イナズマイレブンGO 紅蓮の翼   作:シキDX

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第二十七話(劇場版編) VSチーム・ゼロ Part2

 砂埃がゆっくりと落ち着き、視界が開けていく。

 俺の放った『獄炎鳥ダークフェニックス』の黒いシュート。それを正面から受け止め、ピッチに立ち尽くしていたのは、あの日から行方がわからなかった……紫だった。

 

「……紫? お前、今までどこに……」

 

 動揺して声を絞り出した俺に、紫は少しだけ眉を下げて、困ったような、それでいてどこか安心したような顔を見せた。

 

「想定より早い覚醒で少し焦ったけど……元の時代に一旦戻って正解だったわね」

 

「……元の時代? 何を言って……」

 

 わけがわからない。

 紫の言葉が、霧の中に消えていくみたいに遠く感じる。

 その時、足元の芝生から、かすかに「ポタ、ポタ……」という湿った音が聞こえてきた。

 

(なんだ……雨か?)

 

 視線を落とした瞬間、俺は息を呑んだ。

 地面に、赤黒い斑点が広がっている。俺の鼻から、止めどなく血が滴り落ちていた。

 

「え……?」

 

 それと同時だった。

 脳内を、巨大な杭で打ち抜かれたような激痛が襲った。

 

「が、ぁぁぁ……っ!!」

 

 立っていられない。俺はボールを放り出し、両手で頭を抱えてその場に崩れ落ちた。

 俺の咆哮に呼応するように、背後の『獄炎鳥ダークフェニックス』が狂ったように羽ばたいた。その翼から、禍々しい黒い炎がスタジアム中に撒き散らされる。

 

「コウ!!」

 

 天馬の叫び声が聞こえる。

 

「……力が暴走してるわね」

 

 紫のその瞳には、いつもの冷静さに加え、どこか懐かしいものを守ろうとするような、強い決意が宿っている。

 

「大丈夫よ。……今、楽にしてあげるから」

 

 紫が天高く右手を掲げた。

 その瞬間、スタジアムの熱気が一気に凍りつく。俺の黒い炎さえも、その冷気に怯えるように縮こまった。

 

「出でよ、『氷雪の女神スカジ』!!」

 

 紫の背後に、氷の鎧を纏った美しくも冷酷な女神が降臨した。

 

「……アームド!!」

 

 紫の叫びと共に、スカジの姿が光の粒子となって紫の体を包み込んだ。光が収まった時、紫は女神の鎧をその身に纏い、背中には氷の翼が広がっていた。

 

(……アームド……!? 化身を、纏った……?)

 

 霞む意識の中で、俺はその人離れした姿を呆然と見つめた。

 紫は、先ほど俺のシュートを止めた時のボールを足元に引き寄せると、シュートの体勢に入った。

 

「凍てつく闇の冷たさを教えてあげる!! 『ノーザンインパクト』!!!」

 

 紫の蹴り出したボールは、絶対零度の冷気を纏った巨大な氷の矢となって、ダークフェニックスへと一直線に放たれた。

 暴走する俺の本能が、残った力の全てを振り絞った。ダークフェニックスが頭上に巨大な黒い炎の球を生成する。

 黒い太陽と、氷の矢が空中で激突した。

 凄まじい衝撃波がスタジアムを襲う。だが、勝負は一瞬だった。

 『ノーザンインパクト』は、渾身の『メテオエクリプス』を真正面から貫き、粉砕した。

 氷の矢はその勢いのまま、ダークフェニックスの胸をも貫く。

 甲高い悲鳴と共に、俺の新たな化身は霧散し、黒い炎は跡形もなく消え失せた。

 

「……あ……」

 

 体中の力が、一気に抜け落ちていく。

 脳を刺すような激痛も、熱さも、全てが遠のいていく。

 俺は、崩れ落ちるようにピッチに倒れ込み、そのまま深い闇の中へと意識を失った。

 

 *

 

 ダークフェニックスが氷散し、糸が切れた人形のように崩れ落ちるコウ。

 

「コウ! しっかりして!」

 

 天馬が咄嗟に駆け寄り、その体を受け止めた。続いてベンチから円堂監督もピッチへ降り立ち、俺の顔を覗き込む。

 

