イナズマイレブンGO 紅蓮の翼   作:シキDX

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第二十一話 VS木戸川清修

 放課後の雷門グラウンドは、これまでとは質の違う熱気に包まれていた。鬼道監督が課した基礎体力の底上げが、目に見えて動きのキレとなって現れ始めている。

 そんな中、ゴール周辺は、ひときわ異様な気迫に満ちていた。

 

「……止めてみせる! はぁぁぁッ!!」

 

 三国先輩の叫びと共に、その右手が赤色の光を放とうと激しく震える。

 三国先輩の「ゴッドハンド」習得特訓には、いつの間にか俺だけでなく、霧野先輩と剣城も加わっていた。

 

「まだまだ行きますよ!」

 

 剣城の放つ鋭い低弾道シュートがゴールを襲う。三国先輩は泥まみれになりながらも、何度も何度も、伝説の技をその手に宿そうと虚空を掴んでいた。

 

「もっとだ、もっと強いシュートを打ってくれ!」

 

 三国先輩の瞳は、もう迷っていなかった。

 

「俺が『ゴッドハンド』を掴む。それが、今の俺ができる、このチームへの答えだ!」

 

 俺は頷き、ボールをセットした。

 

 *

 

 放課後の練習前、顧問の音無先生が神妙な面持ちでピッチに現れた。その手にある対戦表を見つめ、彼女は静かに、だがはっきりと次なる敵の名を口にした。

 

「ホーリーロード次戦の相手が決まりました。……木戸川清修中学です」

 

 その瞬間、神童キャプテンや三国先輩、車田先輩といった上級生たちの間に、ピリリとした緊張が走った。

 

「木戸川清修……。ついに、あの時の相手と当たるのか」

 

 神童の呟きに、まだ入部して間もない輝が首を傾げた。

 

「あの、木戸川清修ってどんなチームなんですか? 僕、あまり詳しくなくて……」

 

「去年、ホーリーロードの決勝で雷門が負けた相手だよ。去年の優勝校なんだ」

 

 天馬が教えると、輝の目が驚愕に見開かれた。

 

「去年の優勝校!? そんなに強いチームが相手なんですか……」

 

 重苦しい空気が流れる中、不敵な笑みを浮かべたのはマサキだった。

 

「へぇー、優勝ねぇ。でもそれって、フィフスセクターの指示通りの結果なんじゃないの? 本当に実力があるかどうかなんて、怪しいもんだよね」

 

「……いや、それは違うぞ、狩屋」

 

 三国先輩が静かに、だが重みのある声で遮った。

 

「去年の決勝戦……あの試合だけは、フィフスセクターからの指示は出ていなかったんだ。俺たちは、あいつらの純粋な実力にねじ伏せられたんだよ」

 

「……三国先輩の言う通りよ。当時の情報を確認しても、木戸川清修のフィジカルと連携は全国屈指。管理されたサッカー以前に、彼ら自身が圧倒的な『個』の集団なの」

 

 紫の補足が、さらにチームにプレッシャーを与える。

 しかし、そこで二人の男が声を上げた。セカンドチームから戻ってきた一乃と青山だ。

 

「待ってくれ。俺たちの調べでは、今の木戸川清修は去年のような盤石な状態じゃないんだ」

 

 一乃の言葉に、全員が耳を傾ける。

 

「木戸川の内部では今、激しい対立が起きているらしい。雷門の革命に呼応して自由なサッカーを取り戻そうとする『革命派』と、あくまでフィフスセクターの秩序を守ろうとする『フィフス派』……。チームが二つに割れているんだ」

 

「……そこに、俺たちが勝つ隙があるかもしれない」

 

 神童が力強く言い切った。

 最強の優勝校、木戸川清修。かつての名門に吹く不穏な風が、雷門の行く末にどのような影を落とすのか。俺たちは、次なる戦いの舞台を見据えて、再び練習へと走り出した。

 

 *

 

 ホーリーロード全国大会、次なる戦いの舞台。俺たちが辿り着いたのは、一面に広がる蒼い水の上に浮かぶ異形の競技場――『ウォーターワールドスタジアム』だった。

 

