃいうて苦しい戦いしちょるち聞いてのう。いてもたってもおられんようになったがじゃ!」

 

 錦先輩は湿っぽい空気を吹き飛ばすようにガハハと笑い、仲間の肩を次々と叩いた。その規格外の明るさに、俺たちの強張っていた体から、すっと余計な力が抜けていく。後半開始のホイッスルを待つ俺たちの背中を、イタリア帰りの侍が放つ熱い風が押し上げていた。

 

 *

 

 後半開始のホイッスルが鳴る直前、雷門は速水先輩に代えて錦先輩を投入した。

 白恋中のキックオフで後半が再開される。勢いに乗る白恋中の射月が中央を突破しようとするが、そこに倉間先輩が食らいついた。

 倉間先輩が泥臭く奪ったボールが神童キャプテンへ渡る。神童は迷わず右腕を振り上げる。

 

「行くぞ! 今度こそ決める……『ダブルウィング』だ!」

 

 天馬に代わって、今度は錦先輩がサイドの翼として走り出す。前半の速水先輩や天馬よりも遥かに強靭な肉体を持つ錦先輩なら、あの氷の壁を強引にこじ開けられるかもしれない。俺も、そして紫も、期待を込めてその背中を見つめた。

 剣城と錦先輩が激しいワンツーを繰り返し、中央の「絶対障壁」へと迫る。

 だが、二人が絶対障壁の懐に飛び込もうとしたその瞬間――

「……右だ!」

 真狩の鋭い声。六人の氷の壁が、寸分の狂いもなく錦先輩の進路へスライドした。

 

「ぐわああっ!」

 

「錦先輩!?」

 

 錦先輩は巨大な衝撃に弾き飛ばされ、氷の上を激しく転がった。ダブルウィングは、またしても無残に撃墜された。

 

「失敗!?何をやってるんだ錦!」

 

 予想外の展開に戸惑い声を上げる三国先輩だったがその直後錦先輩は衝撃の事実を告げる。

 

「みんな、すまんぜよ!実はワシ……向こうでMFに転向したぜよ!だからダブルウィングはできんぜよ。あーっははは!」

 

「な、何だって――!?」

 

 倉間先輩はその事実に驚愕する。

 唯一の希望だった道筋が絶たれ焦燥感が漂う雷門。

 誰もが打開策を見失いかけていたその時、控えの影山輝が呟いた。

 

「僕、あれできそうな気がします。僕にやらせてもらえませんか?」

 

 まだサッカーを始めて間もない新入部員の言葉に、一瞬周囲がざわつくが、円堂監督は輝の瞳を見て力強く頷いた。

 

「……よし!行ってこい輝!」

 

 後半中盤、信助に代わって輝がピッチへ。

 錦先輩のスローインから試合が再開されると、ボールを受けた輝は、誰もが苦労したスリッピーな氷のフィールドを、まるで何年もここでプレイしてきたかのような軽やかさで駆け抜けていく。初心者とは思えない動きに神童先輩も驚きの声を上げる。

 

「あいつ……いきなりこのフィールドのコツを掴んでいる!……よし、行くぞ!『ダブルウィング』だ!」

 

 そして、運命の瞬間。三度、雷門が「ダブルウィング」の陣形を敷く。対する白恋中は、最強の自負を持って「絶対障壁」を展開。

 

「何度来ようと同じだ! 」

 

 司令塔の真狩が待ち構えます。しかし、今度のダブルウィングは、輝と剣城という二つの鋭い刃が左右に分かれ、極限のスピードでパスを交換していく。

 真狩の冷静な目に、初めて迷いが生じる。右の剣城か、左の輝か。どちらが本物のボールを持っているのか、そのパスの正確さと速度が全く同じため、判別がつかないのだ。

 

「くっ……左だッ!!」

 

 真狩の指示で壁が左へスライドした瞬間、白恋中の選手たちは戦慄した。そこには、ボールはなかったのだ。

 

「ハズレ……だと!?」

 

 絶対の自信が揺らいだ瞬間「絶対障壁」の氷の壁がガラガラと音を立てて崩壊していく。その脇を、ボールをキープした輝、そして錦、天馬のグループが、まさに「右の翼」となって鮮やかにすり抜けた!