「……紫、お前は一体何者なんだ? コウに何が起きた!?」

 

 監督の鋭い追及に、紫はアームドを解きながら、冷徹なまでの静寂を纏って答えた。

 

「……あなたたちがそれを知るのは、まだ早いわ」

 

 紫がパチンと指を鳴らす。

 その瞬間、スタジアム全体に不可視の衝撃波が吹き荒れた。

 

「なっ……!?」

 

 円堂監督も、天馬も、そして観客席のゴーグル集団も、糸が切れたようにその場に崩れ落ち、深い眠りへと落ちていく。スタジアムは、一瞬にして静寂に包まれた。

 紫が昏睡するコウに近づこうとした、その時だ。

 

「へー、本当に大変なことになってるわね」

 

 静まり返ったピッチに、場違いなほど軽やかな声が響いた。紫がゆっくりと振り向く。

 

「……あら、来てたのね。メイア」

 

 そこに立っていたのは、この時代の者とは思えない浮世離れした雰囲気を纏うラベンダー色の髪を持つ少女、メイアだった。彼女は退屈そうに髪を弄りながら、地面に転がっている俺の顔を覗き込んだ。

 

「ちょっと噂の子を確かめてみたくて来ちゃった。……ふーん、中々良い男じゃない。まあ、ギリスには劣るけど」

 

「……わざわざその為だけに、時代を超えてここまで来たとは思えないけど。本題は何?」

 

 紫の問いに、メイアは「あら、相変わらず鋭いわね」と肩をすくめると、懐から小さな包みを取り出して紫に手渡した。中に入っていたのは、一見するとどこにでもあるような、シンプルな髪留めのゴムとリストバンドだった。

 

「頼まれてたやつよ。それを身につければ、一時的にSSCの力を抑えることができるわ」

 

「案外早かったわね。ありがとう、助かるわ」

 

 紫がそれを受け取ると、メイアは少しだけ真剣な表情を浮かべて補足した。

 

「何に使うかは知らないけど一応アドバイス。SSCの力は機械で完全に制御できるようなものじゃない。この子みたいに覚醒してすぐなら大丈夫だけど、私たちみたいにすでに使いこなしてる者が力を出しすぎると……その制御装置は壊れるわ。気をつけて」

 

 紫はその言葉を噛み締めるように黙って頷いた。メイアは再び不敵な笑みを浮かべ、身を翻す。

 

「それじゃあ健闘を祈るわ。ユミル……あ、こっちでは『紫』だっけ?」

 

「あなたなら、どちらで呼んでもいいわよ。そっちも頑張ってね、メイア」

 

「ええ、またね」

 

 メイアの姿が、陽炎のように空中に溶けて消えていく。

 一人残された紫は、手に持ったリストバンドを見つめた後、静かに俺のそばに膝をついた。

 

「……ごめんね、コウ。もう少しだけ、この過酷な運命に付き合ってもらうわよ」

 

 紫は俺の左腕にそのリストバンドを装着させた。

 

 *

 

「……っ、ん……」

 

 まぶたの裏に、ぼんやりと光が戻ってくる。

 目を開けると、視界いっぱいに広がったのは……紫の顔だった。

 

「……目、覚めた?」

 

 彼女の膝の上で横になっていることに気づき、俺は慌てて飛び起きた。顔が熱くなってるのがわかる。

 

「ゆ、紫!? なんで俺……っていうか、何があったんだ!?」

 

 混乱する俺の目に、さらに信じられない光景が飛び込んできた。フィールドでは、雷門のユニフォームを着た円堂監督や鬼道監督、それに風丸さんや不動さんたち伝説のイレブンが、縦横無尽に駆け回っていたんだ。

 

「何だよこれ、どうなってんだ!?」

 

「大人たちが試合に乱入して雷門のみんなを痛めつけた後、シュウのシュートで点が追加されて今は3対2の劣勢よ。……あなたは、そのシュートを止めようとして意識を失ったの。その状況を見かねた円堂監督たちが、試合に加わったのよ」

 

 紫の淡々とした説明に、俺は自分の腕に巻かれた見慣れないリストバンドを無意識に触った。

 