「……へぇ、こりゃ驚いた。水の上に浮いてるんだな」

 

 俺は足元を見下ろした。ピッチは芝ではなく、丁寧に組み上げられた木製のパネルで構成されている。周囲には水路が走り、スタジアム全体が巨大な筏のように波間に揺れているのが分かった。

 早速、俺たちはピッチの状態を確認するために足を踏み出す。

 

「おっ、意外としっかりしてるド! これなら氷の上みたいにツルツル滑って無様に転ぶことはなさそうだド!」

 

 天城先輩がドンドンと足踏みをして硬さを確かめる。

 

「だねー。想像してたより足場はいいよ。前回の試合よりは全然マシだね」

 

 浜野先輩も軽快にステップを踏み、ピッチの感触に合格点を出した。

 だが、今までの試合から何かしらの仕掛けはあるのだろう。だが懸念点はそれだけではない。

 正面の敵陣を見据えた。だが、その視線は自然と、木戸川清修のベンチへと吸い寄せられた。

 そこに座っていたのは、かつて韓国の代表としてイナズマジャパンを苦しめた男――アフロディ。

 このスタジアムに到着する直前、彼の姿を認めた鬼道監督が、あの一切の動揺を見せないゴーグルの奥で一瞬、確かに息を呑んだのを俺は見逃さなかった。

 鬼道監督が驚くほどの男だ、ただの采配で終わるはずがない。

 だがあれこれ考えても仕方がない、こう言うのは先輩達や監督の仕事だ。俺は気持ちを切り替えて試合前の練習に向かった

 

 *

 

 ピーッ! 試合開始のホイッスルが、水上のスタジアムに鋭く響いた。

 キックオフのボールは雷門。影山から神童、錦、そして天馬へ。特訓で鍛え上げたフィジカルを活かし、雷門は淀みのないパスワークで木戸川陣内へと攻め上がる。

 

「行くよっ!」

 

 天馬がその推進力で一気に抜き去ろうとした瞬間、木戸川の選手が影のように滑り込み、鮮やかなタックルでボールを奪い取った。

 

「えっ……!?」

 

 驚く天馬。奪い返そうと浜野先輩が仕掛ける。

 

「仲間割れしてるって聞いたけど、案外バラバラじゃないねー。でも、無理して合わせてるだけでしょ!」

 

 精神的優位に立とうとした浜野先輩だったが、木戸川の選手たちは嘲笑うかのように、吸い付くようなパス回しで雷門の中盤を無力化していく。その動きには、一乃たちが言っていた「対立」の欠片もなかった。

 

「……これほど統制の取れたパスワーク、内部崩壊しているチームにできるはずが……!」

 

 神童キャプテンが驚愕の声を上げた。その疑問に応えるように、ボールをキープした貴志部が静かに、だが熱い瞳でこちらを見た。

 

「今の俺たちはフィフスセクターのためでも革命のためでもない……。俺たち自身のために戦っているんだ」

 

 ――自分たちのために。

 管理か革命か、その二者択一に苦しんでいた彼らに、新たな道……サッカーを愛する自分自身の誇りのために戦うという「第三の選択肢」を与え、チームを一つにまとめ上げた者。

 俺は思わずベンチを見た。アフロディが、優雅に髪をかき上げ、絶対的な自信を湛えた微笑を浮かべていた。あの人が、木戸川を再生させたのか……!

 

「行くぞ、雷門!」

 

 迷いを捨てた貴志部は強かった。一瞬の加減速でマサキと信助を抜き去り、カバーに入った俺のマークさえも、木製ピッチ特有のボールの伸びを利用して振り切った。

 貴志部からゴール前の総介へ、針の穴を通すような絶妙なパスが通る。

 

「……もらったぁ!!」

 

 フリーで構えた総介が右足を振り抜こうとした、その瞬間だった。

 

 ドォォォォン!!

