イナズマイレブンGO 紅蓮の翼   作:シキDX

28 / 46
お気に入り登録、感想、閲覧ありがとうございます!!


第二十六話(劇場版編) VSチーム・ゼロ Part1

 三日間の特訓を終えた俺たちは、ついにゴッドエデンスタジアムへの前に来ていた。

 施設の巨大な鋼鉄の扉の前に立つと、まるで俺たちの到着を予期していたかのように、轟音を立てて扉が左右に開いた。

 

「……さしずめ、地獄の門ってとこか」

 

 不動さんが皮肉げに口角を上げた。その隣で吹雪さんが、吐く息の白さを確かめるように目を細める。

 

「僕たちは招待されてないけどね」

 

「みんな、トイレは大丈夫っすか!」

 

「そう言うお前こそ、本当は大丈夫なのか?」

 

 風丸さんの鋭いツッコミに、壁山さんは「うう、実はちょっと怪しいっス……」と顔を青くさせる。いつものやり取りに、張り詰めていた俺たちの肩の力がわずかに抜けた。

 だが、通路を進むにつれ、その空気は再び凍りついた。

 通路の下を見下ろすと、そこには幾重にも重なる、ボロボロに破壊された訓練場が広がっていた。錆びた器具、焼け焦げた壁、そして泥にまみれたサッカーボール……。

 

「……ここを出られる者は、ごく僅かだと聞いたことがある」

 

 剣城が忌々しそうに、地の底を見つめて呟いた。

 

「……こんなひどい環境で、選手を鍛えているのか」

 

 三国先輩が怒りに拳を震わせた。

 通路の壁に、俺たちの足音が冷たく響く。

 下で使い潰された名もなき少年たちの無念が、霧のように立ち込めている気がした。

 

「……許せねぇ。サッカーは、こんな絶望を生むためのもんじゃないはずだ」

 

 通路の突き当たり、眩い光が溢れる出口の向こうから、地鳴りのような歓声が聞こえてきた。

 

「行くぞ、雷門!!」

 

 円堂監督の背中が、俺たちの戦意を爆発させる。

 スタジアムに一歩足を踏み入れた瞬間、鼓膜を突き破るような凄まじい歓声が俺たちを襲った。だが、それは応援などという温かいものではない。

 超満員の観客席を埋め尽くしているのは、全員が同じ無機質な服を纏い、不気味に発光する謎の紫色のゴーグルを装着した異様な集団だった。

 

「ようこそ、ゴッドエデンへ。君たちにとって、スタジアム全体が敵……と言ったところですね」

 

 通路の脇から、影を引きずるように牙山が現れた。

 

「改めて言うがここで君たちが負けた場合、シードになるための教育を――」

 

「何度言われても、俺たちの答えは決まってる!!」

 

 天馬がその言葉を鋭く遮った。その瞳には、かつてないほど強い拒絶と決意が宿っている。

 

「……フン、拒否することはできん。そして、お前たちは勝たない限り、ここから出ることも叶わないのだ」

 

 牙山が冷酷に言い放ち、高々と右手を掲げて指を鳴らした。

 

「出でよ、究極の戦士たち!」

 

 その瞬間、スタジアムの上空から、目を灼くような白と黒の光が螺旋を描いて降り注いだ。

 凄まじい衝撃波と共に光が消えると、ピッチの中央には、これまでとは違う禍々しいプレッシャーを放つ十一人の選手が並んでいた。

 

「なっ……!?」

 

 天馬が息を呑む。

 

「シュウ……!?」

 

 そこには、昨夜まで一緒に特訓をしていたはずの、あの穏やかな微笑みを浮かべていたシュウが立っていた。

 

「彼だけじゃない、他のメンバーも混ざっている」

 

 神童キャプテンが鋭い視線で相手を睨む。

 

「洗脳されちまってるかもよ」

 

 狩屋が毒づきながら身構えるが、シュウは首を横に振り、静かに、だがはっきりとした口調で答えた。

 

「誤解のないように言っておくけど。……僕は、自分の意思でこのチームに参加している」

 

 シュウの瞳は底の知れない深い闇に染まっていた。

 牙山は勝ち誇ったように、その傲慢な声をスタジアム中に響き渡らせた。

 

