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ひんやりとした岩の感触と、どこからか滴り落ちる水の音で意識が浮上した。
目を開けると、そこは薄暗い洞窟の中だった。外はまだゴッドエデン特有の霧に包まれているようだが、ここには不思議な静寂と、微かな焚き火の匂いが漂っている。
「……う、ううん……」
信助や天馬、神童先輩たちも、痛む体を引きずりながら一人、また一人と起き上がり始めた。
「どういうことだ、俺たちはアンリミテッドシャイニングと戦っていて……」
神童先輩が混乱した様子で頭を押さえる。無理もない、あの圧倒的な暴風に呑み込まれた後の記憶が断片的だ。
「そうだ!」
天馬が弾かれたように顔を上げた。
「……円堂監督がいた!」
「円堂監督が!? まさか、そんな……」
霧野先輩が絶句する中、俺も泥を払いながら口を開いた。
「……俺も見た。間違いねぇ、あの背中は……」
「――呼んだか?」
洞窟の奥、影の中から低く、だが驚くほど明るい声が響いた。
全員の視線が一点に集中する。そこには、オレンジ色のバンダナを締め直し、不敵な笑みを浮かべた男が立っていた。
「よっ!みんな気がついたみたいだな!」
「「「円堂監督!!!」」」
俺たちは叫び声を上げ、まるで弾丸のように監督へ飛び掛かった。
「うわっ、おっと! 元気だな、お前ら!」
二人を受け止め、豪快に笑うその姿は、紛れもなく俺たちの知る円堂監督だった。
円堂監督は快活に笑い、洞窟の奥へと手招きをした。
「実はここ来ているのは俺一人じゃない。こいつらも協力してくれているんだ」
奥の影から歩み寄ってきたのは、かつて日本サッカーを世界へと導いたレジェンドたちの姿だった。
「紹介しよう。風丸、吹雪、壁山、不動。みんな俺と一緒にこの島を調査している仲間だ」
風丸さんが穏やかに微笑み、吹雪さんは「久しぶり!」と優しく頷く。不動さんは相変わらず不敵な笑みを浮かべ、壁山さんは「みんな、よく頑張ったっス!」と感極まった様子だ。
やがて、洞窟の中央に熾された焚き火を囲んで、俺たちは腰を下ろした。揺らめく炎が、皆の疲れ切った顔を赤く照らす。
「円堂監督……ここに来た理由を俺たちにも教えてください」
神童先輩が重い口を開いた。
「訳も話さずチームを離れることになってしまってすまなかった。実は白恋中との試合の後ある事実を知ってしまったんだ」
円堂監督の表情が、炎の影と共に真剣なものに変わる。
「円堂君ここからは僕が話そう」
その言葉を継ぐように、吹雪さんが静かに語り出した。
「僕はこの島に少年たちを閉じ込めシードを生み出すための恐ろしい特訓を行っている施設の情報を掴んだんだ。そのことを雷門と白恋の試合の時に円堂君に伝えた」
さらに風丸さんや不動さん達が続ける。
「俺たちの捜査によるとシードはフィフスセクターが運営するいくつかの特訓施設によって生み出されている」
「その中に高い能力を持つプレイヤーだけを集めた最高ランクの特訓施設が存在する。それが究極を生み出す島『ゴッドエデン』だ」
天馬が膝を乗り出し、監督の目を見つめる。
「円堂監督……監督は、これからどうするつもりなんですか?」
「もちろん!俺達はここで特訓を受けている少年達を解放してフィフスセクターの陰謀を暴く!!」
監督の迷いのない言葉に、絶望に沈んでいたチームの空気が明るく一変した。
「さて……話はここまでだ。明日は朝から特訓だぞ。今日はもう寝ろ」
円堂監督の言葉に従い、俺たちは洞窟の隅で体を休めることにした。
外では相変わらず不気味な風が唸りを上げているが、焚き火の温かさと、伝説の先輩たちの存在が、今の俺たちには何よりも心強かった。