「そう……だったっけ……?」

 

 記憶が霞んでいる。シュートを止めた時の衝撃、そしてあの「氷」のような冷たい感覚……何か大事なことを忘れているような、嫌なモヤモヤが胸に残る。

 だが、ピッチの熱気が俺の思考を無理やり引き戻した。

 牙山たち大人の教官五人が牙山へと全てのエネルギーを集中させている。

 

「『風林火山デストロイヤー』!!!」

 

 城壁をも砕くような巨大な光の渦がゴールを襲う。だが、ゴール前に立つ円堂監督は不敵に笑い、巨大な黄金の翼を広げた。

 

「『ゴッドハンドV』!!!」

 

 轟音と共に、円堂監督がその「V」の字に光る手でシュートをねじ伏せた。そのまま、鮮やかなロングパスが霧野先輩へと繋がる。

 風丸さんや鬼道監督のアドバイスを受けながら、雷門メンバーが伝説のイレブンと共鳴するように、魔法のようなパスワークで敵陣を切り裂いていく。

 パスを受け取った神童キャプテンと剣城が、互いのオーラを激しくぶつけ合いながら跳躍した。

 

「「『ジョーカーレインズ』!!!」」

 

 凄まじいエネルギーの雨が降り注ぎ、キーパーの『グラビティポイント』を打ち破った。

 

 ピーーーッ!!!

 

 3対3。再び同点に追いついた。

 一仕事を終えた円堂監督たちが、清々しい表情でベンチへ戻ってくる。監督は俺の顔を見ると、その大きな手で肩を叩いた。

 

「コウ、もう大丈夫か?」

 

「……ああ! もちろん、いつでもいけるぜ!」

 

 不思議なほど体が軽い。まるで、自分でも気づかないうちに「重り」を外されたみたいだ。

 

「よし! ……ここからは、お前たちの戦いだ!」

 

 円堂監督が、俺、天馬、そして全員を見渡して力強く宣言した。

 

「お前たちは、俺たちの魂を受け継いだ雷門イレブンだ。最後まで、自分たちのサッカーを貫いてこい!!」

 

「「「はい!!!」」」

 

 イレブン全員の声がスタジアムに響き渡る。

 交代枠を使い切り、ピッチを去る監督たちの背中を見送りながら、俺は自分の拳を握りしめた。

 

 *

 

 円堂監督たちの熱い激励を背負い、俺たちは再びピッチへと駆け出した。

 再開のホイッスルが鳴り響くと同時、白竜が飢えた狼のような鋭さで突っ込んでくる。その背後には、いまだ衰えぬ威圧感を放つ『聖獣シャイニングドラゴン』が咆哮を上げていた。

 

「俺たちは究極なんだ!!」

 

「寝てた分の遅れは、きっちり取り戻させてもらうぜ!」

 

 俺は叫び、腹の底から湧き上がる熱を爆発させた。

 

 「出て来い! 『聖焔のフェニックス』!!」

 

 背後に広がった"いつも通り"の紅蓮の翼。

 俺はフェニックスの力を右足に集束させ、白竜の正面から真っ向へと踏み込んだ。

 

「紅蓮の炎で焼き尽くしてやる! 『プロミネンス』!!!」

 

 フェニックスの翼が放つ炎の竜巻が、シャイニングドラゴンの巨躯を真正面から打ち抜いた。

 

「なっ……バカな!? 押し負けるだと……!」

 

 驚愕に染まる白竜を化身ごと吹き飛ばし、俺は鮮やかにボールを奪い取る。

 その瞬間、ふと左腕のリストバンドが熱を持ったような気がして、胸の奥に妙なモヤモヤが走った。

 

(……今の力、俺の……? なんだ、この感覚……)

 

 一瞬の違和感。だが、今は立ち止まっている暇はない。俺は雑念を振り払い、燃え盛るボールと共に前線へ踊り出た。

 

「行くぜ! 『真フレアドライブ』!!!」

 

 俺の放った火炎のシュートが、一直線にゴールを襲う。だが、相手も究極のチームだ。守備陣が必死に壁を作ろうとする。

 

「まだだ!!」

 

 そこへ、高く舞い上がった天馬が重なった。背後に『魔神ペガサスアーク』を従え、その翼に神聖な風を纏わせる。

 

「うおおおお!『ジャスティスウィング』!!!」

 

 俺の放った紅蓮の炎に、天馬の旋風が重なり、巨大な火炎の竜巻となってシュートチェインが完成した。凄まじい轟音と共に、シュートはキーパーの守備を木っ端微塵に砕き、ゴールネットに突き刺さった!