「究極の力を求める我々の計画『プロジェクト・ゼロ』について話してやろう。アンリミテッドシャイニングとエンシャントダーク、この二つのチームはこれまで別々の特訓を行なってきた。君たちが森でエンシャントダークと試合をしたのも、計画の一部だったのだよ……」

 

 牙山の瞳が、狂気じみた光を放つ。

 

「光と影、静と動、プラスとマイナス! この二つの力が融合した時、究極のチーム『チーム・ゼロ』が誕生するのだ!」

 

 その言葉を合図に、観客席を埋め尽くす紫ゴーグルの集団が地鳴りのような「フィフス! フィフス!」というコールを巻き起こす。スタジアム全体が雷門を飲み込もうとする巨大な怪物と化した。

 

「天馬!!」

 

 その時、頭上の叫び声に俺たちは弾かれたように振り向いた。

 スタジアム上部の高くせり出した檻の中に、葵が必死に柵を掴んでこちらを見下ろしていた。後から、鬼道監督や音無先生、水鳥、茜の姿も現れる。どうやら葵以外は無事脱出できたようだ。だが、俺はすぐに違和感に気づいた。

 

「……紫!? 紫はどこだ!!」

 

 俺の声に、鬼道監督が険しい表情でこちらを見つめる。

 

「コウ……そっちにもいないのか!?」

 

 俺は牙山を睨みつけ、喉が張り裂けんばかりに怒鳴った。

 

「紫をどこへやった! 答えろ!!」

 

「ユカリ? 聞いたこともない名ですね……バスに乗っていた者は、全員捕らえたはずだが」

 

 牙山の冷たい言葉が、俺の頭を殴りつけた。

 そんなはずはない。あの日乗っていたバスには確かに紫も乗っていた。捕まる瞬間まで一緒にいたはずだ。

 

「コウ、落ち着いて! 紫ならきっと1人でも上手くやってるよ!」

 

 天馬の叫びに、俺はハッと我に返った。

 そうだ。紫はただ守られるだけの奴じゃない。あいつが独りで動いているのなら、俺たちがここで無様に負けるわけにはいかない。

 

「……ああ、わかってるよ!」

 

 俺は一旦切り替えてフィールドへと駆け出した。

 

 *

 

 ピーーーッ!!!

 運命のホイッスルの音が、殺気立ったスタジアムに響き渡った。雷門のキックオフ。天馬が剣城へとボールを戻し、特訓の成果を見せつけるべく一気に攻勢をかける――はずだった。

 シュウが影のように滑り込んできたかと思うと、剣城の足元から音もなくボールを奪い去った。

 

「なっ……!?」

 

 あまりの速さに、剣城さえも反応が遅れる。ここからチーム・ゼロの「マイナス」と「プラス」が融合した、悪魔のようなパスワークが始まった。

 

(動きが見えない……!? まるでパスの軌道そのものが歪んでいるみたいだ!)

 

 俺は必死にパスコースを読もうとするが、アンリミテッドシャイニングの直線的な速さと、エンシャントダークの幻惑的な曲線が組み合わさったパス回しに、雷門のディフェンス陣は翻弄される。

 

「……くっ、みんな行くぞ!『神のタクト』!!」

 

 神童キャプテンがタクトを振り、光の指揮がピッチを走る。

 

「天馬!!」

 

「はいっ!!」

 

 天馬が『神のタクト』の導きに従い、シュウに向かって迷いのないプレスを仕掛ける。特訓で磨き上げた鋭い踏み込み。だが――

シュウは天馬の突進を、まるで予知していたかのような最小限の動きで回避した。曲芸じみた身のこなしで天馬の脇をすり抜け、空中で静止したかのような滞空時間の長いロブパスを放つ。パスを受け取った白竜はディフェンス陣を飛び越える跳躍を見せる。

 

「食らえ! 雷門!!」

 

 ドォォォォォン!!!