*
翌朝、ゴッドエデンの淀んだ空気を切り裂くように、俺と天馬、信助は薪を抱えて全力で走っていた。
「遅いぞ天馬! 信助!」
「待ってよコウ! はやいよぉ!」
誰に言われたわけでもない。だが、昨日の敗北が、そして円堂監督たちの存在が、俺たちの体に火をつけていた。少しでも体を動かしていたい――そんな衝動が俺たちを突き動かしていた。
拠点の建物が見えてきたその時、突如として島全体を震わせるような不気味なサイレンが鳴り響いた。
「なんだ!? 何が起きたんだド!」
建物から飛び出してきた天城先輩や神童キャプテンたちが空を見上げる。スピーカーからは、牙山教官の冷酷な声が響き渡った。
『円堂守、ならびに雷門の愚かなる少年たちに告ぐ。三日後、お前たち雷門と、我々フィフスセクター公認チームによるスペシャルマッチを行う。場所は島の中心にある我々の施設、ゴッドエデンスタジアムだ』
全員の表情が強張る。放送はさらに続いた。
『こちらには人質がいる。……お前たちは、この試合を拒むことはできない』
「人質……やっぱり、監督や紫たちはあそこにいるんだな!」
俺は拳を強く握りしめた。三日。それが奴らが提示した猶予だった。
「みんな、聞いてくれ!」
円堂監督の声が、どよめくイレブンを静めさせた。
「奴らが試合で挑んでくるというのなら、俺たちはそれを迎え撃つ!」
「……でも監督、勝算はあるんですか?」
狩屋が不安げな表情で問いかける。
その言葉に、円堂監督はニカッと太陽のような笑みを浮かべた。
「忘れたのか? 俺たちは今まで、どんな困難も乗り越えてきた。これからも今までと同じ!勝利を目指して戦う! それだけだ!今日からこの島で大特訓だ!」
「「「はい!!!」」」
監督の言葉に、迷いは消えた。
*
三日という限られた時間の中で、俺たちは少しでも効率よく体を動かせる場所を求めて、二手に分かれて森を探索していた。
天馬、信助、剣城、そして俺の四人は、湿り気を帯びた深い森の奥へと足を踏み入れる。木々の隙間から差し込む光は弱く、どこか神秘的な空気が漂っていた。
「あ、見て! 変な形の石像があるよ!」
信助が指差したのは、一本の巨大な老木の下にひっそりと佇む、地蔵のような形をした独特な石像だった。
「変なポーズだなあ」
「剣城、これって何かな? お地蔵さん?」
信助の問いに、剣城は少しだけ目を細めてその像を見つめた。
「……それは、この島を守る神様だと聞いている。この『ゴッドエデン』には古くから、サッカーに似た球を蹴り合う競技が伝承されているらしい。その競技の守護神なんだろう」
「へぇ……。じゃあ、この地蔵様の頭に乗ってる丸いのも……サッカーボールなのかな?」
天馬が興味津々に覗き込む。確かに、頭部にはサッカーボールを模したような彫刻が施されていた。
「サッカーの神様ってことかもね!」
天馬と信助が和やかな声を上げる中、俺の背筋に冷たい感触が走った。
静かな森の中に、不自然に混じる視線。
「誰だ!!」
俺が叫ぶと同時に、生い茂る草むらを貫いて一球のサッカーボールが弾丸のように飛び出してきた。
「っ……!!」
俺は瞬時に反応し、右足に力を込めてそのボールを正面から蹴り返す。
鋭い弾道で戻っていったボールは、森の奥から現れた集団のど真ん中へと吸い込まれていく。
そこにいたのは、アンリミテッドシャイニングの白とは対照的な、漆黒のユニフォームを纏った十一人の少年たちだった。
「へぇ……少しはやるじゃないか」
霧の中から現れたその少年は、不敵な笑みを浮かべながらゆっくりとこちらへ歩み寄ってきた。どこか浮世離れした、それでいて底知れない冷たさを感じさせる瞳。