 

「うぎ――――っ!!」

 

 ゴール前に抜け出した輝が、一切の迷いなく右足を振り抜く。

 必殺技ではない、真っ直ぐなノーマルシュート。しかしその弾丸は、白恋のキーパーの手をかすめ、ゴール隅へと突き刺さる。

 

 ピーッ!

 

 一点差。ついに、雷門が鉄壁の氷を打ち砕いた。

 

「僕……ゴールしたんだ!やったぁ!!」

 

 雪原のスタジアムに、輝の歓喜の叫びが響き渡った。

 

 

 一点を返された白恋中の動揺は、冷え切ったスタジアムの空気よりも鋭く彼らを突き刺していた。

 勢いに乗る雷門はその隙を見逃さない。

 

「みんな、このまま一気に追いつくぞ!」

 

 神童キャプテンの力強い鼓舞に、雷門イレブンが再び氷の上を滑走する。

 再度の「ダブルウィング」。

 輝と剣城が刻む超高速のパス交換に、白恋中のディフェンダーたちは完全に翻弄されていた。

 

「……こっちだッ!!」

 

 真狩が苦し紛れに右サイドへ指示を出す。だが、それは二度目の「ハズレ」だった。

 再びガラガラと音を立てて崩壊する氷の壁。その瓦礫のような守備を尻目に、今度は剣城、神童、そして浜野先輩の属する左翼グループが、ゴール前へと一気に躍り出た。

 

「完全にガラ空きじゃん!」

 

 浜野先輩が氷を滑って囮となり、神童が剣城へとラストパスを供給する。

 

「『剣聖ランスロット』!!」

 

 甲冑を纏った騎士が氷のピッチにその剣を突き立てる。白石が必殺技『クリスタルバリア』を構えるが、剣城はそれを嘲笑うかのように、ランスロットの巨大な剣を空へと掲げた。

 

「 『ロストエンジェル』!!」

 

 漆黒の翼が羽ばたき、凝縮された破壊のエネルギーが白恋ゴールへと降り注ぐ。

 クリスタルバリアは、触れた瞬間に粉々に粉砕された。凄まじい衝撃波がスノーランドスタジアムを揺らし、ゴールネットが千切れんばかりに膨れ上がる。

 

 ピーーーッ!!

 

 二対二。

 絶望の二点差から、雷門がついに同点へと追いついた。

 

 *

 

 二対二の同点。雷門の士気が最高潮に達する中、白恋中のベンチが動き出した。

 熊崎監督の冷徹な声に従い、ピッチに現れたのは、他の選手とは明らかに異質な、凶悪なまでの威圧感を放つ巨漢・石。

 

「あ、あいつを入れるのか……!?」

 

 エースの雪村が顔を強張らせ、木瀧や氷里も「あんな乱暴な奴を……」「試合が荒れるぞ」と、自チームの選手でありながら嫌悪感を隠せない。しかし、主将の白咲がそれを一喝する。

 

「監督の指示に従うんだ!」

 

 不穏な空気の中、白恋中のキックオフで試合が再開された。

 雪村は苦い表情を浮かべながらも、指示通りにゴール前へ高いセンタリングを上げる。

 

「よし、任せろ!」

 

 三国先輩が、落下地点を完璧に読み、余裕を持ってジャンプ。その腕の中にボールが収まろうとした――その瞬間だった。

 石はボールを競る気などさらさらない様子で、空中の三国先輩に覆いかぶさるように激突しました。

 鈍い衝撃音。アイスバーンのように硬く凍ったピッチへ、三国先輩は背中から叩きつけられ、その勢いのままゴールポストへと激しく激突した。

 

「三国先輩!!」

 

 天馬や俺たちが駆け寄るが、三国先輩は顔を歪め、痛めた腕を押さえたまま立ち上がることができない。

 試合は中断され、担架が運び込まれる。

 白恋中――いや、フィフスセクターが仕掛けた「勝利への執念」という名の暴力が、雷門を再び絶望の淵へと突き落とそうとしていた。

 

 *

 

 ベンチに運ばれた三国先輩は、腫れ上がった左腕を氷で冷やしながら、なおもピッチに戻ろうと必死に円堂監督へ訴えかけました。

 

「監督、まだやれます……! 俺に、雷門のゴールを……守らせてください!」

 

 しかし、円堂監督の眼差しは厳しく、そして温かかった。

 

「三国、お前の気持ちは嬉しい。だが、お前にはこの先も俺たちのゴールを守ってもらわなきゃならないんだ。ここで無理をさせるわけにはいかない」

 