 

 ピーーーッ!!!

 

 4対3。ついに逆転!

 

 *

 

 逆転の歓喜も束の間、白竜の瞳から一切の光が消えた。

 キックオフ直後、白竜は四体の化身を従え、地響きを立てて突進してきた。その凄まじいプレッシャーに、俺たちも即座に応戦する。

 

「させるか! 『魔神ペガサスアーク』!」

 

「『奏者マエストロ』!」

 

「『剣聖ランスロット』!」

 

「『聖焔のフェニックス』!」

 

 俺たち四人は化身を出し、正面から白竜たちの軍団を受け止めた。化身と化身がぶつかり合い、ピッチは衝撃波で火花が散る。だが、これは白竜の「罠」だった。

 俺たちが白竜の五体の化身に足止めされている隙に、シュウが音もなく『暗黒神ダークエクソダス』を顕現させ、フリーで白竜からのパスを受けた。

 

「しまっ……! 罠か!」

 

「コウ、シュウを止めて!」

 

 神童キャプテンの叫びに応じ、俺は強引に競り合いから抜け出した。フェニックスの翼を広げ、シュウの目の前へ滑り込む。

 

「そこをどいてくれ、コウ……!」

 

 シュウがダークエクソダスの巨大な大剣を、容赦なく横一文字に振り抜いた。

 ガガガガッ!! と、火花を散らしながらフェニックスの両翼が大剣を受け止める。

 

「がはっ……!? くっ……うおおおおお!」

 

 シュウがさらに力を込めると、大剣の一振りがフェニックスの防御を強引に叩き割った。俺は化身を強引に解除され、枯れ葉のようにピッチの隅まで吹き飛ばされた。

 

「コウ!!」

 

 誰も、シュウを止める者はいない。

 シュウは跳躍し、ダークエクソダスと重なり合うようにして、巨大な闇の斧を振り下ろした。

 

「『魔王の斧』!!!」

 

 スタジアムを真っ二つに叩き割るような一撃が、三国先輩の必殺技を粉々に粉砕し、ゴールネットを無慈悲に揺らした。

 

 ピーーーッ!!!

 

 4対4。

 試合は再び、振り出しに戻された。

 

 *

 

 ピッチには、重い絶望感が霧のように立ち込めてた。

 膝をつき、激しく肩で息をする俺たち。さっきの「魔王の斧」の衝撃と、度重なる化身の顕現で、体はもう鉛のように重い。

 

「まずいな……化身を出せるのは、あと一回くらいか」

 

 剣城が苦しげに顔を歪めるが、神童キャプテンは鋭い視線を相手に向けた。

 

「しかし。それはゼロも同じはずだ……」

 

 だが、再開されたキックオフ。白竜の不敵な笑みが、その希望を打ち砕いた。

 霧野先輩と狩屋が必死に立ちはだかる中、神童キャプテンが叫ぶ。

 

「ディフェンス、止めろ! もう奴らに化身を出す余力はない!」

 

「果たしてそうかな……」

 

 白竜の合図と同時に、周囲のゼロのメンバーから不気味な光の筋が白竜へと集まった。その光を吸収し、再び『聖獣シャイニングドラゴン』が咆哮を上げながら姿を現す。

 

「これは化身の力を半永久的に持続できる『化身ドローイング』だ!」

 

「奴らこんなことまで!」

 

「これだけではない!!」

 

 驚愕に凍りつく俺たちの前で、さらに隣のシュウも化身を顕現させる。

 二人の化身が光の中で溶け合い、やがて白銀の鎧を纏った巨大な騎士――『聖騎士アーサー』へと姿を変えた。その神々しくも冷酷なプレッシャーに、スタジアムが震える。

 