「君たちは……」
天馬が問いかけるが、少年はそれを遮るように言葉を紡いだ。
「実はさ、この島に来た時からずっと見ていたんだ。君たちがボロボロにされて負けちゃったんだよね」
少年の声は穏やかだが、その言葉は鋭い刃のように俺たちの胸に突き刺さる。
「……許せないんだよね。あの程度の実力で、サッカープレイヤーぶっているのが」
「なんだと!?」
俺は思わず一歩踏み出した。だが、少年は俺の怒りを柳に風と受け流し、周囲の巨木を見上げる。
「この森は僕たち『エンシャントダーク』のものだ。よそ者は今すぐ出て行ってもらう」
少年は興味を失ったかのように、背を向けて踵を返した。
「待って!」
天馬が叫ぶ。
「俺たちは、三日後に大事な試合をしなきゃならないんだ。仲間を助けるために、どうしても強くならなきゃいけない。……お願いだ、この森で特訓をさせてほしい!」
その言葉に、少年は足を止めた。
数秒の沈黙。少年は振り返ると、手元のボールを軽く転がし、俺たちの元へと転がした。
「……いいよ。ただし、僕らに勝てたら、ね」
少年の唇が、三日月のように吊り上がる。
*
深い森に囲まれた不気味なピッチ。エンシャントダークのキックオフで、試合は始まった。
彼らのパスワークは、白竜たちの破壊力とは正反対だった。音もなく、予備動作もなく、まるで糸に引かれるように正確なパスが次々とつながり、あっという間に俺たちのゴール前まで迫る。
「……来るぞ!」
一際高く蹴り上げられたロブパス。その落下地点を狙って黒い影が跳躍する。
「今だ!」
「いくよ! 『かっとびディフェンス』!!」
信助が狩屋の足の裏を踏み台にして、ロケットのように飛び上がった。特訓の成果か、計算外の跳躍力で相手より先にボールを捉え、見事にクリアしてみせる。あれって確かドカーンジャンプじゃ……流石に名前変えたんだな。
「いけぇ天馬!」
こぼれ球を拾った天馬が、反撃の狼煙を上げるべく前線へ駆け上がる。だが――。
「へえ……やるね」
立ち塞がるエンシェントダークのメンバーたちは、まるで関節がないかのような、あるいは重力を無視したような曲芸じみた動きで天馬を翻弄する。右へ抜こうとすれば、影のように先回りされ、左へかわそうとすれば、信じられない角度から足が伸びてくる。
「剣城! 決めろ!!」
天馬が出したパスを、剣城が完璧なタイミングで捉える。背後から立ち上がる悪魔の羽のような禍々しいオーラが溢れ出す。
「『デビルバースト』!!」
漆黒の翼を広げた剣城の放つ、渾身の必殺シュート。白竜との差を埋めるべく放たれたその一撃は、ゴールへ一直線に突き進む。だが、相手のキーパーは不敵に微笑んだ。
「『キルブリッジ』!!」
キーパーが両手を広げると、光の橋のようなものが出現し、凄まじい威力の『デビルバースト』を吸い込むように受け止めた。衝撃波すら起きない。あまりにも静かに、そして簡単に、俺たちの希望が握りつぶされた。
「やっぱりこんなもんか」
「何だと……!?」
エンシャントダークの猛攻は止まらない。彼らのプレイスタイルは、白竜のような圧倒的な「個」の暴力ではなかった。緻密に、そして執拗に、こちらの動きの先を読み、力を削いでいく。
「……気づいているかな? 僕たちは相手の動きを見切り、その力を奪うことを得意とする。いわば『マイナス』のチームなんだよ」
相手のキャプテンが静かに告げると同時に、凄まじい旋風がピッチを駆け抜けた。彼らが繰り出すパスは、一本一本がまるで弾丸のような重さと速さを孕んでいる。
「うわぁぁぁっ!」
「ぐわっ……!」