 円堂監督は、迷いのない視線を俺に向けました。

 

「コウ、お前がキーパーに入れ。三国に代わって、ゴールを任せる!」

 

「えっ……俺が、キーパー!?」

 

 思わず声が裏返る。俺は天馬を振り返った。

 

「監督、天馬ならキーパーの経験がある。あいつの方が適任なんじゃないか?」

 

 その問いに答えたのは、紫だった。

 

「コウ。この場面ではあなたが最適解よ。雪村の化身を止めるには、化身の力、そしてシュートブロックでシュートを受けることに慣れているあなたのタフさが必要不可欠なの。急造の天馬君に、今の白恋の猛攻を背負わせるのはリスクが高すぎる……」

 

「紫……」

 

 戸惑う俺の肩を、霧野先輩が力強く叩いた。

 

「コウ、俺たちが体を張って、可能な限りシュートを打たせないように守り抜く!」

 

 さらに、俺の代わりとしてディフェンスラインに入る天城先輩も、巨大な胸を叩いて豪快に笑いかける。

 

「どんと任せるだド!」

 

「……フン、あんなデカブツ止めるぐらい朝飯前だっての。コウはどっしり構えてな」

 

 マサキも不敵な笑みを浮かべて、俺の不安を払拭しようとしてくれている。

 仲間の信頼、そして三国先輩の無念――その全てが、俺の背負うべき重みとして胸に落ちてきた。

 俺は三国先輩のグローブを受け取り、ゆっくりと、だが力強くはめた。

 

「……分かった。俺が、雷門のゴールを守り抜く!」

 

 

 *

 

 俺のゴールキックで再開された後半戦。石はラフプレーだけでなく、その巨体に似合わぬ鋭さで浜野先輩のパスをカットし、猛然と突き進んでくる。

 

「 『ザ・ミスト』」

 

 霧野先輩が深い霧で視界を奪おうとするが、石は力任せにそれを突き破る。だが、その先には天城先輩が壁となって立ちはだかっていた。

 

「甘いド! 『ビバ!万里の長城』!!」

 

 巨大な城壁が石を弾き飛ばす。こぼれ球を拾った雪村には輝が食らいつき、クリアされた先には錦先輩が電光石火のカバーに入る。

 驚いたことに、FWの倉間先輩や剣城までもが自陣まで戻り、文字通り全員で俺を守っていた。

 

「ヒャハハ! キーパーが変わった途端に全員で引きこもりか? 惨めなもんだなぁ!」

 

 必死に守る霧野先輩達を、石が汚い言葉で嘲笑う。その瞬間、静かに怒りを燃やしていたのは雪村だった。

 

「笑うな!そのダサい奴らから、オレたちは点を奪えないんだぞ!」

 

「あぁん!? 調子に乗るなよ雪村!」

 

 内紛を始める白恋中。だが、石は周囲のメンバー全員が、雷門のひたむきなプレーに心打たれ、自分を軽蔑の目で見ていることに気づく。

 

「チッ……なら、さっさと点を入れればいいんだろ!」

 

 石は雪村への反発を込めるように、強引にシュートを放った。そのボールは急激なカーブを描き、ブラインドとなったディフェンス陣の間をすり抜け、ゴール逆サイドへ吸い込まれるような軌道を取る。

 そのフェイントに騙された俺はシュートとは逆の方へと向かってしまう。

 だが、仲間の姿と、石の嘲笑が頭をよぎった瞬間、拳に熱い衝撃が走った。

 

「お前なんかに……点をやるかッ!!」

 

 自慢の脚力で地面を蹴り、俺は真逆のサイドへと文字通り「飛んだ」。空中で拳に全ての怒りと熱量を込める。炎が腕に渦を巻き、叫びとともに突き出した!