「全員戻れ! みんなでゴールを守るんだ!!」

 

 神童キャプテンの指示で、俺たちは全員でゴール前へと集結し壁となって立ち塞がる。

 だが、アーサーが巨大な光の剣を天にかざすと、空の色さえもが変わった。

 

「「『ソードエクスカリバー』!!!」」

 

 放たれたのは、全てを断ち切る光の奔流。

 最前線にいた錦先輩達が、木の葉のように吹き飛ばされる。神童キャプテンや霧野先輩のディフェンスも、一瞬で紙細工のように切り裂かれた。

 

「このままじゃ三国先輩が持たない……! うぉぉぉぉッ!」

 

 俺は叫びながら、最後の力を振り絞って『聖焔のフェニックス』を呼び出した。炎の両翼を広げ、光の剣を真っ向から受け止める。

 

 (なんて重さだ……!)

 

 少しずつ威力を削ることはできたが、今の俺の力では完全に止めることは叶わない。

 

「がはっ……!!」

 

 俺もまた、化身ごと無惨に弾き飛ばされた。

 シュートはそのまま三国先輩の腕をすり抜け、ゴールへと突き刺さる。

 4対5。痛恨の逆転。

 ピッチに倒れ伏す俺たちに、白竜の冷たい嘲笑が降り注ぐ。

 

「剣城! どうだ、思い知ったか!」

 

「……天馬、これでもまだ、戦うの?」

 

 シュウの声は、まるで死者の憐れみのようだった。

 だが、俺のすぐ近くで、泥を噛み締めながらも腕を震わせている男がいた。

 

「……っ、まだ……まだやれる!」

 

 天馬だ。ボロボロになったユニフォームを泥に染めながら、彼は震える足でゆっくりと、確実に立ち上がった。

 

「俺は、絶対諦めない! 勝利の女神は、諦めない奴が好きなんだ!!」

 

 天馬の叫びに呼応するように、神童キャプテンが、剣城が、そして俺が、一人ずつ泥を拭って立ち上がった。

 

 *

 

 試合再開を待つ短い時間。俺たちはピッチの片隅で肩を寄せ合った。呼吸を整えるのもままならないが、目だけは死んでいない。

 

「……すみません。さっきのシュートを止めるので、最後の一滴まで使い切った。もう……化身は使えない」

 

 俺が唇を噛んで謝ると、神童キャプテンは静かに首を振った。

 

「いや、あれで正解だ。あのままだと三国さんがどうなっていたか分からない。礼を言うよ、コウ」

 

「だが、残りの化身だけであの『アーサー』を止められるのか……?」

 

 剣城が鋭い視線で、黄金に輝く敵の合体化身を睨みつける。すると、天馬が力強く、突拍子もない提案を口にした。

 

「それなら、俺たちも化身を合体させればいいんです!」

 

「できるのか、俺たちに……!?」

 

 驚く神童キャプテンに、天馬は真っ直ぐな瞳で答える。

 

「やりましょう。俺が合図すると同時に、化身を出してください!」

 

「……面白い」

 

「ああ、賭けてみる価値はある!」

 

 ピーーーッ!!!

 

「今です!!」

 

 天馬の叫びに合わせ、三人が同時に化身を顕現させた。

 

「化身よ、一つになれ!!」

 

 神童キャプテンの導きに応じ、マエストロ、ランスロット、そしてペガサスアークの光が螺旋を描いて混ざり合う。

 

「シュウたちが並列繋ぎで合体したなら……こっちは『直列繋ぎ』だ!!」

 

 凄まじい光の中から『魔帝グリフォン』がその威容を現した。

 

 グリフォンとアーサー。二つの強大な合体化身が激突し、スタジアムが崩壊せんばかりの衝撃波が発生する。互角、まさに拮抗。

 

「シュウ! サッカーは人の価値を決めるものじゃない。俺たちに元気をくれたり、支えてくれたりする、絶対に楽しいものなんだ!」

 

 天馬が必死に叫ぶ。だが、シュウはそれを否定するように声を荒らげた。

 

「違う!!」

 