 

 凄まじい轟音と共に、総介の目の前のフィールドが爆発したかのように巨大な水柱を上げた。

 

「うわあああぁぁぁっ!!」

 

 滝が保持していたボールは、無情にも水面へと落下し、波紋の中に消えた。

 これがウォーターワールドスタジアムに秘められたギミック――『ピッチ・ダウン』。

 不規則にピッチが水中に没するという、自然の猛威を模した悪魔のような仕掛けだ。

 

 その後も『ピッチ・ダウン』は容赦なく選手たちを襲った。天馬が、錦先輩が、次々と足元を奪われバランスを崩す。

 木戸川の攻勢を必死に食い止めたのは、剣城の鋭いスライディングだった。ボールがタッチラインを割り、試合が一時中断する。

 その隙を、アフロディは見逃さなかった。

 ベンチから貴志部を呼び寄せ、耳元で短く指示を出す。貴志部は深く頷くと、ピッチの仲間たちに鋭い視線で意思を伝播させた。

 

 木戸川のスローインで試合が再開される。ボールを受けた貴志部が叫んだ。

 

「必殺タクティクス!『ゴッドトライアングル』!!」

 

 貴志部を中心に、選手たちが幾何学的な三角形を描きながら連動し始める。その眼前で、轟音と共にピッチが沈んだ。

 だが、貴志部は慌てない。沈む直前、後方の選手へ正確なバックパスを送る。パスを受けた選手を新たな頂点とし、三角形を維持したまま、まるで水面を滑るように進軍していくのだ。

 次々と側面、後方へとパスを回し、スタジアムのギミックを完全に無効化する木戸川清修。対する雷門は、ピッチダウンに翻弄され一歩遅れる。

 その隙を突き、貴志部が守備陣を鮮やかに抜き去った。

 

 貴志部が右足を振り抜く。放たれたのは、重厚な破壊力を秘めた必殺シュート。

 

「『バリスタショット』!!」

 

 空気を切り裂く轟音がゴールを襲う。絶体絶命の瞬間。

 だが、ゴールマウスに立つ三国先輩の瞳に、これまでにない「熱」が宿った。

 

「……雷門のゴールは……俺が守る!!」

 

 三国先輩が右手を天に突き上げる。その瞬間、河川敷での特訓、コウのシュート、そして円堂監督の背中――すべての想いが一つに収束し、右手に巨大な、赤いオーラの手を形成した。

 

「『ゴッドハンド』!!」

 

 赤い巨大な手が、『バリスタショット』の回転を真っ向からねじ伏せ、その手に収めていた。

 

「神童! 行けぇッ!!」

 

 『バリスタショット』をその手に収めた三国先輩が、咆哮と共に前線へとボールを投じる。

 その瞬間、伝説の技を目の当たりにした雷門イレブンの士気は最高潮に達した。ボールを受けた神童キャプテンが、瞬時にタクトを振りかざす。

 

「反撃開始だ!『神のタクト』!!」

 

 指揮者の指先から放たれる光のタクトが、バラバラになったピッチ上の選手たちを一本の線で繋いでいく。神童とて、いつどこで『ピッチ・ダウン』が起こるかを完全に予測できるわけではない。だが、三国先輩が繋いだこのチャンスを無駄にはできないという執念が、奇跡的なルートを導き出す。

 水柱を上げるピッチを、天馬が、そしてタクトの指示で一気に前線へと駆け上がった俺と信助が、間一髪のタイミングで飛び越えていく。ボールは天馬の足元へ。

 

「天馬、信助! 行くぞ!!」

 

 俺の声に、二人が力強く頷く。

 

「うん、いっけぇぇぇ!!」

 

 三人が全速力で交差する。青、白の光が螺旋となって渦巻き、水上のスタジアムにペガサスが姿を現した。

 

「「「『トライペガサス』!!」」」

 

 3人の渾身の力が一つに収束し、天を翔けるペガサスが木戸川ゴールへと突き進む。

 

「させるかぁっ! 『重機兵バロン』!!」

 

 木戸川のキーパーが、化身を背後に顕現させた。巨大な盾がペガサスの突進を阻もうとする。

 

 

「突き抜けろぉぉぉ!!」

 

 ペガサスの光は化身の盾を真っ向から砕き散らし、キーパーごとゴールネットへとなだれ込んだ。

 

 ピーッ! ピーッ!