 

 必殺技ですらない、ただのシュート。しかし、その一撃は、鋭い光となってゴールへと突き刺さった。

 三国先輩が反応することさえ許されない。凄まじい衝撃波を撒き散らし、先制点はあまりにも無慈悲に奪われた。

 

 *

 

 スコアは0対1。だが、体感的な点差はそれ以上だった。

 

「……ここは化身の力でディフェンスを突破する!!」

 

 神童キャプテンの咆哮と共に、彼の背後に奏者マエストロが降臨した。力技で中盤を突破しようとする神童キャプテン。しかし、白竜は動じない。

 

「見るがいいこれが究極の化身……『聖獣シャイニングドラゴン』!!」

 

 白竜の咆哮に呼応し、スタジアム全体を白銀の光が飲み込んだ。現れたのは、巨大な翼と神々しい鱗を持つ『聖獣シャイニングドラゴン』。

 その巨躯から放たれた尻尾の一撃が、奏者マエストロを紙屑のように薙ぎ払い、霧散させた。

 

「神童先輩!!」

 

「出てこい!『剣聖ランスロット』!!」

 

 剣城が『剣聖ランスロット』を出し、捨て身のタックルを仕掛ける。だが、シャイニングドラゴンの圧倒的な突進の前に、騎士の盾は無惨にも砕け散った。

 

「くっ……出てこい!『魔神ペガサス』!!」

 

 天馬が『魔神ペガサス』を顕現させ、シャイニングドラゴンの死角から渾身のパンチを放つ。しかし、ドラゴンはまるで背後にも目があるかのように身を翻し、猛烈な一撃でペガサスをも消し去った。

 

「……化身が、三体同時に……!?」

 

 雷門に絶望が広がる中、俺の体が勝手に動いていた。喉の奥から、せり上がるような熱い叫びが漏れる。

 

「これ以上やらせるかぁぁぁ!! 出てこい! 『聖焔のフェニックス』!!」

 

 俺の背後から、燃え盛る紅蓮の翼が広がった。これまでの特訓で磨かれた炎は、以前よりも遥かに密度を増している。

 フェニックスの両翼が、突進してきたシャイニングドラゴンの角を真っ向から受け止める。

 

「ほう……やるじゃないか!!」

 

 白竜が驚愕に目を見開く。化身同士が力任せに取っ組み合い、スタジアムの芝が衝撃で巻き上がる。だが、白竜の瞳に宿った驚きは、すぐに冷酷な色に塗りつぶされた。

 

「だが、これで終わりだ! 『ホワイトブレス』!!」

 

 ドラゴンの咆哮と共に、全エネルギーを凝縮した光の奔流が放たれた。必殺シュートがフェニックスの胸を貫き、俺の化身は一瞬で霧散した。

 

「がはっ……!!」

 

 凄まじい反動で俺が吹き飛ばされる。

 

「くっ……『ゴッドハンド改』!!」

 

 

 シュートはその勢いのまま、三国先輩の『ゴッドハンド改』を木の葉のように打ち破り、ゴールネットを激しく揺らした。

 0対2。

 雷門の「化身」をことごとく粉砕し、チーム・ゼロがその圧倒的な支配力を誇示する。

 

 *

 

 スコアは0対2。圧倒的な力を見せつけられても、俺たちの闘志はまだ潰えていない。

 

「こうなったら俺たち四人の化身で……やつの力を抑え込むぞ!!」

 

 神童先輩の合図と共に、俺たちは再び『魔神ペガサス』『奏者マエストロ』『剣聖ランスロット』、そして俺の『聖焔のフェニックス』を同時に顕現させた。

 キックオフ直後、またもや白竜が電光石火の速さでボールを奪う。だが、今度は四体の化身が壁となり、その進路を完全に塞いだ。

 

「よし押さえ込んだぞ!」

 

「……そう思うか?」

 

 白竜が鼻で笑うと、背後の『チーム・ゼロ』のメンバーたちが一歩前へ踏み出した。そして、4つの禍々しい影が立ち上がる。

 

『鉄騎兵ナイト』

『精鋭兵ポーン』

『番人の塔ルーク』

『魔宰相ビショップ』。

 

 チェスの駒を模した四体の化身が、シャイニングドラゴンの周囲を固める。

 

「なっ……五体同時だと!?」

 

 神童キャプテンが驚愕する。化身同士の力がぶつかり合い、ピッチはもはやサッカー場ではなく、神話の戦場と化していた。

 

「君たちはまだまだ、化身を使いこなせていないのさ」

 

 シュウが冷酷に告げる。

 

「思い知れ。化身を自由自在に操る、俺たちの真の力を!!」

 

 白竜が空高く跳躍した。シャイニングドラゴンが大きく口を開け、眩い光を集める。

 

「『ホワイトブレス』!!!」

 

 轟音とともに放たれた光の奔流が、俺たちの化身を正面から粉砕した。

 

「「「ぐわあああぁぁっ!!」」」

 