「だったら取り戻す! シュウたちのサッカーを取り戻す」

 

 グリフォンの剣が燃え上がる。

 

「「「『ソード・オブ・ファイア』――イグニッション!!!」」」

 

 三人の魂が一つになった紅蓮の一撃が、アーサーの盾を強引に貫き、白竜とシュウを化身ごと吹き飛ばした。ボールは吸い込まれるようにゴールへ突き刺さり、審判の笛が鳴り響く。

 

 5対5。

 

「何故だ……『究極』である俺たちが、何故雷門ごときに!」

 

 白竜が膝をつき、絞り出すような声で問いかける。それに対し、剣城が一歩前に出た。

 

「白竜! 究極の力を得るためだけにやって来たお前たちには、本当の力が何なのかを知ることはできない。サッカーは強さを求めるためだけのものじゃない。絆や勇気が大切だって気づくことができる。それがサッカーの素晴らしさなんだ!」

 

 白竜は顔を背け、「くだらん! 俺は認めないぞ……」と呟くが、剣城の言葉は止まらなかった。

 

「白竜、俺はこの島を離れてから、ずっとお前に伝えたかった。ここでの特訓は想像以上に厳しかった……でも、お前とライバルとして競い合えたからこそ、今の俺があるんだ。お前とのサッカー、本当に楽しかったぜ」

 

「剣城……」

 

 その言葉が、白竜の心の奥にある氷を溶かした。シュウもまた、穏やかな表情で白竜を見つめる。

 

「白竜……僕たちが心の奥で、本当に求めていたサッカーって、なんだったんだろうね」

 

「シュウ……この気持ち、ずっと忘れていた気がする」

 

 白竜の瞳に、初めて「究極」ではない「一人の少年」としての光が宿る。

 

「楽しもうか。僕たちの……本当のサッカーを」

 

「そうだな……」

 

 白竜が頷き、後ろのメンバーを振り返ると、彼らもまた、その言葉を待っていたかのように頷いた。白竜が仲間たちへ、そして自分自身へと言い聞かせる。

 

「やってくれるのか、お前たち……ただ勝ちたい。本当のサッカーで今この瞬間を心から楽しんで、俺たちのサッカーをやろう!」

 

 ゼロのメンバーが、初めて一つのチームとして円陣を組み、手を重ねる。

 

「……心の底から楽しんで天馬達に勝とう!!」

 

 シュウの声が、ゴッドエデンの重苦しい霧を晴らしていく。

 スタジアムを支配していた不気味な空気は消え去り、そこにはただ、最高に熱い「最後の一分間」を待つ、二十二人のサッカープレイヤーだけが立っていた。

 

「最後まで全力で行くぞ!!」

 

「「「「はい!!」」」」

 

 神童キャプテンの力強い言葉が、ゴッドエデンに響き渡る。

 再開された試合は、これまでの憎しみや「プロジェクト」の影など微塵も感じさせないものだった。そこにあるのは、互いの全力をぶつけ合う、泥臭くも清々しい純粋なサッカーだ。

 白竜とシュウが互いの光と闇を極限まで共鳴させ、ピッチを切り裂く。

 

「「『ゼロマグナム』!!!」」

 

 スタジアムが震えるほどの衝撃波。俺は咄嗟にディフェンスへ戻ろうとしたが、ゴール前から三国先輩の熱い叫びが飛んできた。

 

「構うな、コウ! お前は上がれ!!」

 

「三国先輩!?」

 

「ずっと、みんなに頼ってばかりじゃダメだ。……今度こそ、俺一人で止めてみせる!!」

 

 三国先輩が吠え、その背後から地響きのような唸りが聞こえた。これまでのどの技とも違う、魂そのものを削り出したような赤黒いオーラの巨大な両手が出現する。

 

「もう点はやらん! 『無頼ハンド』!!!」

 

 大気を掴むようなその巨大な手が、最強の『ゼロマグナム』を正面からねじ伏せた。

 

「……良いシュートだ!!」

 

 弾き出されたボールが俺の元へ届く。俺は並走する狩屋と信助に視線で合図を送った。

 

「信助、狩屋! 行くぞ!!」

 

「おう!」

 

「任せて!」

 