 

 スタジアムを震わせる審判の笛。

 

「やったぁぁぁ!!」

 

 天馬と信助が俺に飛びついてくる。

 ベンチでは、アフロディが依然として穏やかな笑みを浮かべていた。だが、その瞳の奥には、予想を超えた雷門の進化に対する、かすかな高揚が宿っているように見えた。

 

 *

 

 先制点を入れたものの雷門は再び苦境に立たされていた。不規則な『ピッチ・ダウン』が、雷門の連携をズタズタに切り裂く。対して木戸川清修は、三角形を崩さない「ゴッドトライアングル」で着実に時間を使い、雷門を自陣に縛り付けていた。

 そんな中、木戸川清修のセンタリングに信助が飛びつく。逆サイドへのパスだったが自慢のジャンプ力と瞬発力でパスされボールに追いつくがボールが手に触れてしまった。

 

「ご、ごめんなさい。僕思わず……」

 

「気にするな、いいガッツだった。俺たちも負けず気合を入れていくぞ!」

 

 

ハンドになったことで落ち込む信助を励ます三国先輩だったが信助の何かに気づいたのか嬉しそうな表情をしていた。

 そしてその間に鬼道監督が神童を呼び寄せていた。

 

「空中でパスを繋げ。そうすればこのフィールドは攻略できる」

 

 監督の策は、神童から錦先輩、そして俺たちへと瞬時に伝播した。

 三国先輩のゴールキックで試合再開。ボールを受けた神童がタクトを振り、叫ぶ。

 

「必殺タクティクス! 『フライングルートパス』!!」

 

 神童から放たれた鋭いパス。それに応えるように、霧野先輩がピッチを蹴り、高く舞い上がった。

 

「行くぞ!」

 

 宙に浮いたまま、霧野先輩がボレーで俺へ繋ぐ。俺もまた、着地する前に次の選手へとボールを送り出す。

 

「な……なんだと!?」

 

 驚愕する貴志部。ベンチのアフロディが、その真相を即座に見抜いた。

 

「……なるほど。ジャンプしてからパスを受けるのではなく、パスに合わせて跳んでいるのか。ボールが宙にある間にボレーで繋げば、ピッチが沈もうが関係ない。鬼道……空中に『道』を作ったか」

 

 一気に形勢を逆転させ、攻め上がる雷門。木戸川のDF陣は、神童と剣城へのマークを徹底し、ゴール前へのパスコースを遮断する。

 ボールを持ったのは浜野先輩。囲い込まれるピンチ。

 

「『なみのりピエロ』!!」

 

 水しぶきを上げ、トリッキーな動きで包囲網を突破した浜野先輩。しかし、天馬へ送ったパスを、木戸川の滝が鋭いカットで奪い取った。

 

「甘いんだよ! 雷門!!」

 

 自信満々に駆け上がる滝。フォローに入ろうとする貴志部の「滝、落ち着け! パスを回せ!」という指示さえも無視し、独走を始める。

 

「俺が、俺こそがフィフスセクターに相応しい実力者であることを証明してやる! 『鉄騎兵ナイト』!!」

 

 滝の背後に重厚な鎧を纏った騎士が顕現する。その槍が放つ強烈な一撃。

 

「『ギャロップバスター』!!」

 

 シュートの軌道上にいた俺は、即座に踏み込んだ。

 

「させるかぁっ!! 『フレアドライブ』!!」

 

 俺は全身に炎を纏い、回転を加えてシュートを跳ね返そうとした。だが、化身を乗せた重圧は想像を絶していた。

 

「……ぐ、あああぁぁぁっ!!」

 

 無情にも弾き飛ばされ、俺は木製ピッチに叩きつけられる。ボールはそのままゴールへ――!