 凄まじい反動で俺、天馬、神童先輩、剣城の四人が地面に叩きつけられる。だが、シュートはまだ止まらない。

 

「行かせるかぁ!! 『ディープミスト』!!」

 

「『ハンターズネット』!!」

 

「『ぶっとびジャンプ』!!」

 

 霧野先輩、狩屋、信助が次々と必殺技を繰り出し、命がけのシュートブロックを試みる。しかし、究極のブレスはその全てを紙細工のように突き破っていく。

 

「……今度こそ止めてやる!!『真ゴッドハンド』!!」

 

 三国先輩が吠えた。進化したゴッドハンドが虹色の光を放つ。だが、それでもシュートの勢いは死なない。先輩の腕が、悲鳴を上げながら押し込まれていく。

 

「三国先輩!!」

 

「……うおぉぉぉ!!」

 

 俺と天馬は、弾かれたように立ち上がり、三国先輩の背中に飛び込んだ。両手を先輩の背に当て、自分たちの残ったエネルギーを全て注ぎ込む!

 

「『ゴッドハンド・トリプルG3』!!!」

 

 三人の想いが一つに重なり、黄金の手がさらに巨大化する。激しい火花を散らしながら、ついに『ホワイトブレス』をその掌の中で握り潰した。

 

「……はぁ、はぁ……止めた……ぞ……」

 

 息を切らし、膝をつく俺たち。しかし、白竜は汗一つかかずに俺たちを見下ろしていた。

 

「どうした!それで全力か? 」

 

 その時、ベンチの牙山が不敵な笑みを浮かべ、指を鳴らした。

 

「……そろそろ、『プレッシャー』をかけるか」

 

「ゴッドハンド・トリプル」で辛うじて一点を防いだのも束の間、スタジアムの空気はさらに冷酷なものへと変貌した。牙山の合図とともに、チーム・ゼロの動きが一段と「非人間的」な鋭さを増す。

 パスの一発一発が、もはや繋ぐためのものではなく、俺たちの体を壊すための「弾丸」だった。

 

「ぐああっ!」

 

 天城先輩の巨体が弾き飛ばされ、神童キャプテンの足元を狙った鋭いパスが、その踏ん張りを無慈悲に挫く。ボールを奪いに行くたびに、わざと衝突させるようなラフプレー紛いのパスワークに、一人、また一人とピッチに倒れ伏していった。

 

「さあ、お前達の本当の力を見せてみろ!」

 

「……どういうことだ!」

 

 剣城が肩を荒く上下させながら問い詰める。白竜は薄く笑い、その冷たい瞳で俺たちを射抜いた。

 

「実験だよ。……人は追い詰められると実力以上の力を発揮する」

 

「俺たちは……実験台じゃないぞ……!」

 

 天馬が震える足で立ち上がり、白竜を睨みつける。だが、白竜の返答は無慈悲だった。

 

「いいや、実験台さ。俺たちの究極を完成させるためのな!」

 

 そこからの数分間は、まさに地獄だった。

 シュウの影のようなカット、白竜の暴風のようなドリブル。その全てが俺たちの急所や体力を削るように計算し尽くされていた。

 

 ピーーーッ、ピーーーッ!!

 

 ようやく鳴り響いた前半終了のホイッスル。

 スコアは0対2のまま。だが、ベンチに戻る俺たちの足取りは重く、ユニフォームはボロボロになっていた。

 

 *

 

 ハーフタイムのベンチは、重苦しい静寂と、コールドスプレーの鋭い音に支配されていた。

 全員が泥と汗にまみれ、アイシング用の氷を患部に押し当てて痛みに耐えている。三国先輩に肩を貸してもらい、ようやくベンチに腰を下ろした神童キャプテンが、苦しげに円堂監督を見上げた。

 

「……監督。このままでは……俺たちに勝ち目はありません」

 

 キャプテンの言葉は、今の雷門の偽らざる本音だった。絶望がチームを飲み込もうとしたその時、円堂監督は腕を組み、静かに、だが揺るぎない声で答えた。

 

「確かに、奴らの力はすごい。……だがな、チャンスは必ずある。なぜならお前たちはまだ、特訓の成果を出せていないからだ」

 

「でも……監督、俺たちは全力で戦っています! 」

 

 天馬が食い下がるが、隣に立つ鬼道コーチが鋭い視線でそれを遮った。

 