 信助が狩屋を、そして狩屋が俺を肩に乗せて高く跳躍する。

 

「うおぉぉぉッ!」

 

 信助の爆発的な脚力で打ち上げられ、さらに狩屋の背中を台にして俺は『メテオグリッター』の時以上の高みへ舞い上がった。

 

「「「『メテオドロップ』!!!」」」

 

 上空からの強烈なオーバーヘッド。その弾丸のようなシュートを、前線で待ち構えていた天馬、剣城、神童キャプテンが迎え撃つ。

 

「「「『エボリューション』!!!」」」

 

 究極を凌駕する進化の光。チーム・ゼロのメンバーが全員でシュートコースに飛び込み、身を挺して止めようとするが、その勢いは止まらない。

 キーパーの『サーペントファング』さえも牙を砕かれ、ボールがネットを揺らそうとした――その時!

 

「「『ゼロマグナム』!!」」

 

 白竜とシュウがゴールライン際へ滑り込み、残った全エネルギーを込めた『ゼロマグナム』でシュートを蹴り飛ばした。

 激突したエネルギーが爆発し、ボールは高く、高くフィールドの中央へと舞い上がった。

 雷門も、ゼロも。全員が限界を超えた体を引きずり、一丸となって落ちてくるボールへと走り出す。誰もが勝利を、そしてこの最高の瞬間を終わらせたくないと願っていた。だが――

 

 ピーーッ! ピーーッ! ピーーーッ!!!

 

 残酷に、そして祝福するように。

 タイムアップの笛がスタジアムに鳴り響いた。

 スコアは5対5。

 一歩も譲らない死闘の末に、試合は同点で幕を閉じた。

 全員がその場に倒れ込んだ。肩で息をしながらも、誰の顔にも不思議と悔しさはなかった。

 空を見上げると、ゴッドエデンの深い霧が晴れ、温かな光がピッチに降り注いでいる。

 観客達は装着していた謎のゴーグルを脱ぎ捨て、フィールドの選手達を祝福する。

 

 *

 

 試合が終わった後のスタジアムには、もうあの禍々しい空気は微塵も残っていなかった。白竜やシュウ、そしてゼロのメンバーたちの瞳には、強さへの渇望ではなく、心からサッカーを楽しんだ後の爽やかな熱が宿っている。

 俺たちは、ゴッドエデンの波止場に停泊していた船のデッキにいた。島を離れる準備を整えた俺たちの前に、円堂監督たちが現れる。

 

「円堂監督は、これからどうするんですか?」

 

 神童キャプテンが問いかけると、円堂監督は島の中心部、巨大な施設が建ち並ぶ奥地を見据えて、力強く答えた。

 

「俺たちは、この島でもう少しシードのことを調べるつもりだ」

 

「えぇっ、一緒に帰れないなんて残念です……」

 

 信助がしょんぼりと肩を落とす。吹雪さんや風丸さんたち、憧れの伝説のイレブンとここで別れるのが、よほど寂しいんだろう。

 

「俺たち、絶対勝ち続けて待ってますから」

 

 天馬が身を乗り出して叫ぶと、円堂監督は満足そうに大きく頷いた。

 

「ああ、みんな、ありがとな! それまでの間しっかり頼んだぞ!」

 

「「「はい!!!」」」

 

 力強い返事が海風に乗って響き渡る。

 船がゆっくりと岸壁を離れ始めた。遠ざかっていく島と、岸辺で見送る監督たちの姿。

 

「……コウ」

 

 隣にいた紫が、静かに俺の名を呼んだ。

 

「もう体は大丈夫かしら?頭が痛いとか……どこか調子が悪いとか……」

 

「ははは!心配性だな紫は!これくらいいつものことだから大丈夫だって」

 

 俺は大きく笑って元気であることを伝えた。

 夕日に染まる海原の向こうには、俺たちが守るべき雷門中がある。

 船のエンジン音が、新しい戦いへのファンファーレのように聞こえた。




新必殺技:『メテオドロップ』
属性:火
使用者:不知火恒陽、西園信助、狩屋マサキ
詳細:
既存技。
今作では『メテオグリッター』の進化版扱い。

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