 

「――来いッ!!」

 

 しかし、そこにはもう、揺らぐことのない守護神がいた。

 

「『ゴッドハンド』!!」

 

 赤い巨大な手が化身シュートを正面から受け止めた。激しい火花が散るが、先輩の足は一歩も引かない。

 

「……捕らえたぞ!!」

 

 化身シュートを完全に掌の中に収めた三国先輩。その姿は、かつてこの学校を支えた伝説のキーパーそのものだった。

 三国先輩が止めたボールを錦先輩が拾い、反撃に転じる。だが、木戸川のマークは執拗だった。神童、剣城、影山のストライカーには、常に二人がかりのマンマークがついている。

 

 パスか突破か、一瞬判断が遅れた錦先輩の隙を木戸川のディフェンスが突き、ボールを奪取される。

 奪ったのは、先ほど化身を止められた滝だ。彼は雪辱に燃えるあまり、フリーの貴志部や味方の呼びかけを無視し、再び強引な独走を仕掛ける。

 

「どけぇッ!」

 

 しかし、その慢心をマサキが見逃さなかった。

 

「『ハンターズネット』!!」

 

 マサキの放った光の網が滝を雁字搦めにし、ボールを鮮やかに掠め取る。

 

「ナイス、マサキ!」

 

 だが、安堵したのも束の間だった。こぼれたボールを、誰よりも速い反応で拾い上げたのは貴志部だった。

 貴志部の瞳には、勝利への執念と、アフロディから授かった「自分たちのためのサッカー」への誇りが燃えていた。

 貴志部を起点に、三人が同時にボールを蹴り独特のポーズを取る。

 

「『トライアングルZZ』!!」

 

「Z」を超える「ZZ」。重なり合う三人の衝撃波は、水上のスタジアムを震わせながらゴールへ殺到した。

 

「 『ゴッドハンド』!!」

 

 三国先輩が吠える。再び出現した赤い巨大な手が、シュートを受け止めた。

 火花が散り、木製のピッチが三国先輩の足元からメリメリと音を立てて軋む。拮抗する力と力。だが、三人の意志を一つに束ねた『ZZ』の威力は、完成したばかりのゴッドハンドを凌駕していった。

 

「……ぬ、うあああぁぁぁっ!!」

 

 無情にも赤い光の手が砕かれ、ボールは三国先輩を弾き飛ばしてネットを揺らした。

 

 ピーーーッ!

 

 直後に鳴り響く前半終了のホイッスル。

 

「……くそっ……」

 

 膝をつく三国先輩のもとへ、俺たちは駆け寄る。

 

 1対1――

 

 同点という拮抗した状態でハーフタイムを迎えた。

 

 *

 

 ハーフタイムの雷門ベンチ。重苦しい空気が漂う中、錦先輩がうつむいたまま拳を握りしめていた。

 

「ワシがシュートを打っていれば……」

 

 その時だった。

 

「錦ィ!!」

 

 鋭い怒号と共に、どこからか猛烈な勢いのボールが錦先輩を襲った。

 

「ぬおっ!?」

 

 錦先輩は反射的にそのボールを蹴り戻す。その先に立っていたのは、ピンクの髪に不敵な面構え――かつての雷門、そして日本を代表するストライカー、染岡竜吾だった。

 

「染岡さんってあの伝説の雷門イレブンの⁉︎」

 

「ああ、そうよ」

 

 天馬たちが驚愕の声を上げる中、染岡はニヤリと笑った。

 「えっ、プロリーグで活躍しているあの染岡さんですか!?」

 天馬たちが驚愕の声を上げる中、染岡はニヤリと笑った。

「錦、どうやら言われた通りのメニューはこなしたみたいだな」

 

「師匠!?」

 

 錦先輩が目を輝かせる。イタリアで修行していた錦先輩にとって、染岡はサッカーのイロハを叩き込まれた恩師だった。

 

「錦、お前は何を恐れてるんだ?あんな丁寧なプレイはお前らしくねぇな」

 

「ワシらしく……。どうしたらいいぜよ、師匠!」

 

 教えを乞う錦先輩に対し、染岡はおもむろに持っていた包みを開いた。

 

「最後にお前に必要なものを教えてやる。これだ!」

 

 染岡が差し出したのは、特製のおにぎりが入った弁当だった。

 