「本当にそうか?」

 

 円堂監督もその言葉に同意するように続ける。

 

「……思い出してみろ。この島で過ごした三日間を」

 

 円堂監督が一人一人の目を見つめる。

 

「あの厳しい自然は、お前たちに教えてくれたはずだ。どんな困難でも、立ち向かうことをやめなければ必ず乗り越えられるということを。そして、その厳しさを『楽しむ』ことの大切さをな!」

 

「楽しむ……」

 

 俺は、シュウが言っていた「遊んでいればいいんだ」という言葉を思い出した。

 激流に逆らうのではなく、流れを利用したあの感覚。恐怖を捨てて、自然と一体になったあの瞬間――。

 

「……そうか。俺たちは、奴らのパワーを『止める』ことばかり考えていた。でも、この島での特訓はそうじゃなかった」

 

 俺は、熱を持ち始めた掌をぎゅっと握りしめた。

 

「あいつらの嵐のような攻撃も、俺たちにとってはただの『自然』だ。乗りこなせないはずがない……!」

 

「いい顔になってきたな、コウ」

 

 円堂監督が不敵に笑う。

 

「後半戦……雷門の本当のサッカー、奴らに見せてやろうぜ!」

 

「「「はい!!!」」」

 

 ボロボロだったはずのイレブンの瞳に、再び強い光が宿る。

 

 *

 

 後半開始を告げるホイッスル。白竜は最初から終わらせるつもりで『聖獣シャイニングドラゴン』を顕現させ、凄まじい風圧と共に突進してきた。

 

「『魔神ペガサス』!!」

 

 天馬が叫び、背後に『魔神ペガサス』を呼び出す。だが、そのプレッシャーは前半とは明らかに違っていた。白竜と激突する寸前、天馬の瞳に特訓で見たゴッドエデンの高く険しい空が浮かぶ。

 

「あの白い竜を越えるには……さらに高く舞い上がるんだ! 天まで届けぇぇ!!」

 

 その瞬間、ペガサスの全身を眩い光が包み込み、巨大な翼が力強く広がった。進化した化身、『魔神ペガサスアーク』。その翼が巻き起こした神聖な風が、無敵を誇ったシャイニングドラゴンの体勢を大きく崩した。

 

「なっ、化身が進化しただと……!?」

 

 驚愕する白竜から、天馬は鮮やかにボールを奪い取ると、中盤の神童キャプテンへ繋ぐ。

 

「神童先輩、お願いします!」

 

「『奏者マエストロ』!!」

 

 神童キャプテンもまた、迷いを捨てて『奏者マエストロ』を再顕現させた。瞬時に前線へ走り込む俺と剣城の軌道を読み取り、化身のタクトを力強く振り下ろす。

 

「『ハーモニクス』!!!」

 

 放たれた衝撃のシュート。だが、これはまだ序曲に過ぎない。俺と剣城は、特訓の合間に交わした視線を思い出し、同時にシュートの軌道へと飛び込んだ。

 

「即興で行けるか!剣城!」

 

「ああ、当たり前だ!!」

 

 俺の熱風と、剣城の鋭いキックが空中で交差する。二人の力が一つの軸となり、巨大な炎の翼を生み出した。

 

「「『炎の風見鶏』!!!」」

 

 神童キャプテンのハーモニクスを飲み込み、さらに加速した紅蓮のシュートは、文字通り火の鳥となってゴールへ突き刺さった。チーム・ゼロの守備陣、そしてあの絶対的な壁だったゴールキーパーさえも一歩も動けない、圧倒的な一撃。

 

 ピーーーッ!!!

 

 1対2。ついに雷門が、究極のチームから一点をもぎ取った。

 

 

 一点を返され、ついに『チーム・ゼロ』が本気で牙を剥く。キックオフ直後、白竜の『聖獣シャイニングドラゴン』を含む五体の化身が、地響きと共に殺到してきた。

 

「化身を出せる時間は限られている……! ここは何としても抑え込むんだ!」

 

 神童キャプテンが叫び、奏者マエストロのタクトを構える。だが白竜は不敵に笑い飛ばした。

 

「わかっていたところでどうにもならないんだよ!」

 

「ならば……連携して迎え撃つまでだ!」

 

 神童、天馬、剣城、そして俺が四体同時に化身を顕現させ、五体の化身軍団へと真っ向からぶつかる。四対五――数的不利の衝撃に押し込まれそうになったその時、背後から心強い咆哮が聞こえた。