パスが通るたびに発生する凄まじい風圧が、雷門のメンバーを木の葉のように吹き飛ばしていく。立っていることさえ困難な状況の中、相手のキャプテンが必殺技ではないが凄まじいシュートを放った。
その弾道は正確無比。誰もがゴールを覚悟したその時――。
「メェェェ!」
どこから迷い込んだのか、シュートの軌道上に一匹の小さな子ヤギが姿を現した。
「危ないっ!!」
天馬が叫ぶ。反射的に体が動いたのは、誰よりも早くボールの行方を追っていた天馬だった。
「『そよかぜステップV3』!!」
緑の突風を纏い、天馬は間一髪のところで子ヤギを抱きかかえ、シュートの射線上から救い出した。
「天馬、ナイスだ! ……あとは任せろ!!」
俺は叫び、天馬が作った一瞬の隙を逃さずにゴール前へと滑り込む。そこにいたのは、すでに構えている三国先輩と霧野先輩だった。
「三人で行くぞ!!」
「おう!!」
「ああ!!」
俺たちの力が、ゴール前で一つに重なる。
「『ゴッドハンドトリプル』!!!」
黄金の巨大な手が三層に重なり、相手のキャプテンの放ったシュートを正面から受け止める。凄まじい衝撃が腕を伝うが、俺たちは一歩も引かなかった。
ズズズッ……!!
地面を削りながらも、ついにそのボールを完全に静止させる。
「よっしゃあ!!止めたぞ!」
「天馬!!さっきの小さいのは無事か!」
雷門のみんなが小ヤギを心配して集まる。
天馬の腕の中で「メェ」とひと鳴きした小ヤギが無傷であることを確認すると、トコトコと森の奥へと駆けていった。その背中を見送る俺たちの間には、先ほどまでの殺伐とした空気ではなく、どこか穏やかな時間が流れていた。
「……よかった。本当に無事で」
天馬がホッと胸をなでおろす。
その時、それまで静かに俺たちを観察していた相手のキャプテンが、ふっと表情を緩めて口を開いた。
「聞いてくれ!ここの森は君たちの自由に使っていいことにする!」
「えっ? いいのか!?」
俺は思わず聞き返した。さっきまでは「よそ者は出て行け」とあんなに冷たく言い放っていたのに。
「君たちがこの島で強くなりたいなら手伝うよ」
「どうして……? 急に気が変わったの?」
天馬が不思議そうに首を傾げると、相手のキャプテンは一歩、天馬に近づいてその顔を覗き込んだ。
「……面白いから。特に……君がね」
少年は一歩近づくと、まっすぐに天馬を指差した。
少年の瞳の奥に、ほんのわずかな好奇心の光が宿る。
「僕の名前はシュウ!よろしく!」
「シュウ……。俺は松風天馬! 協力してくれてありがとう!」
天馬が屈託のない笑顔で右手を差し出すそれにシュウと応える。
「それじゃあまた後で」
シュウが合図を送ると、エンシャントダークのメンバーたちは音もなく森の中へと消えていった。
(……シュウ。あいつ、只者じゃないな)
俺は立ち去る彼らの背中をじっと見つめていた。白竜の「破壊」とは違う……この島に古くから眠る、何かもっと深い意志のようなものを感じる。
「……よし! 場所は確保できたぞ!」
神童キャプテンが、再び闘志を宿した瞳で俺たちを振り返った。
「時間は三日しかない。だが、シュウたちの動きを体感した今なら、白竜のスピードに対抗するヒントが掴めるはずだ。特訓再開だ!!」
「「「はい!!!」」」
サッカーの神様が見守るこの場所で、俺たちの本当の進化が加速し始める。
ホーリーロード編までの設定集とか欲しいですか?
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いる
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いらない