「今のお前に足りないものは……ズバリ『飯』だ!」

 

「は、はい!師匠!」

 

 錦先輩は美味しそうに弁当をバクバクと食べ始める。

 

「……見てるだけでこっちまで腹が減ってきたな」

 

 思わず漏れた呟きに、隣にいた紫がちらりとこちらを見る。

 

「ゼリー飲料ならあるわよ」

 

 そう言って紫は、足元に置いていた保冷バッグを開いた。

 中から取り出されたのは、ひんやり冷えたゼリー飲料が二つ。

 

「はい」

 

 一つを差し出され、俺はそれを受け取りながら聞く。

 

「お前も飲むのか?」

 

「ええ。体を動かすだけじゃなくて、頭を動かすだけでもお腹は空くのよ」

 

 もっともらしいことを言いながら、紫は自分の分のゼリーを器用に開ける。

 俺も真似して口をつけた。冷たさが喉を通っていって、ようやく落ち着く。

 

 すると、それを見ていた天馬と信助がこちらを見て目を輝かせた。

 

「えっ、いいな!」

「ぼ、僕も……」

 

 紫は一瞬も迷わず、保冷バッグにもう一度手を突っ込む。

 

「全員分、用意してるわよ」

 

 そう言って次々とゼリー飲料を取り出し、天馬と信助に手渡す。さらにマネージャーたち、監督やコーチの分まで取り出して配り始めていく。

 

(どんだけ入ってるんだ、そのバッグ……)

 

 俺が内心で呆れていると、いつの間にか弁当を食べ終えていた錦先輩が、ちゃっかりこちらに来ていた。

 

「デザートぜよ!」

 

 当然のようにゼリーを受け取り、満足そうに吸い上げている。

 

 こうして全員の準備が整い、空気も自然と引き締まっていく。俺たちはうなずき合い、それぞれの持ち場へ向かって走り出した。

 

 *

 

 ピーッ! 後半戦の幕が上がった。

 木戸川清修のキックオフだが、依然として滝は孤立していた。貴志部の制止を振り切り、力任せに突っ込んでくる。だが、その行く手に立ち塞がったのは、中盤までポジションを下げていた剣城だった。

 剣城の鋭いタックルが、一瞬で滝からボールを奪い去る。

 ボールを奪った剣城は、そのまま電光石火のドリブルで駆け上がる。

 

「逃すな! 4人で囲め!!」

 

 貴志部の叫びと共に、木戸川のDF陣が一斉に剣城へと殺到した。だが、それこそが鬼道監督の描いたシナリオだった。

 剣城は自分に引き付けた4人の隙間を縫うように、背後から走り込んできたノーマークの男へと鋭い横パスを放つ。

 

「……なにっ!? 囮か!」

 

 貴志部が驚愕したときには、もう遅かった。そこにいたのは、染岡直伝の「飯」で魂を燃やした錦先輩だった。

 

「うおおー!パワーがみなぎる!今にも溢れ出しそうぜよ!!」

 

 錦先輩の全身から、凄まじい闘気が立ち上る。イタリアの地で血の滲むような修行を重ね、染岡の喝によってついにその殻を破る時が来た。

 

「これがワシのサムライ魂ぜよ!」

 

 錦先輩の背後に、巨大な二振りの刀を構えた鎧武者が顕現する。

 

「な……化身だと!?」

 

 神童キャプテンさえも知らなかった、錦先輩の真の力。

 

「『戦国武神ムサシ』!!」

 

 スタジアム中に吹き荒れる烈風。雷門イレブンが驚愕で見守る中、ムサシがその巨刀を振り下ろすと同時に、錦先輩が魂を込めた一蹴りを放つ。

 

「『武神連斬』!!」

 

 木戸川のキーパーは慌てて化身を出そうとしたが、その圧倒的な弾速に反応すら追いつかない。

 ゴールネットが千切れんばかりに揺れ、審判の笛が鳴り響く。

 ゴール前で豪快に笑う錦先輩。ベンチでは染岡が、当然だと言わんばかりに腕を組んで不敵に笑っている。

 

 1対2――

 