 

「させるかぁ!! 『ダッシュトレイン』!!」

 

「『ハンターズネット』!!」

 

 車田先輩と狩屋が死角から突進し、さらに霧野先輩の『ディープミスト』と信助の跳躍が加わる。特訓で磨いた彼らの必殺技が、相手の化身二体の足止めに成功した。

 

「今だ、押し戻せ!!」

 

 相手の連携が崩れた一瞬を突き、俺たちの四体の化身が咆哮と共に残りの化身を弾き飛ばす。こぼれたボールを神童キャプテンが奪取し、瞬時に前線を見据えた。

 

「影山、頼むぞ!!」

 

 鋭いパスが影山に渡る。

 

「『エクステンドゾーン』!!!」

 

 影山の放った紫黒の衝撃波がゴールを襲う。しかし、シュートの軌道が大きく逸れた。

 誰もが外れた思った瞬間、その落下地点に「戦国武神ムサシ」を背負った男が待ち構えていた

 

「『武神連斬』!!!」

 

 ムサシの二振りの巨剣が放つ斬撃が、逸れたボールをさらに加速させ、ゴールネットを揺らした。

 

 ピーーーッ!!!

 

 2対2。ついに、ついに同点に追いついた!

 

 *

 

 同点に追いつき、反撃の機運が高まったのも束の間、スタジアムの電光掲示板が異様な点滅を繰り返した。

 

「選手交代だ!ここは教官である我々が手本を見せてやろう」

 

 牙山の冷酷な宣言と共にピッチに現れたのは、牙山自身を含む六人の「大人」たちだった。フィフスセクターの教官級たちが、中学生の試合に強引に介入してきたのだ。

 

「シュウ……本当にこれでいいの!?これが君の求めているサッカーなの!」

 

 天馬が叫ぶが、シュウは俯いたまま、何も答えない。その瞳はただ、底知れない闇を見つめている。

 

「こんなことが許されるはずがない!」

 

 風丸さんがベンチから身を乗り出して抗議するが、牙山は檻の中に囚われた葵を指さし、嘲笑う。

 

「あなた方は、自分たちの立場を理解すべきだ」

 

 ピーーーッ!!!

 

 後半、ゼロからのキックオフ。

 ピッチは一瞬で戦場から「刑場」へと変わった。大人のフィジカルと計算された暴力的なパス回しが、雷門イレブンを文字通り蹂躙する。

 

「ぐあああぁっ!!」

 

 次々と吹き飛ばされ、地面に叩きつけられる仲間たち。ボロボロになりながらも立ち上がった天馬が、震える声で叫んだ。

 

「こんなの……サッカーじゃない!」

 

「当たり前だ。これは『教育』なのだからね。……決めろ、シュウ!」

 

 牙山からの鋭いパスがシュウに渡る。シュウは一瞬、天馬を見てためらいの色を見せたが、すぐにその迷いを断ち切るように跳躍した。

 

「『ブラックアッシュ』!!!」

 

 全てを無に帰す暗黒の灰が、凄まじい轟音と共にゴールを襲う。誰もが失点を覚悟したその時―

 

「これ以上好きにさせるか!!」

 

 俺は「ブラックアッシュ」の軌道上に立ち塞がる。

 スタジアムを飲み込むような暗黒の衝撃が俺を襲う。でも、不思議と怖くはなかった。それどころか、俺の体の中に眠っていた「何か」が、その衝撃を餌にするみたいにドクドクと脈打ち始めた

 

 ズゥゥゥン!!

 

 気がつけば、俺はその真っ黒な塊を胸トラップで完璧に殺していた。

 

「コウ……!?」

 

 天馬の心配そうな声が聞こえる。確かに、今の俺は自分でも少し変だと思う。視界がいつもよりずっとクリアで、スタジアムの隅々まで、風の流れ一つまで手に取るようにわかる。

 

「大丈夫だ、あとは任せてくれ。……体から、力が溢れてくるんだ」

 

 嘘じゃない。指先の一本一本までエネルギーが満ち溢れて、熱くて、どうにかなりそうだ。今の俺なら、このスタジアムごと、この絶望ごと、全部ひっくり返せる。

 

「今の俺なら、なんでもできる」

 