 

「ぶっ飛べぇぇぇ!! 『ねっけつパンチ』!!!」

 

 紅蓮の炎を纏った拳がボールを真っ向から粉砕するように弾き飛ばした。

 

「止めただと!?」

 

 石が目を見開く。ゴール前に転がった俺は、すぐに立ち上がり、吠えるように前線を指差した。

「ねっけつパンチ」で弾き飛ばされたボールは、中盤の神童キャプテンが鮮やかに収める。

 

「行くぞ、皆んな!『神のタクト』!!」

 

 神童の指先から放たれる光の指揮棒が、氷のピッチを駆け巡る。まず示した先は、天馬だ。

 

「天馬、そこだ!」

 

 寸分違わぬ鋭いパスが天馬へ通り、白恋の第一ラインを突破。続いて、神童はすぐさま次の指揮を振る。

 

「輝、左へ走り込め!」

 

 天馬から輝へ、針の穴を通すようなパスが繋がる。白恋の選手たちは、分裂した意識の隙間を突く神速のパス回しに、一歩も動くことができない。

 

「最後は……錦、頼むぞ!」

 

 最後方に控えていた錦先輩へ、魂のパスが供給される。

 

 「待っちょったぜよ!」

 

 立ちはだかる白恋のディフェンダーたちに対し、錦先輩はまるで重力を無視したかのような動きを見せた。

 

「『アクロバットキープ』!!」

 華麗な回転と身のこなしで次々と敵を抜き去り、一気にゴール前へと侵入する。

 

「神童、おんしに返すき!」

 

 錦先輩からの完璧なマイナスのクロス。それを正面で受けた神童の背後から、荘厳なオーラが噴き上がった。

 

「 『奏者マエストロ』!!」

 

 四本腕の化身が巨大なタクトを振りかざす。

 

「これで……終わりだ! 『ハーモニクス』!!」

 

 衝撃波を伴う音の渦がゴールを直撃し、氷の障壁を跡形もなく粉砕した。

 ネットが激しく揺れ、ホイッスルがスタジアムに鳴り響く!

 

 ピーーーッ!!

 

 三対二!

 ついに、雷門が逆転に成功した。

 

 *

 

 神童キャプテンの逆転ゴールは、単なる得点以上の意味を持っていた。

 それは、フィフスセクターの支配に凍りついていた白恋中イレブンの心を、根底から溶かす一撃となったのだ。

 フィフスセクターの駒として動いていた石と白咲を置き去りにし、雪村を中心とした八人が独自の陣形を組み直す。

 

「監督の指示に戻れ! 石の指示に従うんだ!」

 

 白咲が声を張り上げるが、司令塔の真狩は静かに首を振った。

 

「無駄だよ。もう誰もフィフスセクターには従わない!」

 

 ハブられた形の石たちが呆然とする中、白恋中の怒濤の攻撃が再開される。

 真狩から留萌、そして木瀧へ。淀みのないパス回しは、天馬が、そして吹雪さんが理想とした「白恋のサッカー」そのものだった。

 そしてボールは、雪村の足元へ。

 

「最後だ……雷門! これが俺たちの、本当の力だ!!」

 

 因縁の対決。ゴール前で構える俺の視界に、意外な光景が飛び込んできた。

 ベンチにいた吹雪さんが、身を乗り出して叫んだのだ。

 

「頑張れ! 雪村――!!」

 

 その声が、雪村の背中を押し、魂に火をつけた。

 

「うおおおおおぉぉぉッ!!」

 

 雪村の背後から、これまでで最大級のオーラを纏った『豪雪のサイア』が顕現する。凍てつく咆哮がスタジアムを震わせ、雪村は全力の蹴り込みを放った。

 

「『アイシクルロード』!!」

 

 迫り来る氷の巨槍。だが、受けて立つ俺の胸にも、仲間の想いとサッカーへの情熱が渦巻いていた。

 

「俺だって……負けてたまるか!! 『聖焔のフェニックス』!!」

 

 俺の化身が吼える。

 キーパーエリアから飛び出し、俺は飛来するアイシクルロードに対し、逃げるどころか自ら真っ向から飛び蹴りを叩き込んだ。

 

「燃えろ……俺の魂! 返してやるぜ、雪村ぁぁッ!!」

 

 炎と氷が激突し、爆発的な水蒸気がピッチを包む。化身の力を乗せた俺の蹴り返しは、アイシクルロードのエネルギーをそのまま呑み込み、巨大な炎の弾丸となって白恋ゴールへ逆流した。

 ネットを突き破らんばかりの勢いで炎が着弾し、同時にタイムアップの長いホイッスルが鳴り響いた。

 四対二。

 雷門の勝利。そして、本当の白恋中が取り戻された瞬間だった。




新必殺技:『ねっけつパンチ』
属性:火
使用者:不知火恒陽
詳細:仲間を侮辱された怒りから生み出されたパンチング技。既存技

ホーリーロード編までの設定集とか欲しいですか?

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