 追い上げる雷門の革命の火が、ウォーターワールドを熱く焦がし始めていた。

 

 *

 

 錦先輩の化身覚醒により、雷門の士気は一気に最高潮に達した。対照的に、木戸川清修には再び暗雲が立ち込めていた。同点に追いつかれた焦りが、抑え込んでいた不協和音を再燃させたのだ。

 

 「……滝、いい加減にしろ! 独りよがりのプレーはチームを壊す。俺たちの連携で雷門を抑えるんだ!」

 

 キャプテン貴志部の必死の忠告。しかし、功名心に駆られた滝総介は、それを鼻で笑い飛ばした。

 

「俺が点を取ればそれでいいんだよ!」

 

 あからさまにチームプレーを拒否する滝に対し、貴志部は非情な決断を下す。滝をパスの選択肢から完全に外し、ピッチ上で「無視」することで、強引に頭を冷やさせようとしたのだ。

 

 だが、それが火に油を注いだ。

 

「ボールは俺によこせぇっ!!」

 

 滝は味方のパスコースに強引に割り込み、ボールを奪い取ると、味方を動揺させながら単独で暴走を始める。錦先輩と天馬をかわしたところまでは良かった。だが、その独りよがりの視界には、無情なフィールドのギミックが入っていなかった。

 

「あ……がっ!?」

 

 最悪のタイミングで発生した『ピッチ・ダウン』。足元を失った滝は、無様にボールを水中に落とし、攻撃の機を逸した。

 その時、ベンチからアフロディの涼やかな声が響いた。

 

「選手交代だ。……快彦、入りなさい」

 

 現れたのは、滝総介の弟、快彦だった。

 

「兄さん!恥ずかしくないのか!?木戸川も雷門もみんな勝つために一生懸命なんだ!自分のことを考えているのは兄さんだけだ!」

 

「……!だまってろ!!」

 

 身内同士の激しい罵り合い。木戸川の崩壊は、もはや決定的かと思われた。

 しかし、試合再開直後、強引に雷門からボールを奪い返した滝総介が、雷門の徹底マークに捕まり、身動きが取れなくなる。

 

「滝! パスだ!!」

 

 鋭く響いたのは、自分を無視したはずの貴志部の声だった。

 

「……っ!」

 

 滝の脳裏に、かつて純粋にサッカーを楽しんでいた頃の記憶がよぎる。フィフスセクターの評価、兄弟の確執……そんなものより先に、口を突いて出たのは本音だった。

 

「俺だって勝ちたいに決まってんだろ!」

 

 迷いを断ち切った滝のパスが、鮮やかな軌道で貴志部へと渡る。

 

「受け取ったぞ、滝! 行くぞ!!」

 

 一瞬の隙を突いた、木戸川の連携。

 

「『トライアングルZZ』!!」

 

 あまりに唐突、かつ完璧なタイミングで放たれた必殺シュート。

 

「――しまっ……!?」

 

 三国先輩が構える間もなく、ボールはゴールの隅へと突き刺さった。

 

 ピーッ!!

 

 2対2――

 

 再び突き放された雷門。土壇場で見せた木戸川の執念が、スタジアムの空気を塗り替えた。

 

 *

 

 雷門のキックオフで再開するも、完全に「勝利」の形を掴んだ木戸川清修の勢いは止まらない。貴志部を中心とした『ゴッドトライアングル』が、荒れ狂う水上のピッチを滑るように切り裂き、瞬く間に雷門ゴールへと迫る。

 

「これで終わりだ! 『トライアングルZZ』!!」

 

 木戸川の放つ、赤い衝撃波が三度襲いかかる。

 

「……させるかぁぁぁ!!」

 

 三国先輩が吠え、赤色の光を宿した右手を突き出す。だが、先ほどゴールを割られた恐怖が、わずかに反応を遅らせていた。拮抗する力と力。しかし、空中で交差する三人の意志が乗ったシュートに、三国先輩の体はじりじりとゴールライン際まで押し込まれていく。

 

「――まだだ! 終わらせない!!」

 

「三国先輩、俺たちを信じてくれ!」

 