 ボールを足元に落とした瞬間、目の前に大人の教官たちが立ち塞がった。牙山を含めた、汚ねぇやり方で俺たちを蹂躙しようとする大人たち。

 

「生意気なガキが……!」

 

 三人同時に突っ込んでくる。だけど、遅い。

 俺は不動さんとの特訓で掴んだ、あの激流を抜ける感覚を呼び起こした。奴らのプレッシャーは、ただの「ぬるい風」だ。

 俺は一歩踏み込む。芝を蹴り上げる脚力は、自分でも驚くほど鋭い。

 一瞬で奴らの間をすり抜けると、背後で「なっ……速すぎる!?」という間抜けな驚き声が聞こえた。

 

(……もっとだ。もっと速く、もっと強く!)

 

 神童キャプテンや剣城、信助……みんながボロボロにされて、紫までどこかに消えた。そんな現実、俺が全部ぶっ壊してやる。だが、その時――

「……それ以上行かせるか!!」

 

「……コウ、止まるんだ!」

 

 いち早く俺の「異質さ」に気づいた白竜とシュウが、同時に化身を顕現させた。

 『聖獣シャイニングドラゴン』の巨大な尻尾が空を切り、『暗黒神ダークエクソダス』がその手に持つ大剣を、容赦なく俺の頭上へと振り下ろす。

 

 回避は間に合わない。直撃を覚悟して身を固めた、その時だった。

 

 オォォォォォッ!!!

 俺の影から、悍ましい黒い炎を纏った二本の腕が飛び出した。

 その腕が、シャイニングドラゴンの尻尾と、ダークエクソダスの大剣を、真っ向から受け止めた。

 

「なっ……何だと!?」

 

 

白竜とシュウが驚愕の声を上げる中、俺の影から這い出るように、新たな化身が姿を現した。

 それは、これまでの『聖焔のフェニックス』とは違う。全身を漆黒の炎に包まれ、その瞳は血のように赤く、甲高い悲鳴のような咆哮をスタジアム中に響かせる。

 

 俺の新たな化身――『獄炎鳥ダークフェニックス』

 

 その禍々しい姿に、シュウの顔色が完全に変わった。

 

「白竜……ダメだ、このままじゃ……! !」

 

「……チッ、やむを得まい!!」

 

 二人が化身を合体させようと、互いのエネルギーを共鳴させ始めた。

 だが、俺の体の中の熱が、それを許さなかった。理屈じゃない、本能が「今叩け」と叫んでいる。

 

「……遅ぇよ!!」

 

 ダークフェニックスが頭上に、黒い炎の巨大な球を生成する。それはまるで、全てを焼き尽くす暗黒の隕石だった。

 

「食らえ……! 『メテオエクリプス』!!!」

 

 俺の叫びと共に振り下ろされた黒い太陽が、合体する前の二人の化身を直撃した。

 

 ドォォォォォン!!!

 

 凄まじい爆発音と共に、白竜とシュウが化身ごと吹き飛ばされる。

 

「……まずは一点だ。……お前らの『究極』なんて、俺のこの力でぶっ潰してやる!!」

 

 俺はダークフェニックスの拳と共に、ボールに全ての黒い炎を込めてシュートを放った。

 キーパーさえも戦意を喪失する、絶対的な一撃。……はずだった。

 その時。スタジアムの開いた天井から、一筋の影が、凄まじいスピードでピッチへ向かって落ちてきた。

 

 ズガァァァァァン!!!

 

 俺のシュートの軌道上に、その影が激突した。

 舞い上がる凄まじい砂埃。……やがてそれが晴れた時、俺は自分の目を疑った。

 

「……コウ、そこまでよ」

 

 そこに立っていたのは、行方がわからなかった……紫だった。




新必殺技:『炎の風見鶏』
属性:火
使用者:剣城京介、不知火恒陽
詳細:
既存技。
2人が同時にシュートを放ち炎の翼を持ったボールがゴールを襲う

新化身:『獄炎鳥ダークフェニックス』
属性:林
使用者:不知火 恒陽
詳細:
漆黒の炎の羽を持つ不死鳥の鳥人。
デジモンでいうところのスカルグレイモンみたいな立ち位置の化身。
必殺技:『メテオエクリプス』
黒い炎で巨大な球を作り出し相手にぶつけるブロック技

ホーリーロード編までの設定集とか欲しいですか?

  • いる
  • いらない
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。