 三国先輩の両背中に、二つの力強い掌が置かれた。

 俺と霧野先輩だ。

 

「コウ……霧野……!」

 

 河川敷で、泥まみれになりながら共に特訓を重ねてきた日々。三国先輩の苦悩も、その努力も、一番近くで見てきたのは俺たちだ。

 俺と霧野先輩の体から、溢れんばかりのオーラが立ち上り、三国先輩の右腕へと流れ込んでいく。

 赤い巨大な手が、黄金の輝きを増しながら膨れ上がっていく。それはもはや一人の技ではなかった。特訓を共にした三人の絆が形を成した、新たな「鉄壁」だ。

 

「 『ゴッドハンドトリプル』!!」

 

 ドォォォォン!!

 スタジアムを揺るがす轟音と共に、赤い光の巨手が『トライアングルZZ』を完全に握りつぶした。爆風が収まったとき、そこにはボールをがっしりと掴み、不敵に笑う三国先輩の姿があった。

 

「神童、頼んだ!」

 

 三国先輩から放たれたボールを、神童キャプテンが鮮やかにトラップする。

 

「行くぞ、全員! これが最後だ!!」

 

 神童が空を指す。『フライングルートパス』。再び空中に描かれた光の航路を通り、ボールは前線の天馬へと託された。

 両サイドからは俺と信助が猛スピードで走り込み、前半でゴールを奪った必殺の陣形を組む。

 

「行くよ、コウ! 信助!!」

 

「おう!!」

 

 三人が交差し、『トライペガサス』を放とうとしたその瞬間。

 

「させねぇよ!! 『ビッグシザース』!!」

 

 木戸川のDF陣が巨大なハサミのような衝撃波を繰り出した。

 

「うわあああぁぁっ!!」

 

 中心の天馬が激しく吹き飛ばされる。ボールが宙に浮き、時間は残り数秒を刻んでいた。

 

「天馬!! ……くそっ、俺がやる!!」

 

 俺は即座に集中力を極限まで高め、咆哮と共にオーラを爆発させた。

 

「『聖焔のフェニックス』!!」

 

 俺の化身が荒れ狂う炎を纏って顕現し、こぼれ球を強引に奪い返す。だが、天馬はまだ立ち上がれない。信助と俺の二人だけでは、ペガサスを翔ばせるための魔法陣は描けない。

 万事休すか――。その時、ひときわ高い声がピッチに響いた。

 

「――僕なら、できます!! 」

 

 駆けてきたのは、影山輝だった。

 

「輝……! よし、お前を信じるぞ!!」

 

 俺と信助、そして輝。三人が同時に全速力で交差する。

 三人の交差によって生まれた巨大な竜巻に、俺の化身が放つ紅蓮の炎が猛烈な勢いで吸い込まれていく。

 青いペガサスの幻影は、激しい熱風の中でその姿を変えた。翼は燃え盛り、尾は長く伸び、天を焦がす不死鳥へと昇華する!

 

「「「『ザ・フェニックス』!!!」」」

 

 轟音と共に放たれた炎の鳥は、水上のスタジアムを蒸発させるほどの熱量で木戸川ゴールへと殺到した。キーパーの必死の防戦も、もはや紙切れ同然。不死鳥はすべてを焼き尽くし、ゴールネットを激しく突き破った。

 

 ピーッ、ピーッ、ピーーーッ!!!

 

 試合終了の長い笛。

 3対2。雷門、劇的な逆転勝利。

 

 

 




新必殺技:『ゴッドハンド』
属性:火
使用者:三国太一
詳細:
火属性の赤いゴッドハンド

新必殺技:『ゴッドハンドトリプル』
属性:火
使用者:三国太一、不知火恒陽、霧野蘭丸
詳細:3人で放たれる巨大なゴッドハンド。既存技。

新必殺技:『ザ・フェニックス』
属性:火
使用者:不知火恒陽、西園信助、影山輝
詳細:コウの化身の炎が加わることでトライペガサスが変化した技。既存技

ホーリーロード編までの設定集とか欲しいですか?

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